二分の一の代償
エフ氏はとある装置を開発した。それは、どのようなものであってもそれに吸い込ませれば、二分の一の大きさの物を二つ生み出すという装置だ。例えばこの装置におにぎりを吸い込ませると、全く同じ形で、大きさが二分の一サイズのおにぎりが二つ出てくるのである。
こんなおかしな装置をエフ氏が開発したのにもわけがあった。
もともと細かい性格であったエフ氏は、食べ物などを取り分ける時に、その量に差が生まれることに納得ができなかったのである。ケーキを切る時にナイフにつくクリーム、ピザを切り分ける時のスライサーにつくチーズ。それすらもエフ氏には我慢ができなかった。
その点この装置を使えば、お皿とセットで二分の一サイズの食べ物が出てくるので何も無駄にならない。エフ氏にとってはまさに理想の取り分け方だった。
ただ一点、エフ氏はこの装置を使う上でルールを決めていた。それは生き物に対しては使わないということだ。どのような結果になるかわからなかったし、倫理的な問題も存在するであろうことは明らかだったからだ。
実際のところ、食べ物を取り分ける以外に実用性はほとんどなかったが、エフ氏は自分の発明に大いに満足していた。
そのようなわけで、以前と比べてストレスがだいぶ少ない暮らしを続けていたある日のこと、エフ氏は自宅に友人を招くことになった。その日は天気も良かったので、友人と自宅の庭でお茶を楽しむことに決めた。
そして、エフ氏が茶菓子として用意したケーキを分けるために装置を使おうとした時、誤ってそれを地面に落としてしまった。すると突然、エフ博士は激しいめまいに襲われ、地面に立っていることができなくなった。そして目の前が真っ暗になった。
しばらくして目が覚めたエフ博士は、何か自分が取り返しのつかないことをしてしまったのではないかという不安に駆られた。慌てて辺りを見回したエフ博士の目に映ったのは、まだ分けられていないケーキ。自宅の庭の草花。そして自分の家。そのどれにも異常はなさそうだった。
周囲の状況に変化が無いことに安堵したエフ氏は一息ついて空を見上げた。雲一つない青い空、その中にたった今生まれたばかりの青い星が隠れていることを、エフ氏はまだ知らなかった。