第九十二話 監禁について①
……ここはどこだ?
気付いたら、知らない部屋にいた。
知らない天井、知らない床、知らない壁、知らない匂い、知らない場所、知らない雰囲気……、
一つベッドがあるだけの部屋。
頭が少しズキズキする。僕は何故ここに……?
そうだ、僕はさっきまでアズたちと共に風の盗賊団のアジトに突入していたはずだ。それでゴーレムたちに襲われて…僕は逃げる際に意識を失った。
ならここはどこだ?
もしかして死んだ?ゴーレムたちに殺されたのか?
いや違う。僕は今明らかに生きている。死後の世界では無い。
……となれば、僕は本当に…何故ここに?
はぁ……意味がわからない。
けど今は……何よりもアズたちのことが心配だ。あの大量のゴーレムがいたアジトから、無事逃げ出せているのだろうか?突撃作戦はどう転んだのか?アズたちは無事なのだろうか?
気になることが多すぎる。とにかくこの部屋から出て、アズたちと合流しなければ……
僕は立ち上がり、扉の方へと歩く。だが扉へと到達する前に体が止まった。
何だろうすごく歩き辛い。体が重い。
あれ?
僕の両足が、鎖で壁に固定されていた。
足首にガッチリと金属の輪が嵌められている。更にこの錠……アダマンタイト性だ。道理で魔力が上手く扱えないと思った。
アダマンタイト性の錠は、はめられると魔力を練っても練っても効果を無くしてしまう。今の僕は魔法を扱うどころか、十分に身体能力をあげることもできない。
まるで罪人だ。
なるほど……どうやら僕は誰かしらに、捕まってしまったらしい。
そしてこの部屋に幽閉されている。
状況からして、それ以外に説明がつかない。
そしてその相手は……何となく予想はつく。
そのとき部屋の扉が開いた。そして入ってくる、人影。
ドクッ
その存在を認識した瞬間、心臓が跳ね上がった。
体が恐怖を感じている。今すぐにでも逃げ出すべきだと、訴えている。
この空気、圧倒的な気配……あぁ僕は知っている。この雰囲気を知っている。もう二度と感じたくないアメトリンやアメジストから感じたのと同じ気配。
禍々しく、絶望を与える、体が震え出す気配。莫大な魔力から感じる、他を圧倒する存在感。
その存在が、この部屋に入ってきた。
「生命活動安定、確認。意識、確認。気配、確認……正常確認。」
僕の目の前に現れたのは、金髪の少女であった。ショートヘアーで、前髪が長く片目が隠れている。
目がクリっとした大きな青色の瞳をしており、服は黒と白を基調としたドレスのような服。言わゆるゴスロリと言うやつだ。
背は高くなく、ジェットと同じくらいに見える。
ただこの圧倒的な気配は……その小さく華奢な体とは相反するように莫大で未知。底が見えない魔力……そう表現するのが正しいように思える。
「君は……誰だ?」
「疑問。奴隷君は既に認識している。それでも説明が必要?」
「もちろん。教えて欲しい。あれ、僕って奴隷なの?」
「そう……当然。自分の名は、オーラ。魔王軍幹部、十二人の一人。風の盗賊団の長。」
少女は無表情で淡々とそう口にする。
魔王軍幹部やはり……そうだったのか。風の盗賊団に魔王軍幹部が関係している…その予見はくしくも当たってしまっていたらしい。
「何かの族長なのか?」
「族長?」
「魔王軍幹部って、何かしらの族長なんじゃないのか?アンデットとか、ダークフェアリーとか……。」
「誤解。確かに族長は多い。けど魔王軍幹部の条件が、族長では無い。私は魔王軍幹部だけれど、族長でも無く部下もいない。」
「そんな魔王軍幹部もいるのか……。」
「当然。私は天使族。知ってる、天使?」
「天使!?天使って神の使いの、あのやつ?」
「そう。驚き、博識なのね。」
「まあ悪魔がいたら、天使がいるのがセオリーだろ。けど天使を見たことはなかったな……。」
「天使は希少種族。私も両親以外に、会ったことは無い。」
「そうだったのか。けど天使って翼が生えてるものだろ?それも純白の。」
「常に隠してるだけ。」
「そうか……。それで……何で僕を捕縛したのかな?殺すんじゃなく、何故?」
「直感。それ以上に理由はない。」
「直感……?」
「そう。そこに正座して。」
「正座?いや、ちょっと体の節々が痛くて、やりたくないと言うか……」
「理解してないの?あなたは今、私の奴隷。逆らうなら、殺す。」
「はい、すいません。」
怖い。殺気は感じなかったけど、明らかに気分の良くないような表情を見せた。
これは従わないと何かされる。
指おられたりとか……回復魔法今使えないし、怖っ。
「えっと……ここは?」
「ここは地下。」
「風の盗賊団の本部の地下と言うことか?」
「誤認。ここは風の盗賊団の本部では無い。」
「え?どういうこと?」
「風の盗賊団に本部は無い。」
「……?どういうことだ?だって君が、風の盗賊団の長なんだよね?ってことは君が住んでいるこの場所は、本部ってことじゃ……」
「誤認。訂正。奴隷が突入した建物は私の人形工場。風の盗賊団の人たちにはアジトと偽って伝えてるけど、アジトでは無い。」
「マジかよ……。」
「長が住んでるという意味では、アジト。けど幹部などがいる訳では無い。風の盗賊団に幹部はいない。アジトも本部も無い。全て虚構。」
どうやら僕らが想像していた風の盗賊団の組織とは少し違うらしい。幹部がいないというのなら、風の盗賊団という組織は彼女だけを頂点に置いたワンマン組織。
それで組織が成り立つものなのか?彼女の指揮能力が計り知れない。
「ため息。さっきから質問ばかり、少しは黙れない?」
「うっ、ごめんなさい。じゃあ最後に一つだけ質問させてくれない?」
「承認。」
「アズたち……えっと僕らの仲間はどうなった?もしかして……。」
「全員無事。私の人形工場散々荒らした後、人形たちから逃げるように撤退した。」
「そうか……無事なら良かった。って、ん?全員無事?」
あれ……確か人形から逃げるとき、転んだりして逃げ遅れていた騎士たちもいたよな。彼らも無事……?どういうことだ?
その僕の疑問を感じ取ったのか、少女は一切声色を変えずに喋り出す。
「騎士たちは、あなたと同じように捕縛した。他の部屋にいる。」
「そういうことか。全員、殺さなかったのか?その……ありがとう。」
「ディスサティスファクション。殺さないのは、利用するため。決して同情じゃないなどではない。勘違いしないで。」
「は、はい……何で、英語?」
「シャラップ。質問受け付けは終了。」
わざわざ英語を使うなんて、英語が好きなんだろうか?
英語はこの世界における、昔使われていた言葉らしいと皆認識している。
ま、けど多分嘘。昔サトウと言う人物が、英語は古代の言葉なんだってほらを吹いただけ何だとか。
色々とはた迷惑な奴である。
そのため英語を話せると言うことは、古代の言葉を扱えると言う意味をこの世界では持つ。
簡単に言えば、博識アピールになるってこと。
実際、この少女もまた英語を知っているくらいには博識なのだろう。
ちな、ディスサティスファクションってのは不満って意味。英語は得意じゃないけど、ある程度は分かるくらい。
「先ずは自己紹介して。」
「はい、えぇ……シルフギルド所属、金等級冒険者フォスです。」
「承認。認知済み。」
「……え?」
「その胸元の徽章を見れば分かる。」
徽章には、いつ冒険者が死んでもいいようにその冒険者の情報が事細かに刻まれている。
ただその情報を受け取るには、特別な魔方陣を使用しなければならない。この少女、その魔方陣を知っている?この子の底が知れない……。
「それにシルフギルドや騎士団が、風の盗賊団について嗅ぎまわっているのも知ってた。襲撃が来ることも、知ってた。」
「え!?な、何で?」
「質問は受け付けてない。また、これで打つよ?」
そう言って少女が、懐から出したのは……
鉄で出来た、この世界では見たことのない物体。
いや、けど僕はその道具を知っている。
それはこの世界にはあってはならないものだ。
「銃……。」
「驚愕。銃、知ってるの?」
「え、えと……うん。またってことは、僕をその銃で撃った?」
「これは麻酔銃と言う武器。私が昔の文献を読み漁って、何とか創り出した私だけの武器。なのに……何故、奴隷君がそれを?」
「え、いや……。」
「この武器は、既に燃えて消されたサトウの日記にしか書かれていない武器。それを知ってるとは、どういうこと?何故?何故?何故?」
少女はグッと頭を寄せて、迫って来る。
少々ふくよかな胸元が、服の間から見えた。僕はこんな状況なのに、何を見ているのだろうか……。
「い、いや…どっかの噂で聞いたんだっけな……あはは。」
「嘘、禁止。嘘をついていることバレバレ。次嘘をついたら、両手両足全ての爪の間に、一本ずつ釘を刺す。そして、それから……」
「すいません。全て話します。」
こんな明らかに魔力の扱いが長けている人物に、嘘をつくことなんて無理であった。
しょうがないので僕は、日本の話をすることにした。アズにはあまり他人には話すなと言われているのだが、こうなってはしょうがない。僕が日本と言う国から転生してきたこと、そしてその日本のある地球には銃と言う武器があることなど……とにかく僕の出生について話すことになってしまった。
こんな話、普通じゃ信じない。信用できない。
さらに意味の分からない嘘をついたと思われてもおかしくない。けど少女は、僕が嘘をついていないことを理解していたのだろう。全てを離し終えると、初めて小さく微笑んだ。
「興味深い。非常に、興味深い。転生した人が、あのサトウ以外にこの世にいた何て……。さらに奴隷君は、察するにサトウと同じ場所から転生してきてる。世紀の大発見。」
「何故、サトウが転生者であることを?」
「彼の日記に書いてあった。もう無いけど。今はもうそんなことはどうでもいい。感動。感動。感動。自分は今、伝説を目の前にしている。」
少女は空を見上げて、ガッツポーズをする。
よほど転生者に遭えたことが嬉しいらしい。普通に質問に答えられたし。
それにそこまで喜んでくれるなら、悪い気はしない。
けど……
正直、僕は日本での人生をあまり思い出したくない。
もしもう一回転生して日本とこの世界を選べると言われたのなら、僕はこの世界を選ぶだろう。
そのくらい僕は、嫌なのだ。
ただ…どうやらこの目は……
「命令。日本について教えて。」
やっぱり。
「教えてと言われても、色々あるんだけど……。」
「確かに。では歴史から。」
「歴史!?あんまり詳しくないよ?」
「知っている限り教えて。情報を一つでも隠したら、動脈に釘を打ち付ける。そして回復魔法でループさせた後……」
「話します!話します!全部話します!」
何故か、そこから日本の歴史の授業が始まりましたとさ。
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