昇級と戦利品
赤いオークと冒険者狩りの共倒れに成功し、女性を救出したグリッド。
エルコンドに帰ったグリッドは、ギルドマスターゴルドから呼び出された・・・。
~~~トゥース暦494年1の月27番の日
アガンチュード王国・エルコンド
突発的なオーク退治と冒険者狩り退治をした日から3日過ぎた。
あの後、遅れてきた守備隊がグリッドに合流し状況の説明と確認をした。
まずその場にいたのは人族が8人、オークが6体。ほとんどが死亡し生存者はグリッドと意識不明の女性のみ。女性は薬によって意識不明になったらしく、冒険者狩りの荷物から怪しい薬が見つかりそれが原因と判明した。
女の意識が戻らずに話が聞けなかったので、グリッドは女性の意識が回復するまで留置場に入れられて事情聴取を受けた。
ところが、”グリッドが留置場に入れられた”と聞きつけたセシルが、守備隊の詰め所に飛び込んできて「グリッドを檻から出しなさい!」と激怒し、あわや2人で留置場お泊り会か?というところまで大騒ぎに発展。
セシルを追いかけて来たギルドマスターでセシルの叔父ゴルドと、事態収拾のため一時的に檻から出されたグリッドが二人がかりでセシルを宥め何とかその場を治めることができた。
そんな騒動があった翌日、意識が戻った女性から守備隊が事情を聴いた。
彼女の名前はレクルといい、パーティー5人でユエルダンジョンに入ったそうだ。
ダンジョンから出てエルコンドに戻る途中、件の冒険者狩りに襲撃を受け、レクルの仲間がその場で3人死亡、レクルともう一人の仲間が捕まり男は暴行を受け死亡する。
レクルは奴隷として売ると言われ薬を嗅がされたため、意識を失ったその後の事は覚えていなかった。
しかしレクルの証言により、あの現場の死亡者のうち一人はレクルの仲間であり、冒険者狩りに殺された事・他の死亡者は冒険者狩りの5人と確認されたため、グリッドはようやく釈放された。
グリッドが家に帰ると、扉を開けるなりセシルに飛びつかれて大泣きされる。
どうやらセシルは彼の身を案じるあまり徹夜をし、仕事も休んでグリッドの帰りを待っていたらしい。
セシルが落ち着くまで待ち、グリッドが事の顛末を正直に話すと、
「わざわざ危ないことに首突っこまないで!」
と、グリッドはセシルに襟首を掴まれ、ガクンガクン振り回されたあと、お詫びに次の日一日中買い物と食事と付き合うことでようやく許された。
そして今日、ようやくオーク騒動以降初めてゆったり休むことになったのである。
<まぁ、ゲンゴロウと話しができたという件は一歩前進だね。と喜んでくれたから良しとするか>
時刻は6つ目の鐘が鳴ってから半刻ほど過ぎたくらいか(13時)。グリッドは午前中にギルドマスターから呼び出され、今冒険者ギルドに向かっている途中である。
<セシルは俺の事になると過剰反応するらしい・・・怒らせないようにしよう>
まだ少し眠気から覚めない頭で、ここ数日の事を思い起こしながら冒険者ギルドの扉を開ける。お昼時を過ぎたばかりで人影がまばらだが、グリッドが現れるなりそこに居た冒険者や受付嬢の視線が一気にグリッドに集中した。
自分に集中する視線に、グリッドの眠気は一気に吹き飛び思わずたじろいだ。カウンターに笑顔で手招きをするセシルを見つけると、視線から逃れるようにそそくさと移動し、セシルに何事か聞いてみた。
「お、おいセシル、何かあったのか?」
「色々あるよ~。とにかくグリッドが来たら叔父さんの所に連れて行くように言われてるから一緒に来て」
「あ、あぁそか。頼む」
受付嬢なんかあんな顔見たことないくらい嬉々としていてなんか怖い。
2人連れだって階段を上がり、ギルドマスターの執務室に向かう。
セシルと2人で執務室に入ると、正面にはニヤニヤしながら待ち構えるゴルドが立っていた。
エルコンド冒険者ギルドのギルドマスターゴルド。
グリッドより一回り大柄で、白髪交じりの短い茶髪に口ひげ、ガハハと笑う豪快なオヤジで見た目こそいかにも脳筋だが、人柄と面倒見の良さから冒険者を引退後ギルドマスターに抜擢された経歴を持つ。
また、セシル同様ゴルドもグリッドの過去の事情を知る一人である。
グリッドがここエルコンドで冒険者を始めてからずっとグリッドの面倒を見てきた。姪のセシルがグリッドと同棲を始めるという時も、ゴルドが所有するエルコンドの住居を提供してくれた。グリッドにとって義理の父代わりで恩人。頭の上がらない相手の一人である。
「おぅ、グリッドおつとめご苦労さん。留置場の寝心地はどうだった?」
「最高級の宿屋並みに至れり尽くせりでしたよ」
「そうか。次お泊りの時は差し入れでもしてやるよ」
「それはフリになるから言わないで下さい」
ゴルドはガハハとごついオヤジらしく豪快に笑った。
セシルが2人にお茶をだすと自分もグリッドの隣に座る。
グリッドはセシルからお茶を受け取ると一口飲んでから話を切り出した。
「で、ギルドに来たら顔を出すように。と聞いたんですが?」
「あぁ、あの件以来いくつか連絡事項があってな。順番に行こうまずは特異種のオークの件だ」
ゴルドもお茶を一口すすり舌を湿らす。
「レッドオークとでも呼んでおくか。火球を無詠唱で使い斧も使う。お前の話では下っ端のオークも軍隊みたいな動きをしてたと言ってたな?」
「ですね。音を出さずに行動させ挟み撃ち、恐らくレッドオークの統率力が高かったと思ってます」
「ふむ。この数年たまにレッドオークは目撃されてるんだが、軍隊のような動きまではした事が無かった。レッドオークに限らずここ最近アガンチュードを含め、他の国や地域でも魔物が増えてきているらしい」
「何かの予兆かもしれない。ということですか?」
「考えすぎかもしれんがな。軍の方で密かに調査が始まっているらしいし、念のため用心するに越したことはないな」
「グリッドには誰かとパーティー組んで欲しいわね。1人で突っ走るのも止められるし」
さりげなくセシルがグリッドに釘を刺してくる。
「・・・そ・・・それは・・・善処する・・・」
「そんな言葉どこで覚えてくるのよ?どこかの貴族様みたい」
ゴルドは対面で引き攣るグリッドと頬を膨らませるセシルを面白そうに見ている。
「ガハハ!さすがの”盗賊狩り”も形無しだな。まあ善処してくれそのほうが俺も有難い。それで・・・」
その後、冒険者狩りを倒した件とレクルは数日で回復するだろうという事、ランクが銅から黒金に変わること、今回の件での特別報酬が出た事まで聞いた。回収した武器防具アイテムもセシルが売ってくれたそうだ。
黒金はランクで言うと9段階のちょうど真ん中5番目だ。
上位のミスリル級・白金級は国家相手にするほどの希少クラスで、余程の実績と名声が無いとなれないランクなので、実質的なランクは最高で金・黒金は3番目に評価の高いクラスと言える。
「それでね、これはグリッドは欲しいだろうと思って残しておいたよ」
セシルがテーブルの上に置いた物を手に取って見ると、一見して何の変哲もない腰にベルトで通して使うアイテムポーチだった。
「ん?これが欲しいもの?」
「そうそう、これ容量が増える空間収納の付与がされてるやつだったんだ、あと装備品売った分と特別報酬もそこに入ってるよ」
「すごいな、有難うセシル助かるよ」
グリッドが感情を表現するとセシルは喜んでくれる。それに本当によくできた女性だ。最終的にグリッドは冒険者狩りの財布の中身と討伐報酬、オーク達の討伐報酬、武器防具の販売代金合わせて金貨17枚分、さらにアイテムポーチを手に入れた大収穫である。
そういえば・・・とグリッドは気になったことをゴルドに尋ねた。
「さっき話に出た被害者の・・・レクル。彼女はエルフでしたよね?」
「あぁ・・・」
ゴルドもグリッドの言いたいことが解ったらしく、今まで喜色満面だった表情が一瞬曇る。
「彼女を保護した守備兵と、治療に当たった担当者には口止めをしてある。どうやら変化の指輪を使っていたらしくてな、冒険者狩りの荷物の中に、奪われた指輪が入っていたから彼女に返却しておいた。エルコンドで活動再開するにも問題はないだろう」
人族の亜人に対する差別意識は高い。ゴルドがレクルの事情を知ったうえで、エルフ族であるレクルに配慮してくれたのだと理解した。
「そうですか」
思い出したことを確認したかっただけのグリッドは、もう興味を失ったように頷くと、少しぬるくなったお茶を口に運ぶ。
「おぅ、そうだグリッド、黒金のギルドカードを渡しておく。黒金になればギルド依頼や指名依頼も来るかもしれん。強制ではないがギルド依頼を断りすぎれば落ちることもあるから気を付けるんだぞ?」
「わかりました。覚えておきます」
ギルドカードと首にかける小さい小判型の認識票を黒金の物と交換し、ギルドカードを眺める。新しい黒金のカードと認識票は、銀・鉛・銅・硫黄などを合わせた黒い合金で作られており、カードと認識票は黒い物になった。
「あ、グリッド。折角だから私のカードの連絡先登録しておいて」
「そんなことできんのか?」
「知らなかったの?・・・まぁ”二刀の一匹狼”とか二つ名があるくらいだし、知らないのもしょうがないけどねぇ・・・」
さりげなくぼっちを皮肉られたし”二刀の一匹狼”?さっきも”盗賊狩り”とか言われたし”変わり者”とか言われた事もあったな。
・・・気にするのは止めよう。
「ギルドカード持っている人同士なら予め登録しておけば短い文章で連絡できるよ」
世間話を挟みながら連絡の使い方を一通り聞いて、その場は終わりとなった。
2人で執務室を出るとセシルが嬉しそうに手を繋いでくる。
「すごい色々いい話があったね」
「そうだな。アイテムポーチが一番嬉しいな」
「そこ?私はグリッドのカードに私の連絡先入れられたのが一番嬉しいよ。だって突然消えても連絡できるし」
「・・・悪かったって」
グリッドが仕事に戻るセシルと別れ店内に行くと、見知らぬ女性冒険者が2人連れだって声をかけてきた。何事が起きたのか理解できずに固まってしまう。
「あ、あの!グリッドさんですよね?」
「え?・・・あぁ・・・そうだけど」
グリッドと判るとさらに食い気味に寄ってくる。
「あの、良かったらこの前の討伐の話し聞かせてもらえませんか?」
「え?」
「特異種のレッドオークと冒険者狩りを二刀流で華麗に瞬殺したとか!」
「え?・・・いや・・・」
グリッドの性格を少しでも知っているベテラン冒険者たちとギルドの受付嬢が、3人のやり取りを見て、ある者は面白そうにニヤニヤ眺め、またある者はセシルが飛び出して来て一波乱あるんじゃないか、またはグリッドがパニくるんじゃないか?などハラハラしながら事の次第を眺めている。
「あとあと!攫われた女性冒険者を救ったんですよね?」
「え?・・・あの・・・」
「レッドオークの巨大な≪火球≫を真っ二つに斬ったって本当ですか?」
「え?・・・ちょっと・・・」
「職業盗賊って事は救った女性の心も盗んじゃうんですか?」
な・・・なんだこいつら?
<というか・・・心を盗む泥棒なんているのか?・・・>
怒るわけにもいかず引き気味で言葉が出ない。グリッドの目がぐるぐると周りはじめる。
「ぅぐ・・・」
1歩2歩後ろに下がったところで後ろから声が聞えた。
「・・・ドさん。グリッドさん!」
名前を呼ばれてはっと振り返ると、ターニャが笑顔で立っていた。
「グリッドさん、カウンターの奥で婚約者が呼んでますよ!」
「はっ!・・・あ!・・・うん、ありがとう。じゃ、じゃあ、そう言う事なんで」
「「あっ・・・」」
引き留めようとする2人から逃げるように、ターニャに続いて急ぎ足でカウンターの奥にある部屋に入る。そこにはちょっとびっくりしているセシルとターニャが待っており、グリッドは2人を見るなり脱力して大きく溜息を吐いた。
「ありがとう・・・助かった・・・」
「え?なに?グリッドどうしたの?」
「セシル。あんたが居ない隙に新人冒険者の女の子2人がグリッドを食事に誘ってたのよ」
「ええええええ?」
裏に居て気付かなかったらしくセシルは今更ながら驚くと、慌ててグリッドに近寄り背中に触れてグリッドの様子を見る。
「そ、それでグリッドは大丈夫なの?」
「あ~言葉が出なくて、眉間に皺寄せてたから私が声かけたの」
「あ・・・あぁ・・・ありがとう・・・大丈夫だ」
セシルの顔を見てほっと力が抜ける。セシルも安心したようだった。
「あの子達の前で”婚約者”って言ったし、あの子達はあそこまで言い寄らなくなると思うよ」
「そか。ありがとうターニャ私も気を付けるね」
「グリッドさんあんだけ強いのに話し下手とかねぇ~それが無きゃもっとモテるのに」
「あ、いや。それは・・・」
「あはは、じょーだん。グリッドさんはセシルが居ればいいんだもんね」
「んじゃ、落ち着くまでここに居ていいよ。私は戻るから」
ターニャは手をひらひらと振って部屋から出て行った。
「グリッド大変だったね・・・」
「あぁ、すまない。心配かける」
セシルはグリッドに笑いかけると椅子を勧める。
我ながら大の男が情けないとは思うが、ただでさえ苦手な上にあれだけ捲し立てられてしまうと何もできない。
「ターニャは・・・というよりギルドの人達は俺の事知ってるのか?」
ゴルドさんとセシルはどこまで俺の事をみんなに伝えているのだろう?それによっては皆に気を使わせてしまう事になる。グリッドはちょっと心配になった。
グリッドの問いに、セシルは天井を仰ぎ見て、ギルド職員と冒険者の顔を思い起こしながら答える。
「あ~・・・あのね、過去の事は誰も知らないよ。ただ、何時もの様子からかなりの話し下手か、人と接するのが苦手とかあがり症くらいには思ってるかな。常連の冒険者さんも含めてグリッドが私と付き合ってるのもみんな知ってるし、ギルド内なら手伝ってくれると思うよ」
「そうか・・・」
「むしろ1人で街中歩くときとか心配かな?」
・・・想像しただけでぶるっと身震いしてしまった。
「ん~やっぱり信頼できる誰かと組んで欲しいなぁ」
「・・・善処する」
<ゲンゴロウが特別だっただけか・・・もどかしい。うまく躱せる会話に慣れないとセシルにも悪い・・・>
その後少しセシルと話をしてあの子らが居ないことを確認してから足早にギルドを後にした。
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「話し下手に人との接し方を治したいだぁ?」
グリッドはギルドから出ると、なんだかんだ言いながらも結構物知りなシキリ婆の所で話を聞いている。
「死ぬほど生きてる婆さんならなんかいい方法知らないか?」
「なんだ、おぬしぁ早死にしたかったのかい?何なら手伝ってもいいぞ?儂はそもそもそんなに婆じゃないの。話し下手なんて慣れだ、慣れ。」
「婆さんなら千年生きてても不思議じゃない・・・」
「おぬし思ってることが声に出てるぞ?それよりあんた、持ってるもん出しな。貰ったもんがあるだろ?」
相談話を曖昧にされたあげく、繋がりのない話題に切り替えられ、意味が解らないと訝しむグリッドを見て、シキリ婆が言い直す。
「はぁ・・・おぬしの腰に付けてるそのポーチ。今までのと違うだろ?ちょっと貸してみな」
グリッドはシキリ婆に言われるままポーチを外すと、お金だけ抜いてシキリ婆に渡すと興味深そうにあちこち確認している。
「ほう・・・空間魔法で容量が上がってるのかい。ちょっと預からせてもらうよ。3日後にまたおいで」
「なんかまた弄るのか?」
「あぁ、特別サービスでもっと良くしてやるからの」
帰りしなにふとマトイの不在に気が付いて話を振ってみる。
「わかったまた来るよ。ところで今日はマトイは居ないのか?」
「あぁ、マトイならウズの国まで仕入れに行ってるよ。明後日には居るだろうさ」
「わかった。また来る」
ただでさえ十分な性能のポーチだったのに、あの婆さんはこれ以上何をするのか。シキリの魔改造が終わる3日後にまた来ると約束してグリッドは店を後にした・・・。




