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第六十三話 夜明けについて②

「私はフローライト、勇者よ。」


確かに目の前に立つ、青髪の少女はそう言っていた。

ダイヤは痛みを和らげるように呼吸を整えながら、少女の顔を見つめる。


勇者。

それは魔を払う者。魔を穿つ者。魔王を倒す者。

そして……騎士団のトップ。


勇者とは何か?その問に答えるのには、騎士団の仕組みについて語らねばならない。

騎士団は治安維持組織だが、一番重要な役割は魔王軍と戦い倒すこと。故に歴史上全ての魔王軍との戦いにおいて、騎士団組織が関わらないことはない。

だからこそ冒険者だけで倒した、あのアメトリンの一件こそ異例で、一騒ぎが起こったのである。


騎士団の内部構造についてだが、先ず騎士団は全ての街に治安維持のための支部がある。

シルフ街にも、イーグル街にも、もちろんある。どこの支部が偉いだとか、地位が高いだとか、大きいだとか……そういう説明は省くとして、騎士団で一番偉い組織はもちろん、騎士団本部。

聖騎士団、王都中央部だ。その名の通り、騎士団を全て統括する本部は王都にある。


その王都中央部にも細々ともちろん色々な組織があるのだが、そこに所属しているのは全て選ばれし者たち。王都に所属していると言うだけで、他支部の騎士団長は地位がどうであれ頭が上がらない。

その中央部の更にトップ、つまり騎士団と言う組織自体を統括するトップ。

それが三人の聖騎士団、騎士団長。通称、勇者。

この三人の勇者と、七人の騎士団中央部幹部の十人で、騎士団の全ての方針が決定される。


冒険者組織のようにトップの四人だけで決まらないところが、違いではあるが、地位的には冒険者組織の世界四大ギルドのギルドマスターと同じようなものだ。ただギルドマスターは実力と言うよりかは、リーダーとしての資質を問われることが多く、故にあまり実力は問われない。


だからこそ我らギルドマスターのシルフが、戦闘能力が高いかどうかを気にする冒険者は少ない訳だ。強かろうが、弱かろうが、人の上に立つ者。

そうである限り、ギルドマスターとして認めている。


サラマンダーギルドやノームギルド、ウンディーネギルドのギルドマスターだって、戦闘能力が単純に高いというわけではない。これは外部の人から見たら誤解しやすいところで、白金等級冒険者より地位的に上だからと言って、戦闘能力が白金等級冒険者より高いわけでは無い。


ギルドのギルドマスターになる条件はあくまで銀等級以上であることであり、世界四大ギルドであっても、白金等級冒険者じゃないからと言ってギルドマスターになれない訳じゃない。

現に金等級冒険者だった冒険者が、世界四大ギルドのギルドマスターになることだって僅かだがある。

ただ……やはり白金等級冒険者が、世界四大ギルドのギルドマスターになることが多いわけだが……。


少し話が脱線してしまったが、勇者ももちろん人の上に立つ者としての才覚は問われる。

だが一番重要視されるのは、どちらかと言えば戦闘の才能。いや戦争の才能。

故にギルドマスターとは、成り立ちが大きく違う。


勇者は魔王軍との戦争で、主将になることが多い。戦争を指揮し、勝ちに導く力こそ必要になる。

兵士たちを引き付けるリーダーシップ性とカリスマ性。戦争を勝利へと導く頭の回転の速さ、盤面を広く見れる視野の広さ、流れを空気を嗅ぎ付け行動できる決断力。

そして……兵士たちの前に自ら立ち、戦場を駆け抜け敵を狩る戦闘能力。

その能力を持った者、こそ勇者なのだ。


その存在が、目の前にいる。

三人の勇者の一人、フローライトが。


「いや~、こんな堂々と自己紹介するなんて、久しぶりだわ。何か…ちょっと恥ずかしいわね。って、あれ!?その徽章、シルフギルドの冒険者じゃない!?もしかしてイーグル街を助けるために戦っててくれたの?そう言えばシルフギルドのギルドマスターが防衛指揮とってくれてるとか電話で言ってたわね……あわわ……何とお礼を言ったらいいか……。」


……

う~ん、もちろん勇者という存在に合ったのは初めてだが、そういう人物だからこそ、もっと気高く、もっと厳格な人だと思っていたが……思ったより庶民的と言うか、ラフな人だと思った。


「ってそんなことより先ずは治療よね?ごめんごめん。ちょっと走って来たから、気持ちがハイになってるのかもしれないわ。こうしゃべるのが止まらなくなっちゃうのよね~。大丈夫大丈夫、直ぐに治療するから!はい!出てきて!」


フローライトは唐突に、両手でパンっと音を立てた。

すると彼女の足元に魔方陣が浮かび上がり、そこから小さな狸が出て来た。

いや狸なのだろうか?体の構造は狸っぽいのだが、耳がウサギみたいに長い。それに全身白色。

それでいて目が赤い。


「えーと、これは?」


「うふふ~驚いたでしょ~、この子はポンちゃんって言うの可愛いでしょ!」


フローライトはニマニマと笑みを浮かべながら、狸っぽい何かを私の眼前に見せつけて来る。

そして私の体の上に置いた。小動物の重みが乗ったことにより、体に痛みが走る。

「くっ……」と小さな声が漏れた。


「あ~ごめんね。ポンちゃんが、その傷全部治してくれるから安心して。よろしくねポンちゃん!」


「タヌキ!」


え!?こいつ鳴き声、タヌキなの?

そんな驚きを感じて硬直していると、そのポンちゃんが私の傷口を舐め始めた。

ツーンとした痛みが走る。……とその瞬間、体全身が大量の回復魔方陣に囲まれていたのだ。

暖かい多くの魔方陣に囲まれ、体の傷が癒えていくのを感じる。


「これは……どういうことですか?」

自然とその質問が口に出ていた。


「えへへ~これはね、ポンちゃんの回復魔法。ポンちゃんは回復魔法が大得意な精霊なの。ね、ポンちゃん!」


「タヌキ!」


精霊……この方は、まさか精霊術士?

その疑問がポンちゃんを見れば見るほど、確信へと変わっていく。

見たことない生物、それでいて魔物とは違う気配。なるほど、本当に精霊なのね……


精霊術士とは、契約を交わすことで精霊を使役し利用する術者のこと。

ただ精霊術士はこの世界に十人いるかすら怪しいほど少なく、研究も進んでいない。

まあそれは当然と言えば当然なのだ。精霊術士とは成りたくてなれるような、ものではないのだから。


才能、天賦の才、生まれながらに持つ何か、それが必要不可欠。

先ず精霊が見えるのか、と言うのが大問題なのである。精霊とは微精霊まで含めれば数えられないほど多く存在すると言われてるわけだが、実体化していない。

つまり言ってしまえば、気配。空気。お化けみたいなもの。

いるような……いないような……そんな存在。知覚できなければそれはいないのと同じであると考えるならば、いない存在。それが精霊なのだ。


今、私が見えてるじゃないかと思うかもしれないが、これはフローライトが使役しているから。

契約を交わした精霊は、契約者の魔力を提供してもらうことで実体化することが出来る。つまりこのポンちゃんだって、元は空気。実体化しない何か。

そう言えば……アメトリンが精霊魔術のような技を使っていたと、クリスタが言っていた気がする。


とにかく精霊術士とは、生まれながらにその精霊を感じ取ることが出来る力、言い換えれば第六感、違う言葉を使うのならば霊感を持たなければならない。

ただそれはあくまでスタート。次に必要になるのが、精霊に好かれる才覚。

精霊が見えたところで、話せるわけじゃない。話すには精霊から話しかけてもらう必要があるのだ。


話しかけてもらうにはどうすればいいか……それは見えていると言うアピールも大事だが、何より好かれる才能がなければならない。その才能が何なのかは知らないが……とにかくそれで話せたとしても、契約できなければ意味がない。交渉術もまた必要。そしてもちろんだけれど、精霊を現界させる魔力量もいる。

こう言った何個もの試練をクリアした先にある魔術こそ、精霊術士、ないしは精霊魔術士となれる。


つまりこのフローライトさんは、言ってしまえばめちゃくちゃすごい人。

語彙力が低くて申し訳ないが、そうとしか言いようがない。

生まれながら精霊を愛し、愛された、神に認められた存在。ほとんど研究もセオリーもない精霊魔術を一人で体系化させた、天才にして秀才。


ただ……どれだけすごかろうと精霊魔術は、魔術の一つにすぎない。

つまり、精霊魔術が使えるからと言って、強いとは限らない……と言うこと。

そうは言っても勇者である時点で、強さは保証されているのだが……。



「かぁー、まさか新手が来るとは思ってなかったぜぇ。おい貴様、誰だ?このザクロ様を斬り飛ばすとは、覚悟はできてるんだろうな?」


不意に聞こえる声。

やっぱりあの一撃では、ザクロは倒せなかったらしい。

感じる熱、見える火柱。火を纏う一人の青年が、私の前に再び現れた。


「覚悟なんて知らないわよ。困っている人がいたら助ける。それが騎士団。それが勇者。私は当たり前の行動をしたに過ぎない。と言うかあんた、誰よ?」


「俺は、ザクロ!ダークフェアリー族四天王の一人にして、貴様を殺すものだ!」


「私を殺す?そう?私、殺されるの?ね、ポンちゃん、私って殺されるの?」


「タヌキ!」


「そう、私が死んだら嫌だなんて……ポンちゃんかわいい!ポンちゃんが悲しむなら、私も死んでられないわ。ごめんね、ザクザクさん。」


「ザクザクじゃねえ!ザクロだ!あん!?はぁーなるほど精霊術士か。面白れぇもんもいたもんだな。だが関係ねぇ、お前も、そこの女も殺す。燃やす。燃やし尽くす!」


「燃やす……私を燃やすってことは、それって服から燃えるってことよね……もしかしてそれであられもない姿を見ながらいたぶりたいってこと!?は、破廉恥だわ!セクハラよ!」


「貴様……何を言ってるんだ?」


「だ、だって裸で殺されるなんて……嫌だわ。あっ、だからこの子もこんな素肌が露出すような怪我を!?全部破れてないで、所々ってのがまたいやらしいわね……いやああああああ変態変態変態!」


「……貴様が言っていることは良く分からないが……問答無用!火拳、火花!」


ザクロは叫び声を上げながら、一瞬でフローライトに接近する。

赤と黒が混ざり合った拳。纏う魔力量もまた規格外だ。スピードも速く、私には瞬間移動かと思うほどだった。まともに魔力が流れていないからか、目に追えなかった。


ただ……フローライトは、その拳を真正面から、正確に、冷静に、体を乱さず、剣で受け止めた。

魔力が衝突し、爆風が吹き荒れる。

草原の葉がガサガサと音を激しく立て、夜の空間に響き渡った気がした。私の上に乗るポンちゃんも必死に私の体に捕まっている。……確かに、可愛い。


「私は精霊術士であり剣士、言ってしまえば精霊剣士。だから近接戦闘もお得意なのよね。」


「この拳を微動だにせず、受け止めるだとぉ!?」


フローライトは焦る様子一切なく、その場に佇んでいた。

ザクロは拳を受け止められ、その場に静止する。そのまま鍔迫り合いのような、硬直状態に入った。

ギリギリと魔術のこすれる音が耳に響く。

ただ……やはり、拳だからなのかザクロの方が押しているように見えた。


「すごい、魔力量ね。ちょっと分が悪いかも。」


「当然だぁ、この俺様に勝てるとでも思ってたのかぁ!?」


「まあね。ちなみに今でも思ってるわよ。」


「何だとぉ!?」


さらにザクロの発する魔力量が多くなる。

じりじりとフローライトが後退し始めた。少しずつ後方へと押し込まれていく。

だが……フローライトの顔は笑っていた。


「確かに魔力量はすごい。けど、実力としては魔王軍幹部よりは下ね。魔力は大きいけど、扱いは雑。もっと上手に使えれば、もっと強くなれるのに残念ね。きっと良い師に恵まれなかったんだわ。」


「貴様ぁ、我が族長を馬鹿にするのか!」


ザクロから発せられる、炎が激しくなる。

燃える炎が肥大化し、フローライトの青色の髪先をじりッと燃やした。


「そうね、馬鹿にしてるのかも。けど重要なのは、その師が教えるのが上手いかどうかじゃなくて、あなたと言う存在が戦闘の才能を持っていないこと、それに気付けなかったことね。」


「いい加減言ってくれんじゃねぇか三下がぁ、くらえ火拳、火鉢!!!」


ザクロは剣を殴り弾き、フローライトに向け右足蹴りを放った。

真っ赤な炎が足の軌跡を描き、その様子は綺麗にすら見える。莫大な魔力が流動し、蹴りだけで周りは焼け野原になった。もう少し近ければ、私やポンちゃんもあの炎をに巻き込まれていたかもしれない。


フローライトさんは!?そう思った。

剣が弾かれた後の、あの威力の蹴り。くらえばひとたまりもないはず……ただ居たはずのフローライトはいなくなっていた。

そして見えた、フローライトが華麗に避けて、ザクロの背後に回る姿を。


何故か彼女の頭の上には、フクロウらしき鳥が乗っている。

その精霊が何をしたのか知るところではないが、フローライトは少し笑っているように見えた。

まるで嘲笑するように、まるで憐れむように

そして……戦闘を楽しむように……。


「挑発にも乗りやすく、何をするかも分かりやすい。それでは魔力がどれだけあろうと、意味を成さない。」


フローライトは、剣を既に構えていた。

咄嗟にザクロは振り向こうとする、構えようとする、受け身をとろうとする、

だが……間に合わなかった。


「朝鳥の音。」


フローライトの言霊と共に剣は振り下ろされ……


ザクロの体は真っ二つに切り裂かれた。


飛び散る真っ赤な飛沫。

真っ赤に燃えていた炎が、まるで消える線香花火のように儚く消えた。そして体は横にズレる。


「ばか…な……、」


ザクロの掠れるような声が聞こえる。

そして……途絶えた。

ドシャッと言う音とともに、上体が崩れ血溜りに沈む。

もう気配も呼吸音も魔力も感じない。


フローライトは血しぶきすら剣で払うと、何事も無かったかのように剣を収めた。そして私の方にゆっくりと近づいてくる。


「終わったわよ。ポンちゃん、そっちはどう?」


「タヌキ!」


「そう終わったのね、ご苦労さま。どう冒険者さん、立てる?」


気付くと私の上に乗っていたはずの、精霊は消えていた。痛みで動かなかったはずの体が、動くようになっている。さすが精霊と言うべきか……。


「はい、すいません。ありがとうございます。」


私はゆっくりと起き上がると、体を少し動かした。

疲労はあれど、怪我はもう問題ないらしい。良かった。


「終わったと言っても、応急措置だからね。無理は厳禁。とりあえずここで休んでなさい。」


「いや……それは嫌です。」


「え?それは何故?」


「北門に行かないと行けません。そこで多分……私の大切な人が戦ってるんです。だから行きます。」


「……そう。うーんけど、やっぱりその怪我じゃ……。休んどいた方いいわよ?」


「大丈夫です。私回復術士ですから。北門に向かう間に、回復仕切ることはできます。」


私は手に回復魔法陣を浮かび上がらせる。そして完全には治ってない怪我した場所に、当てがった。

これで……大丈夫なはずだ。


「わお、高度な魔法陣ね。それなら納得だわ。けど……この気配……分かった、止めはしない。けど私もついて行く。それでいいでしょ?」


「……良いんですか?それはもう願ったり叶ったりと言いますか……、」


「もちろん。そう言えば名前、聞いてなかったわよね。教えてくれる?」


そう言ってフローライトは、私顔を真正面から見てくる。そして手を前に出してきた。

ニコリと表情が微笑む。


「シルフギルド銀等級冒険者、ダイヤです。よろしくお願いします。」


私も笑みを返して、彼女の手を握った。

その手のひらは小さくて……それでいてたくましかった。


「よろしくね、ダイヤ。」


フローライトは私の手をガッシリと、掴み返した。


読んで頂き感謝申し上げます。

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