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子爵家当主の変貌…

カミーユが王都より双子を連れて実家のマルケス子爵家に戻った事は、子爵家に1つの変化をもたらした。


子爵家当主のフェルナンド自身が、双子の教育に積極的に関わりだしたことだ。


ある日の事、執事のガストンは中年の侍女長アンナを伴って執務室に向かった。


軽くノックをし入室すると、椅子に座り双子を両手に抱えた主のフェルナンドが居た。


しかしながら、フェルナンドは2人の入室には気がついていない様子だ。



フェルナンドが攻撃を開始した。「べろべろ〜、ばぁ!」

髭面の口から、舌をべろべろっと左右に動かせながらアルフォンスの顔を見つめる。



アルフォンスはフェルナンドの口撃を交わしつつ精神攻撃で反撃をする。

「あぶ〜!」


アルフォンスの口撃をまともに喰らった、フェルナンドの威厳が10ポイント減った…「ぐっ!」


しかも、アルフォンスの笑顔で「好々爺になる」魔法をかけられた。


フェルナンドは、今度はクリスティーヌに口撃を開始する。「いないいない〜、ばぁ!」


顔を左右にスライドさせ頬を揺らせながらクリスティーヌの顔を見つめる。



クリスティーヌもフェルナンドの口撃を交わしつつ精神攻撃ををする。

「だ〜っ!」


クリスティーヌの口撃を喰らった、フェルナンドの威厳が10ポイント減った…「う、ぐっ!」


クリスティーヌの笑顔で「好々爺になる」魔法を更に重ねがけさせられた。


双子の反撃でフェルナンドは「威厳ある領主」から、「孫に甘い爺」にジョブチェンジをさせられた。


ガストンとアンナは、今のやり取りを見た事により経験値が付きレベルが1上がった。


そして、ガストン・アンナ共に精神攻撃の耐性が1ポイント上がった…



な〜んてやっているのを、執事のガストンと侍女長のアンナに目撃されてしまったのだ。


「おっ、お前らノックもしないで勝手に…」


「いえ。ノックをして声がしたので入ったら、この有様だったのです。」そう答えるガストンの横でアンナは固まったままで、生き返るまでしばし時間を要した。


その後、子爵邸では衝撃が走った。「まさか閣下が…」とか「旦那様に限って…」とか。


今まで、かつて見たことの無い姿を表したのだ。


子爵夫人のアリエールでさえ、まさか自分の夫がそんな行動をするとは思いもよらなかった。


自身の娘であるカミーユの子育てでも、そんな姿は見せたことが無かったのだ。


次期当主として教育中の、カミーユの弟ミシェルも同様だった。どちらも乳母任せだったのである。


孫が可愛いのと噂の火消しの両方?で開き直った子爵フェルナンドは、家臣の前でも隠さずに双子と関わりだした。


孫を可愛がる、どこにでもいる「祖父」となったフェルナンドであった。




マルケス子爵家は王国の西部諸侯の全体では、領地面積で見ると中堅クラスの領地貴族であり、この海沿いのコレーズ州では筆頭貴族である。

 

コレーズ州全体を3000m級の西バスディア山脈が弧を描くように囲んでおり、外洋に面した大きな湾が特徴的だ。


山脈が天然の要害となり、幾度となく陸路からの軍事侵攻を阻んできた。


なので、外敵に対する州内の領地貴族全体での軍事面での協調性は高い…、3代前のウェスタ王国国王が率いる騎士団によって平定されるまでは。


平和な世になり、他家の軍艦乗りの中には商船や漁船に乗り換える乗組員が多く居た。

その為、航海技術はそのままそれらに受け継がれることになった。


ちなみに、ヴォージュ湾は北からの冷たい海流と南からの暖かい海流とが湾の中で混じり合う好漁場。


小さな魚から大型の魚まで、北の魚から南の魚まで。


大衆魚から高級魚まで、沿岸漁業から遠洋漁業まで。

 

磯で海老や貝を専門とする海女も、昆布やワカメなど海藻を専門とする漁師も。


それぞれに専門とする漁師がいて漁船の大きさも大小様々である。


もちろん、人の手が入った豊かな山や里があることで海の栄養が富み、最終的には魚が増え水産業は盛んに行われている。


取った魚は、港町ヴォージュの漁業ギルドが運営する魚市場で競りにかけられ、仲卸業者の魚屋が買う。

 

それを小売店に売ったり、加工業者が加工場で干し魚などの干物にして海外貿易の商品にしたり、州内外の山沿いの他領に売ったり。




余談だが。

漁業ギルド・ヴォージュ支部が、他国で大金を叩いてスカウトした氷魔法を使う魔導師に作らせた氷によって、少しは遠くまで運べるようになった様だ。


最近は魚ごと凍らせる技術を模索中らしいが、販売先の魚屋や料理屋のコックの解凍技術が確立されてないと聞いている。


だが、そう遠くない時期にはこの海で取れた魚が王都の庶民の食卓に並ぶことだろう。



時に、ヴォージュで釣られ加工された高級魚の干物が、遠く王都の貴族屋敷まで運ばれることもあるのだ。

 

この州の漁業者が国民の食を支え、また食文化の継承に寄与している事は間違いが無い。


マルケス子爵領がコレーズ州の平地の半分を領地として持ち、水稲や小麦など穀物を中心に農業を行っている。


山脈からの雪解け水を蓄えた豊富な伏流水が、農地や生活水を潤す。


この水は漁業の為でもあるが、農家を富みさせる水でもある。


多くの農家が所属する農業ギルドが、気候に合った農産物の開発や肥料販売・農家に対する農業技術指導を行っている。


農業ギルドの下部組織である、村単位で農家自身が役員を務める農地管理を行う農業委員会や、川の水を溜池に入れたり水路に流したりと農業用水に関する事をする水利組合とも緊密に連携をしている。


もちろん採れる収穫量によって税収が変わるので、子爵家の税務担当者も常に会議や研修会に顔を出している。


農業ギルドが運営する青果市場では、生鮮野菜に果物・日持ちがしないものについてはジャムや干し野菜などに加工して販売している。    


あと、製塩には力を入れており、ヴォージュ郊外の漁村を開拓し一大産業として育てている。


ヴォージュは街道が通っている事、国内・国外の航路があることから食品を中心とした州内の一大集積地として発展を遂げてきた。



コレーズ州自体が海沿いの辺境であるので、子爵家より下位の男爵家・準男爵家・騎士爵家がほとんど。


それらの諸家では平野を領地とした貴族はまだ穀物などを生産できるが、山間地を領地とする家では果物やキノコ・高地栽培の葉物野菜などを作っている。 


また、山脈にある鉱山から僅かに出るミスリル鉱石などの鉱物は、王都に運ばれ有名なドワーフ族の鍛冶職人の手によって高価な武具にされている。



産品の販売に領都エピナールまで街道や川舟利用し、ヴォージュ港の倉庫に一度集められる。


相場が上がっている場合は特別料金を払って、マルケス家の海軍が単独で荷を運ぶ事もある。


この方が、船足が遅い商船を使うより速いからだ。


普段は中型艦一隻を旗艦とする小型艦5〜6隻の艦隊が、商船護衛任務に付くことが多い。

 

マルケス家の海軍は、南からの季節風の吹くタイミングで王国西部沿岸を北上し北方諸国にまで遠征をするのだ。



もちろん、風向きによっては南半球のオワーズ王国等に行く事もあるが。


大型艦の3本マストに子爵家の黒豹の紋が入った旗を掲げ、威風堂々と艦隊行動をしていると、時々出没する海賊もよって来ない。


海賊は生け捕りにされたあと、奴隷商人に売られ「犯罪奴隷」として鉱山や紛争地の最前線に送られる。

当然、構成員の居なくなった海賊団は壊滅させられる。

海賊行為で得て溜め込んだお宝を没収し、更に海賊船まで戦利品として取られてしまうのだから…



民間船の脅威となる海賊退治をすると、他国を含む国家から褒めてもらえ。

商船を運行する商船ギルド、荷主の商業ギルドからも喜ばれる。 


海賊から見ると、黒豹の旗を見たら「逃げるが勝ち!」なのである。


一応は「海軍の軍艦」なのでの軍事訓練もするが、そのオマケで「交易」もやると言う建て前である。


北方諸国まで足を伸ばすと、北半球の国交の無い国の珍しい産品が入ってくる。


そういう品は自領の商業ギルドに卸したり、中継貿易を行っているサントマリー島の商業ギルドに卸したりする。


まあ、直接王都まで行って、王都で子爵家が経営する商会で荷を捌くことも多いが。


その方が「直接経営」なので、実入りが多いので。


しかしながら軍艦は維持管理や一定年数ごとに新たな造船もあるので、出費もそれなりに多いのだが。


プラスマイナスはあれども、貴族の中では中級の子爵家ながらマルケス家の懐は他所よりは温かいのだ。




しかしながら、その軍事力も経済的にはバカにならないのだ。


攻撃魔法や回復魔法を使える魔導師は、適正があるという条件の元幼少期より専門教育を受けなければならない。


1人の魔導師を育て上げるには、それなりの時間とお金が掛かる。



そんな魔導師が多数乗り込んでいるからこそ、他家の軍艦のマネができない長距離からの先制攻撃が出きる。


通常多くの軍船では、弓兵の攻撃がメインだ。しかも、船も風向きを読みながらある程度接近しないと攻撃できない。



こちらは魔導師部隊を配置することにより、離れた位置から一方的に攻撃をかけられるのだ。


もちろん、剣や戦斧を使う白兵戦に長けた海兵隊も多数乗り込んでは居るが。


屈強な海の男は港に入ると、熟女から幼女まで「キャ~キャ~」言われるのだ。


そんなモテる先輩士官を見て入ってくる他領出身の若者は、訓練の厳しさに毎年一定数辞めていくものも多い。


中途半端な奴はモテないのだ。




ちなみに、陸路でも最大消費地の王都や他の高位貴族の領地にも街道で繋がってはいる。


街道は山沿いの裾野を通り、近いが西バスティア山脈の高低差がある。

脇街道は浜街道と呼ばれ海沿いを通っていて高低差は少ないが道が細く、かなり遠回りになる。


州の経済を一手に担っている強面の子爵家当主の御機嫌を損ねると、自領の貨幣が循環しなくなるし生活必需品も領内に回ってこない。


経済的に立ち行かなくなるのだ。



山間の、これといって産業のない下級貴族にとっ「塩止め」などされた日には、領民の健康に害が出るのは必死である。



「王宮帰りの、娘のスキャンダル」と言う、娯楽の少ない辺境貴族にとって子爵の足を引っ張る絶好の材料だったがその手は使えなくなった。


しかも、子爵自ら背に背負って寝かせ付けやおむつの交換などしているなどと話が聞こえてくると、噂はみるみる萎んでいった。


誰しも「怖い人」にはニコニコしていてもらいたいと思うものだ。


なので、思ったよりカミーユ帰宅による混乱は起こらなかったと言えよう。





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