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カミーユの帰還

続けて第2話です。



カミーユは、実家の子爵家の顔見知りの騎士に率いられた兵士の一団に護衛され港に現れた。


ただし、行先はカミーユが思っていた商港ではなく王国海軍が使っている埠頭だった。


商港から少し離れた軍用の埠頭は、周囲の目に付かずコッソリと領地に帰るカミーユにはうってつけだった。


王は細かいところまで指示をしてくれていた。


カミーユの荷物も、纏めて埠頭に荷馬車で送ってくれていたのだ。


船は実家のマルケス子爵家の軍艦で、3本マストの中型帆船である。


領地海軍が使ってる艦の内の1隻である、訓練がてら交易も行っている。


純粋に軍事訓練だけを行うなんて、地方貴族のお財布事情では難しいのである。


いや、王家とて海外の植民地から艦隊を動かし珍しい荷を運んで交易をしている。


とにかく、交易は儲かるのだ!


そんなことは大型艦を持っている海軍だからできることで、地方領主だといいところ沿岸貿易が関の山で…。


しかし、それが出来るのも海沿いに領地を持つ貴族のみで…


内陸の領主は、海沿いの領主に委託料を払って販売してもらうか陸路を使うしかない。


それも、街道が整備されていてという条件の元である。


やはり物品を大量に移動させ、販売するのにはやはり海運なのだ。

 


カミーユからの王都に来てほしい旨の手紙を受け、運ぶ荷物を前倒しして航海してきたと想像する。


領地の産物を船倉いっぱいに積み込み、王都での拠点でもあり子爵家が経営する商会に卸したのであろう。


帰りは、領地で消費される物資を積み込んでいる。帰港後には商業ギルドに卸し、そこに所属する領地の卸商人が小売商会や行商人に販売をするのだ。


いま、カミーユの荷物は侍女が。他の販売物資は屈強な兵士と港湾人夫が艦の船倉に積み込んでいる。


10数tもの荷物を積み込むには、彼らを持ってしても丸一日かかるだろう。


まあ、積み込み自体は昨日からやってるみたいなので、もうすぐ終わるような事を言われたが。


カミーユ自身は艦長室を充てがわれ、実家のベテラン侍女2人がアルフォンスとクリスティーヌをあやしてくれていたので、一緒にそこで過ごしていた。


やがて、出庫準備が整ったのか先程の騎士がやって来た。


「姫様、お待たせを致しました。まもなく出向今します、風向きも良いですし。」


「ご苦労さま。やっとまともに話ができるわね、エトワール。」


「姫様におかれましては、王宮でのこのような仕打ち…。私は、うっ…」中年の騎士エトワールは遂に泣き出してしまった。



「泣かないで、エトワール。気持ちは嬉しいわ、私の代わりに怒ってくれてるのよね?」


「…はい。私どもがついて居れば、姫様を手篭めにするような輩を…。」


「もう、過ぎたことです。貴方も当家を代表して陛下に謁見した際に直接謝罪を受けたのでしょう?もう良いのよ、赤子には罪はないわ。陛下からも父上に向けての手紙も預かり謝罪金も受けとったのだから。」

カミーユは、王とソフィアの作文通りの筋書きを話していく。


嘘も100回言えば本当になる?様に。


「わかりました。このエトワール、命に変えてもお子様のお守りをさせて頂きます。しかし、双子とは珍しいですな。」


「別に無くはないわ?そうね、絶対数は少ないかもだけれど。二人共目元なんて似てるでしょ?」


「そうですな。姫様に似て可愛い赤子ですわぃ。」


やがて、領地エピナールに向けて帆を上げた。


カミーユはアルフォンスとクリスティーヌが寝た時に、甲板に出てみた。


マストの物見係の士官が遠くを見て、海面や空中に異常が無いかを見張っている。


まだまだ、外海に出ていない内湾の中なのでそれほどの危険な海域ではないが乗組員は皆真剣な顔つきをしている。


艦長にも挨拶をし、航海の安全と館長室を譲ってもらった礼を述べた。


やがて2日目の陽が暮れる頃、中継地点のサントマリー島の桟橋に錨を下ろした。  


ここを過ぎるといよいよ外海に出る。


ここサントマリーでは潮待ち風待をするのだ、大型艦でなければ夜間は外洋を航海をすることは少ない。


多数の魔術師が乗り込んで探知魔法を使い、海面海中の障害物を確認しながでないと夜間の外洋は危険なのだ。


艦長は副長を呼び、副長をリーダーとし数人の士官と騎士エトワールを上陸させた。


この小さな島には商業ギルドの支部があり、航海の情報に商いの情報と確認事項がたくさんあるのだ。


もちろん、カミーユは艦長室でお留守番である。



上陸した副長一行とエトワールは夕暮れの町中を商業ギルドに向けて歩き出した。


「おう、マルケス子爵家だ。あと、これがギルド証な。確認してくれ。」副長はカウンターに居た受付嬢にギルド証を渡す。


「はい。ギルド証を確認いたしました。今日はどのようなご用件でしょうか?」


「この先の海の情報が知りたい。魔物や海賊もだな。あと、風はどうか?この町の気象官の意見は?」


海沿いのギルドでは経験豊富な気象官が雇われている、三角帆を付けているとはいえ逆風に向けて進路を取るのは時間が無駄になる。


また、嵐の予報などは確認しておかないと船を失うことになる。


「かしこまりました。風はこのあと一週間ほどは南から北に吹く風になると思われます、そう強くはならなさそうです。ご領地に帰られるなら問題はないかと思います。」


「了解した。あと、今不足してる産品はあるか?我が領地で賄えるものなら、次の航海で持ってくることもできよう。」


「そうですね。ご領地の産品で、食品ですとチーズ・ワインですかね。大陸南部のオワーズ王国で流行が起きつつあります。他にも食品が儲かりそうかと。」


「そうか、ありがとう。子爵様に報告書を上げておくよ。もちろん、情報提供者の君の名前もね。」


「宜しくお伝え下さいませ。」


「では、またな。」


副長はそう言うと、士官を引き連れ酒場に向かうと言う。


ギルドでは入ってこない船乗りの情報を仕入れに行くのだ、単純に共の士官に酒を飲ませストレス発散もあるだろうが。


「エトワールさん、あんたはどうするね?我々は酒場に行ったあと、こいつらは娼館に行くのだが。」


「俺は娼館はいいよ、若いやつで楽しんでこい。いいなあ、俺も若くて嫁が居なければな…。」


「まあ、そうだな。では、朝までには帰艦しろよ。」


「うむ、了解した。」


エトワールは、カミーユから玩具を頼まれていたのだ。


まだ小さな子供のいるエトワールには、楽しい仕事だった。


いくつかの商店を回り、男の子のと女の子のをそれぞれ購入できた。


ついでに本屋にもより、絵本を探す。


王国北部で生産される紙は紙漉き職人によって作られ、王都の絵本作家が文を書き絵を書く。


割と高い代物だが、重要な輸出品の一つとなっていた。


エトワールは、文字を覚えられるような絵本を選んだ。


これは、ウチの息子も欲しがるかもと思い小遣いから息子用にも1冊購入したのだった。


艦に戻ったエトワールは、カミーユに買ってきたおもちゃと絵本・そして領収書とお釣りを渡す。


ついでだからと買ってきた、自身の息子用の2〜3歳用の子ども用の絵本も見せた。


「あら、いいお買い物をしたわね。エトワールにしては趣味がいいわよ?」


「そうですか?なにか、探している内にウチの愚息の顔が浮かんできましてね。」


「領収書があるなら、公費扱いにするわよ?」


「いえ、コレは私からの息子へのプレゼントとしますよ。」


「そう、わかったわ。」



やがて夜が明け、副長以下の士官も帰艦した。


朝食を取っていると、艦長から風向きが良くなったので出港する旨を伝えられた。


とは言え、「お客さん」であるカミーユは特にすることはなく。


夜間の航行を避け、小さな港で停泊をしながら3日後の夕方には、領地のヴォージュ港に着いたのである。


この日はそのまま、艦で宿泊し手配してもらった馬車で一日かけ領都のエピナールに向け出発する。


艦長に無事の航海の礼を言うと、「当艦にお迎え出来て光栄でした。」と答えられた。


港の埠頭には既に港の商業ギルドの支部の人間が居て、朝早くから獣人の人夫が荷降ろしをしていた。


一部の商品は検品の後、午後には商店の店先に並ぶのだろう。


積むのに一日かかるなら、下ろすのも一日かかるであろうから。 


定期運行外の航海だったから、不足していた商品でもあったのだろうか。


恐らくは、カミーユが出発したあとは各商会や行商人の荷馬車が埠頭に集まるのであろう。


中には街道を通って、隣領などにも行く商品もあるのかもしれない。


そんな埠頭に、カミーユが乗る子爵家の立派な馬車が場違いに数台停まっていた。


カミーユは2人の子を抱き、馬車に乗り込む。


座席に座り、対面の席に座る侍女にクリスティーヌを預け自分自身はアルフォンスを抱いた。


そして、エトワールが馬に跨り長槍を小脇に抱えた。


徒士の兵士はアキレス腱を伸ばしたり、徒歩での移動に必要な準備運動を終わらせて短槍の柄を握った。


これからエトワール率いる数十人の兵士に護衛されながら、領都までの約20kmを移動するのだ。


「総員、出立!」


エトワールが号令をかけると、「おう!」と兵士が槍を高く持ち上げて声を上げた。


エトワールと半数の兵士が馬車列の前にでる。


残り半数は車列を挟み、後ろで殿を務める。


馬車はゆっくり進む、街道はよく整備され馬車はそう揺れなかった。が、なにせ乗客は赤子なのだ。


丁寧に走るに越したことはない。


半分を過ぎた頃、休憩の為宿場町に着いた。


しばし、食事休憩だ。


馬と人の。


「おう、エトワール!」


宿場町の街道から騎馬隊を率いた小隊が現れ、エトワールに声をかけた。


「姫様の護衛か?」


「そうだ。」


「姫様にご挨拶をするのは可能だろうか?聞いてみてはくれないだろうか?」


「少し待て。」


そう、エトワールに言われると馬上の女騎士の小隊長は「総員!下馬し、姫様に礼を取れ!」と号令をかけ自身も馬から降りた。


「姫様、宜しいでしょうか。」


「どうしましたか?」


「騎士クロエが、ご挨拶をしたいと参っております。」


「構いませんよ、馬車から降りましょう。」


そう言うと、カミーユはアルフォンスを抱いたまま馬車を降りた。


「姫様、お帰りなさいませ。叶うなら、領都までご一緒をさせて頂きたく。」跪いて礼を取る女騎士クロエ。


「頭を上げなさい、騎士クロエ。領都までの行動を許します。」


「有難き幸せ。」カミーユの目を見て安心した様な顔でクロエは微笑んだ。


「クロエ、食事は取りましたか?」


「いえ、まだこれからでございます。ですが、我等は携帯食を持っておりますれば。」


「そうですか。エトワール、少し出発を遅れさせることはできますか?クロエの小隊が、食事を摂る時間があれば良いのですが。」


「そのくらいなら、可能かと思います。」


「そうですか、ではその様に。皆さん、領都までよろしくお願いしますね。」


カミーユはクロエの後ろで下馬し礼を取ったままの騎馬隊の隊員に労いの声をかけた。


「はっ。」


エトワールとクロエの一行の小休止の後、護衛を増やしたカミーユの車列は残り半分の道程を進んだ。



クロエ小隊が先に街道の不審者やモンスター等が居ないか、チェックしていたおかげで少し早く領都に着くことができた。




「閣下、姫様がお着きになられました。」窓から外を見て馬車列を待っていた執事のガストンが子爵に声をかけた。


「うむ。直ぐにカミーユをここに通してくれ。」


「かしこまりました。お迎えに上がります。」



「姫様、お帰りなさいませ。閣下がお待ちでございます。そのままで良いとのこと。」屋敷の玄関で老年の執事のガストンが待っていた。


「分かりました、行きましょう。」カミーユも直ぐに返事をする。


「エトワール、クロエは父上との話が終わってからの報告になるわね。ゴメンね、待たせてしまうかもだけれど。」そう言うと侍女に抱かせていたクリスティーヌを左手に抱き、階段を上がっていく。


父の執務室の前に来ると、執事のガストンがノックをし返事を待ってドアを開けてくれた。


「父上、ただいま帰りました。陛下から手紙も預かっております。」と王から父宛の手紙をガストンから渡してもらう。


「ふむ。陛下からの謝罪文だな。亡くなったソフィア様の文も同封されておるな。」手紙を読んだ父上がそう言った。


「えっ、ソフィア様からの文も?」


「なんだ、知らなかったのか?」


「少なくとも、ソフィア様の文は存じませんでした。」


「どちらも、丁寧に謝っておいでだ。王の責任であると、お前の人生を台無しにしてしまったとな。しかし私も、これを読んだらお前を叱るわけにはいかない。上意に背くことになる。その子達がお前の産んだ双子か。どれ、抱かせてはくれまいか?」


「はい、どうぞ。」


「事はどうあれ、お前の産んだ子なら儂にとっては孫だ。どうせ、父親のことは言えないのだろ?社交界では色々と言われるかもしれんが、この田舎では関係ないさ。人の噂も七十五日と言う、そのうち口にしなくなるさ。ほう、笑ったなぁ。どちらも可愛い儂の孫だ。」父上は好々爺な笑顔でそう言った。


この父上に本当の事を。アルフォンスの両親の事を、クリスティーヌの父親のことを話したらきっと腰を抜かすに違いない。


少なくとも王によって、アルフォンスが王都に召還されるまでは黙っていよう。


改めて心に誓った。

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