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第四十六話 祭りについて⑤

私はラリマーさんと共に、イーグル街に到着した。

既に日は沈んでおり、溢れんばかりの星が空を照らしている。夜風が夏に似合わぬ涼しさを、肌に感じさせた。

それでも夏祭りの熱気は全てを塗り替えるほどに、強く激しい。


「あの……ラリマーさんも来るんですか?依頼は?」


「別に夏祭りに行ったからと言って達成できないような、期限ギリギリの依頼じゃない。それにフォスを探してるのだろ?俺もいた方が、効率がいいんじゃないか?」


「え?あ、はい。すいません、まさか協力してくれるとは思ってませんでしたので……。ありがとうございます。」


「なに、七草粥1合分でいいぞ。」


「報酬はとるんですね……。」


「ふっ、冒険者だからな。」


ラリマーさんはメガネをクイッと上げると、祭りの中へと歩いて行った。私も素早く後を追いかける。

夏祭りは人も多く、色んな種族や多種多様の髪色。この世界で中からフォスさんを探すのは大変だ。

黄色と白色の特徴的な色合いに注目して、探すしかない。


しかし……果たして私はフォスさんを見つけて、どうしたいのだろうか?フォスさんがアズさんとのデートでどんな様子なのか……それは気になる。


けど果たして楽しそうだとしても……アズさんと何らかの恋愛的進展があったとしても……私はきっと見ているだけで止めはしない。


なら、何のために来たのか?分からない。

気付けばここまで来ていた、そんな感覚。

別に何もせず、何の干渉もしない。なのに気持ちの整理もままならないまま、気になると言う感情だけが先行しここに立っている。


いっそ知らない方が、幸せなのではないか?見ない方が心が救われるんじゃないか?

なんで来ちゃったんだろう。


私の行動なのに、1番私自身が分からない。

分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない。


「分からない。」

そういつの間にか呟いていた。

前を歩いていたラリマーさんがくるっと振り返る。


「分からない?」


「い、いえ……何でも無いです。」


反射的にそう手を横に振って、否定する。

何でもないわけないじゃない。けどこれはラリマーさんを巻き込むことじゃない。

むしろ協力してくれる彼に失礼だ。


けど……ラリマーさんは予想外の言葉を口にした。


「ここに何で来たのか分からないって?」


「え?」


それは私の心を代弁したような言葉。

もしかして声に出てた?いや、そんなことは無い。

何で……何で分かったの?


「そんな驚いた顔をするとは、ダイヤらしくないな。どうせ衝動的に来て、何をしていいのか分からなくなってるのだろ?もし好きな人が他の人と楽しくしてたら嫉妬する。キスなんてしてたら見るのが怖い。ふっ、心なんてそんなものだ。」


「まさにその通りですが……怒ったりしないんですか?」


「ん?何故……俺が怒るんだ?」


「いえ……せっかく連れてきてくださったのに、目的も理屈も釈然とせず理路整然としてないですから。」


「なんだ、そんなことか。俺がそんな小さなことで怒る人間だと思ったか?」


「はい。」


「何!?少しショック……だ。んんっ、ダイヤは理屈で恋をしてるのか?」


「え?」


「いいから、俺の問いの答えろ。理屈で恋をしているのか?」


ラリマーさんはいつもと違い真面目な顔で、私の顔を伺ってくる。夜風が吹き、彼のゴムで縛られた髪が小さく揺れた。


「いえ……きっと違うと思います。」


「なら、いいんじゃないか?恋が理屈じゃないなら、それに関する行動だって理屈通りなわけない。むしろダイヤは恋する少女として、正しい行動をしていると言えるだろう。」


「……?」


「ふっ、これが分からないとは長く生きているというのに、まだまだ心は子供だなって……何故そんな怖い目をしているんだ?恋愛なんて理屈じゃ語れない。理論で恋をするのでは無く、人間は本能で恋するのだから。ならダイヤのフォスのことを気にする行動もまた、本能であって理論じゃない。理屈なんて気にするな。ただ本能に従って、突き進め。」


ラリマーさんはそう言いきってドヤ顔すると、私の反応も気にする様子なく前へと歩き出した。


何だか、ちょっとかっこいいこと言った風なのが気に食わない。けどその通りなのかもしれない。

気になって、それでいて怖くて。それでもフォスさんがどうしてるのか知りたい、それだけは真実。

なら何も考えず、本能に従うべきなのかもしれない。


「ありがとう…ございます……。」


私はラリマーさんに聞こえるか聞こえないかくらいの声量でそう言いながら、後をついて歩き出した。



しかし……張り切って探すものの、一向に見つかる気配はない。どこにいるのだろう?イーグル街はそこまで広い街ではない。見つかってもおかしくないとは思う。


ただ東西南北に1つずつ門があるので、どの門から入ったのかは分からない。順当に考えれば私たちと同じ門から入っていると思うのだけれど……。


さすがに歩き疲れたこともあり、とりあえず近くにあったベンチに座ることにした。

もしかしたら動きすぎて、入れ違いになっていたのかもしれない。ここで座って静観してれば、見つかるかも。


「いないな。もしかして、もう帰ったとかか?」


「流石に花火を見ていくとは思います。鷲夏祭の醍醐味ですし。」


「ふっ、その通りだな。」


そんな会話をしながら二人で、焼きそばやたこ焼き、ホットドッグを食べる。朝急いで飛び出してきたこともあり、お腹はぺこぺこだった。


シスターとあろう者がこんな茶色くて肉々しい物を食べるのはどうかと思うかもしれないが、私は厳密にいえばシスターではない。

だからきっと、大丈夫。


「あの……ラリマーさん。少し良いですか?」


「なんだ?」


「長生きしてきたエルフの私が言うのは少しおかしいかもしれないのですが……何故、ラリマーさんはそこまで恋に詳しいのですか?」


「詳しい?恋に詳しいとは、不思議な言葉だな。」


「だって言わなくても、まるで私の言いたいことが分かっているように見えますから……。」


「ふむ、そうか……そうだな。言ってしまえば俺も、今のダイヤのような時期があったのだ。理屈じゃ説明できない、恋に落ちたときがな。同じだったから……だから分かるだけだ。」


「ラリマーさんがですか!?」


私は驚いてラリマーさんを見えると、彼は遠くを見るような目をしていた。それは祭りにきている人々や、屋台を見ているのではなく、もっと遠くを見ているような……そんな目。


「ああ。この俺、ラリマーがな。相手は俺の師匠だった。会ったときはただただ強くて尊敬する存在なだけであったが、一緒にいるうちにいつの間にか好きになっていた。それで弟子の期間が終わったと言うのに、師匠のことを付け回してな……全く、今思えば恥ずかしい行為だ。」


「まるで今の私……ですね。」


「ははっ、そうだな。結局ゴリ押しみたいな感じで、一緒のパーティーになってな。まるで夢のような日々だった。俺の七草粥に対する熱量も、師匠から教わったようなものだ。」


「え!?ラリマーさんの七草粥も!?」


「ああ、むしろ俺より熱量が何倍もあった。俺がやっていることは、所詮師匠の真似事に過ぎない。」


「あれの何倍は……ちょっと恐ろしいですね。」


「けど、きっと七草粥も師匠も強くなった要因の一つだと思う。健康食品だからな。そのおかげか師匠は破竹の勢いで白金等級まで上り詰めてな、同じパーティの人たちと一緒に盛大にお祝いしたものだ。」


「白金等級……それはすごいですね……。」


私はそう言いながら、ちょっとした違和感に気づいた。


ん?白金等級……?

白金等級の冒険者たちの中に、七草粥をラリマーさん級に好きな人はいただろうか?

さらに師匠と言うのだから、シルフギルドなのだろう。

そんな人物は……、


「ラリマーさん、その方は……?」


「死んだよ、ある魔王軍との戦争でな。命をとして俺たちを守ってくれた。」


「……何かすいません。気配りの出来ないような質問をしてしまって……。」


「いや、別に話したくない訳じゃないからな。構わんさ。それにこの経験があるから、今絶賛恋をしているダイヤを応援したくなるのだろうな。冒険者を好きになるってことは、いつ如何なる時に目の前から消えてしまうか分からない波乱を含む。恋をしているのなら、その今を全力で楽しんで欲しい。」


「……ありがとうございます。」


私はそれ以外の言葉が、思いつかなかった。

冒険者はいつ死ぬか分からない。例え白金等級の冒険者だったとしても……。


あの地下施設の調査だって、そうだった。

フォスさんだって、私だって、いつ死ぬか分からない。

そんなの当たり前。常識。

それに冒険者だから、いつ死ぬか分からないって訳じゃない。誰であれいつ死ぬかなど、分からない。


住んでいる街が、唐突に戦場になることもある。盗賊などに襲われることだって、予想外の魔物の襲来だって、治すことの出来ない病気にかかることだって……ある。

ありうる。完全に否定などできない。


もしや生きていること自体、奇跡なのかもしれない。

私はこれまで100年以上生きたが、それ自体が運がいいこと。死はいつ訪れるか分からず、だからこそ宗教があって神に(すが)る人がいる。

そんな人々を、シスターとして見てきた。


けど……それでも……きっと死ぬときはどうにもならない。別れは止められない。

私が死ぬのは構わない。けどきっと好きな人を目の前で失ったら……私は立ち直れない。


けどラリマーさんは今、過去を見ながらも前へと進んでいる。そんな彼は私に、後悔なく行動することが大切なのだ……と伝えたかったのだ…きっと。

私も……私もそうありたい。


「その……私、今が楽しいです。今までの人生が何が楽しくて、何が楽しくないのか、よく分からない日々を過ごしてきました。けど今は言い切れます。楽しいです。」


「そうか。その気持ちを大切にな。きっとその楽しいと言う感情は期限付きだから。さて……ダイヤのためにもしっかりとフォスを探さなくてはな。」


ラリマーはそう言ってバクっとフランクフルトを、口の中に入れて食べ切った。

そしてキリッとした表情で、人の流れを見る。

私も人のラリマーさんとは違う方向に目を光らせる。


こう見ると家族連れや、カップルが多いように見える。

皆笑顔に溢れ、楽しそうだ。

あれ、金魚多!?大量の金魚が入った袋を持ってる、少女がいた。

すごい……ちょっと感心。


私もフォスさんと二人で夏祭り……絶対楽しい。

アズさんが羨ましい。こんなこと思うなら、誘う機会はあったんだしホントに誘っておけば良かった。


「あっ!」


いきなりラリマーさんが声をあげる。

私はパッと彼の顔を見た。


「いましたか?」


「いたかもしれないぞ。」


「本当ですか!?」


「ああ、顔は見えなかったが、シルフギルドの金等級がちらりと見えた。弱い魔弾を当てて、合図を送ってみるか。」


ラリマーさんはそう言って、金等級の見えた方向に魔弾をパンっと放った。中々に強引な手段だが、こちらを気付かせるなら有効な手段。

そしてその合図は無事届いたらしい。


だが人を掻き分けて出てきたのは……フォスさんとは似ても似つかないボブカットの少女だった。


読んで頂き感謝申し上げます。

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