表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月下の王城  作者: 香住
32/40

第三十二話:対峙する国王

 思いのほか扉は重かった。以前よりも重厚になったのだろうか、と考えながらローレンシアは一気に扉を引いた。最初にガタリと音を立てたあと、厚い絨毯の上を音もなく重い扉が滑る。真正面、最奥の窓の手前にシルエット。


「……ローレンシア=ウォーディート」

 彼女が何か告げるより先に、シルエットが口を開いた。椅子にかけたまま、指一つ動かさず。フルネームを呼ばれたローレンシアは開けた扉の中央で大きく肩で呼吸をする。

「ウォーディート卿の長子であり女性初の近衛兵。二年半前、任務中に落馬しルシア海に落ちて死亡。――おまえは、亡霊か?」

 その声音は真実を知っている、とローレンシアは思った。恐らく前回の決起のあと調べさせたのだろう、と考えてゆっくりと奥の執務机に近づいていく。


「あなたの質問に答えよう。――国が生きるために必要なのは、良き指導者と、信頼する民たちだ」

 ローレンシアの言葉に、シルエットが初めて揺れる。小刻みに揺れるそれが笑いによるものだと気づいたのは逆光の中で表情が読めるほど近づいた時だった。

「信頼、だと―――? 愚鈍さを愛せというのか。何もかもを許すのが愛だというのなら、そんなものは愚の骨頂だ」

「弱き者を踏み潰す指導者はいずれ、民たちに裏切られるだろう」

「構わぬ」

 即答に、ローレンシアは足を止めた。構わぬ、だと――? 民の信頼を得ずに国が成り立つはずもない。裏切られても構わないなど、そんな乱暴な指導者が国を率いているというのか?

「私は国を背負っている。誰を踏み潰したとて、私が守るのは国だ」

「民のいない国か! 民が皆、あなたを憎んでいても国を守ったと言えるのか?!」

「愚かなローレンシア=ウォーディート。すべては国ありきだ。民は裏切るが、国は裏切らぬ。私が守ればその存続は約束されるのだ」

 いつのまにか笑みは消え、緑の瞳がぎらりとローレンシアを見据えていた。王者の風格というものがまるで獅子のたてがみのようにロサードを包んでいた。声は重く、喉の奥にびっしりと砂を流し込まれたようだった。ローレンシアはそれに気圧されぬよう立つのが精一杯だった。

 違う。ロサード王の言葉はどこかが違うのだ、と強く思うもそれを言葉に出来るだけの力が彼女には足りなかった。それが才覚の違いなのかもしれない、とローレンシアは目の前の男を認めていた。

 しかし、ここで負けてしまうわけにはいかなかった。言葉で理解し合えないのなら、と剣を構えればロサードはちらりと視線を動かしただけでまた、笑みを唇の片側にだけ、浮かべる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ