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素破  作者: 光風霽月
アガンチュード王国編
13/16

リランド村1 ~依頼

ここ数日専業主夫をしていたグリッドに新たな依頼が舞い込む。


~~~

ご覧いただいてありがとうございます。

途中で息切れしないように頑張ります。

PV伸びたりブクマ・感想・評価ポイント入れていただけると大変励みになります。

宜しくお願いします(/・ω・)/

 ~~~トゥース暦494年1の月31番の日

 アガンチュード王国・エルコンド


 グリッドは防具の整備を防具屋に頼み、整備が終わるまでここ数日専業主夫になっている。


 *昨日のように余計な事に首を突っ込まなければの話だが・・・


 セシルがいつも通りギルドの仕事に行くと、グリッドは掃除洗濯、(セシルほど腕はないが)料理も作る。セシルはグリッドが家事をしてくれることは勿論、なにより毎日会える事を喜んでくれている。


 グリッドは今日の掃除洗濯を終えた後のまったりとした時間を過ごしながら、これはこれで悪くないなと感じている。


 午後になり7つ目(14時)の鐘が鳴る頃、グリッドは預けた物を受け取りに街へと足を運ぶ。防具屋に出していた防具一式は、先日の戦闘では血痕と傷・歪みやへこみもあったのだが、全て綺麗に修繕されていた。


 大きな防具袋を担ぎながらいつもの狭い路地を進み、相も変わらず売る気のなさそうな”営業中”の下げ札を横に見ながら扉を開けて中に入る。ギィィという軋みがベルの代わりにグリッドの来店を店内に告げた。



「あ、グリッドさんいらっしゃい。今日は何をぼったくられに?」


 マトイはグリッドが気負う事無く安心して話せる数少ない相手ではあるが、時々シキリ婆譲りの毒を吐く。


<変な言動さえなければ可愛いのに・・・残念娘になってきたな>



「よ、マトイこそウズの国まで行ってきたんだって?なんかいいものあったか?」


「はい!グリッドさんは新しく入荷した商品に興味があるんですね?さすがお目が高いです!」


「いや、そうでもない」



 マトイはグリッドの否定の言葉も気にせず、顔を此方に向けたままツンツンと両手で壁を指さす。


 グリッドは指さす方向を見上げ・・・固まった。



 ・・・


「あー・・・マトイ、あれは何だ?」



 グリッドの視線の先には壁一杯に貼られた三角形の横長の物が見える。

 その旗の様なものは、真っ赤な生地の真ん中に迫力のある滝があり、下から魚が滝登りしようとしている場面を派手な刺繍で表現してあり、その横には”ジューイ峡”とこれまた金糸で派手な文字が刺繍されている。


「ジューイ峡?」



 グリッドの疑問形の台詞に、マトイが待ってました!とばかりに質問に答える。


「そうなんです!これは獣人国ウズの国の観光地、ジューイにある”ジューイ峡”のタペストリーです!すばらしいでしょう?」



 うん・・・まぁ派手なことは派手だよな。美的感覚は知らないが、繋ぎ合わせて床に敷いたらいいカーペットになりそうだ・・・それよりもだ。


「なぁマトイ。こういう観光地のお土産って自分で観光地に行った記念に買うもんじゃないのか?」



 グリッドの指摘を、キョトンとした顔で聞いてるマトイ。


「そうなんですか?可愛いから絶対売れると思うんですよ。あ、お婆ちゃん呼んできますね!」


 あぁ、と奥に下がるマトイに生返事をしながら辺りを見回すと、水飲み人形も饅頭も無くなってる。一応売れてはいるんだろうか?そんなことを考えていると思考を遮るようにシキリ婆が出てきた。



「あぁ、来たのかい素破。大丈夫、ちゃんと儂の分は水飲み人形もタペストリーも残してあるしの」


「あれは婆さんのセンスだったのか」


「違うわい。マトイのセンスさ。あの子はあれでいい物仕入れるからのぉ。この前なんかな・・・」


「そうか、んじゃこの前のポーチ出してくれ」



 孫自慢を中断され多少不満そうなシキリ婆は、ぶつぶつ何かを呟きながらカウンターの下からポーチを取り出す。手に取って見ると外見は以前見た感じと何も変わりはないように見えた。


「これは預かった時は空間を拡張するだけの機能だったんだが、ほれこれを入れてみぃ」


 そういってボロ布を取り出すと、その布の端に火をつけて燃え広がるのを待っている。


「おい婆さん、そんなもん入れてどうするんだ?」



 質問をしても無言でポーチに入れろ入れろとジェスチャーをするので、何がしたいのか疑いながらも半分燃えた布をポーチの中に入れてみた。

 すると、布と共に燃えている炎も一瞬にして消えてしまい、グリッドは恐る恐るポーチの中を覗き込む。


「これはの、ポーチに付いておった空間魔法に、時間魔法も合わせたいわゆる”時空魔法”に書き換えたものさ」


「時空魔法?何が違うんだ?」



 シキリはグリッドの質問にはすぐに答えず、そろそろいいだろうとポーチの中の布を引っ張り出すようにグリッドに指示を出した。


 未だにシキリ婆の言う事が理解できないグリッドは、どうせ燃えカスだけだろうとおもむろに手をポーチの中に突っ込む。布の感触を手に受けてしっかり握り引っ張り出すと、グリッドの手はまさに布が炎をあげ燃えている場所を掴んでいてる。


 グリッドは炎を見て数秒固まったが、焙られている手に気づき、慌てて布を手放した。


「熱っ!」



「時空魔法は空間と時間を操作する魔法よの、簡単に言えばそのポーチの中は時間が止まっとっての、入れた時の状態をそのまま残して置けるのさ。火なら燃え尽きん・生ものは腐らん・スープは冷えん」



 火傷しそうになった手を振り、擦りながらシキリの話に目を丸くする。


「なんか簡単に言ってるがそれってすごい魔法なんじゃないか?」


「制限はあるがの。生きている者は入れられん。容量は試したことはないが荷馬車10台分くらいは入るはずだの」


「いや、それでも十分すぎるだろ」



 荷物も持ち歩かずに手ぶらで、しかも食べ物飲み物も全部新鮮なまま持ち歩ける。前に聞いた話からするととんでもない代物な気がする。そんなとんでもないものを事も無げにやって見せるシキリ婆は本当に得体が知れない。



「・・・ん?」



 空のつもりだったポーチの中に何かが入っている。取り出して確認してみると、黒装束に革の胸当・籠手・脛当、しかも全部艶消し黒。さらに黒いお面に銀髪のカツラに・・・長方形の箱10こ・・・箱の包み紙には”牛乳プリン”と書いてある。


 グリッドはこの奇妙な組み合わせを見て眉間に皺が寄せながら、これらをポーチに入れた犯人の方へ顔を向けた。



「おい婆さん。これは何だ?」


 シキリ婆は荷物のうち黒色の面を手に取り自分の顔の横に並べると、にやっと笑って答える。


「お主、昨日お面付けとったよな?折角だから儂の方で用意したのさ。この面は”般若”という」



 シキリ婆の言う般若面は、そのまま般若のイメージだが、一般的な面と違い視野を取るために白目のところまで穴が開き、黒い網が嵌められている。


 その網は面をつけて通してみる分には不思議と邪魔にはならず、外から見ると目の部分は見えない。牙を剥いた口の部分はそのまま開口していて、呼吸と会話に負担は無さそうだ。


 他の黒装束と黒革装備もきになったが、面だけが妙に目立つ。



 そしてさりげなく、またストーカー発言があった気がするが、気にしたら負けだ。



「婆さんそっくりだな」


「おい素破。儂とて傷つくときはあるんじゃぞ?」



「あ、グリッドさんその箱は私からです~」


 祖母の言葉を遮るように奥の部屋からマトイの声が届く。



「そうか、有難く貰っておこう。で、婆さんポーチの代金はいくらだ?」



「お主ら年寄りに冷たくないかの?・・・金貨30枚と銅貨10枚じゃ」


「・・・なに?」



 想像以上の金額に思わず聞き返す。



「金貨40枚と銅貨20枚じゃ」



「・・・おい。今一瞬で値上がりしたよな?」


「けちけちすんな。この前儲けたじゃろ?」



 レッドオークと冒険者狩りの討伐報酬の件か・・・


「どこまで見てるんだこの婆さん・・・」



 この店に出入りしていると、金銭感覚がおかしくなりそうだ・・・。グリッドは金貨と銅貨をそれぞれカウンターに出した。


「金貨30枚と銅貨10枚でいいよな?」


「「チッ」」



「・・・あんたらやっぱ血繋がってるよな」



 シキリ婆はグリッドの皮肉は軽く流し、ニコニコしながら出された金を数え始めると、話を切り出した。



「それと素破よ、今日はそれだけじゃない。依頼が来とるの」



 グリッドも先程出した荷物をポーチに戻しながらシキリ婆の方を見ずに続きを促す。



「ん?今回はどんな依頼だ?」



「ロンド領のリランド村は知っとるか?」



「ん?リランドと言えば、この前壊滅した村の?」


 昨夜、セシルと夕食を取っている時に、ギルド内で噂になっていると聞いた村の名前だった。なんでも30人くらいいた住民が若い女性以外皆殺しに遭ったらしい。



「そう、その生き残りから依頼が来たのさ」



「エルコンドとロンドの領境付近にテムという小さな村があっての。そこにリランドの村の生存者が逃げ込んだのさ。詳しい内容はその者達から聞くといい」



 聞き逃せないセリフがシキリの口から出ると、思わず顔を上げ眉間に皺を寄せる。



「おい。今まで依頼人と直接話しをさせたことなかったよな?嫌がらせか?」



「そうではない。当事者の声を直接聞いて自分で決めろという事さ。まぁお主の治療も兼ねてるがの」



 ひぇひぇひぇとからかうように笑うシキリ婆を見て、グリッドはめんどくさいことにならなきゃいいがと嘆息を漏らした。






 ***その夜。グリッドとセシルの家



 グリッドとセシルの2人が住むこの家は、それほど大きくはないが2階建てで2階に部屋が3室、1階に暖炉付きLDと台所・倉庫・トイレ・さらにこの世界では贅沢品に入る大きな桶を置いた浴室がある。

 とはいってもそんなに大したものではなく、直径1メターレ(m)ほどの深型の木桶に水を張り、棒状の火の魔道具を入れてお湯を沸かすものだ。


 2人がこの家をゴルドから譲り受けた時にすでに用意されていたもので、恐らくゴルドが姪っ子の為に奮発してくれたのだろう。本当にありがたい。


 普段は体を拭くだけで済ませるが、2,3日に1度はお湯を張り湯船に浸かる。

 今日はお風呂に入る日だった。湯上りの火照った体を冷やさないようにしながら、グリッドとセシルはマトイお勧め(ぼったくり)牛乳プリンを堪能しつつ、まったりとした時間を過ごしていた。



「そういえば、叔父さんがグリッドに直接依頼が来てたみたいだよ」


「んー、どんな話か聞いてる?」


「ううん、わかんない。今日の帰り際だったから何も聞いてなかったよ」


「そうか。んじゃ明日ゴルドさんに聞いてみるか」


「うん。よろしくね」


 グリッドは明日にもテムの村に行くつもりだったのだが、グリッドご指名の直接依頼と言われては後回しにもできない。


<明日、午前中に話を聞くだけ聞いて、それから考えればいいかな・・・>


次回投稿は 5/14:17時予定です。

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