経験
ラック(Luck)
ピンチ・ヒッターのパイロットで、実はノマの同期。とはいえ、若干先輩。
初日からLBの左腕を破壊された不運な男。
しかし、才能はあるようで最近の活躍が話題になっている、明るく陽気な性格の男。
一対一の決闘を所望する。ピース・シティ付近の荒野に来い
突然こんなメールが届いた。差出人は?誰だろう。
「確か、よく新米のLB乗りに決闘を申し込んでる人がいるって聞きましたね」
『んん?そんな奴に目を付けられたのか…面倒だなぁ』
「無視しちゃってもいいんじゃないですか」
『でも、せっかくLB戦の経験が出来るなら、受けてみてもいいかもしれない』
「別の都市に移動する資金もちょうど溜まりそうですしね、分かりました、フィエスタローズの状態をチェックしてきますね」
単独では初のLB戦だ。自分なりに基礎は学んでいるつもりだが、体で覚えるには実戦が一番だ。
しかし、報酬付きの決闘とは、変な奴だ。
「間もなく指定された区域です」
『何もない荒野か…ん?』
ポツンと一機のLBが立っている。
「そこのLB、お前がフィエスタローズか?」
『そうだ、お前は?』
「LB初心者応援サービス会社、LB戦担当のコバヤシだ。私に勝てば報酬金をくれてやろう。」
LB初心者応援サービス会社?なんだそれは。全く聞いたことが無い。
「レーダーには一機しか居ませんね」
『本当にただの決闘なのか…』
「あぁ、そしてこの決闘はLB戦の練習も兼ねている。悪いことは無いだろう?」
ま、まぁ、やるだけやってみよう
「それでは三十秒後に開始する。私も上手くは無い、緊張せずにやってくれ」
『わかった』
『三…ニ…一…!』
開始と共に一気にブーストし、ジグザグ移動をしながらマシンガンを撃ち込む。
ダメージはなくても被弾により焦ったり、思うように動けなくなる事はある。
チャージショットで体勢崩しを狙うのもアリか?
「速いな、パイロットが振り回されている様子は無い。」
「ノマさん、焦らず、慎重にです…」
頭部レールガンで弾幕を張りつつ、チャージを開始する。
敵はAM社の汎用型LB、AM-2L- Queenだ。武装も一般的なマシンガンを装備している。持ち前のパワーで格闘もでき、曲面の多い装甲は弾を弾きやすい。ハイ・ブーストでの高速戦、突撃など、できる事は幅広い。
相手が小ジャンプを繰り返し始めた。機体の予測射撃を、緩急を付けることで避けるのだ。
「無駄撃ちはせず、着地を狙うか。LM時代の経験も活かされている様子だ。」
「焦らずです。焦らず隙を伺って…」
チャージが溜まった。あとは隙を伺うだけだ。
実は今回、圧力ボムという物を持ってきている。
高硬度セラミック製容器の中に発熱器を入れ、一気に内部の空気を温め圧力を上げ、容器を破裂させるという物だ。
人間ならやけどでは済まない熱と、軽量級LBなら一撃で体勢を崩せる衝撃力を持つ。
『こいつで…!』
大腿部のホルダーから圧力ボムを取り出し、2つ同時に投げつける。
「圧力ボムか。足を止めて姿勢崩しを狙うか。」
少しよろけた所にチャージショットを叩き込む。
ハイ・ブーストで一気に距離を詰めて回し蹴りを叩き込む。
「ぅっ…良い手際だ。ある程度手を考えてから来た訳か。」
「ナイスですっ!」
横に倒れた所に反対の足ですくい上げるように蹴りを入れる。
「甘いな。全てが思い通りに行くわけではないぞ。」
各部のブースタを巧みに利用し緊急回避された。
『…!?なんだこの動きはっ…』
「LB相手に常識が通じるものか。」
「ノマさん避けてっ!」
一瞬で体勢を立て直しながらハイ・ブースタを起動し、飛び蹴りを叩き込まれた。
『う゛っ…!』
モロに食らってしまった。首をやったか…
機体が後ろに吹っ飛び転倒する。
「すぐに体勢を立て直してくださいっ!」
「攻撃の後の隙を誤魔化すのも大事だぞ。」
更に距離を詰めてくる。
ハイ・ブーストで一気に上昇して相手の上をとる。
「…!」
空中で前転しながら相手の頭部を掴み、着地と同時に踏み込み、地面に叩きつけた。
「うぁっ!!…やるじゃないか…」
「一旦距離を置いて!」
相手がブースタでコマのように回転し蹴りを入れてきた。
フィエスタの忠告が無かったら足払いをされていたな。危なかった。
なるほど、守り、攻めのリズムが大事なのか。
チャージをしつつ攻めに出る。
起き上がろうと所にフェイントで隙を作らせよう。
まっすぐ右ストレートを入れようとすると、腕で払う動作をしてきた。
一瞬手を止め、払いを空振りさせた所に顔を掴む、そしてそのまままた地面に叩きつけた。
チャージが溜まった。起き上がろうとする所にチャージショットを撃ち込み起き上がりを阻止する。それと同時に距離を詰め、踵落としを叩き込んだ。
攻撃を喰らいながらも反撃してきた。
脚を払われ、倒れる所に寝たまま蹴りを入れられた。相手もチャージショットで隙を作り、体勢を立て直した。
なんとか着地はしたが、その隙を狙わないはずも無く踏み込んでパンチをしてきた。
懐に潜り込み躱す。そこに膝蹴りを入れてきた。更に膝蹴りを躱し脚を掴んだ。
相手を振り回し地面に叩きつける。かなりのダメージではないだろうか。
「くっ…なかなか成長が早いようだ。こちらにもう戦う力は残っていない。お前の勝ちだ、フィエスタローズ。」
『はぁ…はぁ…よ、良かった。』
「すごいじゃないですかノマさん!」
「フィエスタローズ、70点といった所です。相手の手を読むのがまだまだ難しいようですね。」
『なるほど、勉強になりました。ありがとうございました。』
終了後、ピース・シティのカフェで報酬の受け取りをした。コバヤシさんは頭を打ったらしく、一応手当を優先した。
「どうでしたか、コバヤシさんの動き。相手に教えるような動きでしたでしょう?あの人、あえて隙を見せて基本を教えてるんです」
『確かに、学べる部分がたくさんありました。感謝しています。』
ここで攻めろ、ここは守りだ、そういったタイミングを教えてもらうような試合だった。
「以上で報酬は全部です、お使いでした。」
疲れたなぁ、緊張もしたし。
とりあえず、今日は休もう。首も痛いしな。