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第五十七話 奇襲について⑧

(なずな)一刀!」

ラリマーの青緑に輝く剣は、眼前に立つチャロアイトを斬る。彼の体は真っ二つに割かれ、流血もせずに体は崩壊した。腰曲がった爺さんだった姿は土くれへと姿を変え、土の中へと姿を消えていく。


けどラリマーは、倒しても倒しても数十人のチャロアイトに囲まれていた。


何度、こうしてチャロアイトを斬ってきただろう。

けどチャロアイトが死ぬことはない。気付けば新しいチャロアイトが土の中から現れる。そして数は減るどころか増え続ける。キリがない。


分かってる……この量産されるロジックを解き明かさない限り、俺に勝ち目はない。永遠に疲労を蓄積させ、倒れるだけ。現にちょっとした疲労を、既に感じてしまっている。だが……まるで考える時間を与えたくないように、周りにいる数十人のチャロアイトが魔法を唱えた。


「厭離穢土!」


一斉に降り注ぐ雨のような魔弾。

ラリマーはチャロアイトから逃げ出すようにして走り出し、寸前のところで魔弾をかわした。そのまま外側と中側道路の間にある細道に入る。建物が建ち並び、その間を縫うように伸びているちいさな細道。


ここならばチャロアイトも狙い辛いはず。


数十人のチャロアイトは俺を追いかける者たちと、魔弾で攻撃する者たちの2つへと別れた。魔弾は建物に遮られ、魔力豊富と言えど腰の曲がった爺さんよりは、俺の方が足が早い。

とりあえず今は安全だ。


これで…何とか時間を確保出来た。

無限に土の中から出てくるチャロアイトたち。それは間違いなく何らかの魔法のはずだ。この魔法は何だ?どんな理屈でできているんだ?


熱が出そうなほど、頭の中で思考を巡らす。今までの戦闘でチャロアイトから得た情報が、頭の中でぐるぐると駆け巡った。


今俺が考えられる中で、ありえるのは2つの可能性。


1つの可能性は、既に南門にチャロアイトが…言い換えればチャロアイト型のゴーレムが無限発生する魔法陣が構築されていること。ただその場合、魔法陣は設置型になり、準備の時間は想像を絶する。


奇襲する前から準備していたとしても、常に巡回している騎士団の目を盗めるとは思えない。それに隠蔽魔法でもさらに書き加えないと、魔力の気配を感じるはずだ。

しかし気配何て感じなかった。俺が察知できないほどの高度な隠蔽魔法何て、中々無い。この可能性は低いと考えるべきだ。


2つ目はあの大量のゴーレムの中に、本物のチャロアイトがいる可能性。本物が軸となって魔法を構築していれば、無限発生も可能のはず。俺が綿密に防御魔法を構築された最初のチャロアイトを倒すまでどこかに隠れ、無限発生魔法発動と同時に紛れ込むor未だに隠れている。

この可能性の方が現実的だ。


ただあれほどの魔法を成立させるとなれば、術者も近くにいなければならない。建物などに隠れているとしてもかなり近く。ただあれほどチャロアイトがいたなら気配は感じ辛いので、見つけるのは困難。それに紛れてる可能性も考えると……


周りの建物を破壊しつつ、あの大量のチャロアイトを全滅させる長広範囲魔法。それが求められる。

参ったな……そんな魔法……


あるにはある…な。


最後に師匠に教えてもらった、一つの魔法。


「この魔法の成立条件は、直前に7つの魔法を発動させておく必要がある。」


そう師匠は言っていた。

もちろん消費する魔力だって多い。けど魔力量はまだ余裕はあるし、その心配はいらない。

問題は魔法を、完璧に構築することができるかどうか……。


非常に高度な魔法であるが故に、魔法陣は複雑極まりない。けれど落ち着いて構築する時間も無ければ、あの大軍の前に出ることを考えると降り注ぐ魔弾を受ける必要がある。今だって走り続けているし、安全であっても暇はない。

つまり、魔法の発動は一瞬で無ければならない。


けど……やるしかない。ここでこなすのが、師匠だったはず。

俺も金等級冒険者として、シルフギルドの冒険者として……師匠のようにならなければならない。

そして師匠を超えるような存在にならなければならない。


師匠……俺を見守ってくれ……。


細道を飛び出し、外側の道路に出る。

そこから再び北門近くまで走ってきた。待っていたのはさっきよりも増えている大量のチャロアイト。そして俺の後ろを追ってくる数人のチャロアイト。完全に囲まれた。


これほど一掃する好機は無い。けどそれは同時に、これほどのピンチもない。

俺は覚悟を決めて、魔法陣を大量に展開した。


先ずは魔法成立条件の7つの魔法。

これを流れるように行う。もちろんそれを待ってくれるような隙を与えてくれるはずもなく、一気に魔弾が迫ってきた。


「薺一刀!」


先ずは横薙ぎの一撃。

これで迫ってくる魔弾を一掃する。

けれどチャロアイトたちは隙を与えないべく、次の魔弾の一斉掃射。

しかし魔法成立のためにコンマ何秒の間が生まれる。


その隙を逃さず、


(すずな)一線!」


次は剣の刃を翻し、再びの横薙ぎ。威力は先程に比べれば劣るが、青緑色に染め上がった刃から広範囲の衝撃波が飛び出した。ラリマーの近くにいたチャロアイトたち数人は斬撃波をくらい、粉々になる。


ただもちろんその攻撃で全滅できる訳もなく、生き残った大量のチャロアイトたちから魔弾が放たれる。全方位から繰り出される、避ける隙のない攻撃。

それでもラリマーは冷静に剣を構え直した。


「剣技、蘿蔔(すずしろ)!」


剣を天に振り上げるような、突き上げる一撃。

衝撃波が伴い、迫ってくる魔弾を破壊した。それでも一掃とはいかず数発の魔弾が、肌を掠る。

服が破れ、肌からは血が垂れた。


だがその痛みを感じても、ラリマーは怯まずに剣先を反転させる。

こんな痛み、無いのと同じ。覚悟を決めた、この魔法を成立させると。

だから止まらない。


「沈め!仏の座!」


剣を次は天から地へと振り下ろす。バンっと言う爆弾が爆発したような轟音と共に、足元の地面が抉れ土煙が上がった。チャロアイトたちの視線から、ラリマーの姿が消える。


それでも逃すことは無く、再び埋め尽くすような魔弾。

いつの間にかチャロアイトの数は増えており、更なる数の魔弾がラリマーを襲った。


「水は自然に、自然は水に。導く空は、地を潤す。この剣は生命の証。刮目せよ!合成複合魔法、(せり)!」


ラリマーは詠唱を叫び、剣先を空に突き上げた。

その瞬間ラリマーの足元の地面に、大量の魔法陣が浮かび上がり青緑色に染め上がった。そして囲むように伸びる大量の蔦。迫ってくる魔弾を貫き、チャロアイトの攻撃を一掃する。


チャロアイトもその予想だにしない魔法に、驚きを隠せていない様子。

その間に蔦は周りにいいたチャロアイトを巻き込んで締め上げる。

瞬時の出来事にさらに混乱が広がった。


だが……これで崩壊するようなチャロアイトでは無い。

数秒も経たないうちに危険を察知し、魔弾で蔦が一掃する。だがその間、にラリマーに攻撃が向かない時間が生まれた。

その隙を利用し、休む暇も作らず唱える。


「防御魔術、繁縷(はこべら)!」


ラリマーを囲むように、青緑色の魔力の壁が出現する。

合成魔法に加え、複合の魔法である複雑な魔法陣が刻まれた防御魔法。

数秒間の安全領域を作り出した。


「此土!」


チャロアイトたちはその壁を壊そうと一斉に土の槍を出現させても飛ばす。

衝撃力が高い土の槍による連撃、前はこの攻撃をくらって民家の中まで吹っ飛んだ。


今は防御魔法が展開してくれてるおかげで、相殺できる。前は不完全な状態かつ至近距離で攻撃を受けざるをえなかったが、今の防御魔法は完璧だ。攻撃を受けても消えないほどの力はないけど、今の攻撃を凌いでくれている。


この合間に決める!

俺は剣を空に投げた。

剣はクルクルと夜空に打ち上がる。そしてフリーになった手に素早く青緑色の弓矢を作り出した。


「御形!」


7つ目の魔法。矢を天に放ち投げた剣に当てる。

その瞬間……太陽のような光を発した。青緑色の眩いほどに光る球体。


剣は矢に弾かれるのではなく、逆に剣が矢を吸収したのだ。

その光を伴ったまま、僕の元まで降りてくる。

ドンっ、僕の防御魔法が壊れ去る音が聞こえた。これで降り注ぐ魔弾を防ぐすべは無い。

けど次の攻撃まで時間が数秒かかるはず。


光り輝く剣を両手で掴み、構える。体から溢れ出すように大量の魔法陣。今まで使った7つの魔法陣が一気に展開され、更に複雑に絡み合っていく。そして大きな魔法陣となり剣を包み込んだ。まるで神から剣を授かったかのような、神々しい光と気配が剣を包む。


その眩しさにチャロアイトから見れば、ラリマーごと光の球体にしか見えなかったことだろう。あまりの魔力量と高度な魔法陣に、何十体のチャロアイトたちが絶句する。


そのとき、何十体の中の一人が魔弾を即座に、ラリマーに飛ばした。

それはチャロアイト本人だった。彼は何十人に紛れて、戦いを有利に運んで来ていたのだ。


この攻撃をくらえば、分身ごと殺られる。それが分かったのだろう。分身に命令するよりも先に自ら動いた。あの魔法を止めなければならないと……。そしてそれは目にも止まらぬほど早い攻撃であった。


その魔弾は幸運にも、ラリマーの魔法陣を貫く。高度過ぎて一切の誤りも不足も崩壊も許されない魔法陣。魔弾により欠けた魔法陣は、輝きが鈍くなる。


勝った……


この魔法を崩壊させれば、ラリマーには隙しか無かった。魔弾の一斉掃射など耐えられるわけもない。だからチャロアイトは思った……勝ったと。


それはラリマー自身も感じていた。不運にも魔弾により魔法陣が崩壊しようとしている。構築するのにも精一杯なのに、崩壊を治すほどの頭のキャパも技術も彼自身は持っていない。


徐々に剣は光を失っていく。合わさるはずの魔法陣に乱れが生じ、歪む。噛み合わない。

これでは魔法は成立するどころか、崩壊して逆に自分自身にダメージがくる。


「くそ……、」

ラリマーはそう無意識に、言葉を発していた。


終わった……終わったのだ……。この魔法が成立しなければ、俺が耐え切れる術がない。

戦闘に負け、本当の意味での終わりがやってくる。


もっと慎重に動くべきだったとか……違う作戦を選ぶべきだったとか……後悔ばかりが頭の中を駆け巡る。こんなところで死んだら、天国で師匠に会ったときどうすればいいのだ……合わせる顔もない。けど……けど……師匠に会えるなら、死んでも良いのかもしれない。


そう思った、本当に思った……。こんな死に方したら間違いなく師匠には怒るだろう。それはもう激怒の域を超えて、もう1回死ぬんじゃないかと思うほどに怒られるだろう。けど……けど……怒られても、師匠に会えるならそれで良い。


会いたい……師匠に会いたい……。

怒られてぇよぉ……。


両目から涙が溢れ出てきた。魔法は光を失い、映るのは迫ってくる魔弾の数々。もう俺は死を受け入れたのかもしれない。人はいつか死ぬ。冒険者ならいつ死ぬかだって分からない。

それが今なのだ。

ならいいじゃないか……


そう心の中で納得してしまった……その時……


「馬鹿!」


そう声が聞こえた気がした。

そして気づいた……僕の前にいる一人の女性に。


それは幻聴だったかもしれない。錯覚だったのかもしれない。死に際になって頭が狂ってるのかもしれない。

もしかしたら走馬灯を現実と取り違えているのかもしれない。狂乱かもしれない。妄想かもしれない。幻想かもしれない。


けど……


「もう……シャキッとしろ、シャキッと。」


そこに居たのは師匠だった……。シルフギルド白金等級冒険者、スフェーンだった……。

俺が心から愛した女性だった……。


涙が止まらない。鼻水も体の震えも、肩も上下に揺れる。

顔はきっとくしゃくしゃだ。

それでも……


「師匠……」


そう声が漏れた。

何でここに居るのかも、何で死んだはずの師匠が見えるのかも……意味わからない。

けどそう言葉が、口から漏れた。


それは嗚咽のような言葉だっただろう。聞き取れるような声じゃ無かっただろう。けどその言葉は俺が何十回、何百回、何千回と呼んできた言葉だった。

だからこそ、伝わったのかもしれない。


師匠は、ニヤリと笑っていた。

俺の知っている、あの笑顔で……。


「相変わらず泣き虫だな、ラリマーは。大丈夫だ。私がここに居る。私が手伝ってやる。一緒に剣を取ろう、私たちは2人揃ったら無敵……そうだろ?」


そう言って師匠は僕の後ろから、共に剣を持ってくれた。


暖かった……


それは懐かしい温もり、もう感じることは叶わなかった温もり、そして何よりも大好きな温もり。

その温かさが全身を駆け巡り、体を満たしていく。

そしてぐちゃぐちゃになった頭の中を、より鮮明させた。


「何じゃ!?」


チャロアイトの驚いた声が、微かに聞こえた気がした。

崩壊していくはずの魔法陣が巻き戻り、再構築される。失われるはずの光が輝きを取り戻し、前以上の輝きを伴う。大量の噛み合わなかった魔法陣が、まるでパズルを埋めるかのように鮮明に合わさっていく。


剣が輝く。

手がピリピリと感電するような痛みが走った。けどそんなこと気にならない……。

だって僕の手を師匠が包んでくれているから。


俺らを包むように風の衝撃波が生まれ、空中に浮かんでいた魔弾たちを一掃した。台風のような風が周りの何十体というチャロアイトたちを、激しく靡かせる。

そして最後の魔法陣が……最後のピースが……カチッとハマり、崩壊するはずの魔法陣は完成した。


師匠の顔を見る、すると師匠はこくりと頷く。

もう迷うことは無い。


「「七草粥!!!」」


俺と師匠の言葉が合わさり、剣はなぎ払われた。





気付けば、いたはずの師匠は居なくなっていた。

目の前にあるのは、真っ赤に染まったチャロアイト、ただ1人の姿。既に息は無い。

何故か彼のポケット付近は、真っ黒な液体に染まっていた。


周りの建物は木っ端微塵に崩壊し、周りにいたはずのスケルトンやダークフェアリーたちの姿もかき消されている。俺を中心として半径何十メートルという範囲内は、何も残っていない。大きな南門や、街を囲んでいた城壁さえ粉々になり何も残ってはいなかった。


まるで俺を中心にして爆弾でも爆発したみたいだ。

予想以上の火力。これほどの威力だ出るなんて、思いもしなかった……。


あの師匠は何だったのだろうか?

分からない。幻想?蜃気楼?

いや違う。確かに僕の前にいた。

感じた温もりは絶対嘘じゃない。それは俺自身が誰よりも分かっている。


そうなると……本当になんだったのだろう。

幽霊とかだったりして?それは成仏できてないってことだから、良くないんじゃ無いか?

それとも俺がピンチなのを感じ取って、天から駆けつけてくれたとか……うん、そうだったらいいかな。


けど死んだのに迷惑をかけちゃう何て、ちょっと申し訳ない。

けど会えて良かった。


これで俺は前に進める気がする。


「さて……他の門の救援に行くかな。」


そう呟き、俺は歩き出した。

魔力を大量に消費したはずなのに、その足取りはいつも以上に軽く感じられた。


読んで頂き感謝申し上げます。

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感想お待ちしてます。


すいません投稿日時をミスって、投稿を休んでしまいました。ごめんなさい、気をつけます。

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