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第九十話 襲撃について③

風の盗賊団アジト、その周辺に生い茂る木々の中に僕らは居た。時刻は既に午前二時。太陽は完全に姿を消し、視界には1寸先も見えない程の暗闇が広がっていた。


街は一日中篝火などが辺りを照らしているため、ここまでの暗闇の中過ごさなければいけないことは滅多にない。ただこの暗闇だからこそ、見えるものもある。


満点の星空だ。

この世界は、そりゃ日本に比べればずっと星は見やすいし、五等星くらいなら日常でもギリ見えるほど。ただこう言った完全な暗闇の中では、五等星くらいキックリ見える。ここにしかない景色、それがこの場所にはどこまでも続く天空のキャンパスに広がっているのだ。


作戦実行時刻は、午前二時十分。

あと10分後と言うこともあり、皆の表情にも薄らと緊張が見られる。再度の確認のためにも、僕は先ほどの作戦を思い出してみた。


風の盗賊団の襲撃チームは二つ。正面から突入する、フローライトを中心とした騎士団チーム。そしてもう1つは、僕らシルフギルドの冒険者の他、エメラルド、ジェットも所属する、ゼオを中心とした裏口から突入する混合襲撃チーム。


裏口と言うのは、今僕らが数メートル先に確認している小さな入り口だ。ただ入り口というよりは、見た目だけで言うと洞穴のような小さな洞窟。何も知らなければ、魔物の住処なのではと勘違いしてしまいそうだ。


それにこの穴から感じる異様な雰囲気。なんと言うか……人気がないと言うか、生活感を感じない。普通の賊のアジトであれば、見張りなり戦闘員なり誰かしらが裏口の入り口に立っていても何らおかしくはない。


ただそう言った人のいる気配を一切感じないのだ。もちろんいないからこそ分かり辛い裏口だとも言えるわけだが、もうちょっと人の気配を感じたっていいと思う。

まあ……裏口だし緊急時以外使わないってことなんだろう。突撃前にあれやこれやと考えて、勝手に不安になる方が阿呆と言うものだ。


今はもっと他のことに今は目を配るべきだ。例えば……星が綺麗とか、月が美しいとか、何で異世界なのに月や太陽があるのか……とか。いや今はどうでもいいな。


もっと無いのか!?周りをさらに見渡してみる。暗闇とは言え、魔力を目に大量に流し込めば昼くらいの視野は確保出来る。もっと大切な情報があっても……あれ、ゼオの様子が変だ……。というか震えている。


「あの、ゼオさん?」


「ひゃ、ひゃい!?」


声をかけると、ゼオはビクッとした様子で僕の方を増えり帰って来た。


「えっと、緊張してますか?」


「い、いえいえ、そんなことは全くもってありませんよ!申し訳ありません。心配させてしまいましたか?」


「いえいえ、少し気になって声をかけただけですから。」


「ほ、本当ですか!?本当は心配してましたよね!?すいません、仲間に心配させるなんてリーダーとして失格ですね……。」


「いや、本当に大丈夫ですよ。それに仲間に心配させるのがリーダーとして失格な要素じゃありません。」


「……違うと言うのですか?」


「当然ですよ。リーダーが仲間を心配するように、仲間もまたリーダーを心配する。そう言った相互の関係こそがチームにおいて大切なんじゃないですか?」


「な、なるほど……。さ、さすがシルフギルド冒険者様の意見。心に染みます。」


「もしかしてリーダーは皆。フローライトさんみたいにならなければいけないとか……思ってます?」


「ギクッ……」


うわ、この人ギクッて言ったよ。どんだけ図星だったら、口からギクッて言葉が出てくるんだろうか……。

彼女にとって上司はフローライトだし、誰よりも背中を見てきたのもまたフローライトなのだろう。だからこそ予想で口にしてみたのだが、ここまでドンピシャだとは思いもしなかった。


ここは一言、言っておくことにしよう。いや僕だからこそ言っておかなければいけない気がする。


「えっとそれは誤解…ですよ。むしろフローライトさんのようなリーダーは少ないはずですし、他人がフローライトさんになることもできません。重要なのは、フローライトさんを参考にして自分にどう落とし込むか…じゃないですか?」


「な、なるほど……。」


ザオはポカンとした表情を浮かべた。

やべ、言いすぎたかな……。


「すいません、いきなり偉そうに。あはは…参考にして落とし込むなんて、言葉に出来るだけで実際に出来たら苦労しねえよって話ですよね。」


「いえいえいえいえ!私、感銘を受けましたよ。言葉だけでも、言われるかどうかでは違います。少なくとも私はそうでした!」


「そ、そうですか?」


「は、はい!私らしいリーダーと言うことですよね!?はぁぁぁ…本当にその通りです。騎士団長のようになれないことくらい分かってはいるのですが、それでもならなきゃいけないような…そんな気がしてしまっていました。けど……違うんですよね。」


「僕個人の主観にはなってしまいますけど……少なくとも僕はそう思ってます。僕も白金等級冒険者にはなりたいものの、クリスタやコハクのようになれるとは思ってません。けど諦める気もありません。僕は僕なりの道で白金等級になります。だからゼオさんも、ゼオさんらしくリーダーをしてください。僕らはついて行きますから。」


何かくさいことを言ってる気がする。

けど僕はこの言葉を恥ずかしいとは思わないし、疑うことも無い。真実だ。これを否定されたら、昔馬車の中でかけてくれたアズの言葉が、意味を無くしてしまう。

そんなことをしたくはない。これが僕の生きる理由だから。


「ここまで堂々と言われると……へへ、言葉が出ません。ありがとうございます、勇気が出ました。フォスさん!心から御礼申し上げます。今の私なら、誰よりも私らしくいられる気がします!」


ゼオの固い鉄仮面のような表情が、やっとほぐれる。

良かった。やはり会った時にも思ったが、彼女には鉄仮面より笑顔の方が似合っている。


誰よりも私らしくある。

私が私一人なのだから、誰よりも私らしいのは当然。けどその当たり前こそ、いざ自分を見直すとき何よりも大事なこと……僕はそんな気がしている。


時刻は二時五分。

突入まであと五分……、


アズたちと合流し、突入に備える。

突撃メンバーの配置は先頭がゼオ。その後騎士たちが続いて末尾に僕ら冒険者。あくまで僕も冒険者は助っ人なので、できるだけ迷惑や苦労をかけさせないようこの配置。別にそんな気遣いしてもらわなくてもいいのだが、フローライトのお達しらしい。


「ねえフォス、何か嫌な感じがするんだけど……どう思う?」


トントンと肩を叩かれて振り向くと、アズがそんなことを口にしてくる。……今から突入だと言うのに、そんな不安になりそうなことを言うのはやめて欲しい。


ただ……アズの感は鋭いから、気のせいだと簡単に払拭することも出来ない。


「確かにアジトにしては人気が無すぎる……とは思ってる。けど裏口だし、そこまで変じゃないかなって。」


「ええ、まあそれはそうよね。けど違うのよ…そういう事じゃなくてもっと漠然とした嫌な感じって言うか……ね、分かるでしょ?」


分からん。分からんけど……アズの言葉を疑うつもりはない。彼女が言うのなら、そういうことなのだろう。

ただそのアズの問いに意外にも反応したのは、アイであった。


「分かるにゃ!うちもそんな気がしてたにゃ!」


「アイは分かってるのね。やっぱ獣人だし、野生の勘?」


「そう言われると、獣人全員がそういう力を持ってるみたいに聞こえるにゃ!違うにゃ!これはうちの才能にゃ!」


「別に御託はいいのよ。」


「別に御託じゃないにゃ!真実にゃ!」


アズとアイが睨み合う。

ゼオはあんなにも緊張していたというのに、アイとアズはいつも通りだ。


「嫌な感じってマジ!?フォスっちも、もしかして気づいてる!?分かってないのってうちだけ!?」


「いや、僕も何も……けどアズとアイが言うってことは、そういうことなんだろうね。」


「うへ~、怖!?ジェットも同じこと、思ってんの!?」


「……魔族の気配が薄らあるような…曖昧すぎて断言はできませんが…。」


「ジェットが言うなら、マジじゃん!やっぱ魔族が関係してるって言ってたように、絶対魔王軍の幹部がいるんだ!怖すぎでしょ!」


エメラルドン騒ぐ様は、どうにも怖がっているようには見えない。むしろワクワクしているような……。


「とりあえず恐怖したところで作戦は変わんないんだから、いつにも増して注意するしかないわね。ジェットも魔族が出てきても、手抜いたら殺すわよ。」


「……分かってます。大体…手を抜きたくても、この首輪のせいでできないじゃない…です…か。」


ジェットは少し不服そうに、視覚できない首輪を撫でる。ジェットの言う通り、彼女自身何か僕らに害のある行動をしたくても、首輪の効力でできないはず。


ただ……正直この首輪はただ奴隷の首輪ではないため、僕らも勝手が分からないのだ。本来の奴隷の首輪では、先ずこんな風にご主人様がそばに居ない状態で、これほど自由に行動できない。


本来の奴隷はご飯を食べることも、寝ることも、主人の許可なく行うことはできず、本当に人と言うよりペットとかロボットとかの方が扱いが似ている。

こんなに自由に行動し、会話も仕草も一般人と誤差ないことなんて普通の奴隷じゃ考えられないのだ。


だからこそギルドマスターの技術力は凄いという話なのだが、同時に自然すぎて簡単に裏切れるんじゃないか……そんな気もしてしまうのである。


「にゃは~、ジェットってうちらの味方でも、心のうちは魔王軍万歳って感じなのかにゃ?」


「当然…です。私は魔王様に忠誠を誓った身、体は帝国の犬かもしれませんが……心はいつでも…魔族とともに…あります。」


つまり体は自由にできても、心までは自由にできると思うなよってことか。異世界テンプレ女騎士みたいな発言だな……。


「えーじゃあ本当は、うちらと一緒に風の盗賊団を討伐するなんて、したくないってこと?」


「……当然…です。魔王軍幹部が関わっているとなれば尚更…したくないです…。ただ……」


「ただ?」


「魔王軍幹部と戦ってみたいと言う……個人的な関心はありますけど…いひっ、ひひひっ…。」


ジェットは不気味な笑みを浮かべる。そして懐から彼女の身長よりも大きな、禍々しい漆黒の斧を取り出した。

間違いなくオリハルコン性の代物。そして特徴的な大きなドクロ。


怖!?笑い方も斧も怖!?

シルフの魔法によって彼女から禍々しい気配を感じ辛くはなっているのだが、それでも一瞬、体が震え上がりそうな寒気を感じた。


ギルドマスターの魔法を貫通するほどの、圧倒的な気配。なるほど…ヒスイやラリマーが死にかけになりながらも無力化した……と言うのも、今なら納得が行く。

この子は確かに……化け物だ。


「このアジトの気配も怖いけど、ジェットから感じる気配の方が怖いにゃ……。」


「そうね、今つい弓矢を構えたくなったわ。」


「ジェット、怖ぁ……。」


三人もさすがのジェットの気配に、うっすらと苦笑いを浮かべていた。近くにいた数人の騎士も、僕らの方を振り返ったほど。ここまでの気配を持つ少女が、今は味方かと思うと少し心強い。


そして……


時刻はついに、二時十分を迎えようとしていた。



とうとう九十話です。読んで下さっている方に心から感謝を。

百話まであと少し。見守ってくれると幸いです。

評価、ブックマーク登録、お願いします。してくれないと号泣します。

誤字あると思いますので、報告して下さると嬉しいな。

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