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素破  作者: 光風霽月
アガンチュード王国編
7/16

冒険者狩り2

新たに手にした魔道具のテストに行くだけのつもりが、オークの特異種が現れたと聞きどうせなら魔物退治ついでに・・・と考え、「ミカヅキに帰りたい」というゲンゴロウの馬車に便乗することになった。

 ~~~トゥース暦494年1の月24番の日

 アガンチュード王国・エルコンド



 小一時間ほど進んだだろうか。ミカヅキに続く道は左右の景色を林に変え緑色の景色が後ろに流れていくが、オークの姿はまだ見えない。

 馬車の持ち主の男はゲンゴロウと名乗り、ミカヅキで木製の日用品を作り定期的にエルコンドに納めに来ているいるそうだ。


「なぁグリッドさんよ。あんた冒険者だろ?彼女は居るのかい?」


「あぁ」


「今はまだ若いからいいが、そのうち帰る家待ってる家族があって良かったと思う時が来るさ。自分と彼女の命大事にしなよ」


「それでゲンゴロウは危険を冒してでも早く帰りたいのか?」


「まぁ、そういうこったな。ガハハハ!」


 ゲンゴロウはそこまでして傍に居たいと思うような経験をしたのだろう。昔の自分なら解らないが今なら何となくわかる気がした。


<帰る場所か・・・>


 そんな話をしていると予め張っていた気配探知に数体の気配が引っ掛かった。


「・・・見つけたぞ」


 ゲンゴロウの顔が厳しいものに変わる。


「あんたはこのまま止まらずに進め。振り返らずにミカヅキまで走れよ?」


「す、すまねえな。グリッドも死ぬなよ?」


 前を見据えたまま話すゲンゴロウの肩をポンと叩き御者台から飛び降りる。


 グリッドは静かに立ち上がりあらためて気配のする方を確認すると、道から林に入って3,4百メターレ(m)辺りに6体の存在を確認すると、気配探知をそのままにスキル≪隠蔽≫(気配と魔力を消す)を使い林の中へ飛び込んでいった。


 あと100メターレくらいの所で速度を落とし30メターレまで静かに陰を進む。木々の合間に生える藪の陰から様子を窺うと想定外のモノが目に入った。


<・・・?冒険者?俺より先にオーク退治に来たやつか?そのわりには・・・>


 魔物狩りに来た奴らにしては騒ぎ過ぎだ。大きな下卑た笑い声をあげ雑談し、とてもではないが周りに注意を払っているとは思えない。グリッドはさらに注意深く見易い位置を探し近寄って行くと、木の幹に縛り付けられ項垂れた女と地面に転がった男が一名ずつ。その近くでヘラヘラ笑いながら人を縛り付けた木に向かいナイフを投げている男達が5人居た。


 転がった男は気配が無く既に絶命していると思われる一方で、縛り付けられた女の方は弱いが気配があり辛うじてまだ生きているらしい。


<ふむ・・・6つ目の気配は木の女のモノで冒険者風の服装か。てことは冒険者狩りがあの5人。ダンジョン帰りにでも襲われた・・・ってとこか?>


 そういえばエルコンド~ミカヅキの道沿いにある”ユエルダンジョン”は、この先さらに馬車で1時間ほど進めばあったはずだ。それはいいとして・・・オークも気になるがこいつらも何とかするか。


<冒険者狩り達の構成は剣が3人・槌1人・ご同業1人か。近接ばかりでバランス悪いな・・・ん?>


 グリッドは気配探知でこちらに向かっている違う気配を拾った。出がけのエルコンド守備兵の様子ではこんなに早くに着くはずはなく、しかも道やエルコンドとは逆の方角から来ている。


<まいったな・・・こいつらのお仲間か?>


 とりあえずそいつも見てみようと思い、冒険者狩りに気づかれないようその場を離れ、新たな気配の方に向かい走っていった。


<っ!?>


 走っていたグリッドは後から来た気配が次第に強くなると、慌てて近くの木の上に飛び上がり、段々と近づいて来るモノを警戒し目を細めて様子を窺った。


<チッ!・・・こっちが本命だったか・・・>


 思わず舌打ちしたグリッドの視線の先、林の陰から現れたそれはオークの一団だった。さっき見た冒険者狩りの方へ声もあげずに静かに行軍している。ただのオークであれば武器で邪魔な枝を払い小さく唸るなどして音がするのだが、こいつらは音も極力出さずに”行軍”していた。そして最後に姿を見せたのは城門で聞いた”赤いオーク”。

 オークの一団の軍隊の様な動きは、その赤い奴が統率しているからで間違いないだろう。赤い奴の大きさは他のと変わらず、危険度がオークより一段階上の特異種。二段階上の上位種の特異種でなかったのが不幸中の幸いか。

 オークの数も10体くらいと聞いていたが、実際探知した気配は6体。城門で慌てて話していたのは一般人であり、焦って逃げながらと言っていたのだから見間違えてもしょうがない事だろう。


 グリッドはオークたちに追いつかれる前に急いで木から飛び下りると、先ほど木に縛り付けられてた女の救出方法を考えながら走る。


<こいつらが冒険者狩りの方に向かっているならこちらにも都合がいい。オークをぶつけて乱戦になったところを邪魔して美味しい所をもらうか>


 それから約10分ほど過ぎた頃。オークより先回りしてスキル隠蔽を使用したまま冒険者狩りの近くの繁みに潜んでいると、数十メターレ付近までオーク達の気配が近づいてきた。ところが、油断なのか探知スキルを持っていないのか、オークが近くまで迫ってきても冒険者狩り連中の誰もオークの気配に気づいていない。


<こいつら阿保なのか?あの赤オークの方が指揮官として優秀だな・・・>



 そしてオーク達が30メターレ付近まで来たところでさらに驚く動きをする。死角に入ってしまい気配でしか読めないが、赤オークを中心にまとまっていた気配が散開し包囲を試みたのだ。赤オークの統率力に感心していると、散ったうちの1体がグリッドに気づかないまま忍び寄ってきた。冒険者狩りに意識が集中しそいつはまだグリッドに気づいていない。


<6対5・・・今から数を減らしておくか・・・>


 グリッドは腰から山刀を抜き静かに後ろに近づくと、躊躇う事無くオークの首を背後から掻き切った。


 ブシュッ

 ウグォ・・・


 低い呻き声をあげ絶命したオークの身体を引きずりながら身を低くして藪の陰に隠れるが、さすがに気付かれてしまった。当然ながら冒険者達ではない・・・そう、赤いオークの方に。


「グゥァァァッァァ!!」


 消えた仲間の気配を異常事態と判断した赤オークが、雄叫びをあげて残りのオーク達に襲撃開始を指示する。一方、冒険者狩り達は雄叫びが聞こえててからようやく異常事態に気付き、慌てて武器を手に取ろうと動き出す。


「お、おい!何の声だ!」


「知らねぇよ!とりあえず武器取れ!」


「おい!あそこに何かいるぞ!!」


 声が終わる前に、木の陰から斧を持ったオークが飛び出してきた。


「「オークだ!!」」


「みんな散れ!」


 襲撃に気づくのが遅すぎるが、冒険者狩りだけではなく普通に魔物狩りも慣れているようで、振り下ろされた斧を避け左右に別れる男達。すると棍棒と剣を持ったオーク3体が、待ち構えていたかのように冒険者の背後から襲い掛かる。


 ゴスッ!ドスッ!!


「ぐぁっ!」


「ぎゃっ!!」


 ガギィィィン!


「おい後ろだ!!」


「こいつら挟み撃ちかよ!!」


 棍棒の強力な一撃で、後頭部が潰された剣士の一人がその場に崩れ落ち、もう一人背後を襲われた盗賊は辛うじて急所を避けたものの、肩口を斬られて転げるように逃げた。最期に襲われた剣士は、先の二人の音を聞いて咄嗟に反応し剣で受け止めている。最初に囮で出た斧オークには戦槌を振りかざした男が対峙し、お互いに睨みあっている。


<これで2つ>


 グリッドは戦闘の状況を見ながらバランスを取りつつ全滅を狙い、まずは木に縛られた女の傍に逃げた盗賊に向かって陰から吹矢を吹く。


 フッ!


「なっ!?」


 盗賊は突然首筋に走った痛みに気づき首をおさえて振り返るが、突然眼を見開いたままその場に崩れ落ち、白目を剥いて口から泡が零れだす。即効性の麻痺毒を塗った吹矢だった。



「おい!ハックどうした!」


 不意に崩れ落ちた仲間を見て叫び声が響く。

 その声に反応してしまった別の剣士は戦闘中にも拘らず頭ごと振り向き決定的な隙を作ってしまった。しかし、対峙していたオークはそんなことはお構いなしに剣を振り下ろし


 ミシィィッ!


「・・・がはっ!」


 一瞬でも隙を見せてしまった剣士が慌てて剣を上げるも間に合うはずもなく、彼の肩口から血が噴き出し


 ゴフッ・・・


 口から粘り気のある赤い筋が垂れると前のめりに崩れ落ちた。


「「カジム!!」」


 生き残っている男達は一顧だにせず、視界の隅で起きた仲間の死を悟る。そしてオークの攻撃を凌ぎながらも別の敵の存在を認識した。


「くそ!オーク以外にもう一匹いるぞ!!」


「なんだてめぇ!!」


 グリッドは女が縛られた木に歩み寄ると、彼女を幹に縛る縄を切り落とし、雲糸の腕輪から取り出した撚糸を彼女に身体に巻きつけ、素早く木の上に駆け上った。


 ガァンッ!


 ドンッ!


 ギィィンッ!


「ハァッ・・・ハァッ・・・」


「クソッ!」


 赤オークは未だ参戦していないので今4対2。オークが押しているが辛うじて男達は躱しているようだ。


<・・・もう少し頑張ってもらわないと面倒だな>


 グリッドは木の上から一瞬だけ状況を確認すると、彼女に巻きつけた撚糸の反対側の端をギュッと山刀の柄頭の輪に通し、ギュッと縛り太い枝から真下に飛び下りた。


 ズズズズーッ


 グリッドが飛び下りると同時に女の身体がゆっくり上に引き揚げられ、上から擦れる音に合わせて木くずが舞った。3,4メターレ程上で揺れる女を一瞥すると、撚糸の端を結んだ山刀を幹に突き刺し落ちないように固定する。


「グゥァァッ!」


 こちらに気が付いたオークの1体が、グリッドが下りてくる間に距離を詰め、ちょうど山刀を幹に突き刺し終えるグリッドに向け剣を振り下ろした。

 突き刺したばかりの山刀を片手で握ったまま、グリッドは目の前に迫る剣先を身体ごと仰け反り捻って躱すと、オークは勢いが止まらずたたらを踏み、敵の眼前に自らの後頭部を晒してしまう。

 目の前にできた隙を見逃す手はない。グリッドは空いている片方の手でもう一本の山刀を逆手に抜くと、オークの頸の下から一気に振り上げた。


 ブシュゥゥッ!!


 首の半分を一瞬で斬られたオークは、踏ん張る力を失い前のめりに倒れ少し先で止る。グリッドは倒れた死体に一瞥もくれることなく戦闘中の方を見やると、山刀を右に持ち替えて左手に投げナイフを取り出し、3対2になったオークに向けナイフを飛ばした。



 シュッ!


「ギェァッ!」


 そのナイフの飛ぶ先は、正面を向きあいお互いに振り上げていた斧オークと戦槌戦士。振り下ろす間際にグリッドが投げたナイフがオークの不意を突き片目を抉ると、オークの振り下ろしかけた斧の動きが悲鳴と共に一瞬止まる。



「おらぁぁぁっ!!!」


 バキッ!!


 ミシッッッ!


 ゴボォォォ・・・


 突然横から飛んできたナイフがオーク片目に生えたが、男が振り上げた戦槌は止まることなく斧オークの頭を粉砕した。頭を失ったオークは斧を支えられずドサリと地面に落し、僅かに胴体に残る頭から血を噴き出し膝をついて倒れた。


「てめぇ!!何のつもりだ!!!」


 男は血糊で汚れた戦槌を握り、たった今倒したオークからナイフの飛んできた方向へ向け視線を移すと、睨みながら罵声を浴びせる。


「チッ!」


 ドゴォンッ!


 グリッドが次のオークに狙いを定め飛び出そうとしたところに、こちらに向けて上から降ってくる戦槌に気づき咄嗟に飛び退く。元居た場所を見れば戦槌が轟音と共に地面を10センク(cm)ほど潰し、狙いを外した男がグリッドの後を眼で追いながら、地面にめり込んだ戦槌をガボッっと抜いた。

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