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第三十四話 教会について③

シルフ街の商店街。

そこはいつまでも人の声が絶えることの無い、シルフ街の中心地。帝国の中で3番目くらいに大きな都市と言うこともあり、その賑やかさは異常。

僕はこの場所にはあまり近づきたくない。

人に酔うから、まじで。


色んな店の屋台が立ち並んでおり、ここに来れば大概の物は揃う。

ただ日本のコンビニとかとは比べないで欲しい。さすがに文明が違いすぎるので、そこまで富んではいない。

けどその代わり、なんだよこれ……みたいな需要の無さそうな物とか売ってたりする。


しかし……それは表の姿。

商店街には裏の姿が存在する。


建物と建物間にある細道。

そこを通り抜けると現れるのは、裏路地街と呼ばれる場所。

商店街の裏の姿。


日が通らないため薄ぐらく、何となく空気が濁っているようにも思える気味の悪い路地裏。

表の人たちに比べて元気の無い者が多く、非常に静か。

明らかにヤバめの物が売られてたり、金額がバグってると思うくらいに高額な物が売られたりする闇市。


ただこの路地裏にはさらに奥がある。

ある程度歩いた後、一定のルートで建物の間を通り抜けた先……


それが貧民街である。


僕とアズ、ダイヤ、アイは貧民街の入口に立っていた。

直にウルツも来ることになっている。


しかし……久しぶりに来たがやっぱり気味の悪い場所だ。


道は舗装されておらずぐちゃぐちゃ。壊れた建物が立ち並び、割れていない窓ガラスを見つける方が困難なほど荒廃している。

見かける人々は皆死んだ魚みたいな目をしているし、ガリガリ。

十分に食事を取れていないのがすぐに見て取れた。


騎士団もここには好き好んで近づくことは無く、ムーンが人攫いに合ったのならこの貧民街に連れてこられている可能性は高い。

こんな場所に連れてこられているとしたら、ムーンは酷く怖がっているはずだ。

早く見つけてあげたい……。


捜索の効率をあげるため、皆バラバラになって貧民街を歩き回ることにした。


盗みも暴力も何でもありの、言葉通りの無法地帯。

こんな場所で個人行動は、危ないと思うかもしれないが僕らがちょっかいを出されることはほとんど無い。


その理由は単純。

僕らがシルフギルドの徽章を首からかけているから。


シルフギルドの冒険者。それだけでかなりの実力があるのは明確だし、いかに僻地と言えどシルフ街だ。シルフギルド冒険者の実力を知らない者はいない。


実際実力で負けることはまず無いし、貧民街の住民も馬鹿でもない限り手は出して来ないだろう。

この徽章がお守りみたいな役割を果たしているのだ。虫除けスプレーみたいな感じ。


「ムーン!いるかー?ムーン!」


とりあえず大声で呼びかけながら、貧民街を一人歩く。

貧民街は地図にも載っていないため、広さ自体明確なものは無い。どこまでこの街が広がっているのかなど誰も知らないのだ。

とにかく歩くしか道はない。


……と、僕の前にやせ細った男が現れた。

ボロボロの服に、手には短刀。

あぁ……どうやら馬鹿はいたらしい。


「お、おい……お前ムーンって奴を探してるんだろ?俺は情報を持ってるぜ、10万でどうだ?けひひ……。」


もう明らか分かる。

これは嘘だ。魔力がぶれぶれ。

察する能力があまり高くない僕でも、ハッキリと分かる。


「ごめん、邪魔。どけてくれる?」


「あ、あぁ!?なんだよ情報が欲しくないのかぁ?くそっ、こうなったら!」


男はか細い声を震わせながら、短刀を構えた。

どうやら実力で、お金をふんだくるつもりらしい。


言った気がするが、昔貧民街にきた時は6人くらいの集団に囲まれたものだ。あのときは銅等級と言うこともありなめて絡んでくるアホもいたが、金等級に戦闘を挑もうとするのはアホでも馬鹿でもなく生きる才能のない屑だ。


「しょうがないか。」


僕は剣を抜くと共に素早く男に近づいた。

そして男が反応する隙も与えあずに、剣を横に振るう。


「……っ……。」


剣の峰がうなじに直撃し、言葉も発せずに男はその場に倒れた。

この倒し方は進〇の巨人で知った気がする。


気絶で済んだだけでも感謝して欲しいものだ。僕以外の3人なら殺してるだろう。

ダイヤは命とか尊びそうだし分からないか……。


剣を収めて、再びムーンを探し歩く。

できるだけ集中して、気配も探ろうと思ったが人が多いのもあってあまり意味をなさ無い。

ムーンが魔力マシマシの天才とかなら、もっと簡単に探せたのだが……。



気配と言う意味で、少し魔力について補足しようと思う。


魔力は血液のように常に体を循環していると言ったが、詳しく言うとそれは違ったりする。

実は魔力は循環する際、一定量が体の末端まで流れた後、外に出ていくのだ。

あくまで一定量、全部ではない。むしろ少量。


……つまり生物は、毎秒魔力を外に放出して消費していることを意味する。

体の中に魔力を貯蔵する機能があるので、簡単に尽きることは無いが……。


ここで僕が言いたいのは、気配と言うのはつまりこの毎秒放出している魔力のことを意味しているということ。


初めてガーネットに会った時や、魔王軍幹部に会った時を思い出して欲しい。彼女たちが同じ空間に入ってきたとき、空気が変わったように感じたのを覚えているだろうか?


あれは気配を感じたからなのだが、つまりこれもまた放出している魔力に関係している。才能があるものは魔力量が多く、言ってしまえば毎秒の魔力の生成量も多い。


そのため毎秒放出している一定の魔力量も、常人より多くなる。そのため同じ空間で向かい合っただけで彼女たちが強者であり、気配の違いを感じとれる訳だ。


これは魔法にも言えて、強力な魔法を扱う際、大量の魔力量を使うこともあり、循環させる魔力量も多くなる。つまり毎秒放出している魔力量も顕著に多くなることを意味する。身体能力を上げたりするときも、そんな感じだ。


ただこの気配に関しては、基本的に厚い壁などを隔てる場合感じれなくなってしまうと言うマイナスな要素もある。魔王軍幹部やガーネットが同じ空間に入ってきたときに空気が変わったということは、逆を言えば同じ空間に入るまで分からなかったということ。


遠い距離でも感知する魔法などはあるものの、基本的に障害物が際反対側の気配を感じることは非常に難しいのだ。


実際僕はまさに今、ムーンの気配を探ってはいるのだが建物の中にいたりしたなら感知出来ないのである。

一々建物中に入ったり、目を通したりする必要があるのだ。めんどくさい。



そういえばさっきの嘘を見抜いたことについて話しておくと、人間は心が乱れたりする際に放出する魔力量が不規則になると言う特徴がある。

これはどれだけ頑張っても意思で制御することはできないらしく、嘘が上手いクリスタとかでもほんのちょっとしたブレは生じている。


残念ながらそのちょっとしたブレを見破るほどの才能は僕には無いが、魔王軍幹部が見抜いていたように魔力を敏感に感じるものはいるらしい。

アズとかはまさにそのタイプ。

まじであいつ、才能の塊だな……。



結局お日様が天の頂上に来たであろう時間帯まで歩いたのだが、絡んでる天邪鬼みたいな嘘つきは少人数居たものの、ムーンは見つからなかった。


ムーンとは何回も合ってるし気配についても、曖昧ではあるがわかっているはず。それらしい気配があれば見つけられるはずなのだが……。


やはり貧民街にはいないのか?

人攫い前提で行動してはいるが、まだ決定している訳じゃない。


もしかして魔物に襲われたとかなのかも。

いやシルフ街から外に出るとは考えにくいし、それは無いか。


人攫いだとしても貧民街に連れて来ずに、街中のどこかに潜んでいる可能性だってある。

考えたくは無いが既に、他の街まで逃亡したと言う可能性も……。

騎士団の方たちも探してくれてるし、もう見つかってるとかならいいのだが……。


「お、フォスにゃん!見つかったかにゃ?」


ふと声がかかったかと思うと、前方からアイが歩いていきたのが見えた。

彼女は元気良く一回のジャンプで、僕の傍まで飛んでくる。


「見つかんなかった。アイはどう?」


「見つかりはしなかったにゃ。けどアイは天才なのにゃ、手がかりを掴んだのにゃ」


「手がかり!?」


「そうにゃ。ほら、これにゃ。」


アイは自慢げにそう言うと、右手を突き出してきた。

ん……見るとその右手には少女がぶら下がっている。

身長も小さく、非常に幼く見える少女。


「えっと……この子は?」


「手がかりにゃ!ほら話すにゃ。」


アイは手で吊るしている少女を、縦に揺らした。

貧民街の子供だろうけど、さすがに扱いが雑な気がする。


「は、はい……そのムーンって子、多分、私……見ました。」


「ほら、聞いたかにゃ?」


今まで僕と突っかかってきた人たちとは違い、この少女からは魔力の揺れを感じない。つまり嘘はついていない。

ただ見間違えとかの可能性もあるし、ここで一憂してはいけない気がする。


とりあえずアイの扱いが悪すぎるので、少女は僕が腕から下ろしてあげた。


「えっと……ムーンがどこに行ったか、教えてくれるかな?」


「じゃあ、お金。」


「えっと……どのくらいかな?」


「10万。」


「もうちょっと、負けてくれたりしない?」


「嫌。」


中々頑固な性格らしい。


「さっきからずっとこんな感じで話してくれないのにゃ。けどうちは10万なんて今持って無いし、フォスは持ってるかにゃ?」


「さすがに今の手持ちにはないけど……、一応ギルドにはあるね。」


「マジかにゃ!?フォスって金持ちだったのにゃ!?」


「いや…けどさすがに10万は高すぎるな。それに今から戻ってここまで来るの、めちゃくちゃ面倒なんだけど。今アイは何万持ってる?」


「え、えと……5万にゃ。」


「僕も5万、お、ちょうどだね。」


「えぇ!?けどこれうちのほぼ全財産にゃ!手離したくないにゃ!」


「何で僕より数倍は仕事してるのに、そんなに金がないんだよ……。」


「そりゃ武器とか漫画とか……、色々あるにゃ。ぐぅ……しょうがにゃいから、後でウルツからたかるにゃ。ほらうちの命に等しいお金にゃ、受け取るにゃ……。」


アイが渋々お金を渡すのを見て、僕も5万を少女に渡す。


辛い……とんでもない出費だ。違う情報かもしれないってのに……。

だがムーンの命がかかってるのだ。

背に腹はかえられない。


少女は札を1枚1枚丁寧に数えると、10万あることを確認したらし。パッと僕らに向き合った後、あらぬ方向に歩き出した。


「ついて来て。」


僕らは少女の後を、ついて行くことになった。


貧民街は景色が似てることもあり、どこまで歩いて来てるのかもよく分からない。少女について行きながら歩いているが、そこを通ったような気もするし、しない気もする。


ただあの地下の研究所と違う所は、やはり外であることだ。最悪迷っても風魔法で上空に飛べれば、大体帰れると思う。アイは獣人っぽい見た目だし、野生の勘とかでもどうにかなりそう。

勝手な偏見だが。


「フォス、うち気づいたことがあるにゃ。」


少女の後ろを2人で歩いていると、アイが体を寄せて耳元で話しかけてきた。この状態なら少女にも会話の内容は聞こえないだろう。

ただ思った以上にアイの胸が大きかったらしく、僕の腕にダイレクトにヒットしてくる。

勘弁してくれ。


「な、なに?」


緊張からかちょっと声が上擦ってしまった。

恥ずかしい。


「うち、今の5万を取り戻す画期的な方法を思いついたにゃ。」


「画期的な方法?」


「そうにゃ。今から場所を案内してもらうにゃ。場所が分かるにゃ。そしたらこの少女を殴り殺すにゃ。5万を取り返すにゃ。完璧だにゃ。」


う~ん、野性的。

密着して感じてた甘酸っぱい感覚、全部吹っ飛んだ。

殴り殺すとかこんな笑顔で言ってる人、始めてみたよ。さらに一切悪びれる様子もないし。

この方、まじで平気で奴隷とか殴り殺しそう。


「それは絶対、止めよう。」


「なんでにゃ?フォスもお金が帰ってくるにゃ。良いことづくしだにゃ。」


アイは、名案だと言わんばかりの笑みを浮かべている。

貧民街の人間なんて価値が無いと……奴隷とかと一緒だろと……そういう顔だ。

そういう考えが、この世界で一般的なのは分かってる。

確かにこの少女を貧民街で殺したところで一切の罪に問われることは無い。


けどこれは僕のエゴだが、この少女には死んで欲しくないのだ。目の前で人の命を失う選択を、あまり取りたくはない。

一言で言うなら、殴り殺しでもしたら僕の後味が悪い。

だからお金の消費は悲しくはあるが、殺す選択肢は取らない。気絶させて奪うとか、そういうのも倫理的に嫌だ。


しかし……そのためにはアイを説得しなければならない。この異世界で生まれた純粋無垢な少女。

そんな彼女を説得するには、理論とか長ったらしく言いくるめるのはむしろ逆効果。


簡潔に分かりやすく、アイにその選択を取らないように促すべきだ。無駄な言葉はいらない。

そして何より偽らず、素直に言うことだ。


「アイ、僕はその選択をとって欲しくないんだ。理由は、何か嫌だからさ。」


いつの間にか地下研究施設で、クリスタが言ってたことと全く同じことを言っていた。

弟子は師匠に似るのかもしれない。


「ふ~ん、そうなのかにゃ?まぁ、フォスが言うならしょうがないにゃ。止めとくにゃ。」


「ありがとう。」


無事伝わったらしい。

良かった。


「フォスはもっと、髪型を整えた方が良いにゃ!ボッサボサだにゃ。」


「そう?逆にボッサボサじゃなくなったら、異性にモテたりするかな?」


「う~ん、さすがにそれは無理にゃ。」


その後しばらくアイとそんな感じで立ち話をしていると、目の前を歩く少女が止まった。

どうやらその目的地に着いたらしい。


「あれです。あの建物にムーンは連れていかれた……と、思います。」


少女はそう言って、前方の建物を指さした。

それは……周りの建物と比べて、異彩を放っている建物であった。


読んで頂き感謝申し上げます。

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