突然の知らせ
別の作品を書いているところなのですが、ふとこの話が浮かんだので、書いておくことにしました。
長くならないです。
私は今日、とある計画を実行する。
ここに来るのもこれが最後になるのだなあ。
見慣れた大きな門をくぐりながら、しみじみと思った。
この5年のことを考えると、もちろん安堵の気持ちが大きい。
けれど、その一方でほんの少し寂しさを感じているのも事実だ。
ベネット侯爵家の次女として生まれた私は、両親から蝶よ花よと育てられた。
その上、少し年が離れている兄や姉からも「かわいい、かわいすぎる」と存分に構われ、執事や侍女など屋敷の使用人達からも「私たちの天使。シャーリー様」などと言われ…。
とにかく周囲から溢れるほどの愛情を注がれて育った。
隙あらば甘やかそうとしてくる周囲の人々と私との攻防の日々。
大きくなった今、幼い頃のことを考えてみると、とんでもない環境だったように思う。
あんなに甘やかしてばかりいては、ダメな子になってしまう可能性がありましたよ?
水をあげすぎると枯れてしまう草花だってあるのですからね。
その危険性については誰も考えなかったのだろうか。まあ、考えなかったのだろうな…。
そのような中で育った私だけれど、幸いなことにとんでもない“わがまま娘“には育っていないと思う。
自分で言うのもなんだけれども。
それは周囲のみんなが私に愛情を注いでくれるのと同じように、私もみんなのことを大切に思っていたから。わがままなんて言おうと思わなかった。
立派なお父様、素敵なお母様の娘として。
優秀なお兄様、美しいお姉様の妹として。
心優しい使用人が仕えるベネット家の令嬢として。
みんなの誇れる存在でいたいと心から願って、教養も身だしなみのことも、たくさんたくさん努力してきた。
けれど…。
その頑張りの結果、裏目に出てしまったことが1つある。
10歳のあの時、私は[努力した結果、令嬢としてあるべき姿になれているからだ]などと思ってしまった。
わがままにはならなくても、知らず知らずのうちに変な自信を持ってしまっていたのだ。
その代償で私は5年もの間、心苦しさを抱え続けることになっている。
◇5年前◇
王子と同年代の貴族の子ども、その親が集められたお茶会から1週間。
我が家に王家からの使者が訪れた。
婚約者内定の知らせを携えて。
事前に、お茶会が“殿下の婚約者選びの場“だという通達はなかったのにも関わらず。
そのお茶会の行われる少し前。
隣国の国王と王子が我が国に訪問していた。
両国の関係はとても良好で、今回の訪問は公式のものというよりは[今年で11歳になるお互いの息子を会わせたいね]という、両国王による私的な目的を達成するための訪問だったという。
その思惑通り、王子同士は意気投合。
とても有意義な交流の機会となった。
後日、友情の証として我が国に隣国からたくさんの新鮮なフルーツやお菓子が届けられたのだが、陛下はそれを見て思い付いたそうだ。
「同じ歳の王子同士の交流がきっかけで贈られたものだ。せっかくなので、我が国の息子と同年代の子ども達に振る舞おう」と。
そのような経緯から、該当する平民達の各家庭には隣国のフルーツやお菓子が配られ、貴族たちにはお茶会の招待状が送られた、という話のはずだったのだ。
そもそも、当日のお茶会自体にもそんな雰囲気はなかった。
子ども達はガーデンパーティー、大人達は室内で通常の形式。
ガーデンパーティーの方は“堅苦しいことはなし“ということで、陛下や殿下による開会の挨拶などもなかった。
親世代は陛下と殿下の顔を当然知っているけれど、子ども世代は陛下の顔をぼんやりと知っている程度で、殿下の顔まで知っている者はほとんどいない。
それというのも、この国の貴族社会の子ども達は15歳で学校に入学するまで同年代で集まるような機会がほぼないからだ。
親同士が親しいなどの理由で交流がある者もいるけれど、大部分の人がこのお茶会で初対面。
だから「殿下もこの会場にいるのかな?いないのかな?どの人がそうだろう?でも知らない人ばかりで全然分からないな」というような子どもがほとんどだった。
“堅苦しいことはなし“とは言っても、[王宮に来ているのだし、ご挨拶くらいしなければ]と思っていた子は多いと思う。
けれど、誰に挨拶したらいいのか分からない。
それだからと言って、1人1人と挨拶を交わすには人数が多すぎる…。
だから「もう考えてもしょうがないよね」という空気が全体に流れて、みんながそれぞれの方法でお茶会を楽しむこととなったのだった。
美味しいフルーツとお菓子を堪能する子、普段はなかなか入ることのできない王宮の中庭を散策する子、知り合いと会話を楽しむ子などなど、それはもうのびのびと時を過ごしていた。
そのようなわけで、どの家の子も本当に気楽な気持ちで参加していたと思う。
我が家での認識ももちろんそうだったから、使者から「シャーリー嬢がセドリック様の婚約者に内定しました」と告げられたお父様は「え?どういうことでしょうか?」と思わず聞き返してしまったほどだ。
打診ではなく内定。驚きの事態だ。
王家のご意向ならば家臣として断ることはそうできることではないとしても、こちらへの確認作業が何もなくいきなり内定の知らせをいただくことになるとは、家族も私自身も思ってもみないことだった。
最初こそ困惑したものだけれど。
使者が帰ってから、割とすぐに我が家はお祝いムード一色になった。
急いで準備してくれたのだろう豪華な夕食には、サーモンのパピヨットなど私の好物もたくさん用意されて、お父様も、お母様も、お兄様も、お姉様も口々に「おめでとう」と言ってくれた。
私の反応もそっちのけで、そのまま家族は勢いづいていき「シャーリーかわいい」「さすが我が家の天使」など、褒め言葉の応酬を繰り広げる。
いつも以上に賑やかな夕食だった。
夜になって。
私はお父様の書斎に呼ばれた。
「だいぶ賑やかな夕食になったね。落ち着いて話せやしない。まあ、私もその賑やかしの一員なんだけれどね」
私が部屋に入ると、お父様はそう言って笑った。
ソファーを勧められ、座る。
「シャーリー、改めて言うよ。おめでとう。父親としてこんなに誉れ高いことはない。ありがとう」
真面目な顔になったお父様から最上級の褒め言葉をもらって、私は居住まいを正した。
「ありがとうございます。お父様」
そう言ってお辞儀をすると、お父様は目を細めた。
「こんなにしっかりして。その上とびきりかわいい君だから、セドリック様も一目で気に入ったのだろうね。あの日、セドリック様とはどんな会話をしたのかな?ぜひ聞かせてほしいな」
お父様は興味津々といった様子で尋ねてくる。
けれど私は、お父様の顔を見ていられなくて思わず俯いてしまった。そして、ぼそぼそと話し始める。
「あの…、お父様。実は…私自身よく分からないのです…」
そう答えるのがやっとだった。
「うん?どういうことかな?」
思いもよらない返答と不安な気持ちを表情に浮かべる私を見て、お父様は心配そうな声を出した。




