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第四十八話 祭りについて⑦

「嬢ちゃん、べっぴんさんだからこの線から打っていいよ。」


「へえ、いいのね。後悔しないでよ。」


アズは得意げに弓を構えている。

何故夏祭りでこんな物騒な武器を構えていることになっているのかと言えば、射的である。


射的。

一定の距離から射撃を行い、棚に置いてあるお菓子や商品を倒すことでそれをゲットする屋台の遊び。

日本では銃のおもちゃを使ってやるのだが、この世界では弓を使うらしい。さすがの夏祭りを教えた日本人も、銃を教えるのは躊躇したのだろうか?


ただ多分銃で打たれても、僕やアズレベルなら傷をつけるくらいが精一杯かもしれない。魔力ってのはすごくて、銃くらいじゃ死なない体くらい簡単に作れる。


しかし銃に魔力を流すってなると話は別で、とんでもない殺傷武器になること間違いなし。地球のように弓矢の文化は取って代わられるかもしれない。


つまり結論、銃は怖い。

ただ僕は銃という存在は知ってるが、どう言った構造なのかとか一切知らない。と言うか普通そうだよね。伝えるのにも伝えられないし、もしかしたら夏祭りや浴衣の文化を教えた何者かもそうだったのかもしれない。


どっかのなろう主人公とかなら別かもしれないけど。

あいつら銃とか爆弾とか簡単に作り上げるからな。スマホとか使ってたやつとかいたし。

やっぱなろう主人公ってすごい。憧れ不可避。


閑話休題。


たまたま射的の屋台を見つけた僕とアズは、弓使いの血が騒いだのかいつの間にかやることになっていた。

ちなみに僕はもうすでに射的を行った。

景品は0。僕に弓を使う才能も実力も皆無だったらしい。

魔力が使えれば余裕だったとは思うのだが、やっぱり僕は一般人だった。


最初はどっちが景品を多く取れるかみたいな競走する流れだったのに、仇討ちみたいな流れになっていた。


しっかしこの屋台のおっちゃんも、見事に騙されたな。

アズの見てくれは美少女でしかない。スタイルの良い華奢な体をしているし、弓矢の扱いが上手いとは思わなかったんだろうな。


シルフギルドの徽章は服の中に隠れているし。

まあアズが魔力を使わない状態での射撃は見たことないし、実力拝見と行こうか。


スパンっ


アズが弓矢を放った。

彼女の放った矢は、屋台のど真ん中に置いてあるクマの人形のド頭に突き刺さった。

あれってテディベアって言うんだっけ?やっぱりアズの弓矢の扱いは舌を巻くものがある。

だが……人形は微動だにしなかった。


「いやー、惜しいね~。」


「はぁ!?惜しいって正確に真ん中に突き刺さったでしょ!」


「いや、少し右にズレてるかな。」


「あんたねぇ!これ絶対!」


「アズ、落ち着け。1回深呼吸するんだ、深呼吸。」


屋台のおっちゃんとアズが言い争いを始めそうになったので、素早く彼女を制止させる。

せっかくの夏祭りでトラブルを起こされたら厄介だ。

ただアズの気持ちもよく分かる。


「はぁ、くそっ、わかってるわよ、もう。」


アズはそう言うも、悔しそうに歯ぎしりをしている。

矢は間違いなく正確に刺さっている。それで微動だにししていないと言うことは、間違いなくイカサマの類だ。


射的のイカサマ。

これは結構日本でも有名なのではないだろうか?接着剤で固定されていたり、磁石で固定されているものもある。今回もそんな感じかな。


「アズ、あの人形を狙わない方がいいんじゃないか?」


「いやよ。ここで引いたら、私が負けたみたいでしょ。あのクマを殺さないと、私の気が済まない。」


「殺すって……。」


テディベアを殺すとはいかに。

うーん、こうなったアズにはどうしようも無い。

せめてこの射的を攻略する以上、イカサマの種類を判明させるか。


魔力を目に流して、ディディベアを観察する。

射的をしてる際に魔力を使うことは禁止されているが、もう競技を終えた僕がやっても問題は無いだろう。

一応気づかれないように、魔力量を適量かつ効率的に使ってみる。

何か難癖つけられても嫌だし。


あー、釘刺さってるなこれ。

これじゃあとれるものもとれそうにない。

一応伝えた方がいいかと思ってアズを見るが、首を横に振った。

ん?どうやら気づいてるのか?

そう言えばアズの目はめちゃくちゃ良いんだっけ。


射的の矢は5本。今使ったため、残りは4本。

どうするつもりだろう?


スパンっ


アズが放った矢は、テディベアの脳天を再び貫いた。

やはりズレもしない。


「ああ~惜しいねぇ。にしても2本も命中させるなんて、すごいなぁ。」


屋台のおっちゃんはニタニタと笑っている。

ここはちょっとでも落ちそうって危機感を演じるべきじゃないのかな。


ズバンっ


3発目、当然のテディベア脳天直撃。

ホントに動かないな。


「あー、あのお姉ちゃん。射的上手い!」


「あんな上手い射的、初めて見たぞい。」


「すげえ3発も正確に射抜いてやがる。」


いつの間にか僕らがいる周りにギャラリーが集まってきていた。

アズの射的の上手さに、多くの人が驚いて見てくれているらしい。屋台のおっちゃんが初めてたじろいたような表情を浮かべる。

なるほど、これがアズの作戦?なのかな。


ズバンっ


4発目、お決まりのド頭直撃。

動かないテディベア。

さすがの不自然な状況に、ギャラリーたちがどよめき出した。


「ねえママ!何であの人形動かないの?」


「明らかにあれで倒れないはおかしいのぉ。」


「おいおい、イカサマしてんじゃねぇか?」


どんどんと周りのどよめきが大きくなっていく様子に、さすがの屋台のおっちゃんも苦虫を潰したような表情を浮かべ始める。

このままギャラリーに囲まれた状態で5発目が打たれても倒れなければ、ブーイングが巻き起こってもおかしくはない。


最後の5発目を構えるアズ。

弓矢を放たずにずっと構えた姿勢を保つと、屋台のおっちゃんに向けてウインクをした。

打つぞ、と言う合図だ。


「く、くそぉ……。」


おっちゃんの震える低い声が微かに聞こえた気がした。





「ふふ、勝ったわ。けどこのクマさん、どうしようかしら?」


「欲しくて狙ったんじゃないのか?」


「違うに決まってるじゃない。1番あのオッサンがとって欲しくない顔してたからよ。」


アズはテディベアを片手に、笑顔を浮かべている。

結局、屋台のおっちゃんは周りの視線に耐えかねて、釘を外していた。それで無事にテディベアをゲット。

ただイカサマは明らかに観客にはバレていたので、あの屋台にもう人は寄り付かないように思える。


すでに矢は抜かれたものの5発もの即死攻撃をくらったテディベアは、ワタが頭からはみ出してしまっている。

後で針と糸で補修しないければならなそう。


「何よ?」


「いや、何でも。」


アズは傷だらけのテディベアの両手足を何回か動かしていた。その姿を僕が見ていたのが気に食わなかったらしい。

すぐに持ってきていたポーチの中にしまってしまった。


さすが冒険者用のポーチ。

テディベアくらい簡単に入ってしまった。

空間魔法ってすごい。


丁度そのとき、ピンポンパンポーンとどこからか音が聞こえてきた。街に響き渡るであろう、少しうるさいとも思える音量の大きさだ。



「間もなく鷲夏祭の大目玉、花火の打ち上げが中央広場にて行われます。帝国内でもほとんど見ることの出来ない5000発の花火、ぜひ楽しんで下さい!!!」



女性の声が街中に響いた。

5000発の花火、そんなの見る機会はないだろうしぜひとも見たいものだ。


中央広場と言うのは、イーグル街の一番の中心街にあたる場所。

イーグル街は正確な円の形になっており、三重の構造になっている。つまり外側、中側、内側の3区画があるのだ。中心街は内側にあたる。


3区画を綺麗に分けるように建物が建ってたり、木が生えている構造。計画都市ってやつで、空から見ればとても綺麗な街風景に見えることだろう。


出入りには東西南北に4つの門があり、そのそれぞれの門から真っ直ぐに三重の区画を繋ぐ大通りがある。

花火が中央広場であるってこともあり、一気にこの大通りの人数が増えた。

外側や中側の人々が一斉に内側に押し寄せているのだ。


「どうするアズ?どこで花火見ようか?」


「今から中央広場に行くのは嫌ね。あ、あそこ何かいいんじゃない?」


アズは意気揚々に、ある建物の屋上を指さした。

それはこのイーグル街で一番大きな建物。騎士団のイーグル街本部だ。


「いや、あそこは不味い気がするんだけど……。多分怒られるよ?」


「別に大丈夫よ。屋上使ってる人いなそうだし、バレないわよ。」


「えー。」


「ほら、行くわよ!ほらほら。」


アズは僕の手を掴むと、人の流れに逆らうように歩き出した。その力は力強く、それでいてとても温かく感じる。


ぐいぐいとアズに連れられ、騎士団の建物の前まで来てしまった。あの建物の上から見れば、花火は綺麗なこと間違いなし。けどもちろん部外者の僕らが行くべき場所ではない。

絶対怒られる。


入口や周りには、天秤のマークが描かれている真っ白な生地の服を着た人々が見られる。

騎士団の正装だ。彼らに見つかったら先ずアウトだろうな。


「フォス、こっちから行くわよ。」


「ホントにやるのかよ……。」


「はいはい、くよくよしない。」


くよくよしてる訳ではないんだけどな……。

祭りだし、テンションが上がっているのかな?


アズは騎士団の建物の裏まで回ると、勢いよくジャンプして壁に張り付く。

そのまま飛ぶように屋上までぴょんぴょんと登って行った。

こうならばもう、死なば諸共だ。


僕も建物に手をかけ、パッパッと登っていく。

魔力を全身に流し、身体能力を向上することで壁を登ることに苦労はない。

あとは気配を消して騎士団の人たちに見つからないように登る、それだけ。


「すご……。」


屋上まで登って景色を見渡すと、ついそう言葉が漏れた。息を吸うのを忘れるほどに美しい景色が、目下に広がっていたのだ。


夏祭りのイーグル街。

屋台や提灯の明かりが街を照らし、その光景は現実なのにどこか幻想的な雰囲気を感じる。人々の姿がジオラマを見ているかと思うほどに小さく見え、笑顔が咲き誇っていた。

カメラがあったなら、撮って皆に見せてあげたいほどに綺麗な光景。



ただ……何だろう、この気持ち。

こんな綺麗な光景なのに、これから花火が見れる興奮があるのに……何故か胸がザワつく。

これから何かが起こるような焦燥感。

何か嫌な気配を感じとる、説明できない感覚。


「アズ……。」


「ええ、何か嫌な感じがするわね。」


どうやらアズも分かっているらしい。

この胸のざわめき。

楽しいのに、嬉しいのに、嫌な感じがしてしまう。


察知能力の高いアズが同意するなら、きっと気のせいでは無い。

このイーグル街に何かが起こる。これから起こる。

この花火を境にして……。


夏祭りを楽しんでいるときは全く感じなかったのに、今となってその感覚は強烈に感じる。

遮蔽物の無い開けた場所にいるからだろう。

下に広がる人々は、その感覚を感じない。

感じれないのかもしれない。


僕だけが、僕とアズだけが、この危機感を感じている。


「ちょっとフォス、北門に行くわよ。」


「北門?せっかくここまで登ってきたのに?」


「ええ。花火を見たいのは山々だけど、あそこから特に嫌な感じがするのよ。いい?」


「分かった。アズが言うなら、僕は従うよ。なんてったってアズは僕のパーティのリーダーだからね。」


「そう、ありがとう。じゃ、ついてきなさい。」


アズはそう言葉を残すと、屋上から飛び降りた。

そのまま風魔法で空中を移動し、北門まで進んでいく。

僕もアズの後を追いかけて空中に飛び出した。


ヒュ~


花火が風を切る音が聞こえた。

そしてパンっと夜空が光に包まれる。北門に向かう空中で見た花火は、怪しいほどに綺麗に感じた。



読んで頂き感謝、感激、涙不可避です。

評価、ブックマーク登録等して頂けると嬉しいです。

モチベに繋がりますので、感想くれると泣いて喜びます。

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