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素破  作者: 光風霽月
アガンチュード王国編
11/16

小さな勇気2

スラム街で必死で生きようと足掻く兄妹。悪意に満ちた連中の魔の手が伸びるが・・・


 ~~~トゥース暦494年1の月30番の日

 アガンチュード王国・エルコンド



「よぉ~し決まりだな。あ~念のために、もし裏切ったり俺らの言葉らしたら妹がどうなるか解ってるよな?」


「っ!!!」


「心配すんなよ、お前が裏切らなきゃいいんだよ。いいな?」



「わ、わかった・・・」





 ***




 ドンカセ達がラグを残してその場を去ると、ラグは俯いたままズボンの裾をギュッと握りしめ、その場で葛藤していた。

 ドンカセの言葉を思い出し通りに出てみるも、買い物客の近くに行く勇気が出ない。



<や、やらなきゃいけない・・・税が・・・ラビが・・・>



 とりあえず、ぎこちない歩き方ながらなんとか屋台に近寄って行く。



<気づかれないようにしなきゃ・・・落ち着け!落ち着け!・・・>



 顔から嫌な汗が流れ、心臓の鼓動が異常に速く感じる。


 と、


「なんだあんた。なんか買うつもりかい?」



「ひっ!!」


 驚いて声の方を見ると、目の前の屋台に立つ店主だった。

 店主はあからさまに怪しい挙動と、薄汚れたボロボロの服を見てスラムの子供だと判ったのだろう。ラグの姿を訝しく思い釘を刺したのだ。



「あ、あ・・・あの!・・・いえ、なんでもないです・・・すみません!」



 店主と客の視線を感じながら、ラグは一目散に逃げだした。そして先ほどとは別の建物の陰に飛び込むと、力が抜けその場にへたり込んでしまった。


 膝を抱え項垂れるラグ。



<やっぱりだめだ・・・怖いよ・・・僕にはできないよ・・・>



 ・・・・・・



 ラグは蹲(うずくま)り、額を膝に付けたままドンカセとラグの顔が目に浮かぶ・・・


「でも出来なきゃラビが・・・」



 ・・・・・・



「もう一回だけ・・・」



 ぽそっと呟くと、ラグはのろのろと立ちあがり俯いたまま通りに向け歩き出した。




 それからラグはすぐに行動には移せず、少しの間屋台の並ぶ道の人の行き来をぼーっと眺めている。


 大きくため息をつきラグはゆっくりと歩き出すと、一人の買い物客の背後に近づいて行く。



 ラグの表情は強張り、嫌な汗が頬を伝う。心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。



 ラグは唾をごくりと呑みこみ、買い物に夢中になってこちらに気づかない客の、地面に置いてある荷物に手を伸ばす。

 これを掴んで・・・後は全力で逃げるだけ。



<・・・もう少し・・・>




 ・・・と



 ザッ!



 突然ラグの耳に変な音が響き、音のした方へ視線を落とす・・・




 ・・・


 っ!?



 ラグの足元には見た事も無い形の黒いナイフが1本、威圧的な雰囲気を纏いながら突き刺さっていた。



「ひっ!」



 ラグはたった今自分の身に何が起きたのか直感した。


 そして、このまま続けると次に何が起きるかも・・・




<やばいやばいやばいやばいっ!見つかってる!捕まっちゃう!いや、殺される!!>



 ラグは慌ててその場から逃げだした。振り返りもせず、ただ全力で逃げた。






 ***




「だ・・・・ダメだった・・・・」



 夕方になりスラムに戻ったラグは、ドンカセといつの間にか全員集まった手下達に囲まれ意気消沈している。



「はぁ?お前俺のこと舐めてんのか?」



 ドンカセは結局一つも盗んでこなかったラグの胸ぐらをつかみスゴんで見せる。



「お前、今朝俺に何て言った?やるって言ったよな?」



「やっぱりやっちゃダメなんだよ!僕にはできないよ!」



 ・・・



「おい」



 ラグの胸ぐらを突き放しドンカセが手下に合図をすると、ラビの首を掴んだ男が陰から現れる。ラビは逃げられないように後ろ手に縛られていた。



「っ!ラビッ!」


「お、お兄ちゃん・・・」



 ラビに走り寄ろうとするラグを、ドンカセの手下が囲み地面に押さえつける。2人の焦る顔を眺めながら、ドンカセは満足そうな表情を浮かべていた。



「おい、ラグ。俺はお前の妹がどうなるか解らないって言ったよな?」



「やめろ!ラビを離せ!」



 地面に押さえつけられたラグが叫ぶが、ドンカセはそれを無視してラビに近づく。



「おい!お前歳はいくつだ?」



 答えないラビに、首を掴んだ男が手の圧を強めて催促する。



「ひっ・・・じゅ・・・10歳・・・・」



「お前は目が見えないんだったよな?」


「は・・・はい」




「見えなくてもできる子はあるぜ?」


「ぇ・・・?」



「10歳ならいけんだろ?」



 誰に聞くでもなくドンカセが周りに話しかけると、ラグとラビは意味が解らず、手下たちは下卑た笑いを浮かべ肯定する。





「・・・」



「身体売るとか、奴隷商に売るとかだよ!」



「「「ヘヘヘッ」」」


「ヒッ!・・・ぃ・・・ぃやっ!」



 ようやく意味を理解したラビ。顔が青褪め身を捩って拘束から逃れようとする。



「税を俺達に納めないお兄ちゃんが悪いんだぜぇ?」


「お兄ちゃんばっかりに働かせて、お前は働かないのか?」



「・・・そっそれは・・・」



 立て続けに気にしている核心を突かれ、ラビは言い澱み、それを見た手下どもはさらに調子に乗った。



「何なら俺達が味見してからでもいいんだぜ?」

「10歳ならできないことないだろ?」

「お貴族様たちにも変態嗜好な奴いるしなぁ!」

「「「ぎゃはははっ!!」」」



「くっ・・・くそっ!ラビを離せぇぇぇぇ!!!」



「おいおい、お前が約束守らなかったんだろ?」



 ドンカセはオイ。と手下に合図してラグを立たせ、解放するよう指示をした。

 するとラグは、手下の拘束する力が弱くなった途端に、拘束を振り切りドンカセに殴りかかる。


「っ!!」



 バシッ

 ゴスッ!


 ラグの右拳を余裕を持って掴むと、ラグの腹部に拳を叩き込む。


「ガハァッ・・・・」



 ラグの呼吸が止まり、土下座するかのようにその場に蹲った。



「お前一人で勝てるわけないじゃんwばっかじゃないの?あははっ!」


 ドンカセは蹲るラグを見下ろしてあざ笑っているのだろう。ラグはたった一人の肉親も守るという小さな願いも届かず、悔し涙を流す。


 ドンカセの合図で手下達がラグに群がり全員で頭も腹も所構わず蹴りまくる。


 ドガッ!

 ゴスッ!

 バキッ!


「「おらおら!寝てんじゃねぇよ!」」



 ドガッ!

 ゴスッ!

 ドガッ!

 ドガッ!



 何度か頭を蹴られ、ラグは必死に堪えていたがもう意識が限界だった・・・



<くそぉ・・・ぁぁ・・・ラビ・・・>



 もう限界と諦めたその時、あざ笑うドンカセ達とは別の声がラグの耳に入った。




 交代だ・・・



<・・・ぇ?・・・>



 ラグはその言葉を確かめる事も出来ず、意識がすっと闇に沈んでいった・・・






 ***




 ・・・・・・




 ・・・



 あったかい・・・


 ラグは微睡みのなか体が浮き上がる様な感覚にとらわれ、浮き上がるとともに段々と周囲が明るくなってくる・・・



 ラグはゆっくりと目を開けると、知らない天井をぼぅと見つめる。



「・・・ここは・・・?」



 ラグの小さな呟きに気が付いた人影が1つ動いた。


「あ、目が覚めた!リセナ姉ちゃーーん!目が覚めたよ~!」


 声の主は誰かを呼びに遠くなっていく。



 え・・だれ・・・?



 ・・・


 虚ろだった目の焦点が合い始め、意識が少しづつはっきりとしてくると、何よりも真っ先に確認しなければいけない事を思い出した。




 ・・・はっ!ラビ!!ラビは!?



 痛む腕を庇いながら力を込めて上半身を起こすと、薄汚れたベッドの上につぎはぎだらけの布団を掛けられていた事に気づく。



 ラグが状況が理解できず未だ戸惑っているの耳に、ダダダダ!と遠くから近づく足音が聞えて来た。



「お兄ちゃん!」


 ダッ!部屋に入るなりラグに飛び込んでくる小柄な影がひとつラグの胸にダイブした。



「!!ラビッ!!」



 ボスッ!という音と共にラビの身体を受け止めるラグ。痛む傷の事など忘れ胸の中のラビに慌てて安否を確認する。


「ラビ!怪我はしてないか?どこも痛くない?」



 ラビはラグの胸に頭を擦り付けたまま、うんっうんっ。と頷いて返すが、ちょっと頭を離してラグの怪我を見ると、また号泣してしまった。


「お兄ちゃんこそこんなになって・・・。わぁぁぁぁぁぁ!!!!おにいちゃ~ん!」



「ちょっと、ラビ!落ち着いて!どうなってるんだ?」



 ラグは泣き止まないラビの肩を掴み自分の身体から離すと、ラビが落ち着くのを待って状況を聞こうとした。



 ・・・


「ぅぐっ・・・ぃっ・・・」


 落ち着くまで少しの間を置いた後、ラビが説明を始める。



「あのね、お兄ちゃんが男の人達に虐められてて、お兄ちゃんの声が聞えなくなって、お兄ちゃんが死んじゃったと思ったの」


「そしたらね、男の人達が突然騒ぎ出して・・・その・・・私も眠くなっちゃって・・・寝ちゃったの」


「それでね、目が覚めたらリセナおねーちゃんがいて、マクちゃんとキュウちゃんも大丈夫だよって・・・」


「あ、えとね、ここは”こじいん”だって言ってたよ」




 ・・・ラビ・・・全くわからないよ。




「あなた達2人がこの建物の前で倒れている所を、マク君とキュウちゃんが見つけてくれたんですよ」


 ラビの説明を補足するように後ろから声か届く。

 声の主はいつの間にかラビの後ろについてきたシスターの物だった。



「初めましてラグ君ね?私はリセナと言います。こちらの子達があなたを見つけてくれたマク君とキュウちゃんよ」



 リセナの後ろから顔がよく似たマクとキュウが笑顔でこちらを見ている。


「事情はともかく、ここにいれば大丈夫よ。安心してね」



 会話の合間に沈黙が走る。



 ・・・



 キュルルル・・・


 沈黙した部屋に可愛いお腹の虫の音が響き、視線を集めたラビが顔を真っ赤にして俯いた。


「あ・えと・・・ご飯食べさせてくれるっておねーちゃん達が言ってくれたんだけど、お兄ちゃんが起きるまで待とうと思って・・・」



 部屋の中の空気が弛緩していく。ラグはとりあえず危険は去ったという事だけは理解できた。




<とにかく、ラビが無事でよかった・・・>




「あ、ラグくん。ラグくんを見つけた時、足元にこれが落ちてたよ」


 ラグがラビの頭を撫でていると、キュウが忘れ物だよとラグに一本のナイフ?を差し出した。



 自分のではないけど・・・と、ラグはナイフのようなものを受け取りまじまじと見つめる。



「え・・・・!?これって・・・」



 そのナイフはあの時ラグの盗みを止めた”変わった形の黒いナイフ”。

 あの時は怖かったけど、今は不思議と怖さは感じない。




 ラグは受け取ったナイフをぐっと握り目を閉じた・・・。


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