第十話:金色の三日月
雲の多い夜だった。時折思い出したかのように雲の切れ間から金色の三日月が彼らを照らした。すべてが計算し尽くされた夜であり、あとは数分後のスタートを待つだけだった。リンティアは昨夜のうちに数人の非戦闘員とともにオフォスの北東にあるアジトへと向かった。城に最も近いそのアジトに行くことを強く望んだ彼女は、それが最大の妥協だったのだろう。
エストレージャ城のてっぺんが微かに見える場所で、特攻チームの四名が静かにその時を待っていた。テリー率いる予備メンバーは数チームに別れ、城へ向かうルートのいくつかへと向かっている筈だった。間もなくどこかで騒ぎが起こるだろう。
ローレンシアは落ち着いているように見えた。細い黒の瞳はまっすぐに城を見つめている。その横顔を見たヤンは、彼女が何を考えているかわかったような気がした。
この革命が成功しても失敗しても、彼女には思いが晴れない理由がある。恐らくそれは父の存在だろう。――成功したとしても、父の存在は彼女の人生について離れない。一身に受けた愛をすべて裏切りで上塗りするような――その行為を彼女は自分に許さず生きていくつもりなのはわかっていた。
だからそんな彼女の傍にいようとヤンは考えていた。彼女を愛しているとかそんな次元の話ではない。ウォーディート卿を裏切ったという事実においてローレンシアと自分は共犯なのだ、と。
「――西から、か」
ぽつりとローレンシアが呟いた言葉で、三人の瞳が西へと向く。闇の色にところどころ白や赤が輝くところを見れば――始まった。
「ンじゃそろそろ、行くか」
まるでどこかへ出かけるかのように軽くヤンが言う。返る眼差しはみな、緊張に包まれていた。各々が武器を確認すると、ローレンシアの軽やかな走りとともに城へ向かって駆け始める。
すべてはそこから始まったのだ。これから起こる偶然も、必然も、すべてがここから。