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片思い

「シャーリー、ごめんね」

セドリック様はポツリと呟いた。


[こんなにも良くしていただいたのですから、謝ったりしないでください]

そう言う代わりに、私は小さく左右に首を振った。

抱きしめられているため、セドリック様の肩先に私の髪がサラサラと触れる。


「君がこの5年、ずっとそんな気持ちを抱えていたなんて…。僕は思ってもみなかった。辛い思いをさせてしまったね」

セドリック様がご自分を責めるように言うので、再度私は首を左右に振る。


決してセドリック様のせいではないもの。

私がこの5年の間、心苦しさを抱え続けることになったのは私のせい。

私が間違った自信を持ってしまったから。

初めにちゃんと確認を取れば、こんなことにはならなかったのに。

セドリック様にご迷惑をおかけしているのは私なのに。


せめてあの日、あの言葉を聞いた後すぐに扉をノックしたらよかったのだ。

セドリック様に[今の話、聞かれた?]と気付いてもらった方が、今よりずっとすんなりと事が運んだはず。


初めてお会いした見惚れてしまうほど端正な顔立ちの王子様。

物腰も柔らかくて優しくて、10歳の私は胸が高鳴った。

けれど、その思いは形を持つ前に消さなければならなかった。

だからせめて、少しでも時間が欲しかった。

私の動揺なんて、どうだっていいことじゃない。

心を落ち着けたかったんじゃない。

ただ私は傷付きたくなかっただけ。

だからあの場から逃げ出したのだ。


セドリック様が固い声で問いかけてくる。

「ちゃんと言わないと伝わらないよね。長くなるけど、聞いてくれるかな」

いよいよ真実が告げられる時が来たのだ。

この5年、この日をこの瞬間を待っていたはずなのに…。私の心臓は跳ねた。

けれど、もう逃げ出してはいけない。

私は静かに頷くことで応じた。


しばらくの沈黙の後。

セドリック様は言った。

「僕はシャーリーが好きだよ。あのお茶会の前から、今もずっと。お茶会が開かれる少し前、君は城内のベネット侯爵の仕事場に来たことがあっただろう?その時に見かけて、一目で好きになったんだ」


え?

今日は予想外のことばかり起きているけれど、このセドリック様の発言が一番予想外のことだった。

セドリック様が私のことを好き?

お父様の仕事場に来た私を見かけて、一目で好きになった?


小さい頃、言われてみればお父様の仕事場に行ったことがあったなあと思う。

何か理由があってのことだったとは思うけど、何であったのかまでは思い出せない。

きっと私にとっては、特に劇的なことでも何でもないことだったからだろう。

記憶の奥底に埋もれていた出来事だった。


「君が侯爵のことを『お父様』と呼んでいたから、ベネット家の子なんだと分かった。君を見かけてからは、それとなく侯爵に聞いて、名前がシャーリーで歳は僕の1歳下だということも分かった。僕としてはこっそり行動していたつもりだったんだけど、父上や母上にはお見通しだったみたいだ。あの時のお茶会には実は、父上と母上の“シャーリー嬢とセドリックを会わせてあげよう”という狙いもあったんだよ」


まさかあのお茶会に、そんな意味があったなんて。

今まで考えたこともなかった。

だけど…。

あの日、セドリック様は私の前に姿を見せなかったはず。


「『あの日、会ってないじゃない』って思っているかな?そうだよね。そう思うよね…。もちろん話しかけに行こうと思っていたよ。でも、いざ話そうと思ったら緊張してしまって…。遠くから君を見ていることしかできなかったんだ。せめてもの気持ちで、友人達に僕の代わりに話しかけに行ってもらったんだ。そうしたら、あいつらシャーリーのこと『かわいい、かわいい』って。それを聞いて焦ってしまって、婚約を結ばなきゃと思ったんだ」


私の知らないところで、そんなことになっていたなんて…。

理解がなかなか追い付かず、どう反応するのがいいのか難しい。


だけど…。

聞いてみなければいけないことがある。

そう思って、私はどうにか口を開いた。

「あの…。私の全く知らない話ばかりで混乱してしまって…。なんて言ったらいいのか分からないのですが…。でもこれを聞かなければ何も進められないと思うので、質問させていただきます」

私は一旦話すのを止めて、一呼吸置いてからまた話し始めた。


「セドリック様。私があの日、扉の前で聞いた『なんでよりによって、あの子なのか』という言葉はどうなのでしょうか?あの言い方からは、私への好意を全く感じられませんでしたよ…?」


そうなのだ。

セドリック様は私に対する思いをこれほどまでに伝えてくれているけれど。

では私が扉の前で聞いてしまったあの言葉は、一体何だったというのだろうか。

決して聞き間違いなどではなかった。


「ああ、それはね…。あの言葉には前後があるんだ。あの時、僕の部屋に侍女がいたのを覚えていないかな。生まれた頃から見てくれている人だから、僕の気持ちはお見通しでね。シャーリーがもうすぐ“自分の部屋に来る”ということにソワソワしていた僕を揶揄ったんだ。図星を突かれた僕は恥ずかしくて。とぼけて発したのが、あの言葉だったんだよ。その言葉をまさかシャーリーに聞かれてしまっていたなんて。本当に間抜けな話だと思う。僕があの時、素直に気持ちを表していれば…。悔やんでも悔やみきれない」

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