第十九話:愛おしき再会
同じ頃、テリーはやっとの思いでリンティアと合流していた。ルート八の発令には驚いたが彼らのことを信じていたのでその発声は酷く厳しい状況下ぎりぎりで出されたものだろうとわかっていた。城の前庭で戦闘を繰り広げる予備チームのメンバーが全員撤退を始めたのを見届けてから、彼はチームメイトが向かうのとはまったく逆の東へ向かって駆け始めていた。
リンティアがいるアジトはもっともエストレージャ城に近い。まさか国王軍の手がすぐに伸びるとは思わないが彼女がもしも頑として逃げなかったり、もしかすると逆に城へと向かっていたりしたら、と思うと自然と足は速くなった。定められたアジトが見えるのと同時に、その前で祈るような手のかたちをしているリンティアが同時に見えた。
彼女が何か叫んでいる、とテリーは感じた。実際、リンティアはテリーの名を叫んで駆け寄ってきたのだが、その声さえも届かないくらい、テリーの頭の中はリンティアでいっぱいだった。この瞬間、テリーは『アンシアン』のこともヤンのこともローレンシアのことも、忘れた。腕の中に彼女がいる。ただそれだけで、テリーの幸福は戻ってきたのだ。
「テリー、テリー!」
「リンティア……無事でよかった……!」
言葉は要らなかった。ただ名前を呼ぶだけで、あとは腕や胸が相手の体温を伝えてくれる。抱きしめあえる相手の存在に、二人はこれ以上ない幸福を噛み締めていた。
エストレージャ城に最も近かったそのアジトにはリンティアのほかに二人の男がいて、彼らも無事だった。正確に言うと片方は頬にかすかな傷痕があったが、テリーがその原因を問い詰めると苦笑しながらリンティアを指した。どうやら、危険だからアジトの中で待てと何度言っても聞かず、最後には止める腕を振り払って引っかいたらしかった。
翌日、発令されたルート八に基づいて逃げてきた『アンシアン』メンバー二人が合流し、それと入れ違うようにエンテのアジトへ報告に二人の男たちがアジトを発った。四日後、戻ってきた彼らからヤンの現状と、それからローレンシアが消息不明だということが伝わってきた。城の敷地から脱出する二人の姿をちらりと視認していただけに、テリーにとってその事実は衝撃的だった。
つまり――ヤンは、ローレンシアを置き去りにしたのだ、ということ。そしてそれを今ひどく悔やみ、どれだけ苦しんでいるか……さすがにリンティアもそれに気付き、いつもの晴れやかな笑顔は見られなかった。