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第二十三話 戦闘について②

闇属性魔力研究施設、食堂。

昼の休憩時間がもうすぐ過ぎる時刻。食堂内は人がいなくなり閑散としてくる。

その中、赤髪の女性と黒髪の少女はポツンと席に座っていた。


エメラルドはガーっと水を一気に飲み干すと、コップを机に勢いよく叩きつける。

「フォスっちたち、トイレにしては遅すぎない!?ここまで待たされると流石に、うち暇すぎて死ぬんだけど!」


「……せやな。もしかして、トイレ行く言うて勝手に調査してたりな。」


「ええ!?まじ、そんなんありなの?」


「調査する権限がある以上、アリにはアリやな。ただ、最初にカルの監視下のもとで行うて言うた分、たちが悪いわな。」


「だよね。けど…うわっ、たしかにそういう調査の方法もあんのね。全然気づかなかった。クリスタさんってもしかして天才?」


「天才って、私と同じ白金等級やろ。」


「えーだって、ガーネットって頭使うよりかは突撃してくタイプっしょ。トイレ行くって言って監視の目から逃れるのか~、くー頭良すぎ。」


「何だか、見下されてる気分やな。けど、確かにずっと監視され続けての調査は気分はしないのは事実や。クリスタたちがそれを嫌った可能性は十分にある。」


クリスタたち三人がトイレに行くと言ってから、すでに20分が経とうとしていた。

もうすぐ午後の調査の開始予定時刻になってしまう。


「ワンチャン3人でお腹でも壊したってパターンもあるし……うち、ちょっと探してくる。」


エメラルドはそう言って、席を立つ。

だが、廊下に出ようとする彼女の服の裾をガーネットは掴んだ。

グッと服が伸び、不満そうに後ろを振り返る。


「ちょっと、服伸びる!何?一緒に探しに行く?けどそれじゃフォスたち戻ってきたとき困るくない?」


「いや、違うんや。何か今、変な感じがしたんや。何やろ…嫌やわ……。」


「ちょ、え!?そう言われると、ちょっと怖くなんだけど。ガーネットのそういうやつ、ときどき当たるからすごい嫌。もうちょっと具体的にどんな感じなのか、教えてよ。」


「そうやな…何か地面の下でとんでもない何かが、動いたような感じやな。気のせいかもしれんのやけど。」


「地面の下?何も感じないけどね。」


ガーネットはエメラルドが動揺している様子を片目に深呼吸すると、感覚を巡らす。

地下からの異様な感覚、クリスタたちが帰って来ない状況。

クリスタほどの人物が、何かに巻き込まれたのやろか?それとも何かに気づいてそれを追っているのか……。


そう言えば……と竜車の中での思い出す。


『会話が何かの理由があってできないときは、このように魔力を乗せた指文字を使う』

クリスタはそんなことを言っておった。もしかしたら彼女は何かヒントを残しているかもしれない。


ガーネットは自分の目に魔力を流し、食堂を見渡す。

すると、地面に線が引かれているのに気づいた。

やっぱりクリスタのことや、残してたんか!


エメラルドを避けてその線を追い、食堂から出た。

すると、クリスタが行ったと思われる廊下の床に一本の魔力戦が続いているのに気づいた。


「何、ガーネット、何か分かったの?」

唐突なガーネットの行動に驚きながら、エメラルドが後ろを追いかけてくる。


「エメラルド、床の魔力線を見てみ。」


「魔力線?……って、ん!?何これ?地面に線が引かれてるじゃない。もしかしてクリスタさんがこれを……、」


「これを辿って行ったら、何かすごいもんが分かりそうやな。」


ガーネットがそう言って笑みを浮かべる。だがそのとき、奥の廊下から施設長であるカルが焦った様子でこちらに走ってきた。


「サラマンダーギルドの冒険者方!シルフギルドの冒険者方を知りませんか?探しに行った部下も帰ってこないんですよ……。」

彼の後ろには何人かの研究員の姿もあった。どうやら部下と一緒にクリスタたちを探しているらしい。


「うちらも分からんから、今から探しにいこー思ってな。」


「そうですか…いえいえいえ、お2人は探しに行ってくださらなくて結構です。私たちで探しますから、」


「なんやそれ、このままクリスタたちが見つからんで困るのはうちらや。この施設の調査時間が、みじこうなってしまうからな。ダメと言っても勝手に探さてももらうけど、それでもええか?」


「い、いえ……わ、分かりました。では調査開始予定時刻に、もう一度ここに集合でよろしいですか?ガーネット様たちも居なくなられては困りますから。」


「了解や、んじゃうちらこっち探すから。ほらエメラルド、行くで。」


「おけまる~。」


ガーネットとエメラルドは、魔力線を気づかれないよう自然な対応を心がけた。

無事に会話を切り抜け、小走りで魔力線を追う。


すると案の定トイレに着いた。彼女たちがトイレに行くと言っていた以上、当たり前ではあるのだが……そのトイレの場所は一番近い場所ではなく、一区画遠い場所だった。

やはり何か気になる。


それに辿ってきた線はトイレから、食堂に戻る方向とは真逆の方向に続いている。

追うと彼女たちは、噴水のある中庭に出た。


「中庭?ここに何かあるってこと?けどここ1回調べたっしょ?」


「調べたはずやったけど……、どうやらガチでヤバいもんが隠れてたようやな。」

2人は線を追って噴水の傍にまで来ると、人一人が入れる程度の謎の扉を見つけた。


「うわっ、まじ!?こんなのあったっけ?このレベルだったら、絶対に気づいていると思うんだけど。」


「いや、ここに隠蔽魔法の痕跡がある。察するに三人が隠蔽魔法の魔法陣を破壊して見つけたようやな。」


「ええ!?こんなの気付くとかヤバくない!?」

エメラルドがその扉を開けると、地下に続く階段が伸びているのが見えた。クリスタが残したと思われる魔力線も、階段下に続いている。


「ガハハっ。こんなヤバいもん、見つけるとはあいつら流石やな。さて突入…と言いたいとこやけど、そうは東場が下ろさないってところか?」


「それ東場じゃなくて、問屋っしょ……。」



気づくと彼女たちを囲むように、研究者たちが立っている。人数を数えると30人程度。その中心にカルの姿があった。


「お二人様……、気づかれてしまいましたか。」


カルの声色は非常に落ち着いている。

だが彼から感じる雰囲気は今までの物腰低そうなものではなく、殺気であった。


「おい、カル。これは……どういうことや?返答によってはその首、今すぐ飛ぶことになるかもしれんよ?」


「なるほど、首が飛びますか……、しかし飛ぶのは残念ながらあなた方ですね。その秘密を知ってしまった以上、あなた方にはここで死んでもらいます。」


カルはそう言うと、彼を含めた研究員全員の魔力が一斉に動き出した。戦闘準備はバッチリと言ったところか。


「なんやなんや、冷静そうな顔して随分焦っとるようやな?せやかて戦闘するのはええけど、その数で十分なん?私たちを倒すにはちと戦力不足やで。」


「ふっ、30人で戦力不足だと。はったりが目に透けて分かるな。全員、魔法攻撃開始!」


カルの号令で、魔弾がガーネットとエメラルドに向けて一斉に発射された。

研究員たちが2人を囲んでいるため、魔弾の攻撃は360°至る所の方向から飛んでくる。彼女たちでもこの攻撃を避けるのは難しいと踏んでの攻撃だろう。

だが彼女たちにとってそれは、避けなければいいだけの話だったのだ。


「うちがやる?」


「いや、私がやるわ。エメラルド、しゃがめ。」


ガーネットは大剣を、地面と水平になるように構える。その様子を見て、エメラルドは地面に体を伏せた。


既に魔弾は距離が1mないほどまで近づいて来ている。だがガーネットは冷静に、剣に魔力を込めた。

火属性の魔力が大量に流れ込んだことで、大剣は真っ赤に染まり、炎が燃え上がる。


「この程度、造作もないわ。」


ガーネットはそう言って、剣を横に一振り。

すると斬撃波が飛び魔弾を全てかき消しただけでなく、勢いそのまま研究員の方まで飛んで行った。砂埃が舞い上がり、周りの窓ガラスが割れる。姿勢を低くしていたエメラルドの髪が、激しくなびいた。


砂埃が消えたころには、壁に叩きつけられたりして気絶している研究員の姿だけが残っていた。

かろうじて意識の残っていたカルが、ボロボロになりながらもゆっくりと立ち上がる。


「はぁ…はぁ…なんだと!?この威力馬鹿げてる……。軽く一振りでこの威力……、」


「何や?まだ全然物足りないんやけど。まだやるか?それとももっと仲間集めたいんか?けど流石にここにいる研究員全員がこの地下階段を知ってるとは、情報的に考えてありえへんな。もしかして、今ので仲間全員だったりしてな。ガハハっ。」


「下品な笑い方しよって……、」


「何やと?」


「喋り方も品がない。何故貴様らのような、冒険者ごときに私が負けなければならないのだ……。」

カルは拳を握り、体をプルプルと震わせている。そして彼女たちを、見下すような目で睨む。


「色々と聞き捨てならんなあ。もしかして自分、冒険者のこと見下してるんか?」


「見下してるだと?当然だ!貴様らのようなどこの馬の骨かも分からない騎士団の付属組織に過ぎなかった低俗野郎に、ペコペコしなければならないことが…何よりも私は私自身が許せん。貴様らの何が偉いのだ。私は名門の家に生まれ、研究所の所長にまで上り詰めた。その私が、何故貴様らより弱いのだ!」


「……せやなー、1つ言えることはあんたの価値観が古すぎるってことやな。だから情報にも考え方も劣って負ける…それだけやな。」


「うるさい……うるさいうるさいうるさい!貴様らなど、私の相手ではないのだ。私の最強魔法でくたばらせてやる!」


カルは激しくそう叫ぶと、大量の魔法陣を体の周りに発生させた。その数、実に50はくだらない。

多くの魔法陣を同時展開し操ると言うのは、並大抵の技術ではできない。魔方陣学の知識と、生まれながらの才能がいることだろう。彼が自身のことを有能な人間と思っていることも、何となく理解出来る。


「何や?最強魔法見せてくれるんか?魔術組織のエリートさんの最強魔法、ぜひ見せて欲しいわ。」


「ああ、貴様ら冒険者ごときに見せるのは勿体ないが、才能の差と言うものをここで見せつけてやろう。借り物の仮面、俯瞰する太陽、荒れ狂う祭囃子、天源なる悪魔の傾聴っ……な!?」


カルが詠唱を始めると、同時にガーネットが距離を一瞬で詰める。彼女の踏み出した地面はチリチリと焦げており、そのスピードは瞬間移動と勘違いするほど。数十メートルは離れているにも関わらず、瞬きもしないうちカルとガーネットの距離は50cmも狭くなっていた。


「詠唱終わるまで待つ訳ないやろ、ばーか。」


ガーネットの振り上げた大剣が、カルに真上から落とされる。大剣の側面がカルの脳天に直撃し、魔方陣が全て消え失せると……彼はその場でばたりと地面に倒れた。


「うわガーネット、容赦なーい。」


「うっせえわ。はよ地下行くで。」


ガーネットはカルが完全に伸びているのを確認すると、ゆっくり歩いてエメラルドの場所まで戻る。そして扉を開けて地下に続く階段を下った。


「おけまる~、おけまる~。」


エメラルドもガーネットの後ろ姿を追い、丁寧に扉を閉めてから階段を下った。暗闇の中を、階段下から盛れる小さな光を頼りにしながら数十秒下り続ける。


すると、長い廊下に着いた。

廊下の両脇には、多くの研究室と見られる扉がある。だが所々扉は空いており、中はもぬけの殻。

直前まで人がいたと思われる痕跡はいくつか見られる分、余計に不思議だ。だがそんなことよりも、研究室に置いてある黒い液体の入ったフラスコが気になる。

明らかにヤバい物だと、ガーネットは直感的に感じていた。


「気持ち悪くない?あのフラスコ。」


「せやな。調べたいことは多くあるんやけど、ただ今はクリスタたちの方心配や。エメラルド急ぐで。」


ガーネットはそう言って、足下に火属性の魔力を集中させ、爆発させる。

その爆発で生じる力を利用して、廊下の奥へと勢いよく走り出した。


「うわ!?早すぎるっしょ!ちょい、待ってよ……も~。」

エメラルドは雷属性の魔力を足に流し込んで踏み出すと、彼女の姿は一瞬にして、その場から消える。まさに光速のようなスピードで、ガーネットの後を追いかけた。


クリスタが残したと思われる魔力線を辿るようにして奥へ進めば進むほど、濃くて禍々しい魔力を感じるようになってくる。今まで感じていなかったエメラルドでさえ、その異常な雰囲気には気づき始めた。


どんどんと感じる、禍々しい魔力。

いつの間にかエメラルドとガーネットは、自身が冷や汗を垂らしているのを走りながら感じた。


とうとう禍々しい気配との距離が近くなり、徐々にスピードを落として何個目かの曲がり角でガーネットとエメラルドは止まる。


すると研究員のと思われる声が聞こえてきた。その声の方向と禍々しい気配を感じる場所は、完全に一致している。


「アメトリン様に早く伝えろ!魔力因子適合体8番が制御不能!繰り返す、魔力因子っ…ぐわっ……。」

「また一人死んだぞ!早く!早く逃げろ!」

「8番を解放しろと言ったのは、本当にアメトリン様の命令なのか!?こんなの我々に死ねっと言ってるようなもっ、うわあああああああ。」

「また1人やられた!もう研究員はほぼ残ってないぞ!」


曲がり角奥から、研究員たちの阿鼻叫喚の声が聞こえてくる。

そして何人かの白衣を着た男が、ガーネットたちのいる場所にまで走ってきたのだ。


「何!?貴様ら何者だ!?」

「おい!止まるな!早く逃げろってうわあああああああ」

「ひいいいいいっ」


研究員たちは、恐怖と焦りが混ざったような顔をしていた。明らかに何かから逃げている。恐ろしい何かから……。


その瞬間、エメラルドとガーネットは目の前で起こった光景に驚きを隠せなかった。


必死に走ってくる研究員の人たちが、自分たちがいた場所に到達する前に、蜂の巣のように穴だらけになったのだ。

彼らの後方から飛んできた、何本もの漆黒の槍で串刺しになっていたのである。

彼らの刺された腹部や胸部からは血が吹き出し、顔が飛んだ者までいる。


「助けて……、」

「まだ死にたくない……、」

男たちはかすれた声で言葉を残して、絶命した。


角から奥の廊下を覗くと、同じように穴だらけになって死んでる研究員たちが、地面を埋めるように散らばっていた。

ここまでの人間が同じ場所で死んでいる光景など、中々見れるものでは無い。それにあの漆黒の槍、強力な闇属性魔法であることは違いなさそうだ。


「ちょっと、冗談キツイっしょ……。何この死体の数…それにあの魔法……、」


「さっきまでのカルとかの魔法とは、話が全然ちゃうな。威力が桁違いや。む!?……どうやらお出ましのようやな。エメラルド、戦闘態勢や!」


ガーネットはバッと背負っていた大剣を、鞘から抜いて構える。

エメラルドもガーネットの命令に従い、腰に刺していた四本の剣の内二本を抜いて前方を見据える。


死体の並ぶ数十メートルの廊下奥の曲がり角。

そこから現れたのは、真っ黒で人型の『何か』であった。


見た目からして男性であるようではあるのだが、漆黒の霧が体を包んでおり全身を纏っているためよく分からない。溢れ出る恐ろしく禍々しい魔力が、源泉から湧き出るお湯の如く体から溢れだし続けているのだ。


「#^"#*#^%}*++$+!!」


その『何か』は謎の声を発した。明らかにそれは人の言葉ではなく、砂嵐のような音が入っていて聞き取れない。まるでその言葉自体が人に理解されるのを拒否しているような、そんなノイズに近い音。言語なのかも疑わしい。


だが『何か』がその音を発した瞬間、大量の魔法陣が現れた。

そして、漆黒の槍が数十本形成されたかと思えば、一直線にエメラルドたちの方に飛んで来る。


「いきなり攻撃とかやめてやー、びっくりするやろ。」


ガーネットは大剣を一振りして、その飛んできた槍を破壊した。

だが、間髪入れずに再び魔方陣が出現すると、さらに大量の槍が生成され放たれる。


「次は、うちがやる。」

エメラルドはその状況を見てガーネットより一歩前に出ると、両手に持った二本の剣で飛んできた槍を全て叩き落とす。


「+*%*^%^''!!」


攻撃を全て防がれたことが不満だったのか、『何か』は謎の言葉を発した。

そして次は廊下を埋めつくほどの魔弾を一瞬で生成すると、休む間も与えずに弾丸のようなスピードで彼女たちに放つ。


「こんなん魔力量異常すぎるやろ!こんな高度の魔法連発されちゃ、隙も見つからんで!」


「ここは2人の合わせ技、いっちょやっちゃいますか~。」


二人は魔法陣を足元に展開し、炎と雷の壁を一瞬にして完成させた。その壁は魔法の衝撃で多くのヒビが入るも、何とか魔弾攻撃を全て受けきってみせる。


「%%#%%^%^^^」

『何か』は、奇声のような理解できない『何か』を喋っている。少し上機嫌な様子だ。


「気味の悪い声やな。耳が痛くなるわ。」

ガーネットがそう愚痴を吐くその一瞬の時間。

その隙をついたかのように、『何か』は一つの大きな魔方陣を自身の足元に展開した。

大きな魔法陣から現れたもの……それは一本の漆黒の剣である。

『何か』はその剣を手に取ると、瞬きも許さぬスピードでに接近して来た。


「ちょ!?いきなりすぎ!」


エメラルドは素早く反応して両手剣を十字に構えると、その交差点で漆黒の剣を受け切る。少しでも反応が遅れていたら、首が飛んでいたことだろう。冷や汗が止まらない。


そのまま『何か』は、右上、左横、右下と一瞬で剣を動かして、エメラルドを仕留めようとする。

だがエメラルドも魔力を体の中に多く流し込むことで、その剣筋を全て完璧に捌ききった。


そのとき…ひっそりと背後をとったガーネットが、大剣を『何か』に振り下ろす。剣は赤く輝き、蒸気が出るほどの威力の一撃。

だがいきなり現れたどす黒い魔力の壁が、その攻撃を防いだ。


『何か』は背後からのガーネットの攻撃を気にする様子もなく、剣を絶え間なく動かし続ける。

エメラルドは必死にその剣筋について行った。その間、ガーネットが背後から攻撃するも、その度に魔力の塊が現れ防いでくる。

その攻防に嫌気がさしたのか、ガーネットが剣に流し込む魔力量を増やした。


「ちょいと、本気出させてもらうわ!」

ガーネットはそう叫んで、剣を勢いよく振り下ろした。


ただ『何か』は危険を察知したのか素早くバックステップを行い、カーネットの攻撃をかわして見せる。ガーネットの剣が空を切り、床が大きく抉れる。地面が揺れ、大きな地割れのようなヒビまでも入った。


「うわ、避けれるんかそれ。引く時は引けるとか…暴走してるよう見えんのに意外と冷静やな。」

ガーネットはそう言って、笑みを見せた。


「ガーネットが、ここで力を消費すべきじゃないっしょ?フォスっちたちがまだ見えないことも考えると、まだこの施設には『何か』いるかしんないし。」

エメラルドは何とか攻撃を防ぎきったことに安堵しつつ、そう言葉をかける。


「せやな、私もそうは思っとるんやけど……こいつ、エメラルド一人でやれるか?私から言わせてもらうと、こいつめっちゃ強いで。」


「やれるかじゃなくて、やんないとでしょ!ここはうちに任せて、ほらっ!さっさと行きなよ。」


「まじ!?……しゃーない、了解や。エメラルド、絶対死ぬんやないよ!危なかったいつでも逃げていいさかいな!」


「当然っしょ。うち死んでの名誉より、生きた恥を重んじるタイプなんで。」

エメラルドはそう言って舌の先をベーと出す。


「そんなら、安心やな。」

ガーネットはそう言うと、足元を火属性の魔法で爆発させて体を廊下の先へと飛ばす。


「+*^#*^%*+」


『何か』は横を通り過ぎて行ったガーネットに反応し、彼女に向けて大量の漆黒の槍が現れ放つ。

だがガーネットが瞬時に生み出した炎でその攻撃を完全に防ぎ切って見せた。そのまま相手にせずに、廊下の奥へと走っていってしまう。


「あんたの、相手はうち。」


エメラルドは剣を光輝かせ、距離を縮めて首めがけて一線、剣を振るった。

『何か』はガーネットの後を追いかけようとする挙動を見せるも、立ち止まりエメラルドの一撃を漆黒の剣で受け切る。

どうにかタゲを向かせることには、成功したらしい。


エメラルドはそのまま、光速の剣技を振るい続ける。二つの剣を巧みに使っていることもあり、一本の剣での攻撃に比べ純粋に攻撃量が二倍多い。先ほどと攻守が入れ替わったこともあり、『何か』は完全に剣で受けに回る体制となった。


だが……もちろん『何か』の武器は剣だけではなかった。


「++*%%%**+」


『何か』がまた謎の言葉を叫んだかと思うと、大量の漆黒の槍を再度出現させた。それとともに地面にも魔法陣が現れ、漆黒の剣までもが数本現れる。


「ヤバ、えぐすぎでしょそれ。けどね、魔法を発動させる暇をうちが与えるなんて言ってないはずだけど?それにね……、」

エメラルドは、腰に刺していた残り二本の剣を空中に放り投げる。


「うちの本気は二刀流じゃなくて、四刀流だっての!」


空中に放り投げられた剣に、雷属性の魔力が流し込まれる。

すると剣は光だし、空中で静止した。

さらに…まるで誰かが剣を持っているかのように、剣先が『何か』の方向を向いて動き出したのである。


それと同時にエメラルドは両手に持っている剣にさらに魔力を流し込むことで、剣のスピードと威力が今までに比べ桁違いに上昇する。


目にも止まらぬエメラルドの四本の斬撃に『何か』は受け切ることが出来ず、一撃を胴にくらって後方に吹っ飛んだ。

その衝撃で発生していた魔法陣がすべて消え、魔法がキャンセルされる。


「ふぅ、いっちょやりぃ!これがサラマンダーギルド金等級冒険者エメラルドの実力ってわけ!分かってる?魔力あるだけのお馬鹿さん。」

エメラルドは廊下奥の壁にはめり込んでいる『何か』に、そう言いながらドヤ顔を見せた。

すると……


「+++^^^%^**%^……酷い……」

『何か』は小さな声で、しゃべり出した。


「え!?しゃべれんの⁉」

エメラルドはいきなり聞こえた知っている言語に、目を丸くする。

だが彼女の反応を気にも留めない様子で、『何か』は唐突に声を荒げる。


「酷い、痛い、なんでこんなことするの!なんで!ああああああああぁぁぁぁ######################」


『何か』は発狂した。真っ黒な魔力が荒れ狂うようにから吹き出し、突風がエメラルドの髪を激しく揺らした。

気付くと『何か』は大量の魔力に包まれ、そして……漆黒の甲冑を着ている姿となった。

西洋風の顔まで全身全てを覆う甲冑。


どうやらあふれ出していた大量の魔力が、あの甲冑へと姿を変えたらしい。何を言っているか分からないと思うが、彼女も分かってはいなかった。ただ本能でそう感じただけ。

だがそれでも溢れ出る魔力はとどまることをしらないようで、鎧の隙間から噴き出している。


そして…『何か』はその場から消えた。


いや、早すぎた。早すぎて視認できていなかった。

速く走ることに自負のあるエメラルドにさえ、その漆黒の鎧の動きは何一つ見えなかったのだ。



エメラルドは気づいたら、空中を飛んでいた。

そのまま、壁に叩きつけられる。肺から一気に空気が漏れ、「ごふっ」と声が漏れる。


何があったのかも分からず、頭が呆然として動かない。

ふと気付くと、手が痛くなっていた。疲労と痛みで震えている。


そして、エメラルドは気づいた。

今自分は本能的に、無意識下のうちに、『何か』の剣を防いでいたことに。


彼女は壁にめり込んだ体を起こすと、震える手で剣を強く握り締める。

空中にある剣は、未だに浮いていた。

魔力はまだまだある、まだ戦える。


エメラルドは心を落ち着けるように深呼吸をすると、前方にいる漆黒の甲冑を見た。

黒いもやもやとしていた人型の『何か』は、完全に烏木うぼく色の甲冑を着た姿となってそこに佇んでいる。その甲冑はまさに本能で感じ取ったように魔力の塊。天井の電球に照らされ、黒光りしていた。


とんでもない魔力量……、エメラルドはそこで初めてこの存在に恐怖を感じた。

魔力が多いのも、明らかにヤバイ存在なのも、最初から分かってた。だが吹き飛ばされて初めてこの漆黒の甲冑が、勝てないかもしれないとんでもない相手であることを自覚した。


人型なのに、人とは完全に異次元の生物

まるで魔力のダムでも体の中に持っているかのような、とんでもない爆弾。

それが今、エメラルドが対峙しなければならない存在なのだ。


まさに神と言ったところか……



「冗談はやめて欲しいっての、まったく……。」

エメラルドは痛む体を奮い立たせて、剣先を男に向けたのであった。


ご精読感謝申し上げます。

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