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試験ー視見

 視界の光が晴れていくと、俺は全く別の場所に立っていた。右側は石でできた家の壁。左側は低い木の柵を隔てて、一面の草原が広がっていて、遠くに森と山が見える。上を見上げると雲一つない青空。俺の内面にそぐわない気持ちの良さっぷりだった。

 さて、あの女神のせいで俺は無一文でこの世界にやってきたわけだが。

 幸い日差しの具合からまだ午前中だということは分かった。日が出ているうちに宿代と食事代を稼がないと、あっという間に飢え死にしてしまう。

 俺はその家と柵の間の道といえるかあいまいな空間からとりあえず表通りに出た。人通りは少なく、田舎の町って感じがする。

 HCOの中でも田舎の町はこういうデザインの町が多かったな。

 とりあえずどこかにギルドがあるはずだからそこへ向かおう。冒険者登録は一定の技量を見せれば無料だったはずだから、登録して、簡単な依頼をこなせば今日くらいはなんとかなるだろう。

 探しながら歩いていると斧と剣とドラゴンが描かれた吊るし看板が見えた。あれがギルドだろう。HCOではそうだった。

 扉を開けて入ると、そこには腰に剣を吊るしたり、槍を持っていたりする人たちが受付に並んでいた。これから冒険に出るところなのだろう。

 受付は窓口が2つあって、そんなに混んでいなかったので、並ぶとすぐに俺の番が来た。

「はい、こんにちは。今日はどのようなご用件ですか?」

「えっと、冒険者登録をしたいんですが」

「かしこまりました。では係りの者が案内しますので、ついて行って頂けますか? 冒険者に必要な武力があるかどうかの試験です」

「わかりました」

 奥からピンク色の髪の毛を首の上でカールにしたお姉さんが出てきた。

「こっちだよ~。あ、私の名前はアリシア。よろしくね~」

「あ、はい、よろしくお願いします」

 言いながら、俺の目は大きく張り出た胸と、短いスカートの裾から伸びる、黒くて細い尻尾にくぎ付けになった。

(さ、サキュバス?)

 HCOでは確かこの尻尾を持っているのはサキュバスだった。だが、HCOでは魔物が街の中で人間と一緒に暮らしているような描写はなかった……。アークは確かHCOに「似ている」と言った。全く同じというわけではないのか。そこのところの違いに注意する必要がありそうだ。思い込みから足をすくわれる展開になったらたまらない。むしろ全く新しい世界だと割り切った上で、困ったときにHCOの知識をヒントとして参照するくらいにしたほうがいいな。

 アリシアさんについて建物の裏の扉から外に出ると、そこは広めの運動場だった。

「じゃあ、この子と戦ってね~」

 のんびりした調子でサキュバスのお姉さんが手を前に出すと、足元が光り輝いて、一体のスライムが現れた。丸っこい水色の、おそらくはこの世界で最弱のモンスターだ。俺は左右の太もものホルダーに入っていたハンドガンを取り出して、構えた。

 アリシアさんがスライムから離れて立った。

「じゃあいくよ~。よーい、始め」

 その声を聴くとスライムは俺に向かって突っ込んできた。間の距離は10メートルくらいなので一瞬で詰められることはない。スライムが射程に入った瞬間、俺は空中にいるスライムを狙って両手のハンドガンを発砲した。

 弾丸は2発ともスライムにヒットする。その弾丸はスライムの体にめり込み、運動エネルギーをすべて消費したところで消えた。スライムは押し戻されて元の位置より遠くへと飛ばされる。

 俺は距離を詰めて、相手が再び向かって来ようとしたところを狙い、空中に飛び跳ねた瞬間に弾丸を命中させた。転がった相手にさらに追撃で命中させる。

 後ろからアリシアさんののんびりとした声が聞こえてきた。

「なかなかやるね~。じゃあレベル2だよ~」

 その声がすると、俺の弾丸を食らったスライムはすぐに体勢を立て直し、ぐいーんと体を前に伸ばした。ああ、これはあれか?

 するとそのスライムは体の後ろの方を地面から離し、元に戻る勢いを使って俺のほうに飛んできた。俺はHCOで比較的高レベルなスライムがよく使っていたのを覚えていたので、すっと身をかわした。そしてすれ違いざまにまた2発撃ちこむ。

(序盤にいるようなスライムじゃなかったか。でもそろそろ体力も限界だろ?)

 俺の予想を裏切ってスライムはすぐに体勢を立て直した。

「いい動きだね~。レベル3でも大丈夫かなぁ~?」

 スライムはまた体をぐいーんと前後に伸ばした。一見さっきと同じように見えるが、体のハリが違う。これは相手が動いた後では間に合わないやつだ。

 俺は相手が動き出す瞬間を感じて、あらかじめ体をそらした。スライムのスキル【スライミーストライク】が僕の横を発射された後に動いたのでは間に合わなかったとんでもないスピードで通り過ぎる。

 どこまで飛んでいくかと思ったが、スライムはばっと体を広げてスピードを殺した。そして地面に着地とほとんど同時に、一瞬で体を伸ばし、ほとんど溜めなしで【スライミーストライク】を放ってきた。

 これには俺も反応が遅れた。そんな動きはHCOでは見たことがなかったのだ。躱すのは間に合わない。

「【ショートワープ】!」

 俺はとっさにショートワープを唱え、斜め前5メートルに移動した。スライムは俺がいたところを通り過ぎ、少ししてから同じように体を広げて止まった。

 まずい……スライムはまだまだ体力に余裕がありそうだ。俺のスキルスロットは白い床の上でセットしたときの【ショートワープ】【ショートワープ】【CD短縮3/4】【獲得経験値倍加】のままだ。仮に回避がなんとかなったところで、相手の体力を削りきるにはダメージ量が足りるか微妙なところだ。一つくらいはバーストダメージのスキルを入れておくべきだったかもしれない。

 とはいえ泣き言を言っても始まらない。【スライミーストライク】発動中を狙って撃っても、あの勢いを止められるとは思えないし、そしたらさすがにワープも間に合わない。とりあえず回避が何とかなるなら避けて、スライムが空中で体を広げて止まる瞬間を狙ってダメージをいれていこう。

 スライムが俺を見つけて一瞬で体を伸ばし、ものすごい勢いで飛んできた。俺はそれを予想してあらかじめ躱そうとした。

 しかし俺の目の前でスライムは、バッと体を広げた。止まるときと同じようにだ……。だがもちろんすぐには止まらず、スライムはそのまま俺に突っ込んできた。

 俺は体をスライムにがんじがらめにされた。そのうえ勢いのまま宙を舞い、地面にたたきつけられた。スライムの奴はもちろんクッションになってくれたりはしなかった。

「ぐっ……【ショートワープ】!」

 俺は近くへワープしてスライムの拘束から抜け出した。

「くそっ、ありったけだっ!」

俺はハンドガンのトリガーを引きまくった。1秒間に約4発の弾丸がスライムに襲いかかる。しかしスライムは一向に動じないどころか、徐々に弾丸をはじき始めた。

「はいは~い。合格だよ~。まあC級くらいの力はあるかな~。センスはいいみたいだから~。武器がもうちょっと良ければね~」

 いいながらアリシアさんが歩いてきた。

「でも決まりで誰でも最初はF級からだから~。頑張ってね~」

「えっと、このスライム強すぎる気がするんですけど、まさか野生のスライムもこのくらいの強さじゃないですよね」

「うん~。この子は私のパートナーだから~。この町の近くにいるスライムはそこまで強くない~。体力も君の銃で5発当てれば倒せるくらい~」

 だよな。よかった。

「じゃあ、試験に合格したことは受付のメイちゃんに伝えておくから~。呼ばれたら受付に来てね~」

 受付の前の長椅子で少し待つとすぐに呼ばれた。

「こんにちは~。すごいですね。C級相当の力があるってアリシアさんが褒めてましたよ。でも申し訳ないんですが決まりでみんなF級からなんですよ。えっとギルドランクっていうのは冒険者ランクとコロシアムランクの2種類があります。マコトさんは両方ともF級からのスタートで、一つ上のランクの依頼と、コロシアムでの試合に出場することができます。依頼は難易度によってギルドポイントが設定されていて、E級へは10ポイント集めれば昇級します。もちろん失敗するとポイントは減ります。他には依頼を受けていなくても、事後に受けていたことにする制度もあります。偶然討伐対象の魔物と出会って倒せた、みたいな場合ですね。あとコロシアムも勝てばコロシアムポイントが増えて、負ければ減ります。上位の試合ほどもらえるコロシアムポイントが増えます。まあその他の細かいことはこのパンフレットに書いてあるのでご一読ください。ではここに署名とこちらの朱肉で拇印をお願いします」

 俺はケンザキマコトと署名し、拇印を捺した。捺すとどうやらそこに俺の魔力が付与されたようだった。なるほど、この世界では魔力のパターンで個人を識別するのか。

 ギルド証をもらえたのでメイさんにお礼を言って、俺は依頼が張り出されている掲示板に向かった。コロシアムは明日だな。さすがに何も食べずにコロシアムを戦えるとは思えない。

コロシアムはMOBAっぽいイメージです。今のところ。

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