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第五十九話 奇襲について⑩

紳士服の男は、全速力でアズのいる建物の屋上に向かっていた。僕もその後を全力で追いかける。アズに近接戦闘特化のあの男を近づけるのは危ない。

彼は屋根下を走っているのに比べ、僕は屋根上にいるためアズの場所に行くまで並行移動となる。距離的なアドバンテージは僕の方が有利だ。


だが……紳士服の男のスピードが僕の想像を遥かに超えるスピードだった。空気の波が見えるほどの強力なジャンプで、高い場所にいるアズに地面から一気に近づく。僕より数秒先にアズの場所に、難なく到達してしまった。


「くたばれ!クデュファ!」


スピードに乗った、空を切る拳。魔力が伴い、そのパンチは真っ黒な魔力を覆う。ただアズは冷静に横に逸れることで、その攻撃をかわした。高い地点にいるということは位置的な有利だけでなく、視界が広いという利点もある。どれだけのスピードで男が迫ろうと、アズから見ればただの直線的な攻撃に見えるはず。

だが……


「シラーグ!」


男は拳を避けられたのを見て、瞬時に体を旋回。地面に手を付け腰を回すことで、アズの顔面に蹴りを放った。不味い……そう咄嗟に思った。何故そう思ったか分からない。けど……今までずっと一緒にいたからこそ、あの攻撃はアズが避けられないことを悟った。防ぎきれないことを悟った。


僕の知っているアズなら、推測で、予想で、感覚で、あの蹴りはクリティカルにヒットすると思った。けど……アズは僕の知っているアズを超えていた。


ガキーンッ


鉄同士が強烈に衝突したような音が聞こえた。そして見えた、アズが魔力の壁でその蹴りを完全に受け止めている瞬間を。


「瞬時の防御魔法、それが私の課題ね。」


前に言っていたアズの言葉が、頭に蘇ってくる。今のは間違いなく瞬時の防御魔法。今までのアズなら、防御魔法は不完全で、完全に威力を受け止めきれず宙を飛んでいたことだろう。けれど目の前には完璧に受け止め、微動だにしていないアズの姿がある。


やっぱりアズは天才で、それでいて努力家だ。夏祭りまでに仕上げると聞いていたが、まさに有言実行。自分自身の課題を、短期間で改善していた。

アズもまた成長している。強くなっている。何だか嬉しかった。そして僕も置いていかれないように成長しなければと、再度意識する。負けられない。


「くっ!?」


男は蹴りが弾かれたこともあり、体勢を乱す。その間にアズはその場から数歩離れ、僕がその場所に到達した。彼に追撃を許す訳にはいかない。剣に魔法陣を纏わせ、風と土の魔力を込める。高度な魔法陣は瞬時に合わさり合い、風を纏って剣は視覚で捉えられなくなった。


「エクスカリバー!」


そう叫んで、剣を全力で振った。まるで風と共になったような一撃。

それでいて合成魔法による威力上昇。

男は何とか受け止めるも、衝撃で屋根下へと吹き飛ばされて行く。近くの民家の屋根に穴を開け、そのまま地面を転がっていった。


「あんた、何で詠唱もできないのに、呪文みたいなこと言ってんのよ。」


「なんか叫びたくなってね。」


そう言うと、アズは「フォスらしいわね。」そう小さな声で呟いた。何だか納得してくれたらしい。

やっぱりエクスカリバーってカッコイイしね、言ってみたいよね。全力で叫んでみたいよね。


「今の魔法陣、多重構築型魔法陣よね?モノにしていた何て、正直驚きだわ。わざわざ弱点を言い合った甲斐があったわね。」


「そうだね、さっきのアズの防御魔法見てたよ。凄かった。」


「そ、ありがとう。素直に嬉しいわ。それでどうすんの、あれ?」


「充分倒せるとは思うよ。とりあえずプランBで。」


「だからプランBって何なのよって、ま、そのくらい冗談言えるなら大丈夫ね。それよりあっち側が、心配だわ。」


「あっち側?スピネルたちの方?」


「そうそう。私は援護する関係上、ずっとさっきの戦闘を見てたんだけど、全く相手にしてないって感じね。」


「アメジストが強すぎるってことか?まあ、あの強さなら納得だけど……けど、スピネルも気配的にはすごかったよ。寒気すら感じた。」


「いや違うのよ。相手にしてないってのは、攻撃の標的にしてないって意味。あれ、あんたを全力で殺しに行ってるわよ。」


「……やっぱり?」


「ええ。あれがあんたを殺そうと全力で近づこうとしてるから、スピネルが全力で止めに行ってるって構図ね。何だか全力を出せないって感じで、もどかしそうよ。」


「そっか……どうしたらいいかな?」


「標的にならないぐらい遠くまで行くか……、むしろ近づけばいいんじゃない?」


「近づく?めっちゃ怖いんだけど……。」


「けど遠くまで行くなんて無理だし、現状そうするしかなさそうよ。さっさとあのグロッシュラーだか言う男を倒して、加勢しに行くわよ。覚悟決めさなさい。」


「拒否権は無いのか……。」


そんな会話をしているうちに、いつの間に紳士服の男が戻ってきた。僕らの前方にスタッと着地する。彼の服は既に塵やチリを被り、小汚い。激しく乱れており、所々穴も空いていた。綺麗にセットされていた髪型も、今や完全に崩れている。


「戦闘中に無駄話とは、感心しないないな。それは油断であり、慢心と言う。」


グロッシュラーは嘲笑うかのように、歯を見せてニヤリと笑った。

拳を構え、戦闘準備万全の様子。


「無駄話じゃないわよ。会話をまともに聞きもしないで、無駄口叩かないことね。無駄話だけに。」


「それはかかってるのか?」


「分かんないわよ。私もノリで言っただけなんだから。」


「……やはり無駄話では無いか。そんな会話をするなら追撃するなり、逃げるなりすればいいものを。やはり冒険者は愚かで無知だ。」


「別に、追撃するほどの相手じゃないって話よ。あんたの実力は正直、相手にならない。つまり……」


「雑魚ってことだな。」


よく分からないけど、息ピッタリで暴言を口にする。アズだったらこんなこと、言うんだろうな……みたいなそんな感じ。


ちょっとでも怒ってくれたら楽だったのだが、グロッシュラーは至って冷静な様子だ。ピシッと服のシワを伸ばして、襟を整えている。もしかしたらその何気ない仕草で、怒りを収めているのかもしれない。


「やはり雑魚は私ではなく、君たちであることを自覚させなければならないようだ。くらえ!パンチ!」


「そのまま!?」


男は言葉通り、パンチを繰り出してきた。腰が連動する理想のフォームに限りなく近い体勢のパンチ。ただそれは余りにも綺麗すぎる。綺麗だからこそ威力が出て、スピードが出て、だけど読みやすい。

僕はその拳を剣で正確に受け止めた。


素手で戦うこと、その利点とは何か……。

直接的に魔力を伝えることができるので、威力が出る。そんな利点もあるが斧やハルバードと言った武器の方が、実は威力が出やすい。つまりそれは最大の利点とは言わない。それに素手で戦うことは、それらの武器に比べ極端にリーチが短いと言う欠点もある。


素手で戦う本当のメリット。それは速さだ。

武器を持てばそれは重みとなり、少なからずスピードを減速させる。だが素手は違う。

だって素手だから。武器を持っていないから。体以上の重みを持っていないから。


故にグロッシュラーは、その利点を生かしている。その利点を生かすような、攻撃スタイルにしている。予想以上に走るスピードが早く感じたのは、このせいだろう。


スピードが早くなれば、自ずと威力も出る。

F=maってこと。彼はその特性を最大限生かし、僕の剣を弾くと同時に蹴りを入れた。

速い蹴り。僕も反射的にしか、反応することはできない。けど……その蹴りが到達する前に、グロッシュラーには弓矢が到達していた。


「ちっ」


グロッシュラーは舌打ちをして、僕に攻撃するのを諦め数歩引いた。だがアズは弓矢を絶え間なく掃射することで、追撃する。しょうがなく彼はさらに下がり、僕との間に数メートルの間が生まれた。


どれだけのスピードがあれど、二人を相手にするとなれば話が違う。それに僕とアズの連撃は、全て間を生めるような攻撃であり、隙を見せない。自分で言うのも何だが、息の合った連携なのだ。

アズの弓矢は連射性が高いだけでなく、威力も申し分ない。グロッシュラーも避ける選択肢を選ばざるをえなかった訳だ。


グロッシュラーが全て避けたこともあり、アズの弓矢は屋根にぶつかり風穴を開ける。それが何十本と言うのだから、屋根はボコボコの穴だらけになった。そして傾き始める。


どうやらアズの弓矢が、建物の芯となる柱を打ち抜いてしまったらしい。

しょうがなく、僕とアズは外側の広い道路へと降りた。それと同時に、崩壊する爆音。


くっそうるさい。思わず耳を塞ぎたくなる。僕らがさっきまでたっていた建物は見るも無残なほどに崩壊し、瓦礫が周りに散らばっていた。

ただ……そのとき気付いた。グロッシュラーの姿が無い。


まさか見失った?そう思ったが、ドンっという音と共に瓦礫の中らグロッシュラーが出て来た。どうやら建物の崩壊に巻き込まれていたらしい。

回避動作を挟んでしまったが故に、反応が遅れてしまったようだ。


「フォス、遠距離攻撃に特化させなさい。」


「りょーかい。」


足元に大量の魔方陣を展開させ、土の槍をグロッシュラーに向けて連射する。

一応アズはうちのパーティーのリーダー。二人しかいないけど……。

なのでアズの指示には基本的に従う。それに彼女の考えも十分に理解できる。


グロッシュラーの強みは素手であること。だがグロッシュラーの弱みは……それはやはり素手であること。先ほども言ったが圧倒的なリーチの無さ、それは大きなデメリットだ。


それを彼はスピードによる接近で誤魔化しているのだが、現状僕らと彼とには大きな距離が開いているため誤魔化すことは不可能。近づかせなければ、デメリットを一方的に押し付けることができる。そしてそれを僕らがしない訳がない。


「ぐっ、ポンギョ!」


僕からの攻撃を、拳で粉砕して相殺する。だが休む暇なく迫ってくるのは、アズの弓矢。

何とか魔力の壁で防ぐも、次に迫って来るのは土の槍。

僕の魔術的遠距離攻撃に、アズの弓矢。一切の隙を与えない、一方的な遠距離攻撃。


僕の攻撃の間をアズが埋め、アズの攻撃の間を僕が埋める。互いが互いに隙を埋めることで、一切の攻撃を許さない僕らの連携攻撃。近づく暇なんか、一秒たりともない。


グロッシュラーは魔力の壁で攻撃を耐えているが、できるのはそれだけ。

こうなるとどちらかが魔力を使い果たすまで膠着状態になる。だが僕らが二人いるのに比べ、グロッシュラーは一人。消費魔力だって彼の方が多い。


ジリジリと少しづつ、僕らが押している。完全に僕らが有利な状況、だがこれで終わるような相手では、グロッシュラーは無かった。


「こうなったら!ピィィィィィィィィィ」


グロッシュラーは唐突に、口笛を鳴らした。耳が痛くなるぐらいの甲高い音。ピンチで血迷ったのではないか?そう思ったのだが、違った。


ヒヒィーン!


馬の嘶く声がどこからとも無く聞こえた。そして僕らに向けて突進してくる首の無い馬が、道の先から見えてくる。

なるほど……あの馬はどこに行ったのかと思っていたが、あの口笛で呼び戻したらしい。


僕はその突進を剣で受け止めるも、その瞬間グロッシュラーへの攻撃を止めてしまった。いや止めたくは無かったのだが、止めざるをえなかった。馬の突進は強力で、そちらに集中しなければ痛手を負うのは僕だったから。


そして案の定、グロッシュラーが一瞬で接近してきた。

拳を低くをして、お腹を狙うような構え。剣が馬で塞がれている分、魔力の壁で対応せざる負えない。


「ポンシュ!」


叫びと共に強力な一撃。僕はアメジストとの戦闘と同じように、後ろにジャンプすることで威力を下げた。相手の反動で距離を開くことができるのも、利点の一つである。


気付けば後方にいたアズのすぐ側まで、吹き飛んでいた。つか、いつの間にアズはこんなにも後方に下がってたのかよ……。


「フォス、2対1になっちゃったけど、戦える?」


「何その1人で戦ってみたいな言い方。」


「ええ、そのつもりよ。」


「何で!?」


アズのよく分からない発言に、パッと彼女の顔を見る。

最初は冗談でも言ってると思ったのだが、どうやら違うらしい。今まで以上に真剣で、真面目な表情を浮かべている。


「30秒ほど時間を稼ぎなさい。それで私が終わらせるから。」


「30秒……それで倒せるんだな?」


「ええ。私を信じて何とかしなさい。」


「中々の無茶ぶりだけど、頑張ってみるよ。」


そう返答すると、アズは大量の魔方陣を展開し始めた。

馬が戦闘に加わったことにより、二対二ですら危うくなった。それなのに二対一を強いられる。

意味わかんないくらい、不利な状況だ。無茶ぶりも無茶ぶりなことこの上ない。


ただ……別に勝てと言われてるのではない。三十秒稼げということ。

それにアズが言うのだ、僕を信頼して、僕の実力を信じて、リーダーとして命令したのだ。

なら……僕がやるしかないのだろう。


そう覚悟を決め、僕は地面に手をついた。


読んで頂き感謝、感激、雨あられでございます。

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感想もドシドシお待ちしてます。誤字あったら、報告してくれると嬉しいです。以上。

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