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月下の王城  作者: 香住
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第二十五話:四つの塔

 おおよそ二月後、ローレンシアは全快してエンテのアジトへと向かった。テリーとリンティア、そしてヒューイも同行し、ヤンとの再会を喜び合った。そしてヤンとヒューイとの初対面はニヤリとお互い、笑っただけだった。

「早速だが、現状の話からさせてもらうぜ?」

 エストレージャ城内地図を広げながら灰青の瞳が全員を見回す。古びた地図に真新しいしるしがヤンによって随分と殴り書きのように四箇所、つけられた。

「なんだか建設中、だそうだ。エラいお人の考えることはよくわからねえ」

「四箇所……? 見張り台かなあ」

「かも知れないな。多少は懲りたということか」

 覗き込んだテリーが首を捻って呟いた言葉に、ローレンシアが同意を示す。

 さっきヤンから告げられた今回の決起の結果は散々で、まだ命を落としたものがそう多くなかったことで救われはしたが、結局は反乱軍が潜んでいるという事実が相手にわかってしまっただけだった。相手とすれば全員の捕縛が不可能ならば、また襲来があると考えるのが妥当だろう。ロサードははっきりとヤンとローレンシアのことを見たのだから、死んだ者や捕縛した者の中に彼らがいないことは一目瞭然だ。

「コイツが出来上がる前に仕掛ける方が楽にゃ楽だが、ちっとばっか準備がキツい。なもんで、少しばかり長期戦で行くことにしようと思う」

「メリットは」

 すかさずローレンシアが訊ねた。その鋭さは相変わらずで、ヤンはニヤリと笑って頷く。

「中に数人送り込むことにする。だから次の決起は年単位で考えるのが妥当だろうな」

 中、と言いながらヤンはコンコンと城の真中を示した。その意図するところは全員が理解したものの、その突飛な発想にしんと静まったままだった。

「――わたし、が、行くわ」

 その輪の中で唯一、今回の決起で城へと足を踏み入れなかったリンティアが言った。当然、全員の視線が彼女に向くが、リンティアはくっと顎を引いて青い瞳を凛と輝かせる。

「無理だ」

 信じられない、というように首を振りながらテリーが最初に否定する。

「きみをそんな目に遭わせるわけにいかない」

「大丈夫よ」

「きみの顔はやつらも知ってる! 連れて行こうとした国王軍の連中に見つかったらどうするつもりだ!」

 テリーの主張は当然だった。まさかとは思うが、リンティアを連れ去ろうとしていた兵に会えばすべては終わってしまうだろう。その懸念はリンティアを思うテリーだけではなくその場にいた全員が感じていた。

「リンティア」

 ローレンシアが名を呼ぶと、キッとヤンを睨み据えていた瞳の色が鈍る。ゆっくりとリンティアがローレンシアを見つめた。

「相手の懐に飛び込むには、どれだけ用心してもし過ぎというものではない」

「ロージー……」

 穏やかな口調で諭され、ローレンシアの細い黒の瞳が優しくリンティアを見つめ、頷く。わかっている、と――お前の気持はわかっている、とそう告げているような気がして、リンティアは肩から力を抜いた。


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