第六話:咎人救済の結果
「――こンの、大馬鹿野郎! そんな女拾ってきてどーするつもりだ!」
あくまでも上に聞こえないように、と配慮しながらも怒鳴りつけるヤンの前で、ローレンシアも難しい顔をしていた。
テリーが言うには、午前中に街境の様子を窺いに行ったところ、オフォスに入る少し手前で休憩中の国王軍の小隊に出くわしたらしい。驚いて身を潜めていると、彼らは首と手首を繋がれた女性を連れており、その髪を掴んで汚い言葉を浴びせたり、つないだ紐をわざと引いて転ばせたりと酷い扱いをしていたという。通り過ぎる街人たちも眉をひそめはするものの、助けようとするものは当然のように現れなかった。
さすがに正面切って戦えば無理がある。こっそりと裏を回って彼女が繋がれた紐を切り、隙を見て一緒に逃げてきたのだという。
「仕方ないじゃないか、見捨てていくわけにいくまい!」
テリーの反論に、ヤンがウッと言葉に詰まる。その情景は想像し易く、また、もしも自分がそこに遭遇していたならば完璧に沸騰していただろうことは想像に難くない。テリーのしたようにこっそり逃すよりもそこで大立ち回りをしていた可能性も否定できなかった。
「……そりゃ、そうだが……わざわざこんなときに」
はあ、と溜息をついてヤンがソファに身体をうめた。難しい表情で黙っていたローレンシアがそこでふと、口を開く。
「咎人、か……」
ローレンシアは隣国からこっそりと国境を越えてきた者がいるという噂を数日前に噂を聞いたことがあった。そしてそこへ小隊が派遣されたこと、おとなしく戻った者は放免したが、抵抗した者はその場で処刑されたということも。そのためか、差し向けられた小隊に荒っぽい気性の者たちが選ばれていたのにも気づいていた。
テリーは少し躊躇する様子を見せたがくっと顎を引いて頷く。
「そう、言っていた。しかし事実はわからない、皆にそう言いふらしていただけかもしれない」
「そうか。――怪我は」
「……え?」
「その女性の怪我はどうなんだ?」
「あー……」
重ねて訊ねたローレンシアの問いに、テリーがちょっと言い辛そうに言葉を濁す。しかし口元に微かに笑みが浮かんでいることを考えれば、さほど重くはないのだろう。テリーから視線を外し、ローレンシアはほっと息をつく。
「言いたくなければ構わないが、ここは危険だ」
「ローレンシア、頼みがあるんだ」
被せるようにテリーが言い、ごくりと唾を飲む。その様子にヤンは嫌な予感を覚えてぴくりと頬を引きつらせ、言われる前に口を開いた。
「まさか、仲間にしてえなんて言うつもりじゃねえだろうな?」
ギロリと睨むも、その倍くらいの強さで見返される。そして予想通りの言葉がテリーの口から漏れた。
「そうだ、彼女を仲間にしたい」