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4.よみがえる恐怖の記憶

 アルフレッドはゆるやかに波打つストロベリーブロンドを首の後ろで束ね、切れ長の黒い瞳で室内の状況を確認しながら速足で会議室の奥に向かって歩いてきた。彼はシャープで知的な雰囲気を漂わせている。この印象はゲーム中と同じだが、実際に会ってみると思っていたよりは少し柔らかく、人間味すら漂わせている。だまされるな私、こいつはあのアルフレッドだぞ。

「先の戦い、みなご苦労だった。まずは先の戦いの報告を」

 会議室の一番奥に立ったアルフレッドがそう言うと、騎士たちが順に報告を始める。さっきから彼らが必死でまとめていたのはこの報告だろう。間に合ったのかな、間に合ってるといいな。

 ジークの目の下のくまを見ながら、心の中でそっとそう祈る。……ん? 先の戦いの報告ということはもしかして。

「聖女殿、やはり君が先の戦いにおける一番の功労者のようだな」

 報告を一通り聞き終わったアルフレッドが私に向かって言った。わっわっ、やっぱり私の話になっちゃった! そうだよね、魔物をまとめて浄化したのは私だもんね、スルーしてもらえないよね!

「いえ、私はただ祈っただけです。魔物と人間が傷つけあう悲しみが終わることを願って」

 私がとっさに聖女っぽく適当に答えると、アルフレッドはそれはそれは満足そうに笑った。

 あ、これもしかしなくても好感度上がってるやつだな。私またやらかしたな。


 私がアルフレッドにここまでおびえているのにはちゃんと理由がある。

 まずは前提として、私は乙女ゲームの初プレイでは「まずは攻略うんぬんは横に置いといて自分好みの選択肢で突っ走る」というスタンスなのだ。突っ走っているうちに好感度が偏ってくるので、そうしたら一番好感度の高いキャラ狙いに寄せていく。予想外のキャラのエンディングにたどり着いたりするので、これが中々面白いのだ(たまにバッドエンドにたどり着いたりするけど)。

 で、「純白のホーリーティア」でも同様の方法で突っ走ったところ、あっという間にアルフレッドが釣れた。それはもうぶっちぎりで好感度上がりまくりだった。なので当然の流れとしてアルフレッドルートに突入したのだが。

 その個別ルートが大変だったのだ。恐怖のせいで記憶があいまいになっているが、アルフレッドは「魔物は全てが悪ではない」とか何とかそういう感じのことを考えていて、そのため魔物を全て滅ぼそうとする現王を排除しようと影で暗躍するというものだったのだ。これだけならありがちな話なのだが、アルフレッドは手段を一切選ばないし、頭も良いだけあって陰謀策略お手のものだから大変たちが悪かった。

 そして、このルートでは聖女も容赦なくアルフレッドに振り回される。ゲーム中のセレスティナは、逃げて隠れて捕まって策略に巻き込まれて……とひどい目に合いっぱなしになるのだ。特に魔物を全て浄化するという使命にあふれたセレスティナと、そもそもその使命について疑問を持つアルフレッドのすれ違い続けるやり取りは、たいへん肝が冷えるものだった。そのあまりの過酷さに、私はゲームをプレイしながら「ねえ、私今個別ルートにいるんだよね? これでちゃんと好感度高いんだよね? これ恋愛を楽しむゲームだよね? 恋愛どこですか? えやだ怖いちょっと待って」などとか細い声でつぶやいていたものだ。

 まあ、アルフレッドの考え自体には割と共感できないこともなかった。彼が言うように良い魔物がいるのであれば、無差別に浄化するのはアウトだと思うし。……確かに、私はアルフレッドとの相性はいいのかもしれない……手段に一切同意できないだけで。ひどい目に合わされたトラウマが少々あるだけで。


 そんなこんなで、アルフレッドには近づかず気に入られず距離を置いていよう……とか思っていた矢先にうっかり好感度を上げてしまったようだ。ナイスドジ私。魔物は全て滅ぶべしなコメントをすれば良かったんだな、きっと。

 そうやって私が脳内で地団駄踏みまくっている間にも会議は進行していたようだ。今度は文官たちがアルフレッドと話している。次の遠征についての計画を練り上げている最中らしい。ときおり騎士団長おじさんことウィリアムおじさんやジークも発言している。私は蚊帳の外なのでこっそり周囲の人たちを観察してみる。騎士団のみなさん、やっぱり眠そうだなあ。お疲れ様です。フィニアン、半目になりかかってるよ、寝ちゃだめだよ。

 あ、話がまとまったみたいだ。アルフレッドが今後の予定について説明を始めた。次の遠征は魔術都市の要請により、その近くにある大森林へ魔物の討伐に向かうものだ。まず王都の北にある魔術都市に騎士団と聖女が向かい、そこで魔術師の塔の代表と合流した後大森林に出陣、という流れだ。この流れもまた、ゲームのストーリー通りだ。




 出発が三日後と決まって会議が終わり、いざ解散という時にジークがこちらにやってきた。

「セレスティナ様、お元気そうでほっとしました。昨日は浄化の後眠ってしまわれて……差し出がましいこととは思いますが、心配していたのです」

「ありがとうジーク、私はもう大丈夫です。それよりあなたの方こそ、昨日から戦後処理で忙しくしているのでしょう? せめてこの後は、ゆっくり休んでください」

 私の言葉に、ジークは目を細めると、聞こえるか聞こえないかの小さな声でささやいた。

「心配してくれてありがとう、セレスティナ」

 わっ人目があるのに大胆だなあ。……いやこれは、頑張ってフランクに話そうと努力したんだな、言った後に本人がちょっと照れてる。昨日私にべったりくっついていたのは、もしや無意識でやってたのか。

 結局なりゆきでジークに客間まで送ってもらうことになり(本来の護衛担当だったフィニアンがちょっぴりすねていた)、帰りの道すがら、私はまた天青の首飾りについて説明したのだった。あ、しまったジークから王様の名前聞き出しておけば良かったかも。




「まあセレスティナ様、なんて美しい首飾りなんでしょう! きっと、いえ絶対にセレスティナ様にお似合いです!」

 客間に戻ってナタリアに首飾りを見せ、本日三度目の説明をしたらこんなハイテンションな反応が返ってきました。ナタリアも女の子、キラキラしたものには目がないんだね。

 そして彼女に促されるまま首飾りを着けてみたところ、ナタリアの目がさらに輝いた。

「ああやっぱりお似合いです! 守りの力があるとのことでしたら、ずっとお着けになられると良いと思います!」

 え、普段使いにしろと? これ間違いなく高級品なんで庶民な私としては持ってるだけでそわそわして落ち着かないし、守りの力とかもあるのかないのか分からないし、タンスの肥やしにしちゃだめかな……という思いを込めて無言で困った顔をして見せたところ、一気にナタリアがしゅんとしてしまった。

「本当にお似合いですのに……そうだ、一度セレスティナ様ご自身で確かめられてはどうでしょうか」

 この小さな客間には手鏡しかない。全身が映る大鏡がある部屋でここから近いのは、衣装室の続きの間だ。今の時間なら人もいないし、ちょっとくらいお邪魔しても問題ないだろう。




 そうして私たちは客間を出て衣装室の続きの間に入った。そこにある大鏡にかけられた分厚い布の覆いをナタリアが外すと、私の姿がはっきりと映しだされる。

 前世の記憶が戻ってから自分の姿をちゃんと見るのは初めてだ。軽くウェーブのかかった明るい栗色の髪は肩から胸に流れ落ちて腰のあたりまでゆるやかに広がっており、すみれ色の瞳がまっすぐにこちらを見つめている。教会を表す色である青を基調としたシンプルなローブには、白い鳥の翼をモチーフとした刺繍がほどこされている。白いシャツの首元には様々な青にきらめく宝石を抱いた首飾りがひとつ。清楚で凛とした美少女だ。

 ……改めて見ると、違和感しかない。前の自分の姿がどんなだったか思い出せないけど間違いなくこれだけは言える、この姿は前の姿と全然違う。この姿はゲームのセレスティナのそれなのだから当たり前ではあるけれど。

「確かに、似合っている……のかしら。でも少し贅沢すぎる気もしますね」

 鏡の中のセレスティナにガンを飛ばしながらつぶやくと、ナタリアが勢いよく反論してきた。

「贅沢などということはありません! その首飾り、神秘的な感じもしますし、きっとセレスティナ様を助けてくれます!」

 どうやらナタリアは、何がなんでも私にこの首飾りを着けたままでいさせようとしているようだ。お守りのようなものだと考えているのかな。お守りね……かなりゴージャスなお守りだけど、仕方ないか。

「そう……ですね。それではこれからは朝の身支度の際にこの首飾りを着けましょうか」

 こんなゴージャスなのを着けたまま寝るのは断固拒否するが。

 喜ぶナタリアをよそに、改めて鏡を見る。ちょうど日が傾いてきており、夕方の日差しが窓から一筋差し込んだ。胸元の首飾りに赤い光が当たる。首飾りの宝石は、赤い光を受けてなお青く輝いていた。その輝きには、何故かどことなく落ち着かない気分にさせる何かがあった。



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