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月下の王城  作者: 香住
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第十三話:ルート八

 ロサードの動きは緩やかだった。距離を詰め、剣を振り上げ、そして斬り下ろす――ローレンシアはその行為に見入るようにぼんやりとしていた。その身に刃が降りかかろうとしたその瞬間、彼女を現実に立ち戻す声が響く。


「何してる、ロージー!」

 はっと我に返ったローレンシアが出来たのは、ぎりぎりその銀色から致命傷を避けることだけで、さすがにその軌跡から逃れきることは出来なかった。左の脇腹から正面の腹にかけて彼女の衣服は切り裂かれ、じゅわりと赤い液体が一気に滲み出る。痛みは、その鮮やかな色を視認したあとだった。後方からヤンの足音が近づいてくる。

 ローレンシアの耳がそれを捉えた瞬間、僅かに逸らした視線の隅でロサードがざっと床を蹴るのがわかった。慌てて振り向けば、まとめて結んだ髪が視界に広がり、薄い金色の向こうに緑の瞳が大きく見えて――


「ロージー!」

 ヤンの声が、一瞬、遠く聞こえた。


 咄嗟に倒れるのを堪えるようにローレンシアの身体が不自然に揺れ、その拍子に大きく後ろに一歩、引く格好になる。それは反射とはいえ幸いだった。ついさっきまでローレンシアの首があった場所に、赤く染まったロサードの手になる剣がその空を切り裂いたからである。


「ロージー!」

 もう一度、ヤンの声。今度はやけに近い。やっと自分の足に力が入ったと感じられたローレンシアは、目の前の青年から目を離さずに、叫んだ。

「……ルート八を指令しろ!」

 叫ぶとともに、腹の右側に強い痛みが襲う。歯を食いしばっていなければ意識を手放してしまいそうな激痛に堪えながら、ローレンシアはその傷をつけた主――ロサードを睨んだまま、もう一度叫んだ。

「即刻だ! 全員ルート八を取れ!」

 まるで傷口からゴプリと音がするかのように、血が溢れていくのがわかった。もう、叫べない。背中から聞こえていた足音は止まっているようだ。――ルート八。



 万が一を考えた脱出ルートを考えたのはテリーだった。彼は心配性なのか、逃走ルートを幾つか考え、自分でラインを引いた国内地図を広げてメンバーに見せていた。そして幾つかのレベルを伝達する合図を決めたのだ――ルート八。最も最悪のパターンだったときに発する、合図。


 決起失敗、生命維持を最優先に速やかに撤退せよ。



 その指令は本来、反乱軍リーダーであるところのヤンが発声するものであるはずだった。しかしローレンシアは自分が負った傷の深さとヤンの性格を考えて――恐らく彼は王を倒すよりも自分を助ける方に意識が向くだろう。そして戦いに集中できなければこの若き青年王は倒せない。

僅か数回剣を合わせただけで、ロサードの腕が相当なものであることを彼女は感じていた。いつものヤンならば勝てるかもしれないが、この状況では守らなければならないものが多過ぎる。

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