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第三十六話 教会について⑤

ムーン誘拐事件から、既に何日か経過した。

またあのような悲惨な事件が起こらないよう、教会はシスターや子供たちが個人行動を行わないよう禁止する決まりを作ったらしい。

まあ元から気をつけてたとは思うけど、ちょっとした甘えが出た結果があれだったのだろう。


騎士団も誘拐などが起こらないよう、より警備に務めてくれるようになったようだ。

あの日以降、外で騎士団を見かける機会が増えたような気がする。


そんな中、僕は再び教会に訪れていた。

孤児院にはすぐには行かずに聖堂内の椅子に座ってボーッとしている。特に意味は無い。


すると、小走りで一人のシスターが近づいてきた。

中学生くらいの幼げな、青髪のシスター。

そう、ムーンである。


「あ、フォスお兄ちゃん!また今日も来てくれたの?超嬉しい!」


どうやらいつの間にか呼び捨てから、お兄ちゃん呼びにランクアップしていたらしい。

嬉しいかな。

怪我も完全に治っているようで、元気一杯の様子。


「ね~ね~、フォスお兄ちゃん!昨日の夜ね、ブルーのいびきが超うるさくてね!それでね、ストーンがうるさすぎって鼻にティッシュ突っ込んだの!そしたらおならみたいな、超面白いいびき立て始めてっ!それでね、それでねっ、」


ムーンは僕の隣に座ると、楽しそうに足を揺らしながらそんな日常の一コマを話してくれる。


牢屋から助けてからと言うもの、会う度基本こんな感じだ。かなり距離が狭まったように感じる。

妹のような存在だとは思っていたが、お兄ちゃん呼びも相まってもう本当に僕の妹なんじゃないかと思えてきた。

ここはライトノベルの世界か何かなのかな…と錯覚してしまいそう。


「あ、フォスお兄ちゃん、肩とかこってない?」


「肩?まぁ、うーんどうなんだろ。あまり気にしたことないからさ。」


「え~、どれどれ……いやこれ超こってるよ!肩揉んであげる!私超肩もみ上手いんだよ!」


「え、いやそれは悪いよ。」


「もう、超遠慮する意味ないから!命を助けてもらって私超感謝してるんだから、こんくらい超やるよ!何かして欲しかったら超何でも言って欲しいし、私が出来ることなら超叶えるから!」


「いや、命を助けたのはどっちかと言えばアイの方かと……。僕そんなに何もしてないし。」


「も~、細かいことはいいの!ほら、超任せて!」


ムーンは僕の言葉に耳を傾ける様子も無く、肩を揉み始めた。

あれ……これくっそ気持ちいぞ。

意味わからんくらい、気持ちい。

肩揉みってこんあ効力あったんだっけ。もう僕も年かもしれない。


余談だが、やはりこの世界には『受けた恩は、同じくらいの恩で返せ』と言う信条が、深く浸透しているようだ。この世界の住民皆、恩を必ず返そうと心がける節がある。礼儀に無頓着そうなアズすら、カイヤと初めて会って外食したとき言っていたのだからよほどだ。

ま、いいことだとは思う。


ただ別にもちろん必ず守れ、とかそういうものでは無い。

カイヤの修行をするしないの一件のときも、色々あったしね。日本で言う一日一善だとか、勧善懲悪だとかそんな感じ。

守らなくてもいいけど、守った方が人間良い方向に向かうよね…みたいなものだ。


けど助けてからのムーンの行動は、まさにその信条そのもの。日々人間として成長しているのだと思うのだが、あまり僕なんかに恩を返させても申し訳ない感じがしてくる。


マジでほとんど頑張ったのアイだし。

居場所を突き止めたのも、ゴーレムを倒したのも、ボスを倒したのも全部アイ。僕はたまたまそこにいただけ。


しかしムーンにストレートに止めてと言うのも、何だか違う気がする。

シスターだし中学生の年齢と言えど、信条を貫きたいのかもしれない。その善意を無駄だったかのように思わせたくはないものだ。

う~ん、難しい。


ただムーンは肩を揉んだ後も、何の本読んでるの?とか一緒に買い出し行こうよ!だとか、フォスって私に超して欲しいことない?とか……ずっと話しかけてくる。


そんなに話してて疲れたりしないのだろうか?

僕は別に構わないけど、教会って静かにした方いいのでは……。

若いってすげえ。


その様子を見かねたのかダイヤが、ムーンに話しかけてくれた。


「ムーン、まだシスターの仕事が残ってるでしょ。」


「え、あれそうだっけ?じゃあフォスお兄ちゃん、超またね~。」


ムーンは手を振りながら、孤児院の方へと走っていった。僕も小さく手を振る。

本当に見てるだけで元気が出てくる陽気さだ。

あれがもしかしたら陰キャと陽キャの根本的な差なのかもしれない。


ムーンには陽キャの才能が備わっているようだ。

行ってこい、スクールカーストの頂点に……。


「ふふ、フォスさん。ムーンにとても気に入られたようですね。」


「いや、そうかな?そうだといいな。」


「助けられてからムーンはず~っと、フォスお兄ちゃんがフォスお兄ちゃんがって言ってますから。明らかに気に入られていますよ。」


「なんか恥ずかしいな。けどあれは、別に好意関係無く『与えられた恩は同じくらいの恩で返せ』ってやつに、乗っ取ってるだけなんじゃないかと思ってるよ。」


「確かにそれは大切なことではありますが、きっとそれだけじゃないと思いますよ。おっと、これ以上言うのは野暮と言うものですね、ふふっ。」


ダイヤは口に手を当てても可愛く笑っている様子であった。


こういう笑顔が見られるのも、ムーンが助けられたおかげだろう。本当に助けられて良かった。

アイには感謝だな。金消えたけど……。


もし助けられなかったら、あの男にどんな仕打ちを受けていたことか……。

想像するだけで寒気がする。


「フォスさん、少し一緒に外を歩いてきませんか?」


「外?」


「はい。どうです?」


「分かった、いいよ。」

唐突にダイヤに誘われ、外を歩くことになった。



いや~夏だ。暑い。

木陰を歩いてるのに、汗が出てくる。

日本の都会のあの地面からも返ってくるような暑さに比べれば数倍マシだが、それでも暑いものは暑い。


こんな暑いのに、シスター服を着ているダイヤはなんなのだろうか?見てるだけで暑いんだけど。

ただよく見ると裾が短くなったりしている。どうやら一応夏仕様ではあるらしい。


どうせなので、出店で飲み物を二つ買ってダイヤに一つあげた。

ダイヤは「ありがとうございます。」と嬉しそうに受け取ってくれる。

相変わらず美しい方だ。


「私本当にフォスさんに救われてばっかですね。心から感謝申し上げます。」


「何だよ、いきなり改まって。」


「いえ今回もフォスさんのおかげで、ムーンが見つかりましたし……、グリフォンに襲われたときだってそう。転んだときはいつも支えてくれましたし、いつも迷惑かけてばっかです。」


「そんなことないよ。グリフォンのとき、頑張ったのはダイヤだろ?今回だってアイが頑張っただけさ。感謝しなきゃいけないのは僕の方だ。」


「そんなことありません。あのとき私が頑張れたのは、フォスさんのフォローがあったおかげですよ。今回だって、元々はフォスさんに相談しなければアイさんとも繋がれませんでしたし……もう、フォスさんは謙遜し過ぎです!」


「いや、」


「ダメです。謙遜禁止!」


ダイヤは人差し指で、僕の口を塞いできた。

ちょっとドキッとしちゃうじゃないか……。


謙遜なんて本当にしてるつもりは無い。

僕が冒険者をやれているのは、いつだって周りにいる人たちのおかげだ。

アズやダイヤ、クリスタとか一応ウルツとか……。

協力してくれたガーネットやエメラルド、アイ、メノウだってそう。

僕はいつも支えてもらってばかり。


この金等級だって僕にはもったいないと思っている。

僕が銀等級から金等級に上がるきっかけを作ったのは、ある依頼で訪れた魔王軍との戦場。

たまたま戦場で魔王軍の隊長だか何だかに遭遇して、アズと一緒に倒しただけ。


それも遭遇するまでに既に騎士団たちによって、かなりの手負いだったのだ。

僕とアズだけの力ではない。


銅等級から銀等級はある程度依頼をこなしていれば自然と上がるが、銀等級から金等級に上がるのは非常に困難だと言われている。

その壁を通過できたのは、やっぱり僕の力ではなくてアズや周りの人のおかげだ。


一人でここまで来たなんて口が滑ってでも言えない。

僕なんて転生したのになろう系チートハーレム主人公にもなれなかった、一般人。

一緒に戦ってくれたダイヤにも、感謝の気持ちは忘れていない。


「ねえ、フォスさん。」


「ん?」


「私フォスさんと施設調査の依頼で、知り合えて本当に良かったと思ってるんですよ。フォスさんはどうです?私と出会えて。」


ダイヤは手に持った飲み物をストローで吸いながら、僕の顔を覗いてくる。

そんなもの、回答は1つしかない。


「そりゃ僕もダイヤに会えて、とても良かったよ。」


「何でですか?」


「ええ!?そうだな……何だろ、言葉にすると難しいね。ダイヤと言う存在と知り合えたってのも大きいけど、教会だとかムーンたちだとか、そういうコミュニティを知れたのも全部ダイヤのおかげだから……かな。」


「なるほど。ふふ、私も一緒です。フォスさんを知れたのはもちろんですが、フォスさんのコミュニティのおかげで、ムーンは命を救われましたもの。フォスさんって知り合い多いですよね!」


「いやいや、話せるやつがたまたま食堂でサボってただけ。本当に全然いないから。」


「え~本当ですか?そうは見えないですけどね。」


「まじまじ。銀等級の知り合いなんて、ダイヤしかいないもん。」


「あら、そうだったんですか!?私だけ?」


「そうそう。銅等級に関しては一人もいないし。銀等級以下では、ダイヤがオンリーワンだよ。」


「ふふ、そうなのですね。何だか一人だけって聞くと、ちょっと特別感があって嬉しいですね。」


ダイヤは本当に嬉しいのか不意に少しだけ、スキップをした。

どうやらダイヤは意外にもそういった子供っぽい可愛さも、併せ持ってるらしい。

可愛い。

マジで美しいし可愛い。

こんなの世の男性がほっとくとは思えないんですけど……。


「うふふ、けど私は知り合いが多いと言えば多いですが、頼れるほどの信頼関係がある方と言うと、フォスさんしかいないかもしれません。私にとってもフォスさんは特別ですね。」


「そこまで思っててくれただなんて、うぅ……僕嬉しいよ。けどダイヤならもっと増やせると思うけどな。」


「いえいえ、いつも教会にいてギルドに居ないくせに、依頼もマトモにせずパーティーも組んだこと無いんですよ!無理です。」


「そうかな?ダイヤの人間性なら、絶対簡単だよ。」


「そ、そうですか……?けどちょっとフォスさんとアズさんの関係を見ていると、ちょっとパーティーに憧れちゃいますね。」


「ええ!?僕らに憧れるとこなんてある?」


「いっぱいありますよ。あの互いに完全に信頼し合ってる関係とか……。」


「あ、ありがとう。そうか……パーティーか……。数日しか参加しないって条件でも、回復術士を欲するパーティーはあるんじゃないかな。ダイヤも組もうと思えば組めると思うけど。」


「そうですかね……。けど止めときます。」


「え!?なんで?」


「だって私、入るなら絶対あのパーティーしかないってとこ、決めちゃいましたから。」


「へぇ、どこ?」


僕がそう問いかけると、ダイヤはクルっと回って僕の前に立った。

シスターの帽子がふわりと靡き、ダイヤの雪のような白い髪がバっと広がる。


「まだ秘密です。」


ダイヤは口に人差し指を立てて、可愛らしく微笑みながらそう告げた。

その姿は絵になるんじゃないかと思えるほど美しくて、僕は一瞬言葉が出なかった。


ダイヤほど美しい女性を、僕は二度の人生を生きてる上で知らないかもしれない。

今まで見たどんな女優やアイドルも霞んでみる。


「ダイヤしか勝たん。」

僕はそう意味もなく、呟いた。


評価おねがいしまする。

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