リランド村2 ~生存者
同じリランド村絡みで生存者と領主からの依頼が舞い込む。
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~~~トゥース暦494年1の月32番の日
アガンチュード王国・エルコンド
冒険者ギルド・エルコンド支部
「そうか。セシルに聞いたか」
「はい、私に指名依頼だと」
翌日4つ目(8時)頃、グリッドは朝一番でギルドにあるゴルドの執務室に来ていた。
ふむ・・・とソファーの背にもたれ掛かり目を閉じ黙考すること数秒、考えをまとめたゴルドは目を開きソファーを浅く座り直すと、険しい表情で説明を始める。片手にはグリッドが差し入れた牛乳プリンがしっかりと握られている。
ゴルドの説明によると、依頼人は隣のロンド領を持つ貴族、ロンド子爵。エルコンドの南にあるロンド領リランドという村を調査して欲しいという。子爵の代理人が言うには、数日前村が盗賊に襲われほぼ壊滅。
子爵が捜査と盗賊狩りの準備をしていると、たまたま近くに滞在していたトゥース教会の聖騎士一行が捜査協力を申し出てくれたのだが、タイミングが良すぎて教会が裏で糸を引いているんじゃないかと思ったらしい。
「それでゴルドさんが俺に話す前に考えたのは何故ですか?」
「うむ・・・それがな・・・」
木の容器の底に残っているプリンをスプーンでカチャカチャ掬いながら、ゴルドは続けた。
「領都ロンドには子爵の私兵も居れば黒金級の冒険者も居る。教会の思惑はともかく、聖騎士の協力もあればただの盗賊討伐の戦力は十分なはずなんだがな」
グリッドは静かにゴルドの言葉に聞き入る。
「にも拘らず、何故わざわざ隣の領で指名依頼するか問うてみたのよ。すると代理人は”先日の赤オーク退治の武勇を聞いたから”というが、どうにも胡散臭い」
牛乳プリンを堪能したゴルドは、口の中の甘さを消すために一口お茶をすすると、話を続ける。
「子爵の代理人というが、紋章はロンド子爵本人ではなく、傍流の紋章が付いた剣を見せられたのだ。それに依頼には書状も無しに口頭と来たもんだ。断りたいところだが、万が一本当に子爵の依頼ならそうもいかんしな。儂の取り越し苦労ならいいんだが十分気を付けろよ?」
「指名依頼ですから断りにくいこともあります。行ってから考えますよ」
「すまんなグリッド。エルコンド伯や他の貴族にも伝手があるから何かあれば儂を頼れ。それから無茶はするな。お前に何かあれば俺がセシルに怒られるからな」
ゴルドの厳つい顔が少し和らぐと、グリッドは少しバツが悪そうに視線を下ろし小さく頷いた。
ゴルドとの話を終え、余っていた牛乳プリンをセシルに差し入れるとその足でロンド領テムの村へ足を向ける。
***
その日の夕方、テム村に到着したグリッドは、休むことなく生存者であるバグナス44歳男・リン22歳女・ハク13歳男に会うことができた。
3人と挨拶を簡単にした後、依頼人のバグナスがここ最近に起きた事をぽつりぽつりと話し出す。
尤もグリッドは挨拶から冷や汗だらだらで、しどろもどろになり殆ど相槌を打つだけだったが。
話をまとめるとこうだ。
盗賊から襲撃を受ける数日前、リランド村出身で領都の孤児院に勤めるシスター”アマリ”が突然領都から帰ってきた。彼女と幼馴染のリンに、アマリは里帰りと言うだけで多くを語ろうとはしなかったそうだ。
それから数日過ぎた夜、リランド村は盗賊の襲撃を受ける。
リンとハクは慌てて土間の隙間から床下に潜り息を殺して隠れたお陰もあり、断片的にだが盗賊たちの会話が聞けた。アマリを含め数名の若い女性が有無を言わさず連れていかれ、残りの者は全て村の広場に集められる。
「この書類はこれで全部か?」
盗賊たちは金目の物・食料・若い女もかき集めていたが、どうやら本命はアマリが持ってきた書類の方だったらしい。
「知らない」と村人が答えると、盗賊たちは邪魔な荷物はいらないとばかりに一人残らず殺戮を始めた。命乞いに耳も貸さない。
バグナスがここまで話すと、隣にいたリンとハクはその時を思い出したのだろう、震えながら涙を流していた。
・・・
元盗賊であったグリッドは、かつて彼等とは逆の加害者に与していた立場だ。よもや上手く声を掛けられるはずもない。視線をバグナスに向け問うた。
「・・・あんた・・・たちは何で・・・逃げきれたんだ?」
バグナスはたまたま隣村に行っており不在だったため難を逃れ、リンとハクはバグナスに見つかるまで床下でじっとしていたという。
「・・・それで・・・あんたたちは何を・・・依頼・・・したいんだ?」
3人はキッとグリッドを強い眼で見つめる。リンとハクは涙を拭く事も無く目が真っ赤に充血したままはっきりと答えた。
「・・・アマリと攫われた娘を助けてください!」
「・・・村の人達の仇を!」
「・・・兄ちゃんの仇を!」
強い眼差しに気圧されたグリッドは彼らの目を直視する事は出来なかった・・・
***
「ハァ・・・」
グリッドはさっき言われた言葉を思い返すと、あてがわれた部屋の天井を見つめたまま大きく息を吐いた。
報酬はおろか依頼を受けるかどうかすらも決めかねていた。
「あの婆さんが言っていた”治療”って・・・苦手克服ってやつの事だけじゃなかったのかよ」
グリッドが盗賊団を抜けてから5年、盗賊を狩り・冒険者狩りを退治したことは何度もあるが、直接被害者の叫びを聞くのは初めての事だった。あの時盗賊団の檻に居た女性たちにも想い人や家族が居たはずで・・・
「仇を取って。か・・・婆さん・・・俺は素破(盗賊)であって暗殺者じゃねぇんだぞ・・・」
なかなか寝付けずに寝床の上でじっと天井を見ている、扉の外で気配がしてコンコンとノックする音が聞える。
「グリッドさん・・・まだ起きてますか?」
返事をすると、コッソリ部屋の中に入ってきてグリッドの前で土下座をしたのはリンだった。
「・・・えっ?・・・あ、あの・・・なんの用・・・か?」
さっき主に話していた中年男のバグナスなら、グリッドの緊張は少しだけ減っていたが、横にいたリンとは殆ど会話も無く、二人きりのこの状況に、グリッドの頭は一瞬にして真っ白になった。
リンは両手をついたまま顔を上げると、潤んだ目でこちらを見つめ小声ながらもはっきりと話す。
「・・・グリッドさんお願いします。依頼を受けてはいただけないでしょうか・・・お金が必要なら身体を売ってでも返します!グリッドさんがお望みなら・・・わ・・・私の身体でお支払いします。ですから!どうかっ!」
「・・・あ・・・ぐ・・・」
再び床に頭を擦りつけるほど土下座をして固まっているリン。
身体で払うという覚悟をしてきたのであろう、よく見れば薄着ですぐ伽ができるように準備してきたらしい。だが、自分の身体を差し出すという言葉とは裏腹に、彼女の肩や頭は小刻みに震えている。
そのリンの必死な様子に気づいたグリッドは、真っ白になっていた頭が少し冷静に戻った。
<・・・こんなに震えて自分の身体を差し出してまで娘たちの奪還と敵討ちか・・・死んだ人は戻らないのに・・・>
グリッドはリンから視線を外したまま声をかける。
「あ・・・あの・・・」
「ひっ!・・・な、なんでしょう?」
「あ・・・いや・・・か、身体はいらないから、話を・・・聞かせて欲しい・・・」
「・・・ぇ・・・ぁ・・・はぃ?」
グリッドの意外な言葉に、リンも姿勢を戻し少し拍子抜けしたような返事を反してしまう。
「じ、実は・・・リン・・・さんがなんで他の娘や・・・その・・・敵討ちを・・・身体を差し出してまで頼みたいのか知りたくて」
一瞬リンの方を見たが目のやり場に困ったグリッドは、自分が羽織っていた布をリンの方に突き出した。
「ぁ・・・ありがとうございます・・・」
リンが布を羽織ることで、お互い向き直すと改めてリンが話をしてくれた。
「私の居たリランド村は人が少ない分、村全体が家族のように接してくれる優しい村でした・・・」
「アマリちゃんも他の娘たちも妹のように仲良く遊んだし、バグナスさんも叔父さんのように優しい人で・・・ハク君も弟のように可愛がっていたんです。殺された他のみんなも・・・だから・・・アマリちゃん達を助けられるなら・・・私はっ!」
羽織った布を手でぎゅっと握りしめて言葉に詰まるリン。
・・・
「・・・それは?」
言葉に詰まったグリッドは、彼女の手首に見え隠れしている物を見つけリンに問いかける。するとリンは、手首に掛かる物をみて愛おしそうに指先でいじる。
「・・・これですか?・・・リランド村周辺では、将来を誓い合った二人はお互いに手作りの腕輪を贈る習慣があるんですよ。これは彼の手作りの腕輪です・・・その彼も・・・この前の襲撃で・・・」
高価とは言えないが、作り手の思いがこもっているのだろう。紐を編んで作られた腕輪を再びぎゅっと握りしめ、必死で堪えようとした涙が目から零れ落ちる。
・・・グリッドはかける言葉が見つからなかった。
少し瞑目し・・・リンの傍に座り直すと、そっとリンの肩に手を置き一言だけ告げた。
「・・・任せろ」
次回投稿は5/17:17時予定です