第二話:貫くべき意志
酒の席で上官の愚痴を言うのはもうお約束のことだろう。しかしその相手が現国王だとしたら?
しかもその愚痴は極当然のことで、責められるべきは当の上官――国王であったとしたら?
しかしこのエストレージャの乱れた国政の中、真正面から王を指差せる者はない。それを王自身がよくわかっているからこそ――そのツケは国民へと降りかかる。払えない火の粉は甘んじて受け、その身が丸焦げになろうともすべてロサード王のため。
そんな『常識』に異議を唱える者がいた。彼らは場末の酒場のいつもの隅っこの丸テーブルでお互いの意思を確認し合ったばかりだった。
「――良いのか、本当に?」
「くどい」
ガタイのいい、銀髪の男が背を丸めながらカップを置き、右隣の女に向かって問えば、女の方は高い位置でまとめた金に近い茶髪をさらりと振って端的に答えた。
どちらかというと男の方が弱気だ。カップを手にしたままジロリと灰青の視線を女へと向ける。
「しかし、父上ががっかりなさるぞ」
「……昔から父上には弱いね、おまえは」
くす、と女が笑うと冷ややかな印象の表情がやわらかく崩れる。男はチッと舌打ちをすると大きく深呼吸をした。
「しょうがねえだろう、オレのオヤジ代わりみたいなもんだ」
「馬鹿、そんなこと言ったら小父様が淋しがる」
沈黙が流れる。彼らが馳せた思いの先が自分と、それから相手の両親であることがお互いわかっていた。彼らを裏切ることになる――それだけが、二人を最後まで躊躇させた原因だった。
「ロージー……いや、ローレンシア」
男が女の愛称を呼び、そしてフルネームに訂正する。黙ったまま男はローレンシアの前に右手を出した。彼女は弓形に唇の両端を上げて少し首を傾げ、細い黒の瞳でまっすぐ男を見返してその手を取る。
「これからもよろしく、ヤン」
「死ぬまで、な」
ニヤリとヤンが灰青の瞳を片方瞑り、おどけた口調で返した。しかしそれが強がりや誇張でないことは、握手する手の強さからローレンシアに伝わっていた。
ヤン=メイフィールドはローレンシアの隣人で、幼い頃から一緒に兄妹のように育った。後にメイフィールド家が没落し、住まいをオフォスの隅の方に移してからも彼らの友好は続いていた。ヤンが騎士を目指していることを知ったウォーディート卿は彼の入隊時に非常に骨を折っていた――その頃メイフィールド家は決して身分の良い家とは言えず、卿の口添えがなければヤンは近衛兵にはなれなかったことだろう。
かつて騎士副団長を務めた男の娘と、そしてその口添えがあった騎士が揃って国王へ反旗を翻すというのは、他のどの騎士のそれよりも重い意味を持っていただろう。当然、若い二人がもっとも重くそれを受け止めていた。




