表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/262

第九十一話 襲撃について④

時刻の針は二時十分を指し示す。


「突撃開始!」


ゼオの号令と共に、僕らは一気に突撃した。洞穴のような穴の中に突入する。大きさは人二人が少しの余裕を持って入れる程の横幅。電車のドアぐらいの大きさと言えばわかりやすいだろうか。高さも身動きが苦しいほど低い訳でもなく、どちらかと言えば快適。非常口として十分に機能していると言える。


ただ……この人数だとどうしても縦長になってしまうため、僕ら最後尾から先頭の方が見えない。何かが先頭の方で起こったとしても、僕らの気付くタイミングは一歩遅くなるわけだ。


それがどれほどの影響を及ぼすかは、残念ながら今の僕らには検討もできない。アズやアイがこのアジトから嫌な気配を感じると言っていたし、不安も拭いきれない。それでも僕らはゼオを信じて僕らは後方に気を配りながら、凸凹とした地面を走るしかないのだ。


洞窟の天井には小さいランプのような透明な容器に入った、魔石が常に中を照らしている。照明機があると言うことは、ここに誰かが住んでいる、もしくは住んでいたことは確実と言える。


しかしやはり、人気はない。気配がない。

生活感がない。


中はどこまでも続く一本道で、景色も常に変わらない。

簡素だ。特徴がない。目印がない。

殺風景と言う言葉こそ似合いそうな場所。

そんな道のりが、5分は続いた。


さすが騎士団と言うべきが、大人数の移動だと言うのに動きに大きなブレなどが一切見られない。統率の取れた軍隊にも似た、画一された動き。


それに比べて冒険者と言えば、


「にゃは~、洞窟って探検みたいでワクワクするにゃ~。」

飛び回りながら走る獣人、一名。


「あ、ちょ、今エッチな風吹いた!ここ通り風凄くない!?スカートめくれそうなんだけど!」

スカートを抑えながら走る少女、一名。


「……もうちょっと、大人しく走れないんです…か?」

禍々しい斧を振りながら走る少女、一名。


「あんたこそ、その斧危ないから距離しっかり保って走りなさいよ!」

少女を指さす少女、一名。


……とまあ統率なんてどっか飛んで行ったのかと思うほど、自由な走り方をしている。騎士団に比べれば荒れすぎてて、きっと俯瞰的に見たらかなり目立っているのだろう。ま、冒険者に細々とした規律なんて逆効果なんだけどね。


簡素で代わり映えのない道のりに慣れてきたと思う頃、やっと景色が変化した。道の脇に何個もの扉が出てきたのだ。木でできており、丸い窓のついた扉。


試しに近くの扉を開けてみる。すると6畳くらいの小さな部屋があった。ベットも無ければ、雑貨品も1つとして見られない。人の居た形跡がまるで無い。

まさにもぬけの殻。


「……既に逃げられたのかにゃ?」


「正直、否定はできないわね。」


やはりそう思うのが、自然か。

人が居ることこそ自然な場所に、人1人いないのはさすがに不自然だ。アジトとなれば風の盗賊団の規模からしても、多くの人が居てもおかしくはない。


既に逃げられた?そう疑問を持つのも当然だ。

そうであるならばこの作戦が完全に無駄足であるどころか、風の盗賊団への調査も振り出しに戻る。

あまり想像したくはないものだ。


大体盗賊団アジトを既に移動したと言うなら、僕ら龍車より早く情報が届いたと言うこと。そんなことはありえない。例えクリスタぐらいの魔力の扱いに長けた人物がいたとしても、モンキー街からシルフ街までの道のりは全力でも数日はかかるはず。実際には疲労が溜まるし、さらに無理だ。


他の伝達方法としては、矢文とか?どれだけの弓矢の達人がいれば、シルフ街からモンキー街まで矢を飛ばせると言うのだ……。何人かを介したとしても、弓矢の上手い人物が何人必要なのかと言う話。現実的じゃない。


あとは……魔術電話?。あるとすればこれだろうか。

魔術電話、また魔術電話に近しい機能を持った魔道具。アダマンタイト性の牢屋を破壊したり、走るのに特化した靴等、風の盗賊団が高い技術力を持っているのは明らか。そのような道具を持っていたとしても、何らおかしなことではない。


それかどこかから仕入れた?もしくは盗んだ?

盗賊団だし。


魔術電話は世界に数えるほどの個数しかないし、職人が何十年とかけて作る代物なのだが、貴族が持っている可能性はある。そこから盗んだとなれば、開発云々以前に入手可能だ。


もしそうなのだとしたら……うーん、正直お手上げかも。

この場合僕らが対抗する何らかの方法はない。どう行動しても結果は同じだったと言える。どれだけ早く来たとしても、逃げられていた。それはそれで諦めがつくような気もする。

けど……まあ、まだ決めつける段階じゃない。


それにまだまだ他にあり得る事象は多くある。

例えば……


「吐かせた情報が嘘だったとか?」


いるいない以前に、元々この場所はアジトではなかった。ならばどうだろうか?

ただその発言をした瞬間、ジェットがギロリと僕のことを睨んできた。


「私が拷問し…嘘をついていないと判断しました。その判断に……異論があると言うのです…か?それとも私が…あなた方に嘘をついたとでも?」


「いや…ごめん。そう言う訳じゃ……。」


あまりの恐怖に、反射的に謝っていた。

怖え……。アズのあの睨んでくるカミソリみたいな雰囲気も怖いけど、ジェットはカミソリじゃなくて日本刀って言うか……。ホントに味方なのか、一瞬疑問に思っちゃうくらいの殺気を感じた。


「ジェットも落ち着く落ち着く。嘘をついていたんじゃなくて、元々嘘を教えられてたりして?それならどう?結構良い発想だと思うんだけど?」


「……まあ…それなら…そうですね。」


「下っ端にはアジトの場所の誤情報を教えていたってのは、確かにあり得そうよね。今まで一回も情報が出回ってないことを考えると、ここのボスはかなり用心深いようだし。」


「けどそれなら、何で牢屋に捕まった仲間をあそこまでして救ったのかにゃ?嘘を教えてるならアダマンタイト性の檻をわざわざ破壊するほどのリスクを背負ってまで、助ける意味がないにゃ。」


「全部ブラフだったりしてな。」


「そこまでやるなら、もうキチガイにゃ。頭のネジ飛んでるにゃ。」


「ここまで大胆な盗賊行為繰り返してんだから、ネジ飛んでてもおかしくはないわよ。」


「……理解に…苦し……!?ちょっと止まってください。何か来ます!」


ジェットがいきなり、大声をあげる。

そしてそれと共に、聞こえる地響きに近い振動。

これは何か……来る!


「全員、戦闘態勢!」


ゼオの声が響き、皆一斉に武器を構えた。

そして……現れたのは津波のように押し寄せる人形だった。人型で顔の細工もされていないのっぺりとした人形の集団。このゴーレム確か、前にも見た。


あれは……ムーンが行方不明になったとき。

そうかあのときに遭遇した盗賊も、まさか風の盗賊団と何らかの関係があった?普通じゃ得られないアダマンタイト性の檻も持ってたし、ゴーレムについて確か……『 高い金を払って、護衛用に買った』と言っていた。


なるほど、風の盗賊団から購入したと言うことだったのか。ジェットは貧民街で風の盗賊団の捕虜を捕まえたと聞いたし、それなら矛盾もない。どうやら予想以上に、風の盗賊団の流通範囲は広いらしい。


迫ってくるゴーレムの波に、ゼオたちは撤退しようと僕らの方を振り向く。あの厄介なゴーレムがあの量いるのだ。一本道の狭い場所であることも考えると、僕らの方が不利と言える。


だが……驚くべきなのは、何と背後からもドドドと音が響いてくるのだ。その数秒後に現れる、大量のゴーレム。くそっ……挟み撃ちされている。


「にゃにゃ!?あの量のゴーレムがどっから現れたのにゃ!?今まで一本道だったはずにゃ!」


「今、そんなことはどうでもいいわよ!あの量のゴーレムを受け止める以外、私たちに選択肢は無いわ!」


ゴーレムの面倒さは、あのムーンの一件で痛いほど理解してる。それにあのときは十体程度の数しか無かった。

この量……どうやんだこれ。


「フォス、土をいい感じにして何とか止めなさい!」


「よく分かんないけど分かった。」


地面に手を付き、周りの土を一気に流動させる。土の手を何本も作り出し、ゴーレムの群れを止めるべく一斉に伸ばした。


一瞬だけゴーレムの津波が止まる。

その瞬間にアズが大量の弓矢を一斉に放ち、ゴーレムを破壊した。アズの攻撃に、エメラルド、アイ、ジェットが呼応して一斉に魔弾を発射する。


視界を包む、7色の光。

まるで魔弾のオーロラかのように、ゴーレムの群れに魔弾が直進していく。ただ全面のゴーレムが破壊されても、ゴーレムの勢いは収まらない。屍を抜け後続から、次から次へとゴーレムが押し寄せてくる。


「ちょ、これ、キリが無いんだけど!」


「にゃぁ……動きが止められただけでも及第点にゃ。」


「……けれど…敵襲があったということは…ただのもぬけの殻って可能性は…消えましたね…。」


三人はゴーレムたちに三者三葉の反応を見せる。

何もない無駄足となった可能性が消えたのは良かったものの、この状況は厳しいものがある。


僕らの受け止めるのは後方だけであって、前方は無理。しかしどうやら、ゼオが魔力の壁を作り受け止めたらしい。


あの群れを止める魔力の壁を瞬時に作り出すって、騎士団長補佐もやっぱり化け物なのかな。突入するまではあんな感じだったのに、流石である。


「皆さん!ここで立ち往生すれば、それこそ鴨にされます。なので前方への強行突破を測ります。私が数字の0を叫ぶと当時に、一気に前へ駆けてください!」


ゼオの指示が飛ぶ。

彼女の言う通り、このままでは僕らの方が不利。何らかの損害を払ってでも、強行突破するのはやむなしか。


「行きますよ!3!」


その声とともに、魔弾の雨から数体のゴーレムが飛び出して側まで迫ってきた。皆魔弾攻撃に集中してるため、唐突に近接は困難。僕は瞬時に剣を抜き、切り伏せる。


だが……ゴーレムの再生力は常軌を逸している。

切り落としても、断面から大量の魔力の糸が飛び出し、傷口が縫合されるのだ。


「2!」


こうなれば剣で斬るより、全体的な攻撃で後方に押し下げる方が定石。剣に体力の土を纏わせて大きな棍棒のように変化させた。


「1!」


まるでホームランを打つ野球選手のよう、な全力スイング。迫ってきたゴーレムたちを、大量ゴーレムによって出来た塊に中に打ち飛ばした。


「0!」


ゼオは懐から剣を抜き、ゴーレムを切り飛ばして瞬間的ではあるが前に道を作った。その道を逃す訳にはいかないと皆一斉に、前方に走り出す。


ここで置いていかれれば、ゴーレムの群れの餌食。皆それを自覚しているからこそ、我先にと前に足を早める。

そこに規律は無い。情けは無い。命を賭けた渾身の突撃に躊躇いは無い。


転ぶ人が居ても、ゴーレムの手に掴まれて飲み込まれた人がいても、誰も助けようとはしない。

僕らも一斉に振り返り、前へと足を進めた。倒れていく騎士たちを片目に。


残念だけど、申し訳ないけど、この戦場に余裕は無かった。僕は泣き叫び、助けを乞う騎士たちをできるだけ見ないように走った。


見ないように……見ないように……見ないように……


あれ、何だ?


体が……


視界が暗くなっていく。


訳が分からない。意味がわからない。

僕の目の前を走っていたアイやアズの背中がどんどん遠くなっていく。


そして気づいた、僕の体が動かなくなっていた。


足が痺れたかのように痙攣している。

何が……足元を見る。


あれ……針……、


どこで受けたんだろう。

僕の足首に細い一本の針が突き刺さっていた。


毒?麻痺毒なのか!?

この世界に毒何てあるのか?


とにかく回復魔法で治療を……、手に回復魔法陣を浮かび上がらせて針の刺さった足元に近づけようとする。


けど……体が…動かない。

僕はまるで体の制御に慣れていない幼児のように、その場に倒れた。視界が暗くなってく……。


なんでこんなことに……、


「フォス!」


遠くからアズの声が聞こえた。

僕がついてきてないことに気付いたのだろう。今すぐにでも立ち上がって、彼女の元に走りたい。


けど……僕の視界は…



完全な漆黒に染め上がった。


読んで頂き感謝申し上げます。

この話を機に話は大きく転換します。ご期待下さい。

評価、ブックマーク登録、よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ