第十七話 魔力について⑥
僕は黒髪短髪の少女クリスタ、そして白髪のエルフ、ダイヤと共に準備を終わらせて竜車に乗り込んだ。まずはサラマンダーギルドのあるサラマンダー街まで行くことになる。
距離としてはある程度遠く、昼過ぎに到着するぐらいだろうという見込みだ。
準備をしてきたと言っても持ち物を再度確認したぐらいで、新しく持ってきたものは枕くらいである。冒険者にとって睡眠は、とても重要なのだ。
もし寝不足になって調査がおぼつかない…なんてことになっては、今回行く意味が全くなくなってしまう。まさに本末転倒。睡眠の質を上げるために枕という寝具は、手軽で持ち運びやすさも相まって重要なのだ。
いやいや枕は持ち運び辛い……と思うかもしれないが、僕のポーチの中にすっぽり入っている。と言うのも僕の持っているポーチは中に空間魔法の魔術式が埋め込まれており、魔力を流せば大きなリュックぐらいには入るようになっている。
重さも特に感じないため、僕は常にこのポーチを持ち運び武器や非常食、防寒具などいろんな物を詰め込んでいる。これぞまさに日本にはない、異世界ならではのスペシャルアイテムだ。
ただ空間魔術が施された入れ物と言うのは非常に高価で、僕の今持っているものは修行が終わって一人前になった証としてクリスタからもらったものだ。
シルフギルドでは師匠が頑張った弟子のご褒美として、修行の最後に空間魔術に刻まれた持ち運び道具を渡すのが通例になっており、アズもいつも僕と同じようなポーチをつけているのだ。これはあくまでシルフギルドの話であり、他のギルドの習わしは良く知らない。
竜車の中はいつも乗っている馬車と違い、硬い木ではなくふかふかの椅子がある。さらにその椅子は倒れるように設計されておりベッドにもなるのだ、すごすぎる。
6席の椅子が3席ずつが向かあいうように設置されており、サラマンダーギルドの人たちが向かい側に座れるように僕らは片方の3席に並ぶように座った。
端からクリスタ、僕、ダイヤの順である。何故か僕が真ん中になるように座らされてしまった。
等級順に座ったからこうなのか、クリスタが人見知りの僕に気を使ってダイヤと話せるような位置にしたのかわからないが、異性に挟まれるというのは少し変な気分だ。
同じ依頼を受けるのに一回も話したことがない…と言うのは連携などの点から見てもあまりよろしくない。クリスタの思惑通りになったからかは知らないが、ダイヤも同じように思っていたのか僕の方を向いてきた。
「あの…、今まで話したことありましたか?」
「いや、ないね。自己紹介した方いいかな?金等級冒険者フォスです。」
「あ、ご丁寧にどうも…私銀等級冒険者のダイヤです。実は、ギルドに入ったときからフォスさんのことは知っていたんですよ。」
「え!?そうなの?」
「はい。アズさんが暴れているときに止めているのを何回か目撃していましたので。」
「あっ、それはお恥ずかしいところをお見せしました……。」
やはりアズの知名度はいろんな意味で高く、そのせいで僕の知名度も高くなっているらしい。
アズと一緒にパーティー組んでるヤバい奴みたいな印象だろうか?どうにかこの機会に払拭したいものだ。
「さっき聞いてたけど、えっと……、ダイヤ…は研究科を卒業したんだって?すごいね。」
本能的にさん付けしたいところを、ぐっとこらえる。
彼女は銀等級で僕は金等級。違うギルドならまだしも同じギルドの等級下相手に敬語を使っては、ダイヤ側の方が気を悪くするかもしれない。
冒険者は基本的に何年やっているかではなくて、等級がものを言う。
10年以上の先輩でも、僕の方が等級が上なら敬語を使わないのが当たり前だ。まあ…アズみたいに目上だろうと敬語を使わない人はいるし、敬語を使う使わないの指標は人によってバラバラなのだが……。
僕は数年前に銀等級の先輩に対して敬語を使ったときに、ひどくキレられて殴り合いの喧嘩寸前になったことがあるので、等級下には敬語を使わないように心がけている。
ただ未だに日本での社会人本能が抜けないのか敬語を使ってしまうときがあるので、未だに完璧とは言えないだろう。
「いえ…別にすごくはないですよ。たまたま私の家系が魔術師一家で、流れに身を任せていたらそうなっていただけですので。」
ダイヤが少し目線を落としてそんなことを言う。
ただ研究科に行くには難関の試験を合格しなければならないと聞いたことがある。身を任せたらそうなったとは言え、そうなるには相応の才能と努力が必要だったことだろう。
「なんだ、ダイヤ。君が謙遜するなんて珍しいじゃないか。編入試験を受けるときは、私ほど頭のいい冒険者はいないとまで豪語してたと言うのに。」
「そ、それは何と言うか冒険者というのものをあまり理解していなかったと言うか……若気の至りと言うか……、とにかくそんなことは今は欠片も思ってません!」
ダイヤは軽く握りこぶしを作って、クリスタに激しく反論した。よほど恥ずかしかったのか、顔が赤くなっている。
「編入試験を受けられるほど優秀だったのなら、そう言えちゃうのも納得な気もするな。」
「うぅ……卒業にあたり私がいた研究科の学長がシルフさんと仲が良かったからシルフギルドに推薦状を書いてくれただけで……当時はそれを実力と勘違いして鼻が高くなってただけなんです。これ以上この話は広げないで下さい!恥ずかしくて死にます!」
ダイヤは唾が飛ぶくらいには力強く、必死にそう訴える。
胸が大きく縦に揺れたのが見えた。
編入試験と言うのは、世界4大ギルド内に入るための試験制度である。カイヤが受けようとしている一般試験と異なり、冒険者組織では無い優秀な貴族や魔術師、騎士団などが、特別に誰かしらの推薦を受けて受けられる試験だ。
僕は一般試験で入った身なので詳しくは知らないのだが、推薦試験を受けるにはかなり優秀でなければならず、非常にハードルが高いと聞いたことがある。
さらに試験は大人数ではなくその人のみが対象となるため、常に完璧に見張られた上で試験に望まねばならない。
誤魔化しようのない全て見透かされた状態で審査をされるため、合格するのは大変なんだとか。
そこをくぐり抜けて来たのだと言うから、彼女の優秀さは計り知れないものがある。将来出世するだろう彼女と、銀等級のうちに関われたのはいいことなのかもしれない。
コネとかでいい感じになれば万々歳だ。
「ダイヤは、研究科で何の研究をしてたの?」
推薦をされるということは、魔術協会で何かしらの結果を残していることになる。研究でどんな成果を出したのか俄然興味が湧いてきた。
「光魔法の研究をしてましたね。」
「光魔法!?それはまたニッチなとこだね。」
「いえ、と言うのも私が使える属性が光属性なので……、それで研究対象にしてただけですよ。」
「光魔法使えるのか……なら回復魔法とか得意なんだ。」
「そうですね。研究でも光属性の回復魔法を研究してましたので、一応最先端の魔術式までマスターはしていますよ。」
「それはすごい……。」
「ダイヤがシルフギルドに入れた決定的な理由は、回復魔法の扱いに秀でているからだったからな。」
「え!?私、それ初耳何ですけど……。」
「知ってるのは私とギルドマスターくらいだからな。」
「えぇ……それ言って良かったやつなんですか?聞いてお縄行きとか絶対嫌ですよ。」
「まあ聞いて減るもんでもないし、大丈夫だろ。」
クリスタはそう言って、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
光属性と言うのは、言うまでもないと思うが希少属性である。この属性は少し特殊で、回復魔法に使うと他の属性に比べて高い効果を発揮できる特徴がある。
ただ光魔法を使える人などほとんどおらず、この知識はもはや雑学に近い。
「にしても何で冒険者なんかになったの?研究科卒業したなら、他に選択肢は無限大にあると思うけど。」
「あー……それやっぱ思いますか?編入試験の面接でも同じ質問をされた気がします。」
「確かにギルドマスターがしてたな。」
「ですよね。私はその…研究科に入って研究してはいたのですが、別に研究したかった訳じゃなくてさっき言った通り流れていつの間にかそうなってたってだけでして。それで何かなりたいものはないかなって考えていた内に、冒険者って夢があるし楽しそうだな……みたいな感じで入りましたね…はい。」
「それは…中々に大雑把な理由だね。」
「ふふふっ、私もそう思ってます。けど後悔はないんですよ。」
ダイヤは笑みを浮かべながら、そう答えた。
その姿はまさに聖母のように、美しく心からの笑顔であった。こんな表情をできるのなら、きっと彼女の判断は正しかったのだろう。まだ会って数分しかたってないのに、そんなことを思ってしまった。
その後クリスタやダイヤと、僕の地獄のような修行話だとかクリスタの事務作業がしんどすぎると言う愚痴だとか、グリフォンギルドの近くにあるケーキ屋がすっごく美味しいだとか…いろんなことを話した。
会ったばかりのダイヤとも、少しは打ち解けられたと思う。
くだらない話をしている内に、いつの間にかサラマンダー街に入った。
街中を進むにつれて、一際大きな建物が見えてくる。
この建物こそがサラマンダーギルドだろう。
サラマンダーギルドを見たのが実は初めてで、少し興奮した。世界4大ギルドだと言うこともありシルフギルドと同じ外装なのかと思っていたが、予想外にも全然違かったのである。中も見てみたいが、そんな時間の猶予はないだろう。
サラマンダーギルドの前には、2人の冒険者が立っていた。彼女たちがギルドマスターが言っていた、ガーネットとエメラルドとだろう。
名前だけでは分からなかったのだが、どちらも女性らしい。
と言うことはこの5人のパーティーの内、僕だけ男のようだ。
これはもしかしてハーレム?なんてことはなくて、ただ肩身が狭いだけである。
てっきり男女のバランス的にエメラルドなる人物は男だと思っていたのだが……。
僕らの竜車が到着すると、颯爽と2人乗ってきた。
最初に入ってきた1人目は、黒髪ツインテールの少女であった。
半袖の服にパンツが見えるんじゃないかと思うくらい短いスカートを着ていたため、ちょっと見たくなってしまう僕が情けない。
首にはサラマンダーギルドの証である火のマークが刻まれた徽章をかけていた。さらに注目すべきところは、彼女が腰に4本もの剣を携えているところだ。
僕も短剣と新しく購入した剣の2つを持ってはいるのだが、4つはまず見ない。さらにその4本が短剣では無く、全て長い真剣なのだ。かなり異常な装備だと言えるだろう。
そして…その黒髪ツインテールの少女の後に続くように、もう1人の女性が乗り込んできた。
その瞬間、竜車内の空気が一変したように感じる。
さっきまでだべっていたダラダラとした空気が一変し、自然と僕ら3人は背筋がピンとなった。
明らかに感じる圧倒的な迫力と貫禄。
白を基調とした服を着ているため、腰まで伸びる癖のない真っ直ぐな赤髪が一層映えて見えた。腰には大刀を背負っており、波紋や装飾からかなり高額な匂いがする。
首には、光り輝く火のマークが刻まれた白金等級。鋭いマグマのように赤い色の目が、僕たちの顔を確認するように動いた。
僕らが開けていた向かい側の三人席に、彼女たちは1席間を開けるようにして座る。竜車が動き出し、それとともにクリスタが口を開いた。
「やあガーネット、久しぶりだな。会うのは一年ぶりくらいか?」
「せやな。確かに、前に会ったのは世界4大ギルドの帝国会議だったやろか。」
「そうだ。しかし…そちらの方は初対面かな?ガーネットもうちの可愛い仲間に会ったことがないだろ?せっかくパーティを組むことだし、互いに自己紹介なんかどうだ?先ずは私が……、」
そうクリスタが言いかけたとき、遮るようにしてガーネットと思われる赤髪の女性が口挟んだ。
「いや、私が先に自己紹介やるわー。パーティーリーダーのクリスタには、トリをしてもらうべきやろ。」
「おいおい、それは嫌がらせか何かか?」
「ガハハっ、どう思われてもかまへんで。私はサラマンダーギルド所属、白金等級冒険者のガーネットや。今回は、このパーティの副リーダーを預かった。よろしゅうな。」
ガーネットはそう言って、一礼する。
その仕草すらも箔があるように感じて、僕とダイヤは反射的に会釈していた。
「せやな…私が後言うべきことは……今回の調査依頼任務についてやな。みんな調査依頼なんて受けたことないやろ?コツはな~気になることは全部聞く、それが全てやな。分からないこと全部聞いて、誤魔化してたり嘘ついていると思ったらとことんそこを攻める。まあ…騎士団が調査して何も無かった以上、なんもないのが当たり前だと思って気軽に臨もうや。」
ガーネットは腕を組んでそう言いながら、首を縦にウンウンと動かしている。彼女が言い終わるのを見て、その横に座っていた黒髪ツインテールの少女が口を開いた。
「んじゃっ、次はうちか。ちーっす、サラマンダーギルド所属、金等級冒険者エメラルドって言いまーす。よろしくね~。」
少女はそう言って身を乗り出してきたかと思えば、両手で僕の手を取って握手してきた。
いきなり手を握られて少しびっくりしてしまった。
体がビクって動いたのがバレてないといいが……。
エメラルドはそのまま流れるように、クリスタとも握手している。
溢れ出す陽キャ臭が、つい目を細めたくなるくらい眩しい。エメラルドからは、ウルツとはまた違う雰囲気を感じる。先ず生きている上で、ウルツ以上に関わることは無いだろう人種だ。
「あー、この剣びっくりする?うち四刀流なんだよね、珍しいっしょ?つか、四刀流なんてワード聞いたことないか…。どう使いこなすかは戦闘を見てからのお楽しみってことでっ!はい終了っ!次はあんた?」
エメラルドはそう言って、僕の顔を覗くように見てくる。どうやら、僕が次自己紹介することになったらしい。
ついさっきダイヤに自己紹介したばかりなので、ちょっと変な気分だ。
「えっと……じゃあ、自己紹介します。シルフギルド金等級冒険者のフォスです。よろしくお願いします。」
僕はそう言って、頭を下げた。
「君がフォスっちかーよろしくね~。」
「フォスっち……。」
唐突にエメラルドに、あだ名をつけられたらしい。
あだ名が貰えるのは何だか嬉しく思えるが、嬉しく思えてしまう僕の陰キャ度に悲しくなってきた。
「うち、フォスっちのこと知ってるよ。最近キンググレートボア倒したっしょ?」
「あ…そうです。まさかエメラルドさんが知ってるなんて、驚きました。サラマンダーギルドには関わりのない話だと思ったので。」
「あははっ、ちょ、フォスっちって何でうちに敬語使ってんの?ウケるんだけど。同じ4大ギルドの金等級なんだから、敬語使わなくていいよ。ほら、うちのこと呼び捨てで呼んでみ?」
「エメラルド…」
「そうそう、それでいいよ。つか、魔物のことなんだから関わりは大アリっしょ。危険魔獣の討伐報告はサラマンダーギルドにも来てるし。」
エメラルドはそう言って、笑っていた。
どうやら良くゲラる系の性格らしい。
危険魔獣の討伐報告は確かにどこのギルドで起ころうとも来るとは思うが、4大ギルドにとっては特別でもない。特に話題になるほどのことでもないし、それを知っていると言うことは情報を細かくまで目を通しているという事だろう。彼女は思ったより、マメな性格のようだ。
「えっと、そろそろ私…自己紹介していいですか?」
「あーごめんごめん。つい笑ちゃって、タイミングなかったよね。」
「いえいえ、えっと…シルフギルド所属、銀等級冒険者のダイヤです。種族は分かると思いますがエルフです。私が一番等級も低いし冒険者として後輩ですので、足を引っ張らないように頑張りますね。」
ダイヤは、エメラルドとガーネットに向けて頭を下げた。
後輩とは言っているが、年齢的にも精神的にも多分僕より上だとは思う。なんと言うか大人の魅力みたいなものが醸しでている気がするのだ。不思議である。
「ダイヤっちよろしくね~。」
「よろしくお願いします。」
あだ名で呼ばれても、動揺することないいつも通りの態度。
どうやらダイヤの肝は僕より座っているらしい。
「さて…トリが私か……。シルフギルド所属白金等級冒険者クリスタだ。今回はこのパーティーのリーダーを務めることになった、よろしく。さて……早速だが本題である今回の任務について話させてもらう。」
クリスタは、僕たち5人全員の顔をパッと見る。
聞く準備ができているかを推し量ったようだ。
沈黙は承諾の合図とようで、彼女は話し出した。
「何度も聞いた話だと思うが、念の為改めて確認させてもらう。今回の任務は、魔術協会の施設調査だ。魔術協会が何年も隠蔽していた施設である以上何か隠している可能性が高いと思われるが、今のところ証拠は出てきていない。私たちは今回の調査で、隠していた痕跡や証拠を持ち帰ってくるのが仕事だ。施設についての詳しいことは、この依頼書を見てくれ。」
クリスタは全員に依頼書の紙を配った。
僕もその紙を受け取り、中身をサラッと見る。
依頼料や依頼内容の他、施設の建設日や騎士団の調査報告など色々と細かく書いてあるようだ。
「そこから、もう一つ確認しておくことがある。この臨時パーティーについてだ。臨時とは言えパーティーはパーティー。当たり前だが、パーティーリーダーである私の命令には必ず従ってもらう。」
「クリスタが何かの事情で指示が出せないときは私の命令が絶対やからな。皆よろしゅーな。」
「ああ…そういうことだ。それと……、もし会話しない方が良いと判断したとき、また会話が何らかの理由があってできないときは、このように魔力を乗せた指文字を使う。」
クリスタはそう言って、人差し指で空気中にハートマークを描いた。
風属性の魔力で作られたそのマークは、魔力を目に流さないと視認できない。僕でも見るのにやっとなほどの、微力な魔力でできている。
「ただ…調査するのは魔術に深く精通している魔術協会の施設だ。気付かれる可能性は充分あるだろう。そこで私たちのみが瞬時に分かる暗号を使う。使う暗号はサトウ暗号、ずらす文字は後ろに5文字だ。わかったか?」
そう言ってクリスタは、僕たちの顔を見渡した。
サトウ暗号…と言うのは昔サトウさんという人が編み出した暗号らしい。多分だけど日本人だ。
僕はこの暗号を知ったとき、この世界に僕以外にも日本から転生してきた人がいると確信した。なぜならその暗号は僕も日本で知っていたものだから。
サトウ暗号と言う名前だが、言わゆるシーザー暗号と言うやつで知っている者も多いとは思う。
シーザー暗号と言うのは簡単に言うと、言語表の文字を一定の文字数ずらして伝えると言う手法だ。言語表は例えば『あいうえおかきく……』だとか、『ABCDEF……』のことである。
クリスタが言ったように5文字後ろにずらすとして、例えば日本語で『ありがとう』と伝えることにしたとき…シーザー暗号を使って伝えると『かをざのく』となる。
ほら、何言ってるか分からないだろ?…とまあそんなわけだ。これでも分からないならggrks。
この世界の言語は日本語ではないため暗号の使い方は異なるのだが……、理論は一緒である。
この世界でサトウ暗号は知名度が高いわけではないが、知っている者もきっといるだろう。だが瞬時に分からなければ問題は無い。
空中に魔力で書いた数秒で無くなるため、他の人間がそのロジックを解く時間はないからだ。
問題は僕らも瞬時に頭の中で言語表を整理して、読み取らなければならないこと。世界4大ギルド何だからこれぐらい余裕だよね?ってことなのだろう。
誰もその案に反対する者はいなかった。
「よし、これで事前に言っておくべきことは終わった。今日はしっかり休息をとるためにぐっすり寝ることとしよう。フォス、隣で寝るからって私に手を出すなよ?無防備な私をいいことに何かしそうだからな。」
「いや、しないですよ。」
僕はとりあえず、そう全力で否定しておいた。
他ギルドの女性冒険者の前でそう言われるのは、何と言うか恥ずかしい。前科があるなんて思われたら、僕は3回くらい死ねるな。
「ほう、そうか?さて……あとは夜までゲームでもして、パーティの仲を深めよう。連携をとる上で仲良くなるのが何よりの近道だからな。」
クリスタが唐突にそんなことを言ったかと思えば、彼女は何本かの棒が入った筒を脇から出してきたのだ。
「なんや、クリスタ?遊び道具用意しとったんかいな。」
「当然だ。これは言わば今日1番大事なことだ。」
「ガハハっ、せやな。んでそれは何や?」
クリスタが持っている何本の棒の中には、1本だけ先端が赤くなっているものがあった。
それを見た瞬間、嫌な予感が頭の中を走る。
「王様ゲームだ。仲良くなるには最高のアイテムだろ。」
どうやら予感が的中したらしい。
クリスタは筒を全員の中央に出してくる。
心無しかクリスタの姿が、小学生の少年のような姿に見えた。どうやらよほど、このゲームをやりたいらしい。
「ガハハっ、王様ゲームか!?ええな~ええな~。」
「ちょっ、うち王様ゲーム何て十何年ぶり何ですけど!?」
「あらあら、童心に帰ったようで楽しみですね。」
ゲームへの反応は皆三者三様である。ただ、全員乗り気ではあるらしい。
僕は正直、こういうゲームは苦手だ。
だがここでやらないのもノリが悪く思われるだろうし、何よりサラマンダーギルドの冒険者との交流は大切。
明日だけとはいえ一緒にパーティーを組むことを考えると、やらざるおえない感じがする。
しょうがないので、欲を全開にしてこのゲームに挑みとするか…ぐへへ……。
「さあ、やるぞ!いっせーのって言うから、一斉に引くんだ!ほら、フォスもやるんだ!」
「はい。」
僕は何だかんだ満面の笑みで、その棒に手を伸ばすのであった……。
ご愛読感謝申しあげます。
評価、感想いただけると幸いです。




