世界の真実は残酷です
彼が初めて己の真の運命を知ったのは、もう数百年も前になる。
鬱蒼とした森。廃れた城。薄気味悪い空模様。
まさに絵物語から飛び出してきた世界観そのままに、魔王城と呼ばれる城は存在していた。そしてそこが旅の終着点だった彼は、仲間と最後の気合いを入れてから足を踏み入れる。
正直に言えば、もっと魔族の襲撃を警戒していた。が、意外にも王の城は静かだった。
まるで誰かに誘われるように、扉は開き、退路は塞がれていく。訝しみながらも辿り着いた先で、彼は鷹揚に玉座に座す一人の男を見つけた。
男は彼を見るなり、実に楽しげに笑う。
――〝次の犠牲者は、おまえか〟
その瞬間、彼は身構えた。男の言う『犠牲者』という言葉に、簡単に殺されてたまるかと思ったからだ。だというのに、男は一度として彼を攻撃してくることはなかった。
むしろその顔に安堵の色さえ滲ませて、男は彼に運命を見せる。それは男自身の運命であり、そして、これからは彼にとっても果たさなければならない使命となった。
だから、男は言ったのだ。次の犠牲者、と。
その言葉の真の意味に、男が死んでから彼は気づいた。
ああ、確かに、自分は犠牲者なのだろう。男の言葉に間違いはない。
けどそれは、正しくもなかったのだと、彼は数百年後に知る。
月光を溶かし込んだような金の髪。
透明度の高い紫水晶をそのままはめ込んだような紫の瞳。
儚く可憐な妖精と称される彼女は、たとえ仮面を身につけることを絶対とされた仮面舞踏会においても、一目置かれる存在だった。
誰に対しても上品に微笑み、完璧な立ち居振る舞いを見せつける。彼はその姿に魅入りながらも、最初はどこか彼女を侮っていた。
なんの苦労も知らず、ただ王宮という名の檻の中でぬくぬくと育った、脆弱なお姫様。自分に与えられた運命に、なんの辛苦も感じていない、能天気な聖女様。
そんなふうに思っていた。
「――黙らっしゃい!!」
だからまさか、そう言って思いきり足を踏んづけられるなんて、その可憐な姿からはちっとも想像していなかったのである。