第四話 恋人について④
僕はアズに連れられて、山頂近くまで山道を駆け上がった。するとアズの発言通り、人がハイウルフに食べられている。アズは群がっているハイウルフを弓矢で一瞬で射殺し、近づいた。
「もう、死んでるわ……、それも最近ね。一週間以内ってとこかしら?」
僕も死体に近づき、マジマジとその様子を見る。
詳しくは言いたくないが、多くのハイウルフに食べられた跡があり、顔も認識できない。
体つきを見るに男性のようだ。
死体は冒険者になれば、何度も見かけることとなる。
僕も最初に死体を見たときは吐いてしまったが、経験を積んでいくうちにいつの間にか慣れていた。
死体を見て一つ一つ動揺しているようでは、メンタルがもたない。
首を見ると、銅色の徽章がかけられている。
グリフォンの姿が掘られている徽章だ。
グリフォンとは胴体にライオンの体を持ち、顔はワシの姿をしている美しく気高い神獣のこと。
その死体の傍に座り込み、その徽章に触る。
「グリフォンギルドの冒険者か。それも銅等級……」
僕はその銅色の徽章を、その死体から取り外す。
この徽章は冒険者の証……
冒険者は自身のギルドの印を掘られた徽章を首につける。
僕らもシルフギルドの徽章を首にかけているのだ。
死体を持ち帰るのが難しい以上、徽章を持ち帰ってあげることが僕らにできるせめての弔いだろう。
「銅等級ってことは、一人でこの山に来たとは考えにくいわ。他にも仲間がどこかにいるのかしら?」
冒険者には等級があり、これが端的にいえば冒険者としての格を決める。
その等級は下から、銅、銀、金、白金の四段階。
全員が最初は銅等級から始まり、実力や成果に応じて昇進していくのだ。
つまり、銅等級であるということは、冒険者に成り立ての可能性が非常に高い。
腕を磨くため銅等級冒険者は、4、5人のパーティを作って行動するのが基本である。
死体を隅々見ていると、ズボンのポケットから小さな麻袋をこぼれているのが見えた。
その麻袋を拾って中身を見ると少量のお金が入っている。
その麻袋を何事も無かったかのように、自身のポケットにしまった。
その仕草を、アズは鋭い目付きで追う。
「半分後で、私に渡しなさいよ。」
「見られてたか……。」
独り占めできると思ってたのだが……。
死体の金を奪うなんて薄情だっ!と思うかもしれないが、冒険者としては当然の行動である。
死者も魔物もお金を使うことができない。
ならば生きている者がお金を使うのは至極当たり前なことだ。
この世界では財布を落とせば帰ってくることなどほぼ無く、騎士団も取りあってなどしてくれない。
落としたら、落とした奴が悪い。
言葉が悪いが、彼も死んでしまったから盗まれても仕方がないよねという話だ。
これが常識。異世界に来た日本人誰もが先ず思うことは、きっと日本がいかに治安のよい国だったかと言うことだろう。
死体を後にして、僕らは山頂に向けて足を進める。
「やっぱり何人かで来てたのね。」
歩いていると、道から少し逸れた場所にまたも死体を見つけた。
同じように、ハイウルフに食べれたような後がある。
服装と徽章から、やはりグリフォンギルドの冒険者のようだ。
結局、グレートボアの住処を探し回っている間に、全部で4人の冒険者の死体を見つけることとなった。
その4人目となる死体を、自分とアズで注意深く調べる。
それは今までの三人の死体に比べ、非常に損傷が激しかった。
もう人かどうかも分からいぐらいにぐしゃぐしゃなのだ。
グリフォンの姿が刻まれた金色の徽章が、赤く染る草の間に落ちている。
「金等級ってことは、こいつがこのパーティのリーダーかしらね?」
アズは慣れた手つきでお金を奪い、徽章を拾い上げる。
今まで四人と同様の対応である。
「なあ、アズ。パーティーがここまでバラバラになって殺されることって珍しいよな。状況的にハイウルフの大群に倒されたのかと思ったんだけど……。」
今日この山で討伐したハイウルフは非常に量が多かった。だからこそ大量のハイウルフに対応出来することが出来ず、冒険者たちは亡くなってしまったのかと思っていたが……、それでは不自然な点が多い。
アズは顎に指の甲をあてて、何か考えている様子である。
「ハイウルフ相手なら、互いに背を向けあって応戦するのが普通ね。グレートボアだとしても同じはず。よほどパーティーの統制が取れていなかったか…もしくはそれ以上の敵に出会ったか……。」
「山に強力な魔物が住み着いたせいで、ハイウルフたちが住処を求めて山を下って来てる…とかなのかな?」
「その可能性は限りなく高いわね。だってこの場所、とても荒れてるわ。これがハイウルフやグレートボアによってこうなるとは考えにくいもの。」
金等級の冒険者が亡くなっていた場所は、草がめくれ地面が露わになっている所も多くある。
周りの木が何本も倒れており、まるで巨大な何かがこの場所を通ったかのように思える。
そして倒れた木は山頂近くにまで、まるでドミノ倒しのように続いていた。
「ここに剣が落ちてるし、戦おうとしたのは確かね。」
死体の近くには刀身むき出しの刀が、傷一つないような状態で落ちている。
「鞘から剣が抜かれてはいるけど、傷はない。つまり、戦闘にすらならなかったってことか……。」
「ここまで証拠が揃うと、間違いなく何かいるわね。嫌な予感がするわ。」
彼女は、木が倒れて道のようになっている斜面の先を睨む。
そしてその方向に足を向けた。
僕とアズは滑落しないように注意しながら、奥へと歩いて行く。
すると行き着いた場所は、依頼で指定されていたグレートボアの住処の場所に一致していた。
「あら、あったわね……。」
住処はあるにはあった。
だがその住処は、今までのグレートボアの住処とはまるで異なるものであったのだ。
入り口は数十メートルを超えており岩壁に穴が掘られている。これではまるで洞窟だ。
「これは、グレートボアじゃあないね。」
「ええ、キンググレートボアね。嫌な予感的中ってところかしら。」
キンググレートボアはグレートボアの上位種で、体長は十メートルを超えるまさに化け物に等しい猪である。
雑食のため人間であろうと食べてしまう、危険魔獣とされている魔物の一体。
また、自分の住処に食べ物をため込む習性があり、キンググレートボアの住処から数十人の人間の死体が見つかった、なんていう事件が過去にあったほどだ。
「これで大体、あの冒険者パーティーに何が起こったのか予想がついたわね。あの場所でパーティーはキンググレートボアに遭遇。リーダーが抗戦するも、力足らず即死。」
「リーダーが居なくなったパーティーは大混乱。統率が取れずにバラバラに逃げたところ、丁度住処を負われて山をおりていたハイウルフの餌食に……ってことだろうね。」
キンググレートボアは非常に強力な魔物で、初心者をかき集めたようなパーティーでは相手にならない。
一般的なギルドの冒険者であれば、金等級冒険者のパーティ数個でやっと張り合えるほどだ。
だが、ここで注目すべきは一般的なギルド……ということになる。
つまり僕ら…シルフギルドの冒険者には当てはまらない。
「この大きさじゃ、僕の魔法じゃ生き埋めは出来そうにない。っとなると殴り込むしかないな。何体グレートボアが住んでいるか皆目検討もつかないけどね。」
「はぁ、さっさと倒してさっさと下山するわよ。もたもたしてると夕暮れになるわ。」
「おっけー、いっきまーす!」
「しゅっつげーき!って何で私がこんなことを言わなきゃ行けないのよ……。」
そんなくだらないことを言って、アズと自分の二人はその洞窟の中へ中へと足を進める。
洞窟の中は所々天井に穴が空いており、そこから差し込む陽光を頼りに奥へと進む。
まるでアリの巣のように多くの部屋があり、複雑な構造をしているようである。
「さっそく出てきたわね!」
洞窟の影からグレートボアが数匹飛び出してきた。
僕らの気配に気づき、起きてきた者立ちだ。
アズが弓を引き、一瞬で射殺してしまう。
その後も休む間もなく、数十匹というグレートボアが突進して来た。
「フォス!任せたわよ。」
「おk。」
背後から襲ってきたグレートボアを、剣を抜いて瞬時に切り伏せる。
グレートボアの首が宙を舞った。
その後も幾度となく襲ってくるグレートボアの突進を、容易にいなして討伐する。
5年と言う月日は割と長いもので、この程度の敵であれば何も言わずともアズと連携して倒すことができるようになっていた。
面倒ではあるが、洞窟の隅々まで歩いて寝ているグレートボアも含め容赦なく殺していく。
あくまでの依頼されたミッションは、このグレートボアの住処の破壊。
一匹でも生き残れば繁殖する生命力があるため、住み着かないように徹底的に殺戮する。
「おぁ、可愛い……グレートボアの赤ちゃん。」
探索していると、手のひらほどのサイズのグレートボアが大量に居る部屋を見つけた。
いわゆる、うりぼーみたいなやつでとても愛らしい。
「確かに可愛いわね。」
アズはそう言っておきながら、何の躊躇もせず容赦なく短剣で刺し殺した。
セリフと行動だけ聞けば、もうサイコパスである。
アズは可愛かろうと、魔物相手の時点で容赦が無い。無慈悲な奴だ。
僕もごめんよと小さな声で囁きながら、剣で斬り殺す。
俺がママになるんだよっとは言えないのが現実だ。
せめて苦しまずに死んでくれ。
そうして、ほとんど全てのグレートボアを殺し尽くして、最奥の部屋へと辿り着いた。
そこはドーム状に広がっており、非常に広い。
その大きさに、つい息を飲み込んでしまった。
「やっとお出ましのようね。ふーん、中々の風格じゃない。」
アズは少し笑みを浮かべる。
そこにいたのは、僕らよりも何倍も大きな猪。
グレートボアとは全くもって格が違う、圧倒的な威圧感。
太く剃り曲がった鋭い牙、自分たちを睨む黄色い眼光、何でも噛みちぎってしまうのではないかと思うほどほど強靭で鋭い歯。
これぞ危険魔獣、キンググレートボアだ。
ドーム状の部屋の中には、キンググレートボアの他にも何匹かのグレートボアがいた。
まるで僕らを待ち構えていたかのように、僕らが部屋に入ると同時に突進をしてくる。
僕は素早く土の槍を何本も生成すると、風魔法で飛ばしてグレートボア全てを串刺しにした。
部下を殺されたと言うのに、キンググレートボアは動揺一つ見せず、その場に居座っている。
「あれ!?まさか……、あそこにいるの生きてる人間よね。」
アズは驚いた様子で、キンググレートボアの後方にある魔物の死体が積み上がった山を指さした。
先ほど言った通り、キンググレートボアは食料を住処に貯蔵する性質がある。まさにその食料の山だろう。
その中に獣人と思わしき何者かが、埋もれている。
狐のような耳を持ちボロボロになった尻尾が、辛うじて見えた。
さらにそれは小さく上下しているのだ。
つまり呼吸をしているのである。
「あの冒険者たちの生き残りかな。」
「どっちにしても助ける以外に選択肢はないわね。」
僕とアズは武器を構え直した。
戦闘態勢になったのを悟ったのか、今まで微動だにしていなかったキンググレートボアが前足で地面を蹴り始める。
そして、大きく口を開けて……
「グオオオオオオオオッ!!!!!!」
耳が痛くなるほど轟音の雄叫びを上げた。
ご愛読感謝申しあげます。
評価、感想等頂けたならば幸いです。




