第一話:プロローグ
このお話は、あるストーリーのスピンオフとして以前書いたものです。
非常に長い上に、三人称での本格的長編の執筆は初めてでかなりシリアスな内容ですので読みにくいかもしれませんが…
私が「どんなものを書くのか」がお伝えできればと思い、こちらに転載することにしました。
どこかでお読みいただいた方、すみません(笑)
今から……そう、三十三年前のこと。エストレージャ王国は病に臥した王を支える保守派と、その息子である王子の即位を勧める革新派の二派に別れて対立していた。
対立といってもさほど大きな騒ぎになるものではない。お互いが自らの推す案を躍起になって通そうとしているだけの子供の喧嘩レベルだ。渦中の王が伏せるベッドにその話題は持ち込まれはしなかったし、王子はそのときまったく政に関心がなかった。当然だ、まだ齢十六の少年ならば仕方あるまい。
同じ年、ある貴族の娘が近衛騎士団へ初の女性入隊を成し遂げた。
ローレンシア=ウォーディート、十八歳。
父ウォーディート卿はかつて近衛騎士副団長として活躍した腕の立つ男であり、彼の子は親族のみならず王族までもが期待を膨らませ待ち焦がれていた。しかし産まれたのは女で、その後十年間、長男が生まれるまでローレンシアはあからさまな落胆と溜息の中で育ったのである。
それ故か、随分と男勝りで頼もしい女性騎士となった。当時のエストレージャ王国近衛騎士団への入団は剣の腕はもちろん血筋までもが厳しくチェックされる難関であったので、彼女の入隊は多くの話題を呼び、その翌年から僅かではあるが女性兵士、女性騎士が続々と誕生していく先鋒となったのだ。
翌年、エストレージャ国王が崩御した。
革新派は深夜に戴冠の儀を終え、保守派の反対むなしく王子は即日、正式に王となった。ロサード=エストレージャ十七歳のときである。
当然、最初から政がうまくいくはずもない。若き王は父の腹心たちを頼った。彼らは強欲で口ばかりが巧い老人期に差し掛かった男たちで、息子よりも年下の少年王を騙すのは簡単だった。
しかし新王は酷く頭の良い少年だった。その興味を政に向ければ自分の置かれている立場、利用されている状況、現在の王宮の財政などは手に取るようにわかった。そして彼は利用したのだ、自らの地位と年齢と未熟さを。否、彼はもはや未熟ではなかった。しかしそれを決して表に出そうとはせず、未熟で幼い少年王を装った。年齢を理由に軽んじられることも承知していた。その上で彼は、見事操られている振りをして狡猾な仮面を隠していたのだ。
自分が矢面に立たぬように仕向けた外交をはじめとし、国内の富豪たちへは好意的な言葉を巧みに操り、若きロサード王は周囲を完全に欺きながらその欲を満たしていった。
それと反比例して国内が荒んでいくのは必至だろう。貧富の差は激しくなり、力の強い者が弱い者を足蹴にする。小さな村や貧しい村は次々と潰され豊かな村には重い税を課し、反論があれば力でねじ伏せる――正義感に駆られた若者たちは次々に国王軍兵士に志願し国を立て直すために命を賭する道を選び無残に散っていく――そんな繰り返しに気づいた者たちが集まり始めたのが、即位から二年後のことだった。