冒険者狩り1
エルコンドに帰ってきたグリッド。知り合いに顔を出してまわったまではいいが、連日溜まった疲れのせいで寝過ごしてしまい。後悔と共に目を覚ます。
~~~トゥース暦494年1の月24番の日
アガンチュード王国・エルコンド
失敗だった。思い返せば一昨日の夜小規模盗賊のアジトを襲い、そのまま夜を徹してエルコンドに戻るとその足で店数軒とシキリ婆・ギルドに教会まで勢いのまま巡り、帰宅した後セシルが帰るまで待っている間に力尽き爆睡。
ようやく目が覚めたのは16時間ほど経ったつい先ほど。5つ目(10時)の鐘が目覚まし代わりだった。当然ながらセシルの姿は無く、テーブルには食事と書き置きが置いてあった。
「スープと黒パンを用意してあるからちゃんと食べてね」
数日会えずにずっと待っててくれただろうに・・・セシルには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
未だ脳が半分寝ているようで、このまま椅子に掛けると二度寝してしまいそうだった。気合いを入れて冷たい水で顔を洗い、キッチリ目を覚ましてからちょっと早めの昼ご飯を食べる。
エルコンドから一番近いダンジョンは片道で3時間ほどかかる場所にあり、季節も春に替わったばかりで日が暮れるのも早い。今からダンジョンに行くのを諦め、近場の林で新魔道具”雲糸の腕輪”を試すことにした。
グリッド愛用の防具は革の胸当て・籠手・脛当。膝肘肩も保護し、鎖帷子に二枚板の鉢金。ソロ専門としては機動性も欲しいが生存率も考えて薄手軽量の鎖帷子を重ね着だ。
武器は蕨手山刀(わらびてさんとう)が二振りに投げナイフ・吹矢。吹矢の針は先日補充したしまだ持ちそうだ。今日は魔道具の使い心地確認なので、いつもより荷物を減らしウエストポーチに回復薬と毒消しに布を詰め込む。
手早く装備を整え家の外に出ると、道に敷かれた石畳が早春と言う事を忘れるくらい陽の光を貯め込みとても暖かい。グリッドは人通りの多い道を避けながら、樹海に近い東の城門に歩いていくと、城門に近づくにつれ守備兵と市民が何か揉めている声が耳に入ってきた。
<・・・ん?・・・なにかあったのか?>
門のすぐそばでは守備兵2人と旅装の男を囲むように輪ができており、旅装の者も普段着の者も不安そうに話しを聞き入っていた。
「だから出たんだよ!街道沿いの林の中に!ホントだって!」
「はぁ・・・オークだよね?オークならたまに街道沿いに出ることあるじゃないか」
「そうそう東の”ミカヅチ”って街の北から、道の北の林を迂回してでしょ?はぐれじゃないの?」
”はぐれ”とは集団で生息する魔物の一部が集団から離れて徘徊しているモノを指すが、はぐれの場合多くてもせいぜい2、3体で、オークやゴブリン程度なら守備兵が小隊規模の討伐しに行けば大して苦も無く排除できる。
ただ騒いでいる男はそんな守備兵の態度に今回は違うと声を荒げているようだ。
「はぐれじゃないって!俺さっき見たんだよ!黒い影が10体くらい!怖くて逃げたんだけどさ、馬車を飛ばして逃げる時、影の方をもう一度見たら一匹赤いのが居たんだよ!」
<え?・・・赤いの?>
それまで声を荒げる男を宥めようとしていた守備兵や、周りで話に耳を傾けていた者達も”赤い”という単語にピクリと反応した。
「赤いの?赤いのは他のに比べて大きさとか判るか?」
この門を預かる守備隊の隊長らしき人が、眉間に皺を寄せたまま男に問い詰めると勢いに圧された旅装の男は自信が無さそうに口調が弱くなる。
「い、いや・・・そこまでは・・・必死で馬車飛ばしてきたし・・・」
魔物は基本的に、種が同じなら大体近い大きさに成長するのだが、中には一回り大きくなる者も現れる。その大きくなった個体は上位種と言われ、身体能力と人族に対する危険度が一段階上がる。
それとは別に大きさはそのまま変わらないが色や形状が変わっている個体も時々出没し、魔法を使う者や知能や統率力が上がる確率が高い。そういう魔物は特異種と言われこちらも危険度が一段階上がる。
一番厄介なのは大きさと色・形状共に変わっていた場合で”上位種の特異種”という事で危険度が一気に二段階上がる場合が稀にある。ただ目撃者が市井の者で慌てて逃げた時の記憶では、これ以上有用な情報も得られそうにない。そう思ったグリッドは直接この目で確認したほうが早いだろうと考え、一人ミカヅキ方面に向けて歩き出した。
<うまくいけば魔道具のテストもできるかもしれないな・・・>
「おぉい!兄ちゃんちょっと待ってくれ!」
今だに騒がしい城門を抜けてミカヅキ方面続く道を進む事4,5分、遠くから自分を呼ぶ声に気が付いたグリッドが振り向くと、男性らしい人影が手を振りながら走って来るのが目に入る。年の頃なら40代半ば、グリッドより一回り大きい筋肉の塊と髭面。その第一印象はというと・・・
<その髭・・・頭に植えたほうがいいんじゃないか?>であった。
ずっと大声を上げながら追いかけていたのだろう。グリッドに追いついたその男は両手を膝に突き必死で呼吸を整えている。
「何の用だ?」
話せるくらいまで落ち着いたと見たグリッドはぶっきらぼうに問いかける。
「ハァ・・・フゥ・・・兄ちゃんもしかしてオーク退治にでも行くつもりか?」
「だとしたらどうする?」
「あんた、オークの群れに遭遇するまで歩くつもりか?さっきの逃げて来た男の感じじゃ、歩きなら3時間くらい掛かってもおかしくないだろ」
「・・・」
「オークが居るとこまで俺の馬車で乗せてってやろうと思うんだがどうだ?」
この世界は”見返りを求めない善意”というのはあまり期待できない。グリッドはこの男の真意を推し量ろうとして目を細めて沈黙を保った。
「・・・」
「まぁいきなり言われりゃ怪しく思うのもわかるけどよ、実はどうしても早くミカヅキに帰りたくてよ。うちの嫁が初産でよ、ホントは離れたくなかったんだが『子供生まれても金がなきゃ育てらんないだろ!商売してきな!』ってどやされちまって、渋々エルコンドに商品売りに来たのはいいがこの騒ぎだ。何とか帰りたくて悩んでたらあんた見かけてな?もしやと思って追ってきたのよ」
厳つい顔で照れ笑いするその表情に嘘はなさそうだが、正論をぶつけてみる。
「今日明日くらい待ったほうがいいんじゃないのか?わざわざ危険冒して死んだら意味がないだろ」
「おめぇ今日明日生まれたらどうすんだよ?嫁も赤ん坊も心配でしょうがねぇんだよ」
「顔に似合わず愛妻家か」
「バっ!心配なだけだ!」
脳筋かと思ったらオヤジが顔を赤くして照れるとは・・・可愛くないな。グリッドはちょっと大げさに溜息をつきその申し出を受けることにした。
「しょうがない馬車に乗せてくれ、だが条件がある。オークを見つけたら俺だけ残して全力で逃げろ。いいな?」
手伝わずとも待つか護衛料を請求されるくらいの覚悟はあったのか、グリッドが「逃げろ」とだけ条件を付けたのが予想外だったのだろう。その男はちょっと驚いた顔をしてこちらを見かえしている。
「そりゃ・・・ありがてぇけどおめぇはいいのかよ?帰りはどうすんだ?」
「もともと一人で歩いていくつもりだったんだ。気にするな」
「お、おう。んじゃちょっと馬車廻すからちょっと待ってくれ」
男が馬車を引いてくるまで待つ間に今の会話を思い返すと、グリッドはちょっとした違和感を覚えた。
<そういえば、今初対面の人間相手によく普通に喋れてたよな・・・>
その違和感の理由は定かではないが、男とその妻とこれから生まれてくる子供の事を思うと、ちょっと羨ましいという感情が芽生える。
「これで死なせるわけにはいかないよな・・・」
フラグじゃないことを祈りつつ、戻ってきた男の馬車に乗りオークの現場に向けて走り出した。
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