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素破  作者: 光風霽月
アガンチュード王国編
5/16

大都市エルコンド(2)

本拠地エルコンドに戻ったグリッド。

数日ぶりに気の置けない友人たちの顔を見に行くが・・・

 ~~冒険者ギルドとセシル~~


 グリッドは5年前にこのエルコンドで冒険者を始めてからずっとソロである。


 ”盗賊”という職は斥候や解錠・罠解除など需要はあるが、盗賊団に居た頃の10年が心の枷(かせ)となり人と接するのが苦手で、何度かパーティーに誘われたものの上手く馴染めず誤解を受けることもあった。


 それに反してグリッドの仕事ぶりの評価はそこそこ高い。


 グリッドは5年の間ギルド依頼・盗賊狩り・魔物狩りなどをこなし失敗は皆無、盗賊団に居た頃鍛えられたスキル”盗む・罠探知・罠解除・鍵解除・隠蔽”の他に”短刀術(二刀)・気配探知・体術”なども身に着けた。ギルドランクは”銅”次の昇級も目前で”20歳位のソロ”とすれば決して悪くない。そして気が付けば”二刀の一匹狼””盗賊狩り””変わり者””セシルの彼氏”など、知る人ぞ知る二つ名持ちの冒険者になっていた。(”セシルの彼氏”は主にセシル本人がグリッドにアプローチをする時虫除けのために撒いた噂が原因らしい)


 ちなみにこの世界のギルドランクは金属名で表し、下から”黄銅・青銅・鉄・銅・黒金・銀・金・白金・ミスリル”の9段階がある。上位のミスリル・白金は国家を相手にするほどの希少クラスで、余程の実績と名声が必要になるため一般的に認知されている最高位は”金級”になる。


 セシルは5年前に叔父でありギルドマスターでもあるゴルドのコネでエルコンドのギルドで働き始めたのでグリッドとは同期と言える。セシルがまだ駆け出しだった頃、ソロに拘り人を避けるグリッドがどうしても気になり、親戚という関係を利用し叔父であるギルドマスターからグリッドの身上を半ば強引に聞きだした。


 ところがセシルは、未熟さゆえか叔父から聞いたグリッドの身上を本人の前でぽろっと喋ってしまった。本来なら守秘義務を破った2人に対し激怒するところだが、謝罪する2人にグリッドは怒るどころか2人を許し逆に元盗賊団だった自分は避けられると思い凹んでしまう。


 そんなグリッドに対しセシルは距離を置くのではなく、グリッドの過去を受け入れグリッドの身上を理解したうえでグリッドに誠実に接した。グリッドも誠実なセシルの姿を見て徐々に心を開き、気の置けない友人の一人になる。


 そして切欠はともあれギルド受付嬢から友人になり、グリッドに思いを寄せたセシルからアプローチして交際が始まり今に至る。セシルは美人というより温和で可愛いタイプでセミロングの髪に小柄で細身、豊満好きには向かないが残念と言うほどではない。人当たりの良い性格は近所で評判の可愛い娘という感じである。


 グリッドにしてみれば自分を理解してくれる事が一番大事で、さらに可愛い女性なのだから文句が出るはずもない。男女ともに羨む声もあるが、大半は温かく見守ってくれているという有難い状況である。


 ~~~ 


 陽あたりの良い大通りを戻り街角にある大きな2階建ての建物に入ると、冒険者が報告に戻るにはまだ少し早い時間帯らしく、ギルドの中は閑散としていた。

 グリッドは目的の相手を見つけ、辺りも気にせず真直ぐカウンターに向かう。”自称”グリッド専属受付嬢セシルがこちらに気づき笑顔で迎えてくれた。


「あ、グリッドおかえりなさい。思っていたより数日遅かったから心配してたのよ?先日の依頼は無事に終わった?」


「あぁ、依頼を受けた後急な用事ができてね。期日には間に合ったろ?」


 セシルはグリッドの無事な姿を見て安心したが、たまに予想より数日遅れて戻って来る事があり、喜んでいるのか怒ってるのか拗ねてるのか微妙な表情をする。


「まぁ、怪我は無さそうだし無事ならいいんだけどね。私としてはいい加減ソロで突発的な盗賊狩りは止めて欲しいんだけどね・・・」


「そこは”ギルドとしては”じゃないのか?」


 グリッドは苦笑しながらヒュージスコルピオ10匹とショット・ビー10匹分の討伐証明部位をカウンターに置く。


「どっちもよ。最近”冒険者狩り”の被害も何件か報告を受けてるし、ダンジョンはいる時とか特に気を付けてよね?」


「了解」


「はい、討伐部位の確認できたわよ。これが報酬ね」


 そう言ってセシルは報酬の大銀貨1枚を出す。グリッドは大銀貨を受け取るのと入れ替えに、差し入れをひと箱カウンターに乗せた。


「あ、ありがとう。ん?今日はなに?・・・イデル温泉の温泉饅頭・・・」


「俺じゃない、マトイのセンスだ」


「あ~マトイちゃんのかぁ・・・」


 セシルも直接会ったことはないがマトイの話は聞いているので、マトイのセンスに納得はしているものの苦笑は隠さない。


「せっかくだからギルドのみんなで食べてくれ」


 そう言ってカウンターの隣の席に座る受付嬢に視線を送ると、彼女もセシルが持つ箱を見て頭を下げて「ありがとう」と微笑みを反す。



「このあとどうするの?教会行くの?」


「あぁ、そのつもりだ」


「そか、マクちゃんキュウちゃんによろしくね」


「んじゃ、また後で」


「おぅ、後で」


 グリッドはセシルの声を背中に受け、肩越しに手を振りギルドを後にした。


 名残惜しそうに見送るセシルが視線を戻すタイミングを見計らい、カウンターの奥の部屋から彼女の友人ターニャが出て来る。


「セシルもよく平気だよね~。あんたが選んだんだから悪い人じゃないと思うけど、壁があってとっつきにくいというか・・・」


「う~ん・・・そんなことないよ?人見知りするけど話してみると優しいし」


 セシルは友人の彼氏をそこまで言わなくても・・・と思いながら苦笑して、グリッドから差し入れてもらった饅頭の箱をターニャに渡す。


「はぁ~愛ゆえにですね~」


「私としては変な虫がつかないから安心かな?」


 クスッと微笑むセシル。


 現在グリッドとセシルは彼女からアプローチして交際2年目、同棲もしていて交際しているのは周知の事実、結婚するのは時間の問題と思われていた。


「はいはい。ごちそうさまですぅ~饅頭もごちそうさまですぅ~」


 からかったつもりがセシルに惚気で返されてしまい、ターニャは全部食べてやるとばかりに饅頭の箱を振って奥の部屋に下がっていった。




 ~~トゥース教と孤児院とリセナ・マク・キュウ~~


 この世界における人族は賢神パラトゥースを信仰する”トゥース教信者”が全体の7割を占める。その殆どは大陸の西半分に集中しており、かつてトゥース神聖帝国が大陸の西半分以上征服したことに因るところが大きい。

 今から約500年前、ラスト帝国に賢伸パラトゥースの加護を受けた”勇者ゼイル”が降臨し、魔族と邪教徒を退けてトゥース神聖帝国を建国する礎となった。その版図は今でいうアガンチュード王国・トゥース神聖帝国・グリシャ王国・ヴィング王国・アングリム王国の一部まで呑み込む程だったと言われている。

 山脈に守られた獣人各国・エルフ族・竜族の国は侵攻を凌いだが、それ以外の領土に組み込まれた地域は人族至上主義とトゥース教を徹底され浸透していく。

 その後トゥース神聖帝国は腐敗と弾圧に蜂起した者達によって弱体化するが、宗教そのものは残り西側で教会と言えばトゥース教の教会のみが認められている。


 エルコンドの教会は人口に合わせ6軒あり、全てに孤児院が隣接している。グリッドがいつも訪れる孤児院は一番スラム街に近く、寄付や教会総本部からの支援の配分比率が低く、常に家計は火の車である。


<あ~今回は食える魔物狩ってないから肉買っていってやらないとな・・・>


 この世界の肉事情は、魔物も獣も”食べられる肉は食べる”のが一般的でゴブリン・コボルト・ウルフ・犬などは殆ど食べる部位が無く、種で言えばオーク・ボア・ベア・ヴァイパー・クラブ・バード・ワイバーン・ミノタウルス。獣でも鳥・鹿・猪・熊・蛇・羊などを食べる。また冷蔵・冷凍技術など無く、肉の保存方法は塩漬け・燻製・干し肉があり生肉はほとんど口にはできない。


 孤児院に行く道すがら、めぼしい肉屋を探しオーク肉の干し肉を多めに買い、リセナの好きな果実水も子供達の分も合わせてついでに買う。寄り道をしてしまったので日は傾き8つ目(16時)の鐘を過ぎたくらいか。大きな袋を肩に担ぎ”小汚いサンタクロース”のような格好で孤児院の門をくぐる。


<今回は無事乗り切れるだろうか・・・>


 そんなことを思っていたら、まだ外で遊んでいた子供たちに見つかりあっという間に囲まれてしまう。悪い予感程よく当たるものだ。


<ゲッ!・・・早速見つかった!>


「あ~グリッド兄ちゃん!きた~!」


「「おかえり~」」


「ちょ・・・ま・・・まて・・・重い・・・」


 無邪気な子供達はこちらの都合なんてお構いなしでぶら下がってくる。


「何担いでるの~?」


「「おみやげ~?」」


「う・・・ちょと・・・リセナさんは・・・居るかな?」


 やばい。若干引き気味になりながらリセナの名前を挙げるが、仔犬の群れにごはんをあげるブリーダー状態になった。子供達はグリッドの苦手なものを知らない。リセナは気づいているだろうしマクとキュウはグリッドの事を知っているから大丈夫なのだが。



 すると、孤児院の建物の脇から出てきたマクとキュウがグリッドに気が付き慌てて走ってきた。


「あ!グリッド兄ちゃん!」


「兄ちゃん大丈夫?」


「あ~マクちゃんとキュウちゃんだ~!」


<マク!!キュウ!!助けてくれ!>


 心の中で叫ぶ。


 マクが気を利かせてくれた。


「誰かリセナねーちゃん呼んできて~」


「「「はーい!」」」


「私もいく~」


「「まって~~」」


 気が付けばマクとキュウ以外皆でリセナさんを呼びに行ったらしい。


「マ・マク・・・助かった・・・」


 グリッドが大きな溜息をつくと13歳の子供2人に呆れられてる。


「お兄ちゃん早く慣れなよ~」


「強いのに相変わらずだよね~」


 グリッドがマクとキュウの2人に苦手意識がないのは理由がある。


 グリッドと彼らが初めて出会ったのは5年前。グリッドが盗賊団を抜け出しアガンチュード王国に向けて旅をしていた時、途中のトゥース神聖帝国ランテル付近で盗賊に襲われ転倒した馬車と殺された2人の男性の死体を見つけた時だった。


 転倒した荷台の隅っこで2人で抱きあい怯えるマクとキュウを見つけた。運良く生き延びた幼い子供達を見捨てることなどできるはずもなく、男性2人の死体を近くの林に埋葬した後グリッドは2人を連れて行くことにした。

 特に役割を決めたわけではなかったが、グリッドは人と話す事に慣れる必要がありマクとキュウは道中の食糧調達と護衛が必要だった。お互いに助け合いながら過ごせた2か月は今思えば幸運に恵まれていた。もちろんマクとキュウはグリッドの過去を承知しているので苦手なことは控えてくれる。そして彼らはグリッドにとって心許せる友人であり大切な兄妹たちになった。


「う~ん、急に来られるとさすがにまだきついかな・・・」


 グリッドもバツが悪そうに頭を掻いた。


 そんな会話をしていると子供達に手を引かれたリセナが3人の方へ歩いてくる。

 リセナはこの孤児院を担当するシスターで、水色の神官服がよく似合いほんわかした話し方の割には芯がしっかりしていて子供達も信頼を寄せている。5年前3人がエルコンドに着いた時、マクとキュウが孤児院に入るため手助けをしてくれた恩人で、グリッドはマクとキュウの様子見がてらちょくちょくこうやって差し入れに来ていた。


「グリッドさん、こんにちは~なんですか?その大きい荷物」


 肩に担いだ袋を下ろしリセナさんの前で中身を見せる。


「今日はちょっと多めにオークの干し肉持ってきました」


「「「うわ~!!」」」


「「「兄ちゃんありがと~」」」


「う・・・うん・・・どういたしまして」


「あとは果実水と・・・これ・・・」


 干し肉の袋はマクに渡し、皆の分の果実水と饅頭の箱をリセナに渡す。


「まぁ!いつもすみません。果実水も皆の分あるんですね~・・・それと?・・・これは?」


 リセナが箱の包み紙を見て微妙な空気が流れる。


「イデル温泉の温泉饅頭・・・」


 ・・・


「・・・て、どこ?」


 キュウが子供らしくストレートな質問。


「ここから東にあるウズって国の観光地らしいよ?」


「ふーん・・・」


 聞くだけ聞いといて興味が無さそうな生返事。


「ま、まぁちょっと甘いみたいだし子供達にはいいんじゃないかな?」


「そ、そうですね。後でみんなでいただきます」


 グリッドとリセナがとりあえず大人の対応でその場を乗り切った。


「グリッド兄ちゃん、明日また狩り行くの?」


「明日は装備も試したいし、ダンジョンにでも行くつもりだよ」


「いいな~俺も連れてってほしいなぁ」


「マクはいま13でしょ?15になったら一緒に行こうか」


「うー・・・そうか早く冒険者になりたい・・・」


 マクは昔グリッドと一緒に旅をしたときにグリッドの戦いを見て以来、「早く冒険者になってグリッド兄ちゃんと冒険したい!」が口癖になっている。


「2年なんてすぐだ。俺もマクに追いつかれないように今から練習しないとな」


 元気な子供たちには未だに気圧されてしまうが、こうしてマクやキュウと話していると少し気持ちが軽くなる。


<少しは変われてるのかもしれないな。こんな生活も悪くない・・・>


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