第四十七話 祭りについて⑥
「アンさん、焼きとうもろこしは美味しいですか?」
「うん!噂通りの美味しさですわ!ヒスイさんも食べます?」
「わお、いいのですか!?では私のわたあめをあげましょう。」
「やった~ですわ~。」
スピネルとヒスイの楽しそうな会話を前方に見ながら、焼きそばを買い食いする。
マナーは悪いが、他人に迷惑がかからなければいいよね。
スピネルはずっと食べたいと言っていた焼きとうもろこしが食べられて満足な様子。
ヒスイは大きなわたあめを食べている。
「ご主人様も、焼きとうもろこし食べたいですか?」
どうやら気を使わせたようで、焼きとうもろこしを割って僕の前に差し出してきた。
既に割っている時点で、食べるの確定だと思っているらしい。
「そういうことなら、食べようかな。僕の焼きそばいる?」
「入りますわ!」
スピネルはそう言って口を前に突き出してきた。
そしてあんぐりと口を開けている。
「えっと……何で口を開けて、こっちを見てるのかな?」
「そりゃご主人様のために焼きとうもろこしを割ってしまった手前、両手が塞がってしまったのです。あーんしてもらう以外、選択肢が無いですわ。」
そう言って再び口を開けて催促してきた。
こんな人が多い場所であーんは、流石に気が引ける。
大体散々焼きそば馬鹿にしといて、焼きそばを食べたいとはどういうことなのだろう。
ま、別に良いけどね。僕は奴隷であろうと対等に接する人格者だからね。
せっかくだし紅しょうがも乗せてあげよう。
「はい、あーん。」
「あむ、ん~ご主人様大好きっ……て、こ、こんなこと言うつもりは無かったのですわ!け、けど美味しいですわね。何か少し甘い気がしますわ。」
「わたあめ食べたからじゃないかな?」
「い、いえ、そういうのではないですわ……。」
「ほう、甘い焼きそばですか。気になりますね。マスター、私にもあーん。」
「えっと……何でヒスイも食べさせてもらうと思ってるのかな?両手空いているよね?」
「同じ環境じゃないと確認できないじゃないですか?対照実験って知ってますか、マスター?と言うわけで早く!早く!」
ヒスイは飛びはねて催促してくる。
何故僕の部下はこんなにもワガママなのだろうか?
全部僕の金何だけど。
このまま人ごみで強請られても困るので、あげることにする。ちなみにこれで僕の焼きそばの容器は、空になった。
「はい。」
「もぐもぐ、うーん普通の焼きそばですねと、ヒスイちゃんは頭を傾けます。ホントに甘かったのですか?」
「甘かったのですわ!」
「そうですか、冗談とかではないのですね。……となると、もしかしたらアンさんは、マスターから焼きそばをあーんしてもらったからこそ甘く感じたのかもしれないですね。」
「あーんしてもらったから?」
「はい。ヒスイちゃんの主観でしかありませんが、つまりアンさんはマスターにあーんされて嬉しかったということです。まるで恋する少女のように。」
「な、な、そ、そそそそそんなことありませんわ!ご主人様に恋とか、マジで!本気で!ありませんわ!有り得ませんわ!」
ヒスイは大声を出しながら、僕に焼きとうもろこしを投げつけてきた。怒りながらも焼きとうもろこしをくれる当たり、優しさを感じる。
恋する少女……ね。
スピネルには僕に恋するように精神魔法をかけているし、その効力が出てきたと言うことだろう。しっかり効いているようで安心した。
このまま心を成長させ、僕がいなくてはどうしようもないくらい依存させてやりたい。
非道だって?奴隷に非道な行いをしない人なんてこの世にいるのかな。むしろこんな自由にさせ、表に出さない僕を褒めて欲しいものだ。
僕は人格者ではあるが、善人じゃない。
敵国の幹部だよ?利用するに決まってるじゃないか。
「まあまあ落ち着いてくださいと、ヒスイちゃんはアンさんの背中を摩ります。言った通り私の主観にすぎませんから。」
「で、ですわよね!もう、動揺してしまいましたわ。」
スピネルは火照った顔を手うちわで冷ますと、早歩きで夏祭りの奥へと進んで行った。ヒスイが追いかけて横に並ぶように歩くため、僕も自然と早歩きになる。
焼きとうもろこしをパパっと食べて、焼きそばのゴミと一緒に空間に作った穴の中に捨てた。
空間魔法って便利。
いつの間にか歩調もいつも通りになり、夏祭りを楽しんでいた。金魚すくいに射的と二人とも笑顔でキャッキャキャッキャ言って楽しんでいる。
僕は彼女たちを見守りつつ、周りの人の様子であったりを観察していた。やはりこの街にはこの街の色がある。それをしっかり見ておきたい。
これから何が起こるか分からないから……。
「いたっ!?」
いきなりヒスイが声を出して、唐突に立ち止まった。靴擦れでもおこしたのかと思ったが、おでこの辺りを痛そうにさすっている様子。
「どうかしたのか?」
「何だか、魔弾を頭にぶつけられたした気がしました。」
そんなことを言うとキョロキョロと首を動かして、周りを訝しげに見る。
そして何かに気づいたのか、
「アンさんと、マスターは気にせず夏祭りを楽しんどいてください。」
そう言うと人並みを突っ切るようにして、無理やり歩いて行った。
何が起こったのか分からず、スピネルと僕は顔を見合わせる。気にせずとは言われたものの、気にしない訳にはいかない。
言葉も交わさずに僕とスピネルはヒスイの後を追う。
すると木製のベンチが見えてきた。
大きな木の影になっており、涼しく居心地の良さそうなベンチ。そこにはメガネをかけた水色髪の青年と、白髪のシスターがいた。
二人ともシルフギルドの徽章を首から下げている。
「ちょっと!何ですかいきなり!とヒスイちゃんは怒りを顕にします。唐突におでこに魔弾を当てるとは、シルフギルド冒険者としてあってはならない行動ではありませんか?」
「すまん、まさかおでこに当たったとは思わなかった。さらに人違いと来た。笑えるな。」
「全然笑えませんよと、ヒスイちゃんは軽蔑の眼差しで抗議します。」
「す、すいません、ヒスイさん。私たちもこんなつもりでは……って、え!?ギルドマスター!?」
「む!?シルフ!?」
二人は僕を見つけると、酷く驚いたような顔を見せた。
まるで幽霊でも見たかのような驚き具合である。
ちょっと、酷くない?
「おっと別にマスターとアンさんが来る必要は無かったのですが……まあ、いいでしょう。それでダイヤとラリマーは何故ここに?まさかデートではないでしょうし。」
「はい、もちろんデートでは無いのですが……うーん、何と言えばいいでしょうか。」
「気まぐれ……のようなものだな。そんなことより俺はシルフがここにいることの方が気になるのだが……。あとそこの知らない人。」
メガネをかけた青年はそう言って、隣のスピネルをジロジロと見る。
気色悪く思ったのかスピネルは僕に顔を近づけてきた。
「ねぇご主人様、この方たちは誰ですの?」
「メガネをかけてる方がラリマーで、修道服を着ているのがダイヤ。二人ともシルフギルドの冒険者だよ。」
「なるほど、ご主人様の部下ですか。」
スピネルは納得した様子でパッと振り返ると、ラリマーとダイヤの前に仁王立ちした。
腰に手をあて、股を大きく広げている。
「我の名はアンですわ。ご主人様の奴隷兼メイドですわよ。おーほっほっほ。」
口元に手を当て笑う様子は、自身で奴隷言っておきながら全く見えない。一度奴隷と言う存在がどうどういう存在なのか、みっちり教えた方がいいのかもしれない。
クリスタが僕の奴隷だったときなんか、めちゃくちゃお淑やかだった。彼女を見習ってくれ。
もしかしたら僕も甘やかしすぎなのかも。
僕のありがたさに感謝し、ひれ伏して欲しい。
「ギ、ギルドマスターの奴隷ですか!?奴隷にしては何と言うか、風格がありますね。」
「そうだな。首輪も見えないし、一般人にしか見えない。ただまさかシルフが奴隷を買うとは、驚いた。」
二人とも、素直に驚きを顕にしている様子。
けどちょっと誤解されてるので口を挟むことにした。
「買ったとかでは無いないんだよね。拾ったとかの方がまだ正しいかも。」
「拾った?なるほど、孤児院みたいなものでしょうか。」
「むむ!?それはヒスイちゃんも初耳です。」
皆の視線が、スピネルに集まる。
ちょっと恥ずかしそうに髪をいじりながらも、ポーズをとったりしていた。すっかりオシャレやメイクも慣れた様子だ。
「一応言っておくと……僕らはシャーク街から、シルフ街に帰る途中で寄っただけだよ。君らの言う気まぐれってやつと同じかな、きっと。」
「ほう、俺らと同じか。にしても……シルフが奴隷と夏祭りでデートしてたなんてクリスタやローズに知られたら、ちょっとした騒動になりそうだな。」
「あはは、いやデートじゃないよ。ヒスイもいるし。」
「そうです!デートと言うのではなく、両手に花で夏祭りを楽しんでいた、と言うべきですとヒスイちゃんは主張します!」
ヒスイは胸元にて手を当てて高らかにそう言う。
自身が花だと言う自覚があるならば、もう少し慎ましやかにはできないのだろうか。
「とりあえずデートじゃないってこと。誤解しないでね。」
「ああ。クリスタたちにはそういうことで伝えておこう。ん?何か俺の顔に何かついていたか?」
「あ……いや、何でもないよ。ごめんね。」
僕はどうやら無意識に、ラリマーを見ていてしまったらしい。言われて反射的に目を逸らす。
ラリマーは少しポカンとしている様子だ。
ただ……それで良かった。
僕が思っていることに気付かれたら、またラリマーに思い出させてしまう。
ついつい、ラリマーを見ると昔の友を思い出してしまったのだ。
それで僕は無意識に見てしまった。
ふと頭の中に、過去が巻き戻る。
『おい、アンドラダイト。お前の連れてきた弟子、クリスタだっけか?中々良い目をしてる。実力も中々だしラリマーとどっちが早く白金等級になるか、弟子勝負といくか。』
そう言って僕に笑いかける、一人の女性。
首からは当時の僕と同じように、白金等級をぶら下げていた。彼女の名前はスフェーン。
ラリマーの師匠であり、僕とはシルフギルドに入ったのがほぼ同時期で言わゆる同期だった。
『そ、その……弟子への恋愛感情って、ど、どどどどどうすればいいんだ?やはり好きって打ち明けた方がいいのか?けど引かれるか?』
ある日スフェーンは、酒を酌み交わしながらそんなことを言っていたな。
思えばあの日が彼女と話した最後の日であった。
スフェーンは、魔王軍との戦場で命を落とした。魔王軍を追い返すほどの壮絶な死だったと聞いている。
彼女が死んでしまったことで僕が、ギルドマスターになってしまったと言っても過言ではない。
きっとスフェーンの方がギルドマスターには向いていたと思う。
僕は冒険者として今まで多くの仲間の死を見てきた。今や生きている友の方が少ないかもしれない。
その中でもスフェーンは、僕の頭に深く刻まれている。
それほどに印象的で、仲も良かった。
友達だった。
とても、思い出すと悲しくなる。
けどきっと僕より弟子であったラリマーの方が、悲しかったのだと思う。白金等級候補とまで言われたラリマーはスフェーンが亡くなってから、途端に成果を出さなくなった。
依頼をまともに受けず、どっかをほっつき歩いては酒に溺れる毎日。見ていた僕の心がギュッと締まるような感覚がするほどに、見てはいられない状態。
今や更生しシルフギルドの金等級冒険者として恥じない姿に戻ったが、長期の依頼であったり、遠出する依頼を受注するためギルドでほとんど目にかけたことは無かった。
良かった、元気そうだ。
僕の目の前に座っているラリマーは、ダイヤやヒスイと楽しそうに話している。
これでスフェーンも少しは安心してくれてるだろうか?
それとも好きとか言ってたし、嫉妬してるか?なんて。
「どうしたのご主人様?」
心配したのかスピネルが声をかけてきた。
こういうとこだけ、メイドっぽいじゃん。
「いいや、なんでも。」
僕はそうスピネルに笑顔を向け、そう返答した。
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