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第四十二話 祭りについて①

夏祭り、そう聞かれて一番に何を思い出すだろうか?

浴衣?金魚すくい?わたあめ?花火?

それとも射的や、うちわだろうか?


だが実際に行って一番目に入ってくるもの……

それは男女で楽しそうに歩き回っているカップル共である。


もし僕が日本でリア充で異性にモテモテ……みたいな、勝ち組の人間なら夏祭りはそうは映らなかっただろう。転生したとしてもなろう系チートハーレム主人公になっていたならば、ただの背景のようにしか感じなかったかもしれない。

きっと日常の風景のように、当たり前の光景のように感じ何とも思っていなかったに違いない。


だが、もちろん僕はそうじゃない。

彼女なんて出来たことないし、ハーレム主人公にもなれちゃいない。


目に入って来るカップルにはリア充爆発しろくらいに心の中で思ってるし、通行の邪魔になるんで回り見て行動してください……と厭味ったらしく睨んでしまう。


なんかカップル見ると、うわって思うんだよね。

異世界に転生してからもそう感じることは少なくないが、日本での方がもっと精神がすさんで見ていたような気がする。


あれは確か……新宿駅、中央線の改札。

キスして抱き合って通行止めしてくるカップルが、僕の目の前に佇んでいた。


マジで何なのあれ、頭お花畑なの?

世界に二人しかいないくて、あとの人間はお人形さんとしか見えてないのだろうか?

眼科行け。はよキスやめろ。


自動車みたいに免許書とるための試験でも、カップルに課してやりたい。

『第一問、改札口でラブラブするのはマナー上、よろしいか?〇か×か』みたいな感じで。

せめて節度と周りに思いやりのあるカップルになって欲しいものだ。



とまあ……言いたい放題言ってるわけだが、カップルの時点で、妬ましくはある。

大体、リア充爆発しろ!とか言っているが、それは嫉妬への裏返しでしかない。

誰しも自身が選ばれし人間でないことを、認められないものだ。愛と勇気だけが彼女…とどっかのヒーローみたいなこと言い出して、現実から目を背ける。


しかし本当は彼女を作って、リア充になりたいだけなのだ。だがなれないからこそ、なっていない自身を正当化し、リア充が間違っているかの如く扱いをする。


だがカップル当人は当然だが、そんな扱いを気にもとめない。リアルが充実しているから。

非リアなんで気にもせず、彼女とキャッキャウフフいちゃらぶしときゃいいんだ。クソが。


おっと、僕としたことが語気が強くなってしまった。

反省。


はぁ……はやく、なろう系チートハーレム主人公になりたい。


こんな感じでひねくれているからか、僕は純粋に夏祭りを楽しんだことも無いのだろう。ラノベや漫画の夏祭りなんて嘘ばっかりだ。悲しく醜い人間だな、僕は。

何も考えずに夏祭りを楽しめたのは、幼少のときくらいだけかもしれない。


幼少……とは言ったがもちろんそれは日本で幼少の頃って意味。この異世界で幼少の頃の精神は、既にバキバキに腐りきった大人であった。

まさに体は子供、頭脳は大人。


転生してから初めて夏祭りを家族と行った時には、すでに楽しむ精神は腐りかけていた。


しか~し、今日の夏祭りだけ僕は今までの僕と大きく違う。


アズと2人で夏祭りに出向くのだ。その姿は第三者から見ればまさに、デートしているリア充でしかない。真のカップルではないが、なんちゃってカップル。

なんちゃって制服みたいな、そんなノリ。


リア充じゃないけどリア充っぽさを体験できる。

これはリア充に嫉妬し続けてきた僕からすれば成長であり、将来なろう系主人公になるための学びにもなる。

何と素晴らしい体験だろう、かなり有意義なお願いを、アズに勝ったときに咄嗟に出すことができて良かった。


これで僕は夏祭りをもっと楽しめ、人間として成長できるようになるだろう。


だが……夏祭りと言うイベントは、当たり前だが僕がアズとデートするためだけの場所では無い。

人への反響は大きく、楽しみにしている人は数多。


つまり……めちゃくちゃ人が来る。

離れた街から多くの者が祭りを求めて、イーグル街に集まってくる。


「ちょ、ちょっと、あんた。くっつきすぎじゃない!?」


「ご、ごめん。」


イーグル街行きの竜車。

夏祭りと言うこともあり、移動機関を利用する者は多い。それを見越しいつも使っている馬車ではなく竜車を選んだのだが……それでも信じられないぐらい人が乗ってきた。


壁に沿うように座席があり、空いた空間にも簡易的な多くの座席。人が多く乗れるよう設計された、今日だけの臨時仕様の竜車だ。


ちなみに日本に比べれば舗装されている道路も少なく、急停止はよく起こるため、この竜車は立ち乗りは禁止。

それでもギチギチに人が座ってくるので、僕とアズは密着したまま端の方に追い詰められた。


しっかり予約していたので乗れないってことはないんだけど、何だこの窮屈さは。

日本の新幹線の指定席みたいな制度に、今すぐ変えて欲しい。アズと腕を組んで体が密着するほど、距離が近くなっているじゃないか……。


幸運なことはアズには、ダイヤやカイヤみたいな当たってマズイあれがない。うん、殺されそう。

それでも体の一部が触れていたり、髪が顔にかかっていい匂いがしてくる……と言うのはちょっと精神上、あまり宜しくない。


多分顔を向き合ったら、キスしてしまうくらい近いと思う。そのためかアズはあまり頭を動かさずに、目だけがジロっと僕の方を見てくる。

窓からの斜陽に照らされているからか、その頬は赤く染まっているように見えた。


「もうちょっと、そっちいけない?私、壁とあんたに挟まれて居心地悪いんだけど。」


「残念ながらビクともしないね……あ、すいません。」


ちょっと力入れて押そうとしたら、隣の人が僕を睨んできた。マジですいません。

男の人だったからまだ良かったけど、これ女性だったら変なとこ触ってセクハラ……とかならんよな。


日本より規制が発展してないとはいえ、ほんと油断できない世の中だ。


「はぁ……ま、これからの夏祭りのためと思って頑張るわ。」


アズは小さくため息をして、現状を受け入れたらしい。

ダルそう表情を浮かべているが、そこには少しこの状況を楽しんでいるかのような笑みが薄らと見える。


不機嫌になって暴れ出したりとかしたらどうしよう……とかちょっと頭をよぎったが杞憂であったようだ。

窮屈さはどうしようもないので、良かった。

僕は安堵しつつ、ギルドから持ってきたパンフレットを腰のポーチから取り出す。


表紙には『鷲夏祭』とデカデカと書かれており、花火や神輿(みこし)の絵。

こんな名前の祭りなんだな……とか思いながら中をパラパラとめくる。すると浴衣を着ている女性の姿に目が止まった。


「アズは浴衣とか、着ないのか?」


今日のアズの服装は冒険者服とは違い、外行きの服装らしい。ショートパンツに、服の(すそ)を結ぶように大きなリボンの付いた動きやすそうなTシャツ。上にはカーディガンを羽織っており、首から下げている徽章を服の中に隠している。

こんな服持ってたんだ……って言うのが正直な感想。


スカートとか着ないあたりアズらしくはあるが、冒険者服自体ズボンなのでズボンに慣れちゃうなんて話を耳にしたことがある。

にしてもこの服装を着こなせるって、マジでスタイルいいな。


それに比べ僕は、普通のTシャツに普通の半ズボン。

The 普通。


「はぁ!?あんな動き辛い服装、私がするわけないでしょ。着るの、ほんとめんどくさいし。あの服の有用性が、私には全く理解できないわね。」


「冒険者の服みたいに有用性云々で、着る服じゃないから……。」


周りを見ると浴衣を着ている人は、ちらほらといる。

なんで浴衣みたいなゴリゴリの日本文化が伝わっているのか僕にはさっぱりなのだが、この世界の夏祭り自体日本の祭り風景に酷似しているので、もう何も言うまい。


「アズは浴衣も似合うだろうね。」


「ま、まあ当然よ。私は何でも似合うんだから……も、もしかして私の浴衣姿でも見たかったの?」


「まあ見たくないと言ったら、嘘になるだろうね。けどその私服も似合ってると思うから、満足かな。」


「そう……。べ、別に言ってくれれば浴衣だって着たわよ……。」


アズは小声で、指をいじりながらそう呟いた。

ただ浴衣を着させるのは、アズ自身に負担をかけてしまうので、やっぱりアズが好きな服を着るのが1番な気がする。


普段冒険者服で過ごすのでこう言う私服は、見る機会が全くない。

アズの私服なんて5年も一緒にいるのに、片手で済む回数しかない。


冒険者たるものいつ以下なるときに緊急時の召集がかかったりするか分からないので、冒険者服を着るのが普通。これは冒険者としての常識なのだが、あくまで今回はほんとにただの遊びの外出。


ギルドに居て召集がかかる可能性がある……とかでもないので、私服で行くことにした。

祭りの雰囲気漂う場所に、地味な冒険者服ってのも風情がないしな。おかげでいつ最後に着たのか分からない私服を引っ張り出すことになった。


ほんと取り出すのは大変だったの一言。シルフギルドに入団するときに実家から持ってきた以来なので、くっしゃくしゃでクリーニングに出したりと面倒この上なかった。

ただアズに一緒に行ってもらう以上、やれることはするかと思ったのが今の結果だ。


どうせならケチらないで、新しい服でも買ってくれば良かったかな。けど竜車使うって決めてたし、悲しいことに成長してなかったのか服もすっぽり入った以上、その選択肢は取れなかった。


値段下げて馬車を使ってたら、今頃どうなってたことやら……。

通勤の満員電車みたいになってたんじゃないか。

怖っ。


にしても……パワハラ対策に褒めるようになってから、似合ってるだとか可愛いだとか、感想を素直に照れずに言えるようになってきた。これもハーレムに向けての大きな一歩なんじゃないか?

そう信じたい。


「ねえ、フォスはその……夏祭りとか行ったことあるの?」


「え!?そりゃ、まあ。でもこの世界の夏祭りは、1、2回だけかも。それもちっちゃいときに家族とね。」


「へぇ……家族ね。あんたから家族の話ってほとんど聞かないわよね。」


「そりゃ……もう縁切ってるからね。農家を引き継がなきゃいけないのに裏切ったんだから、しょうがないと思ってるよ。」


「ふーん……。あんたは家を引き継がなかったんでしょ?誰が引き継いだのよ?けっこう大きな農家だったんでしょ?」


「妹。」


「妹!?あんた妹いたの!?」


アズはビクッと体を動かすと、バっと僕の顔を覗いてくる。肌が密着してることもあり、振動がめちゃくちゃ伝わってきた。

普通に僕もビックリするのでやめて欲しい。


「えっと……言ってなかったっけ?妹いるんだよね。ほぼ会話しなかったら、妹と言って正しいのか、分かんないけど。」


「へぇ、意外ね。けどそれなら跡取りも安心ね。」


「うん。」


昔の日本みたいに、男が家を継ぐ……みたいな規則はこの世界では皆無。男女平等な世界って感じ。

やっぱり魔力の影響で、女性でもめちゃくちゃ強いってのが大きいのかな?知らんけど。


考えてみれば冒険者になれたのは、妹がいたおかげだ。

ありがとう妹よ、生まれてきてくれて。

けど会話マジで、した記憶ほとんどない。萌えゲーの妹って一体どこにいるんだろう。

覚えてるのは……


「にい、醤油とって。」


「はい。」


「これポン酢、馬鹿?」


「ごめん。」


これだけ。


ムーンの方が100倍僕の妹だ。大体家族の縁を切ってるので、正確には妹じゃない。元妹。

文字だけ見るとすごい関係性だな。


つか……アズは『家族の話はほとんど聞かない』とか言ってたが、僕だってアズの家族については話をされた試しがない。

せっかくいいタイミングだし、聞いてみるか。


「アズは兄妹とかいるのか?」


「妹がいるわよ。あんたと違って、かなり仲良かったわ。」


「それは素晴らしいことだな。」


「ええ。けど今どこで何をしているか、全くと言っていいほど分からないわよ。生きてるのかすら知らないわ。」


「お、おう……。」


そう言われてしまうと、反応に困る。

生きてるよ!が正解なのか?けどそんな根拠無すぎるし、この世界って残酷だからな。

それに事情が全く分からん。


アズと仲良い妹……アズが人と仲良くする様子を見たことないから、全然イメージができない。


「そう言えば妹はよく、夏祭り行きたいって言ってたわ。どうせなら1回くらい行ってあげたかったわね。」


「家族で行ったりしなかったのか?」


「ええ。実を言うと夏祭りみたいな祭事に出向くこと、人生で初めてよ。」


「マジか……。」


「ええ、マジよ。だって夏祭りって言ってしまうと俗的なイベントでしょ?言葉悪いけど、貴族視点から見れば低俗な祭り。そんなのに私が、出向く分けないでしょ。」


「そういうものなのか?」


「そうよ。夏祭りに家族で行ったなんて言われたら、周りの人たちに笑われるわ。品が無いって。と言っても没落することを考えれば、そんなこと気にしなきゃ良かった……って思うんだけれど……。」


アズは遠くを見るような目で、そんなことを口にした。


貴族ってのは、見栄とかを酷く気にするからな……。

どれだけお金が無くてもまるで大量にあるかのように振る舞うし、魔力の才能や戦闘技術が醜くても、まるで醜くないように見せる。


一族の箔って言うのかな。

品があって優秀であると、そう見せることを1番の重きに置いている……そんな気がする。

別に僕は貴族じゃないので、これはあくまで外側から見た僕の個人的な意見。


ただアズは実際に貴族だったからこそ、なにか思うことがあるんだろう。

そういう表情を浮かべている。

何を考えているか僕にはさっぱり。故に短絡的な感想を僕は口にする。


「貴族ってなんか、その……面倒くさいよな。」


「ええ、その通りよ。面倒過ぎて、嫌になっちゃうくらい。」


「え?あ……だ、だよな。」


僕は少し驚いてしまった。

僕の短絡的な思考が、深い思慮をすることのできるアズが同意する意見を述べていたことに。

そんな簡単なことじゃない!みたいなこと言われるような気がしたんだが、想像以上に的を得ていたらしい。僕の考えも、けっこう良い結論良い結論にたどり着けていたのか。


ただ肌が密着していることもあり、僕の驚きはアズに伝わってしまったようだ。

ジト目のような様子で、僕を見て来る。


「何よ?貴族ってのは冗談抜きで、面倒くさいのよ。品がなんたら~とか言われて、軽率な行動は一切許されないし、常に誰かに見られているかも……って、気を使い続けて生活しないといけない。本当に苦痛の一言よ。」


「うわ……、僕には無理そうかな。」


「でしょうね。貴族何て、冒険者と真反対の位置にあるわよ。だからこそ私は冒険者になった。ほんと貴族だった頃に比べれば、今はストレスフリーなのよね。そのせいで堕落もまた、しやすいのだけれど……。」


アズはそう言って、子供のように少し足をばたつかせる。

それはマナー的にはあまりよろしくない行為。貴族であったときならば、許されぬ行動。

だが冒険者は金がなくとも自由だ。誰も彼女を咎める者はいない。

まさに冒険者になったからこそできる行為、そう言えるのかもしれない。


「私はね、このいつ死ぬか分かんないような冒険職でも、なれて良かったと心から思ってるわ。後悔は一切ない。きっともし家が没落しないで貴族として死んだとしても、今冒険者として死ぬならそっちの方が私にとって幸せのように思えるわ。」


「なんか……すごい壮大な結論に達したね。そんな死ぬとか、縁起の悪いこと言うなよ……まるで死ぬみたいじゃん。アズに死なれたら僕はまた、ソロで冒険者やっていくしかいけないんだからな、止めてくれよ。」


僕がそんなことを口にすると、アズがと再び目が合った。

顔は少し、照れくさそうに笑みを浮かべているように見える。


「何言ってんのよ。死ぬときは一緒よ。おいて行ったりしないから。」


アズの予想外の言葉に、一瞬僕は言葉が出なかった。

アズは常に僕が死んでも自分だけは助かろうとする、そんな感じの思考を持っている人間だと思っていた。なのに死ぬときは一緒?喜んでいいいのか分かんないけど……ちょっと嬉しくなっている自分がいた。


僕でもその感情は、なんなのか分からない。照れているのかも。

体温が心を中心として、高くなったようなそんな感じがした。水たまりに落ちる朝露の波紋のように、全身に広がっていく。


アズをわざと照れさせることはあっても、僕の方が照れるなんて……不覚だ。

少し恥ずかしそうにはにかむ笑みを浮かべるアズの仕草が、一層可愛く見えた。


「な、何よ?い、嫌だった?」


「い、いや……よろしくお願いします。」


「は?ぷっ、何よそれ。」


アズはパっと花が咲くような笑みを浮かべて、笑って見せた。


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唐突ですが、明日は投稿をお休みさせて頂こうと思います。申し訳ございません。

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