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第四十九話 祭りについて⑧

太鼓や笛の音が一層豪華に、そして大きくなってきた。

夏祭りも終盤、そんな感じが何となくしてくる。

空に浮かぶ月も僕らと共に楽しんでいるかのように、力強く輝いていた。熱気を妬むような涼しい風が、僕の薄緑の髪をふわりと揺らす。


「ヒスイさん、私のたこ焼き食べますか?」


「いいのですか?とヒスイちゃんは目を輝かせて問いかけます。」


「えー、我も食べたいですわ!」


「もちろんいいですよ。ちょうど偶数個ありますので、おふたりで分けてください。」


「やった~ですわ~。」


「その思いやりの心。さすがシスターですね、憧れます。ですが全て食べるのは申し訳ないので、ヒスイちゃんの分のたこ焼きを何個か食べさせてあげましょう。」


「いえいえ、いいですよ。私は既に何個か食べましたし。」


「ダメです。はい、あーん。」


「ええ!?せ、せめてあーんではなく、手渡しでお願いします!」


「ふふん、ダメですとヒスイちゃんは進言します。」


「あ、我もやりますわ!はい、あーん。」


「ア、アンさんまで……!?」


ヒスイとスピネルは、すでにダイヤと仲良さそうに楽しく話している。

ダイヤはパーティーを組んでいないし少し心配してたが、大丈夫そうだ。これを期にヒスイとも仲良くなって欲しい。


あんな感じでラリマーとダイヤに会ってからというもの、僕らは別れることなくベンチの傍でわいわいしていた。デートとかなら邪魔しない方がいいと思ったが、そういう訳では無いらしい。


ベンチはちょうど大きな木の傍にあることに加え、人の流れからも外れた場所にある。ここなら長居しても迷惑にはならなそうだ。


「シルフは一人で行動するのが好きだと思っていたから、少し驚いた。二人も連れて夏祭りに来るとは、誰も予想してないだろうな。クリスタに言ったらきっと椅子から転げ落ちる。」


「出来れば必要以上に言わないで欲しいね。今回はたまたまだよ。僕はラリマーの言う通り、一人が好きだからね。」


「一人が好きなのに、奴隷を手に入れたのか?もしかしたら七草粥を作るために奴隷を!?」


「違うよ。あと七草粥は食べさせられすぎてもううんざりかな……。もちろん一人が好きではあるが、アンはいても気にならない。一緒にいても1人と同義だ。」


「ふっ、酷いことを言ってるように聞こえるが、シルフにとっては最高の褒め言葉だな。」


ラリマーはそう言ってメガネをクイッとあげながら、笑みを浮かべていた。

そう言えばあの七草粥の情熱をラリマーは受け継いでいたのか。今の会話で思い出した、会う度に七草粥について語られた日々を。


「おっと、楽しそうな様子を見ててつい本題を忘れそうにだったな。シルフ、夏祭りでフォスとアズを見なかったか?」


「フォスとアズ?」


ラリマーとダイヤは、フォスとアズを探しているのかな。さっき人違いとか言っていたし、ヒスイをフォスかアズのどちらかに間違えたのか。

二人の魔力の気配は覚えているし、探そうと思えば多分探せる。


「え!?フォス様がこの夏祭りに来てるんですか!?とヒスイちゃんは興奮気味に問い詰めます。」


ヒスイは唐突に僕とラリマーの間に割り込んできた。

ラリマーを両肩を掴んでどうしても聞き出したい……と言った様子。

ただその姿をラリマーの横に座っていたダイヤが、少し睨みつけるような目で見ていた。


「えっと……ヒスイさんはフォスさんのこと『フォス様』って読んでるんですか?」


「え!?あれ、声に出ていましたかね……恥ずかしいとヒスイちゃんは照れ隠しします。実は昔、フォス様に助けられたことがありまして、その感謝と尊敬を忘れないべくフォス様と呼んでいたのですよ。」


「あっ、そういうことでしたか……なるほど。」


「やはりおかしいですか?となればフォス様では無くいっそフォス殿、いえフォス王でもいいかもしれません。」


「いえいえ、フォス様でいいと思いますよ。」


「そうですか?」


ダイヤは慌てながらも、安堵している様子。

ふーんどうやらダイヤはフォスに、ある程度の好意を抱いているらしい。


僕はどう思っているか……とかそう言うのを何となく理解できる。精神魔法を極めた弊害と言うか付与効果と言うべきか。

戦闘や交渉などでは大いに力を発揮する。


ただ……あまり心を知れる能力というのは、良い能力だと一概に言い切れるような代物では無く、だからこそ僕は一人を好む。それにできるだけ使わないよう意識している。皆僕のことをチビだとか弱そうだとか、散々言ってくれるからね。


「それでそれで、フォス様はこの夏祭りの舞台にいるんですか?とヒスイちゃんは脅迫するように訴えます。」


「怖いな、できればその手を離して欲しいのだが……。フォスはこの夏祭りにいるらしい。ただその様子じゃシルフたちも見てないと言うことか。」


「そうですね、ヒスイちゃんは全く目にしてません。」


「我にはそのフォスとかアズとかが誰かなのかさえ、分かりませんわね。」


「僕も見てない。探してるのなら、魔法を使って探してみるけどどうする?」


「いや、そこまでは……えっと、どうする?」


ラリマーは少し動揺するようにして、隣に座るダイヤに話しかける。

やはりダイヤがフォスたちを探しているのか。恋愛云々関係のことだろう。ラリマーはその付き添いってところかな。


「いえ、別にそこまではいいですよ。フォスさんたちにも迷惑がかかってしまうでしょうし……。」


「ほーう、本当にいいんですか?」


「はい。」


ヒスイも何かに気付いたようである。

さすが僕が認めた金等級冒険者、嘘であったり動揺であったりに敏感だ。


ヒスイに感心していると、唐突にピンポンパンポーンと放送塔から音が流れる。



「間もなく鷲夏祭の大目玉、花火の打ち上げが中央広場にて行われます。帝国内でもほとんど見ることの出来ない5000発の花火、ぜひ楽しんで下さい!!!」



イーグル街全域に響くほどの声量で、女性の透き通った声が響く。

どうやら締めとして花火が打ち上がるらしい。

これで夏祭りも終わりか。


「花火ですわ!絶対に見ますわよ!」


「そうですねヒスイちゃんも楽しみです。中央広場はどこら辺なのでしょうか?」


「こっからさらに街への中央へと行ったところですね。位置的にはこっからでも見えるとは思いますが、より間近で見たいのでしたらあの道を人の流れに沿って進む必要がありますね。」


ダイヤは傍にある大通りを指さす。

ただその道を通る人の量は尋常では無かった。

花火が打ち上がると言うことで多くの人が、一気に中央広場へと押し寄せているのである。


さすがにあの流れに入るのは気が引けるな。

圧死とかしない?大丈夫?


「どうやら、ここで見るのが良さそうだな。」


「逆にこの場所をとれてラッキーくらいに思った方がいいだろうね。」


「確かにその通りですね、とヒスイちゃんもあの人の量を見てないと頷きます。」


満場一致で、花火を今の場所で見るのが決まった。

場所取りの面倒とか考えていたが、この場所なら問題は無さそうだ。この人数で場所取りとか、ホントに大変な気がする。中央広場で乱闘とか起こってないかちょっと心配。


「来るときは全く思いませんでしたが、5人もの人数と共に花火を見れるなんて少し嬉しいです。」


「そうだな。七草粥を食べるときのように、皆で見ると一層綺麗に見えそうだ。いっそ皆で七草粥を食べるか?」


「何で食べるんですか!とヒスイちゃんは軽蔑するような目で主張します。あと七草粥って不味いですし。」


「不味い?不味いだとぉぉぉぉぉぉ貴様!七草粥の美味しさが分からんなど、人としての喜びの感情を一つ失っていると言っても過言ではないぞ!今すぐその馬鹿舌を俺が治してやる!」


「ラリマーさん、落ち着いてください!」


「うわ~さすがのラリマー節、ヒスイちゃんドン引き。」


ダイヤがラリマーが暴れだしそうになっているのを、制止している。10年前ならあのラリマーの立場がスフェーンで、ダイヤの立場がラリマーだったと思うと、少し笑える。


僕はやはり夏祭りに来てよかったのかもしれない。

これから起こるであろう騒動も含めてね。


「ちょっとご主人様。」


不意に袖を引かれてみると、スピネルが僕に顔を見上げていた。

どうやら他の人には、聞かれたくない話があるらしい。

僕の耳元に顔を近づけてくる。


「本当に言いたくないのですけれど、体が勝手に伝えろと訴えるので言いますわよ。不意に魔族の気配を激しく感じるようになりましたわ。ご主人様に先程は気のせいと言ってしまいましたが、どうやらそうではないようですわよ。」


「へー、やっと気付いたんだ。」


「や、やっと!?う、うっさいですわね。感じたのが丁度今でしたのですから、しょうがないでしょ!」


「そっか。ま、これは相手方の方が上手だからスピネルが、後悔する必要はないよ。かなりの高度な隠蔽魔法で直前まで見つからないように行動してたようだ。」


「く、くぅ……そ、それでどうするの?すでにこのイーグル街、包囲されてますわよ。数もかなりありますし、何より巨大な気配を感じますわ。推測ではありますが、我と同レベル、つまり魔王軍幹部の気配がしますわ。」


「そっかこれが、魔王軍幹部の気配なんだね。確かに他とは違うとは思ったよ。けどその大きな気配以外にも、程々に大きな気配も何個か感じるね。」


「多分ですが魔王軍幹部の側近ですわね。にしては数が多いですけど。それで、ホントにどうするつもりなのです?」


スピネルはかなり焦っている様子である。

彼女にとっては自分が帝国人の奴隷になっていることを知られたくない以上、緊急事態なのかもしれない。

魔王軍幹部レベルとなればどれだけ見てくれをイジっても気配で分かられてしまうだろうから。


彼女の気配は感じ辛く魔法をかけているので、あちらもまだスピネルの気配には気付いてないはず。

けど距離が近ければ近くなるほど、バレやすい。

僕としてもスピネルはバレて欲しくないものだ。


にしてもこの多くの人が集まるイーグル街に攻撃を仕掛けるとは、甚大な被害が予想できる。

気配を感じていたのに何の行動もしなかった僕が悪いのだが、この奇襲攻撃は歴史に残るレベルの被害者が出るかもしれない。


けど正直僕は何とも思ってない。

むしろ……


「ちょ、ちょっとご主人様、何で笑ってるんですの!?」


「いや~ちょっと楽しそうだと思ってね。」


僕は笑顔をこぼしていた。

言っただろう僕は善人じゃない。

こんな生きていて二度とないであろうトラブル、巻き込まれるってだけでドキドキする。


これは僕の悪い癖だ。

退屈な日常に刺激が加わるのなら、つい静観し巻き込まれたくなってしまう。だってその方が刺激的で、面白い人生になりそうじゃないか。


そのため僕に関係ない人間が何人死のうと、どうでもいい。


クズだろ?


あははははは。


僕は自分が正しい人間だなんて一度も思ったことは無い。今回だってどんな犠牲が出ようと、僕の仲間たちが成長するために利用してやろうって思ってる。


産まれた時から才能に溢れ、帝国立魔術学園は飛び級に加え首席で卒業した。頭の固い魔術協会連中にウンザリして、冒険者になってからも歴史に残る勢いで白金等級まで上り詰めた。


誰も僕に匹敵する存在はない。

本気で戦った僕より強い存在など、一度もあったことはない。どれだけ偉かろうと、白金等級だろうと、魔王軍幹部だろうと、僕は満足させられない。


いつからか弟子を育て、その弟子たちが強くなっていくことに喜びを感じるようになった。そしていつか僕に匹敵するような存在が出てきて欲しい。

そんな叶わない思いを胸に、ギルドマスターとして生きてきた。


だから僕なんかよりもスフェーンがギルドマスターになった方が、良かったのだ。

僕よりも何倍も人格者である彼女こそ、ギルドマスターにふさわしい。僕何か白金等級冒険者のまま、後輩たちの修行していたかった。


こんな歪んだ僕は、ギルドマスターになるべきじゃなかった。


あぁ、笑顔が止まらない。

この危機にこれから立ち向かうと思うと。


「スピネル、夏祭りは最後まで楽しまないとね。」


「あぁ……何故かご主人様にボコボコにされたときを思い出したわ。寒気が……。」


スピネルは祭りの熱気に包まれているにも関わらず、寒そうに肌を摩っている。

顔も心なしか青ざめている様子。

ただ彼女の気分とは裏腹に、皆の声は興奮気味であった。


「あ、打ち上がりました!」


「たまや~。」


真っ暗な空に、一輪の大きな花が打ち上がった。

イーグル街を包むような光と共に、響き渡るパーンと言う音。

それは夏祭りの終わりを示す音であり、ほら貝のように戦争の合図となる音であった。


読んで頂き感謝申し上げます。

評価、ブックマーク登録等して頂けると嬉しいです。

モチベに繋がりますので、感想くれると泣いて喜びます。

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