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第二十一話 魔力について⑩

「あたいの名前はアメトリン。ダークフェアリー族の族長にして、魔王軍幹部12人が一人だ。」

紫髪の少女のその言葉に、僕ら三人は驚きを隠せなかった。


魔王軍幹部……それは魔王軍の中枢であり魔王を支える強大な力を持った12人。

魔王軍幹部であればこの迫力も、威圧感も納得だと言えるかもしれない。噂によれば魔王軍幹部の実力は冒険者における白金等級、またはそれ以上ではないかと言われている。


ただ彼女たちのような存在が、戦争や戦いにおいて表舞台に出てくることはほとんどない。僕も今まで何回かの戦争を経験し、魔族と剣を交えて来たが魔王軍幹部レベル相手と戦ったことなど一度もない。予想ではあるがダイヤや白金等級冒険者であるクリスタでさえ、こうして目の前にしたことは無かっただろう。


「魔王軍幹部ほどの大物が何故こんな場所に……そうか魔族因子を注入するなどと言う聞いたことが無いような技術、いつどこから来たのかと思っていたが君が提供していたのか。」


「そうだい、ご名答。この魔族因子適応実験は元々、あたいら魔王軍が研究したものだかんねぇ。けど帝国軍には奴隷もいるし人口も多いかんな、こっちで研究した方が都合が良いってわけよ。」


「そのためにこの研究施設を作ったという訳か。」


「そーいうこった。しっかし、この研究施設がこんなにもあっさり見つかっちまうとは情けねえ。見つかっちまった以上、あたいはおめえらを口封じはしないといけねえな。ただ……あたいは戦闘は好まないたちなわけよ。ここは冷静に、話し合いで解決しねぇか?」


アメトリンと言う名の少女は、そう言って両手の手のひらを僕らに見せてきた。武器はないぞと言う合図らしい。その行動を見て、彼女の後ろに備えていたグリフォンが声を張り上げる。


「アメトリン様!それは、いかがなことかと申し上げます!彼らは私たちの偉大な研究に理解を示すような輩ではありません。今すぐにでも戦闘不能にして、口封じするべきです!」


「べらぼうめ!おめえはあたいに口出しできる権利でも持ってんのかい?この唐変木が!おめえの顔出す所じゃあねえ。すっこんでろぃ。」


少女は激しい口調でそう言うと、グリフォンを勢いよく蹴り上げた。彼は宙を舞い、入り口から離れた棚に勢いよく体を突っ込ませる。

棚に整頓されていた書類がバッと宙を舞い、棚は押し潰れた。


唐突な状況に驚かずにはいられなかったがクリスタはその隙に手に持っていた紙資料を、僕のポーチに突っ込んできた。

その行為に理解ができずにクリスタを見ると、再び空中に魔力の文字を書いているのに気付く。

素早く目に魔力の流し、その文字を読み取ると……


『隙を見て、ダイヤと逃げろ』

そう書いてあった。


ダイヤと逃げろ……?

どうやら、僕とダイヤは彼女との戦闘を避けて、逃げてくれと言っているらしい。

中々難しい、提案だ。

両手に何も持っておらず、魔法を使うような素振りも見せていないアメトリンだが、隙があるのかと言えば否である。


それに僕は弟子であるからこそ、クリスタの実力はある程度知っているつもりである。

正直、戦闘になってもクリスタがこの少女に勝てるかと聞かれても分からない。ただ単純な魔力量で言えば、アメトリンの方が勝っていると言わざるを得ないだろう。

僕もクリスタのために、この場所に残った方がいい気もする。


だが、何度も言うがリーダーの命令は絶対。悔しいが、クリスタの指示に従うしかなさそう。

少しずつ、気づかれないように出口の扉に近づく。ダイヤもその文字には気づいたようで、僕に合わせるようにジリジリと位置をずらした。


ただ、僕とダイヤが逃げようとしてることはばれているようで、アメトリンの目線が僕と合う。

目が合った瞬間、僕は少女の迫力で体が動かなくなった。やはり威圧感が違う。

嫌な汗が垂れてきた。これではまるで蛇に睨まれた蛙ではないか。


「まあ、待てい!そこの二人もそう慌てるな。言ったぁように健全に話し合いをするつもりだい、この丸太んぼうは気にすんでねえ。敵の魔王軍幹部が主体になって行っている実験だ、おめえらがこの実験に対して嫌な疑念を思うのはあたいでも分かる。ただ、あめえらはこの実験に、大きな誤解を持っている。」


「大きな誤解だと?」


「そうだ、いいか?この実験はこの世界で何十年何百年続く戦争を終わらせる、重大な実験なんだい。そこの白髪の男、なぜ戦争は続いていると思うか言ってみぃ!」


少女はいきなり、僕のことを指さしてきた。

ちょっと、こんな緊迫した状況でいきなり答えろ…だなんて困る。こういうのは、僕が一番苦手にしていることなんだ。


つい、日本にいた昔のことを思いだしてしまう。

あれは中学生になって、まだ間もない頃だった。

朝日輝く校舎、一時限目の古典の授業。つい、昨晩夜更かしをしてしまった僕は授業中つい、うとうとしてしまった。そのとき、先生にいきなり自分の出席番号が呼ばれた。


『えーと、今日は4月24日だから、出席番号24番の奴。この問題の答えは何だと思う?』


唐突に自分の出席番号が呼ばれたとき、僕はもちろんその問題がなんなのか聞いてなかったので、分からなかった。焦る心、手ににじむ汗……、パニック状態になった僕は緊張のあまり、

『ピっ……。』

と変な声が漏れてまったのだ。

その自分でも信じられないような、声に横の席に座っていた女子が一言。


『ピっって何その声⁉ピ〇チュウじゃん!』

彼女の言葉に、クラスは大爆笑。その日から僕のあだ名はピ〇チュウになった。


あぁ……最悪の思い出だ。そこからは俺のクソみたいな学校生活が始まる訳だが、今でも思い出すだけで恥ずかしくなって、枕を抱きながらベットの上をグルグル転がってしまう。

いきなり変な思い出を語りだしたと思うかもしれないが、アメトリンに指をさされたとき

フラッシュバックしたのだ。

ダメだダメだ…こんなことを思い出さずに、少女の質問に集中しなければ。


「ピ〇チュウ……いえ、何でもありません。種族が違うから……、ですかね?」


僕は何とか、そう答えをひねり出した。

割とアウト寄りのセーフだ。


「そのぴかちう?ってのは分からんが、その通りだい。戦争の原因は種族がちげえからさ。だから、この注射が役に立つって訳よ。」


「つまりその注射でこの世界の住民全員を魔族にするって、言いたいのですか?」

ダイヤは震える声で、そうアメトリンに言葉を投げかける。


「そうだい。まだ実験途中だから、成功率も低いし魔力量が増大するなんていう副作用もある。だがこの実験が完成すれば、誰もが魔族になれて世界に平穏が訪れる。どうだい?最高に夢のあることじゃねえか?」


「ほう、まあ興味深い話だとは思うが、人体実験による犠牲が増え続けるのを…はいそうですかと、指を咥えて見ていろってのは無理な話だな。それで、話は終わりか?なら私はさっさと帰りたいのだが。」


「むぅ……、理解してもらえねえか。んじゃ違う視点から諭すことにするぜ。おめえら、これを見ろ。」

アメトリンはそう言って、一つの注射を取り出した。

それは僕らの見てきた注射とは色が違い、鉛色と言うべきか……金属の鉛のように青みがかった灰色の液体が入っている注射であった。

ただそこから感じる禍々しさや、言葉にならないような気持ち悪さは変わらない。


「それは何だ?」


「これは魔族因子εって言うこの実験の副産物で作り上げた、いつもの魔族因子βが入っている注射とは違うもんだい。これはな、元々魔族因子を持たないどんな対象に打っても強力な効果があるもんで、魔族因子βが打たれたときと同様の効果を得ることができる注射だ。つまりこの注射を打たれた者は、因子適合実験の成功体とほぼ同様の魔力を得ることができる。唯一の欠点があるとすれば、この注射を打たれた者は数分後に命を絶つことだい。これが原因で、実験には使えねえ代物になっちまった訳だがな。」


命を捨てる代わりに、カイヤやグリフォンと同レベルの魔力を得ることが出来る。

末恐ろしい注射だ。あんな物が市場に出回れば、この世界は大混乱に陥ってしまうことになるだろう。


「それで、君は何を言いたい?」


「あたいはこの注射を、グリフォンギルドの冒険者何人かに持たせてる。おめえらがこの施設から逃げようとしても、そいつらが足止めをすることぉなっているわけだ。それにあたいも、あの丸太んぼうもいる。そちらの戦力じゃあ、ちと力不足が過ぎると思わしねえか?」


アメトリンがそう言って僕らを睨んだとき、奥の方でグリフォンがゆっくりと起き上がるのが見えた。そして彼が震える声で、しゃべりだす。


「アメトリン様…あの……その冒険者たち今この場所にいません。」


「なあぁぁぁ、にいいいいいぃぃぃぃ!?」


グリフォンの言葉に、アメトリンは初めて驚いた顔を見せた。

首をグリフォンに、大振りで向き直す。


「す、すいません!ちょうど、魔族因子の適応者を回収しに行っているところでして……、誠に申し訳ございません!」


彼の言葉を聞いたとき、冷や汗が首を垂れた。

魔族因子の適応者と言うのは十中八九、カイヤのことだろう。


あんなヤバい注射を持った奴がシルフギルドに向かっただなんて、たまったもんじゃない。これじゃあアズが危険に気づいても、無事であるかどうか分からないではないか……。

いや、落ち着け……、深呼吸するんだ。

アズを信じると決めたじゃないか……あちらのことは任せるとして、こっちの状況は逆に好都合になっている。


「このたわけ者があああああ!ここまで来るとあたいも、むかっ腹がたってくるが……ちょ、ちょっと、お前ら待て!まだ話は終わってねえんだ。え、えっと、こんな丸太んぼうだが、こいつは非常に稀な魔族因子適合者だ。おめえらもその資料を見たなら分かると思うが、魔族因子適合者は副作用で、浩大こうだいな闇属性の魔力を得ることが出来るんだが……、更に面白いことに、この浩大な魔力を一気に放出しながら扱うと、生物じゃ理解できない別次元に到達することができるんだ。」


「別次元?意味が分かりませんが……。」

ダイヤがそう、素直に感想を口にする。


「あぁ、言葉で言われても分かんねえかもしんねえ、だがまごうことねえ事実だ。別次元……言ってしめえば、神の領域に達する。そこまでやると命の危険もあるが、とにかくこの丸太んぼうはそんぐらいつええってことだ。だからおめえらが、この実験に賛同しねえってことは得策じゃねえ。理解できるか?」

アメトリンは熱量のある声量でそう言うと、クリスタに顔を合わせた。

その様子を見て、クリスタは考えるように顎に手を近づける。


「なるほど…神の領域か……。確かに、それは厄介だな。私たち三人じゃ、無事この施設を抜け出すのは難しいかもしれない。」


「おぉ、分かってくれるか?」


「ああ、君の意見には正直賛成できることもある。しょうがない、ここは君たちの研究に協力するとしよう。」

クリスタが信じられないような発言をした。

まさかの非人道的な実験に対する、了承である。


だがその瞬間、アメトリンの指先からクリスタに向けて魔弾が射出された。


バンっと言う、まるで拳銃の引き金を引いたかのような轟音が部屋に響く。

クリスタはポーチから一瞬で槍を取り出すと、その魔弾を勢いよく弾いて見せた。

弾かれた魔弾は僕とダイヤの頭上を抜け、天井近くの壁にクレーターのような穴を形成する。


あまりの予想だにしない展開に、生きた心地がしない。


「あたいがあんたの嘘を見破ることが出来ないほどの、抜作だと思ったんかぁ?」


「おっと、ばれてしまったか。君の言うこともまあ、理解できなくはないのは本当なのだが……、私が拒否する理由はただ一つ。なんか、嫌だからさ。」


「決裂かい、このべらんめえ!そのどてっ腹に風穴開けたるわ!」


アメトリンの頭上の空間に、大量の魔法陣が瞬間的に形成された。その魔法陣が全てクリスタに標準を合わせる。

そしてそこから出現した真っ黒な槍が、雨のようにクリスタに向けて射出された。


理解できないほど、強力で恐ろしい魔法。

だが僕はそのときをずっと心待ちにしていたのだ。少女の注目がクリスタに完全に向く瞬間を!


「今だ!早く行け!」

クリスタがそう言ったのと、僕が走り出したのは全く同時であった。


「きゃ!?」

僕はダイヤの手を勢いよく掴むと、出入り口の扉に滑り込むように走り出す。


「おい、簡単に行かせると思いやがったか?」

アメトリンが素早く僕らに反応する。魔弾を僕らに向けて射出したのだ。

あれほどの魔法を発動させたと言うのに、僕らに攻撃する余裕がまだあると言うのか!?

だが、僕は走るのを止めない。ここで引いては絶対にダメだと、俺の心が叫びたがっている。


「残念ながら、そうはさせないぞ。」


クリスタは手に握りしめた槍で、アメトリンから放たれた大量の槍を全て弾いてみせる。

さらに槍先から、魔弾を放ち僕らに飛んできていた魔弾にぶち当てた。

爆発するような轟音で、魔弾同士がぶつかり相殺する。


僕はその隙をついて、扉から部屋の外に飛び出した。

魔力を大量に循環させ、クリスタが記してくれた魔力の線を辿りながら、全速力で廊下を走り抜ける。


「ちっ、べらんめえ、逃げやがったか!グリフォン、おめえが唐変木だから、こんなことぉ、なってんだ!しょうがねぇから適合体の八番を檻から解放するように他の研究員に伝えろい!絶対にあいつらに追いついて、何が何でもかとっ捕まえてくろい!」

アメトリンは焦ったように、激しくグリフォンをに指示を飛ばす。


「ははっ、了解致しました!」

グリフォンはフォスたちの後を追って、勢いよく部屋を飛び出していった。


「……、フォス、頼んだぞ。」

クリスタは小さな声でそう、つぶやく。


ここまで読んで頂き感謝申し上げます。

第一部はあと十話。楽しんで頂ければ幸いです。


気付いた方もいるかもしれませんが、この作品に出てくる人物の名前は全て宝石や鉱物を基にしています。一部終了後、出てくる人物があまりにも多いのでどっかで名前の由来含め、まとめますのでよろしくお願いします。

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