初依頼
豆知識
この世界には、火薬がほとんど存在しない。その為、実弾は全てレールガンである。
推進器はプラズマジェットであり、ミサイルは着弾時にプラズマを撒き散らすか、運動エネルギーを利用した物が多い。
LBは現時点では無敵の機動兵器だ。並の兵器では傷一つつけられない頑強な装甲、地上、空中を問わない機動力、火力においても専用の強力な兵装を持てる。
今日の依頼はピース・シティで発生した暴動を鎮圧する、という緊急の依頼。相手はLM五機、LBの敵では無い。まぁ、LBに乗り換えて初の依頼だ。ちょうどいいくらいか。
しかし、ピース・シティで暴動か、珍しいな。
「ノマさん、進行ルートから予想して敵の目的地は恐らくピース・シティ資源貯蓄エリアです。」
『了解、急いで準備しよう。』
建物が密集している場所では、高火力の兵装は持てない。敵もろとも周囲の建造物を破壊してしまうからだ。
なので、近接格闘兵装が役に立つ。交戦距離が近くなるのは避けられない事だ。
まぁ、今持っている兵装も、実体剣一本とマシンガンのみ。選びようが無いのだが。
『弾丸はちゃんと入ってる、OK、急行しよう』
「行ってらっしゃいませ」
敵の予想進行ルート上に先回りして待機。できれば銃は使わずに終わらせたい。
フィエスタには留守番をしてもらう。タンク型LMは接近戦は苦手だ。小回りが効かないのだ。
『来たか…』
ガリガリと音をたてながらLM五機が一列に並んで接近してくる。
高機動高防御型のLMか、戦場の主流になっている機体だ。
しかし、LBの足元にも及ばない。ビビるだけ無駄だ。
ビルの陰から飛び出し、コックピットを突いた。
さすがLBだ。一切のブレなく狙い通りに突いた。
『次!』
高機動高防御型LMは、地面を滑って移動ができる。しかし、急停止が出来ない為、今のように奇襲に対応しにくいのが弱点だ。そして後ろ側の装甲も薄く、そこも弱点。
突いた敵機を切り払い、逃げようとする一機を蹴り飛ばし、更に一機足を止めた。
そこに飛び掛かっての突き。これで三機。
敵がバトルライフルで応戦してきた。
しかし、LBの装甲が全て弾いた。跳弾がビルに当たり少し被害が出てしまったが。
「引き撃ちだ!逃げながら応戦しろ!」
「クソッ!なんでLBが出てくるんだ…聞いてないぞ…!」
確かに、この程度でLBか…言われてみれば不思議ではある。
中立地域とは言え、防衛用のLMくらいはあるはずだ。
まぁ、今はそんな事を考えている時間は無い。さっさと片付けよう。
左隣の道に逸れ、全速力でブースト移動する。
「畜生、傷一つつかない!」
「打撃だ、パイロットにダメージを与える!」
LB対策として、打撃でパイロットにダメージを与える、という物がある。それは対LB戦の基本であり、唯一の手段だ。
敵が左に曲がった。どうやら戦うつもりらしい。
地面を踏みしめ、回し蹴りを放ってきた。
一瞬の判断で後ろにブーストした。蹴りは外れ、ビルに直撃した。
いくらLBと言えど、パイロットが気絶してはただの金属の塊。打撃には注意しなければ。
「しまった!」
上がった右脚の下に潜り込み隙を突き、斬り払った。あと一機。
『…!!』
すでに間合いを詰められていた。蹴りの衝撃で機体がビルにめり込んだ。
コックピットに衝撃吸収機構があるにしてもかなりの衝撃だ。何度も食らいたくはない。
『くっ…サイドブースタを…』
反対のビルに衝突してしまった。機動力を制御出来てない。
「素人か…?」
立ち上がるにも妨害されてしまう。銃を持つ腕を下敷きにしてしまい使用できない。なんとか状況を打開しなければ。
蹴りを払い相手の体勢を崩した。
ブースタを低出力にし、姿勢を立て直した。
『やってくれたなぁ…』
相手の銃を叩き斬り、関節を狙い両腕を切断した。
更に膝を破壊し、膝をつかせた。
「ここまでか…あとは任せた…」
『任せた…?』
倉庫群から警報が聞こえた。それと同時に煙が上がるのを見つけた。
フィエスタが駆けつけた。
「ノマさん、緊急事態です!倉庫から試作兵器が強奪されました!急いで追いかけましょう!」
『試作兵器?聞いてないぞ!』
別働隊がいたらしく、LM部隊は陽動だったらしい。
LMにトドメをさし、倉庫群に急いだ。
防衛部隊が展開している。なるほど、こっちに戦力を配置してたのか。
盾と実体剣を装備した防衛型LB一機にLM三機…街の警備には充分だ。あのLBは…ピース・シティの人気者、「アイギス」か。
「援軍か?、助かる…」
「敵機確認!LBでしょうか…?超大型の銃にパイルバンカーらしき物を装備しています!」
『どう見ても危険そうだ…被弾はしたくないな。』
破壊された倉庫の中に、白い機体が佇んでいる。直線的で鋭い形状。跳弾しやすいよう工夫されているのだろうか。
「無駄な抵抗はするな!今すぐ機体から降りて投降しろ!」
「…」
「動いたら容赦はしない…!」
白い奴が一歩前に出る。
それを見た警備隊が突撃を開始した。
『待て!』
アイギスが斬りかかった。その瞬間、白い奴の姿が消えた。
「なっ…!?」
あの一瞬でLMが一機、パイルバンカーで仕留められた。
アイギスが振り向く間にまた一機仕留められた。瞬間移動とでも言えばいいのか、あのスピードは。パイロットはただではすまないだろうか。
あっという間にLMが全滅。目を疑ったが、残念ながら現実だ。
「化け物め…!」
「あの一瞬で…三機も…」
アイギスが、斬りかかった。当然のように奴は回避し、後ろをとった。
それを読んでいたアイギスはサイドブースタで回避し、振り向きながら回し蹴りを叩き込んだ。
奴は銃を鈍器のように振るい、それを避けたアイギスにパイルバンカーを放った。
しかし、それをシールドでパリングし、膝蹴りから更に前蹴りを入れた。
介入する所が無い…これが、LBの戦闘なのか…
「何している!はやく加勢してくれ!」
『り、了解!』
ホバー移動で接近し、突いた。奴は後ろに回った。
サイドブースタを起動したが、それを読まれ銃で殴りつけられた。
地面に両手をついて倒れた。
さっきのLMの蹴りとは比べ物にならない衝撃だ。脳が震え、一瞬めまいがした。
そこに追撃を入れようとする白い奴。アイギスがそれを飛び蹴りで防いでくれた。
「同じ手を何度も食らうわけがないだろ!」
『クソッ…!』
LBに慣れていないにしても、ここまでやられるとは…露骨に技量の差が出るのか。
立ち上がり、もう一度相手を確認すると、かなりダメージが溜まっている様子だ。少しずつ鈍くなってきた。
そこに、更に救援のLBが飛んで来た。ストレイだろうか。
「こちら増援のLB「ピンチ・ヒッター」だ。状況は!」
「加勢か?三対一なら…」
『…まずいっ!』
奴が銃を構え、発射体勢になった。そこにパンチを入れ、銃口を逸らした。
『増援のLB!回避を!』
強い衝撃と共に閃光が放たれ、増援のLBの左腕に直撃した。
「うぁ…ァ…ッ!」
『大丈夫か!?』
「電…障…いが…生!つ…信が…乱れ……す!」
激しい電波障害が発生し、通信が乱れる。
『フィエスタ!ピンチ・ヒッターの状況は!』
「通信状況が回復!ピンチ・ヒッター、左腕部大破!」
左腕部が大破…!?LBを破壊する威力なのか…?そんな話、聞いたことがないぞ?
「ひ、左腕で良かった…」
「パイロットは無事のようです。」
フシューッフシューッと排熱する銃。一撃に全てを振り切った武装なのか。
「実戦テスト完了…帰還する。」
「なっ…!待てっ!」
ハイ・ブースタを起動し、超高速で飛び去っていった。
『作戦…失敗なのか?』
「問い合わせています…LM五機、討伐分の報酬はしっかり払ってもらえるみたいです。ピンチ・ヒッターには…何もないようですが。」
失敗では無いにしても、不完全燃焼というか…達成した感じがしないが…生きているだけラッキーなのか。
「あぁ、君、先程はありがとう。注意がなければ死んでいたかもしれない。」
『いや、冷静な判断をする余裕があったのも、警備隊長のお陰だ。すまない、脚を引っ張って』
「気にするな。ところで、君は今回が初のLB戦だったのか?」
『ああ…ストレイとしては長いんだが、昨日LBを受け取ったばかりでな。』
作戦終了後、街で人気の「ガレージ・サイド・カフェ」で一息つく。メカ好きにはたまらない、ガレージを眺めながら食事を出来るカフェだ。
フィエスタが「任せてください!」と張り切って報酬受け取りの手続きをしに行ってくれたので、ゆっくりとしている。
「…二人とも、耳を貸してくれ」
「え?あ、おう」
「今日のあの「白い奴」の情報を手に入れたら、私に知らせてくれないか?君たちはストレイ、自由に旅できるだろう?」
『あいつ…ピース・シティ資源貯蓄エリアから出てきたが、ピース・シティが兵器開発なんてしていたのか?』
「そこなんだ。対LB兵器なんて、東西南北に展開しているどこの勢力も作れない。そんな物をよりによってピース・シティが。今の町長は平和主義者のはずだったが。」
「分かった、俺らで情報を共有しよう。」
最近は各地で戦闘も多くなってきている。ストレイとしては稼げるから良いが、物騒なのは良い話ではない。きっと、何かが始まるのだろう。
「おっと、こんな時間か。じゃ、俺は失礼するよ」
「そうだな、そろそろお開きにしよう。」
「ピンチ・ヒッターと俺、ラックはどこにでも現れる。きっとまた戦場であうだろうから、そんときは敵でも味方でもよろしくな」
『ああ。またどこかで。』
帰った俺は、ベッドに横になった。
初戦からボロボロにやられた。ただのLMにすら押された。
悔しいが、自分に力が無かったからだ。
明日は反省だ、次に生かすための。