表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月下の王城  作者: 香住
29/40

第二十九話:未来への約束

 前回、テリーが簡易的に作成した万が一のための逃亡ルートは今回完全に整備され、『アンシアン』メンバー全員が何らかの逃亡ルートを持つことになった。リンティアはやはりエストレージャ城に最も近いアジトに潜むことになり、今回は素直に納得してローレンシアを安堵させる。

「あら、わたしだってそんなにわからずやじゃないわ?」

「いや、わかってはいるがな」

 リンティアから子を受け取りながらローレンシアは苦笑する。前回、随分と説得に時間がかかったことを思い出していた。リンティアもそれは同じだったようで、ちょっと頬が、赤い。

「でも……ロージー、あなた本当に参加するつもり?」

 僅かに眉を寄せてリンティアが声を潜める。その言外に腕の中の子供のことを言っているのはローレンシアにもすぐわかった。

「当然だ。それがこの子の為でもある――あたしがやらずにどうするんだ?」

 両手で赤子を高く持ち上げると彼は声にならない笑みを漏らし、リンティアとローレンシアはつられて微笑む。リンティアはちらりとその横顔を盗み見た。

 ローレンシアの雰囲気はひどく柔らかくなった。ここ二年ほどは剣士よりも母である時間が長いからかもしれないが、リンティアにとってはその母の雰囲気が好きだったし、それを守りたいと思った。

 自分よりもローレンシアはずっとずっと力もあるのに、とリンティアは淋しげに笑う。けれど、母としてのローレンシアは尊敬する剣士ではなく母として、女として同じ立場にいる相手として身近に感じていた。

「そんな顔、しなくていい。――大丈夫だ」

 ふわり、とリンティアの髪をローレンシアの手が撫ぜた。まるで子供をあやすようなその仕草に、リンティアは僅かに拗ねたように頬を膨らませたが、内心はホッと慰められていた。

「ただ、リンティアに頼みたいことがある」

「ええ、なにかしら」

 その手をそっと外してから、ローレンシアはきゅっと表情を引き締めた。真面目な視線に見つめられ、リンティアも背筋を伸ばした。

「この子を――頼みたい。あたしとヒューイの命を、預かって欲しい」

 ローレンシアの指がふっくらとした頬を撫でる。くすぐったそうに笑う幼子の手に、リンティアが人差し指を近づけた。きゅ、と小さな五指がそれを掴む。強い力で。

 その仕草を見つめていたリンティアがふっと笑みを浮かべ、そしてローレンシアを見返す瞳は凛とした輝きが浮かんでいた。

「ええ、責任を持って預かるわ」

 約束ね、と言いながらリンティアは掴まれている指を上下に揺らす。




 いくつかの約束が、次の決起には絡まっている。すべては明るい未来のため――

 幼き赤子が平和な国に生きることが出来るようにと、ただそれだけを願って。


 ある者は未来の幸福のために。

 ある者は愛する者のために。

 ある者はいとおしい者たちのために。

 ある者は切ない約束のために。


 そしてある者は、輝かしい未来を信じて。




 二度目の決起はそれから一週間後、半月の夜のことだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ