フィエスタの秘密
アルバート・ディフェンダー
アイギスのパイロット。
ズバ抜けた格闘戦のセンスを持つピース・シティ警備隊の警備隊長。射撃はズバ抜けてダメ。
アイギスは、元々前警備隊長のLBだったが、アルバートの格闘センスを活かすために自らLMに乗り換え、アルバートにアイギスを渡した。その後、アルバートが警備隊長になってからも愛機として乗り続けている。
やけに早く目が覚めてしまった。せっかく朝早く起きたんだし、今日はフィエスタの代わりに朝の用事は済ませるか。
コックピットを出て居住スペースに行くと、まだ暗かった。フィエスタは寝ているのか?スゥーっスゥーっと寝息が聞こえる。
朝は、調理器具がある訳でも無いので弁当を温めて食べる。これが結構美味い。
朝飯を温めながら、シャワールームを掃除する。カビなど生えては、気になって気持ちよくシャワーを浴びれない。
ついでに床も掃除しよう。ヨゴレが付きにくい床だが、汚れない訳ではない。
床だけというのも何か嫌だ。片付けまでしてしまおう。
捨て忘れたゴミを捨て、ヨゴレをキレイに落とした。
フィエスタの服が畳んで置いてある。洗濯し忘れか?
「んっ…んんー…」
起こしてしまっただろうか?まぁ、ちょうどいいくらいの時間だが。
最近は洗濯機を回していなかった。故障で動かなくなっていたのだ。ちゃちゃっと直して溜まった洗濯を済ませよう。
ふぅ、直った。さっきのも含めて全部洗ってしまおう。無駄に大容量なので全部入りきってしまう。
『フィエスタ、ご飯だよ』
「ん…あれ、ノマさん?おはようございます…」
『おはよう、温まってるから食べちゃおう』
「あの…ちょっとだけ待っててもらえますか?服を着ちゃうので」
『服着てないの!?』
「前から就寝着を持ってなかったので、着ないのが癖になっちゃったんですよね、…は、恥ずかしいので…ちょっとだけ見えない場所に…行っててもらえますか?」
『分かった、シャワールームにいる』
「ありがとうございます…ここに置いてあった服はどうしました?」
『洗濯機を直したから、溜まった分と一緒に洗ったけど』
「…えっ?」
『どうかした?』
「私の服…あの置いてあった分で最後なんですよ」
『…じゃあ、洗濯終わるまで服無いってこと?』
「そ、そういう事です…」
『わ…あとどれくらいだろ』
…動いてない。また壊れてるみたいだ。やはり基盤がダメなのか?幸い、LMには基盤やパーツを作る機能がある、プログラミングさえできれば動くだろう。
プログラミングとかはニガテだが…とりあえず、やるだけやってみよう
ストレイにとってプログラミングは、LBやLMの改造をするのに必要になる。これくらいなら簡単に出来るはずだ。
『う、動いてない…』
「ほ、本当ですか…」
『なんとかやってみるよ…』
「お願いします…ほんとに恥ずかしいので…」
とりあえずシャツだけでも貸して、朝飯を食べてしまおう。僕は上裸くらい恥ずかしくはない。
「出来ましたか?」
『うん、あとは作って組み込めば終わりかな。』
なんとか終わったが、もうお昼か。
「良かったぁ…あ、私お昼を用意しますね」
『ありがと、じゃあお願いするよ』
また、温めて食べるだけではあるが、フィエスタは一手間加えるのが好きらしい。この間買った調味料を加え、更に美味しくする。そして、健康の為に野菜なんかも買ってサラダを作る。
それにしても、ついついフィエスタに目が行ってしまう。フィエスタには少し丈の長いシャツが、ギリギリの境界線を作る為に気になってしまう。
『(耐えろ…耐えろ…見てはならん…)』
「ノマさん、どうかしましたか?」
『いや、なんでもないよ』
一動作一動作が気になって仕方がない。胸元やら何やらが気になって仕方がない。
フィエスタは身長も程々で、爆発的では無いが凹凸があるボディラインにほんのり幼さのある顔つき、青い目に綺麗な金の髪色をしている。サイズの大きなシャツのお陰でそちらはあまり気にはならないが、それでも女慣れしてない僕にはキツい。
「…さっきから、チラチラ見ないでくださいよ…恥ずかしいですってば…」
『い、いや、見てないよ』
「嘘つき。そういうの、結構分かるんですよ?息もちょっと荒いですし」
『そ、そうかな?お、美味そうなサラダだ』
「はぁ、まぁいいです、召し上がれ」
二人でベッドに腰掛け、折りたたみテーブルで昼飯を食べる。
…アンドロイド相手に何を興奮しているんだ僕は。
「どうですか?私。スタイルいいでしょう?」
『んっ!?ま、まぁ、そうだね』
そ、そんな誘惑するような上目遣いはまずい…
「好みのタイプだったり、しますか?」
『そ、それは、好みのタイプを選んで買ったしね』
「まぁそうですけど…性格とか…」
初めの頃はミスも多かったが、今はしっかりしているいいサポロイドだ。
『やることはキチンとやってくれるから、サポロイドとしては最高じゃないかな、たまに抜けてるけどね』
「サポロイドとしてじゃないんですよ…こう、女性としてここが好き、というか」
『そんな、サポロイド相手に恋愛感情なんて』
「サポロイドじゃ…そういうのはダメなんですか?」
ん…なんだか不味い空気感だ。何か、嫌な事を言ってしまったか
「人の形を真似しただけじゃ、ダメなんですか…?だって、中身だって人と同じなんですよ?それに私、他のサポロイドとは違います。頭のてっぺんからつま先まで、全部あなたと同じ人間なんですよ…?」
『全部って…』
「そうです、私は初めて人間の脳の構造まで再現したサポロイドです。細胞がちょっと違うだけなんですよ…それでも、人間じゃないから、ダメですか…?」
自分がサポロイドで、人間じゃない、それを気にしていたのか。サポロイドは、オシャレや料理、恋愛やを好み、省エネモードを嫌う個体が多いと聞く。よく考えればそれらは三大欲求に繋がっている。人間の感情を持ちながら人間と似て非なる者だからこそ、人間の真似をしたいのかもしれない。特にフィエスタは、より人間に近いからこそ諦めきれないのだろうか。
「この感情だって、種の保存に基づく物のはずです、こんな感情を持っていても…?」
無いものを求めようとするフィエスタが、人間に見えて仕方がない。それこそ人間の本質なら、フィエスタは人間なのでは無いだろうか。
『ごめん。傷つけたかった訳じゃないんだ。』
「…すみません、取り乱しちゃって」
『気にしないで、僕も悪かったよ。フィエスタの事を何も知らなかった。ただのサポロイドじゃない、人間だって事が分かったかもしれない』
「かもしれないじゃありません、人間なんです」
『…ただ、一個だけ、いいかな』
「はい?」
『…近い』