第三十話:決起、再来
ぽかりと浮かぶ半月の夜。『特攻チーム』のスタートは前回と同じ場所から、だった。ただし今回はすべてのきっかけをタイムカウントしている。『特攻チーム』が正門に近づく少し前に騒ぎが起こる予定だ。テリーとヒューイはもう、エストレージャ城近くに待機しているだろう。
「――時間だな」
ヤンの声はいつも、気負いもなく柔らかだ。いつもどおりの声が闇に響き、四人の足が一気に駆けはじめる。しばらく進むと四つにルートが分かれた。また門前で合流するのだが、城内に入るまでに相手に動向を探られないようにするためでもある。
ローレンシアは駆けながら我が子を思った。今朝ほど、オフォスのアジトへと向かうリンティアに預けたあの温かさ。そして彼女が妙に真摯な表情で自分を見返したこと。
「ロージー、必ず、この子を迎えに来てね」
いつものリンティアらしからぬ低い声で彼女は言いながら、その胸に赤子を抱きしめる。それからリンティアはちらりと周囲を気にし、ローレンシアの耳元に唇を近づけた。
「三人で、待ってるわ」
三人、と意味深に告げられたその意図をローレンシアは数秒考え、そしてはっとして視線をリンティアの腹へと向ける。その視線の先へそっと手をやるリンティアは、恥ずかしげに微笑み、人差し指をすいと唇の前に立てた。
「――そうか。わかった、必ずだ」
新たな命が生まれようとしていることは、ローレンシアにとって大きな力になった。幾重にも重ねられた約束を果たすべく、彼女は城へ向かって駆けつづける。
予定通りの時刻に、エストレージャ城近く三箇所で火の手が上がった。闇にオレンジの柱が時折大きく走り、街はざわめき始める。ここからは慎重に。見つかれば面倒なことになる。せっかく国王軍の目を逸らすために動いてくれているチームメイトの思いが無駄にならないように。
正門まで後少しの場所には既に『特攻チーム』の三人がローレンシアを待っていた。彼女が合流すると同時に正門へ向かって駆け出す。その後ろから黒い影が二つ、ついてきた。
門を入るまでは予備チームが完全なるフォローをした。テリーの采配はさすがで、剣を抜かなくともその場を通ることが出来、ヤンはその見事な仕事振りに僅かに瞠目した。こいつはいけるかも知れねえ、と後方ついてくる二つの影にちらと視線をやってから西階段へと向かう。ここからは分岐ルートだ。ローレンシアは北階段へと向かう。
狭い北階段と違って西階段は警備兵の数も多かった。フォローにひとりついたとはいえ、ヤン自身も剣を振るわなければそこを突破することは出来そうになかった。チ、と舌打ちをして剣へと手を伸ばせば、同行ルートを辿る特攻チームの男がそれを押しとどめた。
「ここは俺たちで。――王座の間へ!」
多くの同胞たちの思いが、ヤンのルートを拓けてくれる。出来れば四人で、と思っていたが近衛兵の剣の数は予想以上で、その願いは通じそうに無い。
「オーケーイ、頼んだぜ!」
階段での攻防を二人に任せると、ヤンは上へと駆け上がる。近衛兵はバラバラと降りてくるが、倒すことよりも先に進むことを優先したヤンを足止めするには未だ足らない。