第二十九話 戦闘について⑧
シルフギルド内食堂。
三体の漆黒の鎧が現れたことにより、アズたちは劣勢に追い込まれつつあった。
しかし、諦める者は誰もいない。
ウルツもまたそうであった。
彼は反抗しようと剣を振り上げ、漆黒の鎧に切り込んでいく。
剣は白く輝き、突風を生み出した。
「くそっ、好き勝手はさせねぇぞ!ウルツインパクトっ!」
ウルツの魂の叫びの一撃。
だが……
甲冑は剣を手元に生み出すと、その攻撃は容易に受け止めて見せた。それどころか逆にウルツの剣は弾かれ、バランスを崩す。
その隙を逃さないように甲冑は蹴りをウルツに放った。
何とか剣で受け止めるも、勢いを殺せず床を転がる。数メートルの間隔を開いて、服に傷や埃をつけながら立ち上がった。
しかし……漆黒の鎧の攻撃の手は、収まりを知らなかったのである。
「$%&$&%&%$%#……」
鎧が意味不明の言葉と共に大量の魔方陣を発生させ、魔弾をウルツに向かって飛ばした。
まるで雨のように降り注ぐ魔弾。それでいて一発くらうだけで、肉がえぐれるほどの威力。ウルツは何とか魔力の壁を生成してその攻撃を防ぐが、完全とは言えず肌や服を魔弾が掠める。
攻撃は効果が無く、守りは不十分。
勝利の道筋が見えない。
「ははっ……おいおい、こいつ笑えるくらい強いじゃねぇか。」
ウルツはそう苦笑いを浮かべながら、剣を再び強く握りしめるのであった。
そんな苦戦しているウルツを薄目に捉え危機感を感じながら、私はカイヤをお姫様抱っこしながら逃げ続けていた。
足に流す魔力を常時大量に循環し、目で敵を追い続ける。
私を狙ってくる漆黒の甲冑には、メノウが絶え間なく攻撃を続けていた。
空中に青色の魔法陣を何個も描き、多種多様な魔法を甲冑に向けて放っている。
しかしその全ての攻撃を、甲冑は魔力の壁を作り出すだけで防ぎきっていた。
「ちょっとくらいダメージをくらって欲しいね~。」
メノウがその様子に愚痴をこぼす。
彼女としても得意な剣を使った接近戦をしようとは思っているのかもしれないが、私を守ることを考えて遠距離攻撃に徹してくれているのだろう。
性格がどうであれ、こういう冷静なところはメノウの優秀なところだ。
「どうすんの?このままじゃジリ貧よ。何か案はないわけ?」
私は漆黒の甲冑から放たれる魔弾や、槍を避けながら質問を投げかける。
「もー、それを聞きたいのは僕の方だよ!この鎧、化け物すぎるって!」
「んなこと分かってるわよ。強力なダメージを与えるとかは無理なわけ?」
「そんな魔法を構築する時間作れないよ。それとも隙を作ってくれるのかい?」
「5秒くらいなら無理やり作れるけど。」
「さすがに……5秒じゃどうしようもないよ。」
「そうよね。最年少で金等級冒険者になったメノウなら何とかできると思ったけど、やっぱ無理よね。」
「何それ?挑発?けどマジで無理なものは無理だからね!アズは逃げてるだけなんだから、何か方法考えといてよ。」
「逃げるだけって、あんたねぇ……。」
敵の攻撃は確かに単調で避けに徹していれば当たることはないとは思うが、ちょっとでも隙を見せればそのままあの世行きである。そんな簡単な仕事のようには言わないで欲しい。
それでも私は周りをさらに見渡して、どうにか打開するヒントを探す。
途中から参戦してくれたシルフギルド冒険者の二人も、苦戦している様子。
距離を置いて戦闘を行っているので、他の甲冑の攻撃が飛んでくることはない。しかし徐々に皆の距離が近づいているのに気付いた。
もしかしてこの甲冑たちは、連動して一箇所に集めることを企んでいる?
今は攻撃を避けられてはいるが、あのとんでもない攻撃がさらに三方向から飛んで来たら避けられるものでは無い。
その危険を鑑みるも、私たちは追い込まれる以外の選択肢を持たなかった。敵の攻撃方向は的確で、避ける行動を繰り返しているとどうしても距離を狭めざる終えない。
敵の攻撃を打開する案を見つけられることも無く、私たち5人は食堂の中央へと追いやられる形となってしまった。
三体の漆黒の鎧に囲まれ、全員が背中を合わせるような体制をとる。
「<?|^<・!#?<'<!!<",#########!!!!」
甲冑たちの耳障りのする笑い声。
完全に策にはめることができたことへの喜びか……はたまた私たちへの嘲笑か……。
逃げる隙を作らないよう完全に囲んだ後、鎧たちは魔法による集中砲火を開始した。
私たち5人は協力して魔力壁を作り、何とかその攻撃を防ぐ。
しかし魔力量の関係上、突破されるのは時間の問題であった。
まさに絶対絶命。
「この状況めちゃくちゃにやべぇじゃねぇか。くそっ、接近する隙さえ与えてくれれば……」
「なんで接近できたら大丈夫みたいに言ってんのよ。あんた、接近しても返り討ちにあうだけでしょ。さっき見てたわよ。」
「なっ……い、いやそんなことねぇし。さっきまではまぐれだったんだよ!次近づければ、ウルツインパクトで即終了だっての!」
「はいはい、死んで即終了ってことね。」
「ちげぇって、俺様の勝利って意味だ!つか……なんで俺らこんな状況になってんだよ。グリフォンギルドの冒険者に襲われるし、変な注射打って化け物になるし、説明してくれ。」
「そんなの私も分かんないわよ。このカイヤがギルドに帰るの嫌がってたから、それを止めたらいつの間にかこうなってたの!」
「なんで、そんなことで俺らは死にそうになってるんだよ!」
「だからそれが分かってないっつってんの!この馬鹿ナルシスト!」
「ば、馬鹿ナルシスト!?この貧乳悪魔って痛!?おまえ戦闘中に足踏んでくんなよ!」
「あーもう、はいはい二人とも落ち着いてよ。今はどうやってこの現状を打開するかを考えるのが先さ。そんな言い争いしても自分の首を絞めているだけ。」
メノウが仲介に入り、私とウルツの口論が一旦収まる。
だが私としては、貧乳悪魔などと言うクソみたいな発言許す気はない。
生き延びれたら、こいつの頭を殴ってやろう。
「すまんすまん。つい状況が状況でかっとなっちまった。それでどうするつもりなんだ?」
「それは僕にも何とも……。」
「あーあ、今更だけどカイヤ返すから許してくれたりしないかしらね。そしたら万事解決なのに。」
「ちょっと、それは絶対やめてよ!ギルドマスターにその子を守るように言われてるんだからね!たとえ僕が死んでも、その子だけはどうにか守るの!」
「冗談よ。それに明らかに殺しに来てるの見ると、もうそれしようが意味なさそうだわ。」
何となく、この戦闘の発端を思い出す。
グリフォンギルドの人たちは、カイヤを連れて行けなかったことに憤慨した様子であった。
だと言うのに、今や躊躇なく殺してきている。
やはり辻褄があってないように思えるが……今はこんなことより生き残る術を探すべきか。
囲まれている状況ではあるが、私たちへの利点もある。ここにいる五人の連携がしやすくなったってのもあるし、逃げ回る体力を使わなくてよくなったと言うのもある。それに何より、私の両手が開いたこと、これが大きい。
移動する術を無くし円のように囲む体制を取るようになったことで、中央にカイヤを置くことができるようになった。このおかげで私は、弓や魔法を存分に使うことが可能になったのだ。
しかし可能とは言っても、弓などを実際に使う余裕はない。五人全員がすでに多くの魔力を消費し、防御に魔力を使うのが精一杯。私がこの守りに助太刀しないと、皆の負担が大きく短時間で突破されてしまうだろう。そうなれば私たちはあの魔弾の雨でお陀仏だ。
この現状を考えると、やはり私たち五人でどうにかするのは難しそう。
どうにか強力な助っ人が欲しいところだ。
「ギルドマスターが今いるなら、彼に助太刀してもらうのが一番現状打破に有効そうね。こっからどうにか合図を送る方法はないの?」
「それは僕も思ったよ。けど助けるように言われたことを考えると……僕らがこんなことになってることくらい、ギルドマスターなら分かってる気がするんだけど。」
「……水を差すようで悪いけどよ、ギルドマスターってこの現状を変えられるくらい強いのか?そりゃギルドマスターになるくらいだから強いのは分かるんだけど、正直見た目も気配も強そうに見えねぇんだよな。」
「それは私も激しく同意するわね。」
「なーっ、ギルドマスターを馬鹿にするのか!」
メノウは怒った様子で、私とウルツのことを睨んでくる。
けど別に馬鹿にしているのではない。私たちは思っていることをそのまま口に出しただけなのだ。
私の言葉を代弁するかのように、ウルツが口を開く。
「いや馬鹿にはしてねぇよ!逆にメノウは、ギルドマスターが強いってこと知ってんのか?」
「ふふーん、僕はもちろん知ってるよ!シルフギルドに入る前に冒険者やってたとき、ギルドマスターに助けてもらったことがあるんだ!だからシルフギルドに入ろうと思ったんだからね!あのときのギルドマスターは、もうめちゃくちゃカッコよくてね!本当にカッコよくて……それでそれでマジでカッコよくて!」
「はぁ……今のあんたの言葉の情報量、小さじ一杯ぐらいよ。」
「ちょ、言わないでやれよアズ。メノウはギルドマスター大好きだなんだから。」
「そんなの分かってるわよ。」
「なっ、ぼ、僕が好きだなんて誤解だよ!それじゃあ逆にギルドマスターに申し訳ない。僕はただ、心から尊敬してるってだけ!」
メノウはそう言って、顔を赤くしていた。
「尊敬とか言ってる割には、ギルドマスターに敬語使わないし、グイグイ迫ってるとこ見るぞ。ガキの恋愛って言うか、好きな人に意地悪したくなるって言うあの感じの様子が、なんかリアルなんだよな~。」
「ま、そうね。」
何となく、ウルツに同意しておいた。他意はない。
「それは思います。」
「そう思いますね。」
一緒に戦っていた他の二人も同調してきた。
どうやら想像以上に、シルフギルドの冒険者たちにはそう思われているらしい。
「ええええ!?そ、そんなわけないって!あれは、なんて言うか自然に!自然にだよ!ってこんなこと話してるんじゃなくて、ギルドマスターを呼ぼうって話でしょ!」
メノウはひどく慌てた様子で、脱線した話を戻してきた。
ただそう言われても、私たちの選択肢はあまり残されていない。
「結局ギルドマスターを呼んで来れれば、どうにかなるって話でしょ。それでどうやって呼ぶかって、さっきも私、質問を投げかけたはずなんだけど?」
「そ、それは僕も分からいよ。アズに弓矢でもギルドマスターの部屋に向けて飛ばしてもらう?正直ギルドマスターの手を煩わせたくないんだけど、こうなっちゃった以上しょうがないか……。」
「へぇ、弓を飛ばす……ね。じゃあ一回私、この防御の魔法中断するけど大丈夫?」
「いや、無理だろ!一人でも数秒欠けるだけで、多分この壁壊れるぞ。今でもギリギリだってのに!」
「そうよね。」
「うーん、やっぱりどうにか助っ人が来るまで、この状態で時間稼ぎするのが精一杯かな。」
「結局、神頼みって訳ね。」
「うおー、神様お願いします!何でもしますから!」
ウルフの叫びが食堂内に響き渡った。
だが、悲しくも状況は刻一刻と悪くなる。
防御の魔法に消費し無くなって魔力。体を襲う疲労感。
魔力を大量に消費して耐えているのにも関わらず、甲冑たちは魔力の消費が見られないどころか、疲労も見られない。
絶望的な状況であると言うメンタルへのダメージもまた、私たちに重くのしかかってくるのだ。
会話をすることで、何とか心を誤魔化していこうと互いに心掛ける。
ただ話題は、予想外のところから飛んできた。
「実は俺さ。ルリって好きな女の子いるんだけど、この戦いが終わったら結婚することにしたよ。」
ウルツが突然そんなことを言ってくる。
驚いてメノウがウルツの方を見るが、私は特に気にはならなかった。
「とてつもない死亡フラグね。そして死ぬほど興味ないわ。」
そう素直に返答を返す。
「おいおい、悲しいこと言わないでくれよ!それでさ、結婚式には二人も呼びたいんだがいいか?」
「驚いたしおめでとうとは言っておくけど、結婚式は勘弁してくれないか?僕、ああいうの苦手だからさ。
「私も結構ね。」
「なっ……俺、悲しいよ。悲しすぎて、カナリアになっちゃう。」
「なっとけ、馬鹿。」
「馬と鹿だけになっ!」
「何にもかかってないわよ。カナリアは鳥だし。頭壊れた?」
「ウルツは元々、壊れてるよ。」
「なっ!?それがさっき仲介に入ってくれた人間の言動かよ!」
ウルツは悲しそうに、そうわめいた。
本当にくだらない会話だが、こういうのが案外絶望を和らげてくれるものだ。
精神的な不安や疲労は焦りを生み、無駄に魔力を使わせる。これを防ぐためにもこういうくだらない会話を途切れさせないのは、長く魔法を使う上で重要かもしれない。
けれど……その耐えにも、とうとう限界が近づいて来た。
「あ、やべえ…魔力もうねえわ。あと10秒で魔法が解ける。」
「私はあと11秒ってとこね。」
「僕は12秒。」
「なぁ!?じゃあ俺は13秒耐えてやるよ!おらああああああ!」
数秒耐えたところで変わらない、そう思うのが普通であるかもしれない。
だが、残っていた五人は違った。
誰も諦めていない。誰もが生きる希望を捨ててはいない。
その強い意思こそが、熱意こそが彼ら彼女らが、世界四大ギルドの冒険者であることの何よりも証であった。
一秒でも耐える。誰かが助けに来てくれるかもしれない。
その思いが……
とうとう、神を微笑ませた。
食堂の入口の扉が、突如として勢いよく開く。
そこにはピンク髪のツインテールの少女とギルドマスターの姿があった。
「ふ~危ない危ない。間に合ったようだね、良かった。んじゃ、あとはローズよろしくね!」
「え!?ちょっ!?説明なしにこの状況!?ローズちゃん困惑なんだけど……。てか、ローズちゃんじゃなくて、ギルドマスターが戦えばいいじゃん!」
ローズと…そう呼ばれる少女の手には、身長と同じくらいの大きな魔法の杖が握られていた。
頭には顔より何倍も大きな三角の帽子を被っており、首にかかっている白金に輝く徽章がキラリと陽の光に反射して光る。
「えっと……僕が戦ったらこの町ごと吹き飛ぶかもしれないからさ。加減苦手だし。」
「むっ!?たしかにっ。んじゃ魔法少女インカ・ローズちゃんがぶっ倒しちゃおうっかな!きらっ!」
ローズは顔前でピースをし、決めポーズをする。
そしてふわりと浮くようにジャンプをすると、私たち五人の間に着地した。
一瞬カイヤが踏まれたかと焦ったが、丁度避けてくれたらしい。
「おーみんな頑張ったっぽいね!えらいえらい。ここからはローズちゃんに任せていいからね。」
ローズはそう言って5人の肩を励ますように叩くと、強力な防御魔法を使って私たちを囲んだ。
おかげで魔法を使う必要がなくなり、皆疲れきってドッとその場に倒れるように崩れ落ちる。
「ぷッはぁ、危なかったぜ。ローズさん来てくれてマジで感謝だ。」
「さすがギルドマスター、僕たちの危険を察知してローズさんを呼んでくれたんだね!」
カイヤとメノウの表情には、安堵の笑顔が見られる。
死ぬかもしれないという危機的状況からの脱出。
生きると言う、何とも細い正解の道を手繰り寄せた……この嬉しさは計り知れない。
私もつい、安心してしまう。
ただ別にまだ戦闘が終わった訳では無い。油断すべきでは本当はないのだろう。
だけどしょうがない。
何故ならここにいるローズは、私が恐ろしいと思うくらいには強い師匠だから。
「アズちゃんがここまで、他人のために頑張るなんて意外。多分だけど、この獣人を守るためにこんなことになったんでしょ!」
ローズはそう言って、足元で転がっているカイヤを見る。
白金等級ということもあり、状況の把握能力がずば抜けて高い。
私は関心しつつカイヤを抱き寄せた。
「たまたまよ。気づいたらこうなってたってだけ。」
「あー、敬語使えって言ったでしょ!めっ、だぞ。もしかしてまた、ローズちゃんを怒らせたいの?」
「いや、遠慮します。」
「うん、よろしい。けどけどアズちゃんが他人を思いやれる人間になってきてて、師匠ちょっと嬉しい。」
「そう……ですか。」
敬語は本当に嫌いだ。貴族だったあの頃のことをどうしても思い出してしまう。
生まれた家系や血筋だけで決まってしまう、どうしようもない上下関係。
パーティー会場などで行われる接待の数々。
思い出すだけで反吐が出る。
師匠にはどうにも頭が上がらないので使ってはあげるが、他の人に使う気は欠片も無い。
ただ……あの頃の生活は悪くはなかった。
今よりも輝いていたかもしれない。
けれどもしあの頃に戻れると言われても戻りはしない。
上下関係も何もかも実力だけでもぎ取れる……それが好きで冒険者の道を選んだ。
だからこうして、私は今でも生きている。
「ではでは~ローズちゃん頑張っちゃいまーす。きらっ。魔法陣てんかーい!」
ローズは数えられないほど大量の魔法陣を、空中に展開した。
まるで沈み掛けの夕日のように、魔方陣は赤く眩しく光り出す。
万華鏡かの如く魔法陣が重なり合い、発される光や感じる迫力が増す。
さらにそれらの魔法陣は複雑に並びを変化させると、魔法陣一つ一つが線でで結ばれ、さらに大きな魔法陣へと姿を変えた。
魔法陣は回りだし、真夏のようなジリジリとした熱が魔法陣から発せられる。
大量の魔法陣を絡み合わせ、一つの巨大な魔法陣を作り上げる。
これがローズの得意な魔法陣だ。
私の魔法の技術もまた彼女から教わったこともあり、これに似ている節がある。
「よーし、準備でーきた!みんなぁ、巻き込まれないように体勢を低くしてー!」
ローズの指示に従い、五人全員は床に寝そべって姿勢を低くする。
私はカイヤを抱え込むような姿勢になった。
こんな巨大なローズの魔法。巻き込まれたら間違いなく死ぬ。
「スターマイン!」
ローズがそう叫んだ瞬間……恐ろしほど熱気と、大量の火属性の弾丸がアズたちの頭上を通った。
圧倒的な迫力と衝撃。
射程に入った机や椅子が、一瞬で跡形もなく溶け消える。
私たちを囲んでいた甲冑の三体はその威力によって、後方に吹き飛ばされていた。
あの魔法を正面からくらったのだ。
非常に高い防御性能があるとは言え、無傷とはいかないはず。
「**********?!?!?!?」
予想通り、耳が痛くなるような断末魔がギルド内に響いた。
驚きであり、悲鳴であり、叫び声。
何を言っているか分からない私でさえ、何となくそう感じた。
魔法が発動し終わり、ゆっくりと体を起こして漆黒の甲冑たちを見る。
その姿は魔法による熱によって変色し、真っ黒から真っ赤になっていた。
所々の変形も見られ、ローズの火属性魔法の恐ろしさが窺える。
これほどえぐい魔法でありながら壁などが溶けてないのを見ると、コントロールも十分らしい。
まぁ、私の師匠ならこのぐらいじゃないと困るが。
「うっへぇ、やべぇ。あれだけ脅威に思えた化け物たちが一発かよ。白金等級ってのはやっぱレベチだな。俺だったら一人倒せたかどうか……。」
「なんでここまで来て、一人倒せると思ってるのよ。あんたじゃ無理よ、この戦いで学ばなかったの?」
「いやいや、言っただろー。接近戦に持ち込めれば俺様は倒せたんだよ。」
「うわーそこまで本気で思ってるとか引くわー、カナリア君。」
「あ!?何だと、このまな板ゴリラ!」
「は!?やっぱ、あんたぶん殴るわ。そこに立ちなさい、前歯ごと顔凹ませてあげるわ。」
「ちょ、ちょっとギルドマスターの前で二人ともやめてよ!僕も同類だと思われたらどうすんのさ!」
再び、メノウが仲介に入りその場を収めた。
やっぱ、私、こいつ、許さない。
甲冑たちは、ローズの魔法を受けてからピクリとも動かなくなった。
魔力の気配は既になく、生気を全く感じない。
気付くと変色した甲冑が、その場から煙のように姿を消した。
残されたのは、
真っ赤に変色した三人の遺体。
あれほど脅威を感じた存在がローズの魔法一発で倒されたと言うのは、ウルツも感じてたように衝撃的に思えるかもしれない……が、これは単純に戦闘状況の相性が良かったと言うのが大きい。
ローズは見た感じでわかると思うが魔法特化の人間だ。
接近戦に持ち込まれれば、彼女と言えど対処が難しいだろう。
敵の三人が接近戦を選ばず遠距離戦を選んでくれた、これが大きな勝因の一つである。
「お疲れ様~。やっぱりローズの魔法はすごいね。」
入口に隠れていたギルドマスターがひょこっと現れたかと思うと、右手に気絶しているグリフォンギルドの冒険者を抱えていた。どうやらギルドマスターは逃げていたグリフォン冒険者の一人を、いつの間にか捕まえていたらしい。
痒い所に手が届く人間とは、ああ言う人を言うのかもしれない。
そんなギルドマスターを見てローズはピースサインをする。
「えっへん、ローズちゃんならこのぐらい当然なのです!ギルドマスターもちゃんと捕まえられてえらい!けど正直びっくりだよ!てっきりあまりの魔力量だったから、新手の魔物かゴーレムとかの類かと思ってたど……これ人間だよねぇ?」
ローズは不思議そうに真っ赤になった死体に近づと、人差し指で死体をつついている。
人間であったことが信じられないらしい。
「あはは~不思議だよね。直ぐに分かるときが来ると思うよ。この彼にも意識取り戻したら聞きたいことが、たらふくあるからね~。」
ギルドマスターは不気味な笑みを浮かべて、抱えている冒険者の顔を覗いていた。
なんだか寒気がする恐ろしさである。
何故グリフォンギルドが襲ってきて、あんな化け物に姿を変えることができたのか。
気になることも多いが、ギルドマスターの言う通り時を待つしかなさそうだ。
ふと胸に抱いていた、カイヤの顔を見る。
彼女はこんな大惨事が起こったと言うのに、なにも何もなかったかのように寝ていた。
本当は気絶してるのだけ。
けどその様子は寝ているように見える。
「あんたは、のんきね。」
何となくそう言葉を、呟いた。
フォスが帰ってきたら今日あったゴタゴタについて話そうかな……
そう心に秘めながら。
読んでくれてありがとう。
評価、感想頂けると幸いです。
誤字多くてごめんね。




