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6 ネクロマンサーか。ネクロマンサー、か……

MFOは自由度の高いゲームだ。

クラス名から普通には想像しないようなアビリティを、選んで組み合わせることもできる。


例えば、アウグストのクラスは、下位職のメイジとプリーストをそれぞれ10LVこなしてからの、中位職であるウィザード。

ここまでは、他人でも見える。


で、プリーストを取っているからには、火力と回復を両立させた賢者ビルドだろと見せかけて、実際にはアビリティに火属性の火力+闇属性のデバッファーを取っており、闇火神崇拝者とでもいうようなビルドになっている。


戦闘用のスキルとしては、シャドウバインドで足止めしてのダークフレイムというオーソドックスな組み合わせだが、属性や見た目がいかにも厨二仕様である。


闘技場でPVPの常連となっているプレイヤーには、手を隠す意味も含めて、マニアックなビルドにしている奴が多かった。


しかし、クランの仲間でさえ詳しいステータスを見られないこのゲーム、分かりづらいビルドは高位素材集めの際の野良パーティー募集で受けが悪い。

戦闘中の立ち回りでも、外見と役回りが違いすぎれば、スマホの小さな画面では見間違えも発生しようというもの。


だから、俺の中では普通の攻略をするのなら「分かりやすい」ビルドにするのが常識で、おかしなビルドのキャラとはパーティーを組んだことも無かった。

振り返ってみれば、効率重視で視野が狭くなっちまってたってことか。


自由に好きなキャラを作り上げて、ガツガツせずに冒険をして回る。

そんな遊び方も、悪くないな。

そう、思っていたところに。


「いや、それが……、ネクロマンサーでして……。」


アウグストが、声を低めて告げてきたのは、意外なクラスだった。


ネクロマンサーか……。

お気楽そうなベネッタでさえ、思案顔である。


「ちなみに、クラスはどうやって取ったのかニャ?」


課長……ミケが、ネェルに訊ねる。

ミケのフワフワした愛らしい姿に目を細めているネェルは、仔猫を目の前にした普通の女の子のように見える。


「えっと、ギルドの水晶に手を当てたら、冒険者として望む力を頭に浮かべよって、声が聞こえて。」


ふむふむ。MFOと同じだな。

GUIに、取得可能なクラスが、ずらっと表示されたのを思い出す。

しかし、そこであえてネクロマンサーを選択したってことか?


「殺されちゃったお祖父ちゃんの声が、もう一度聞きたいですって願ったら、こうなったの。」


あ、そういう。


アウグストも、口に手をやって黙っている。

ネクロマンサーは、扱いの難しいクラスだから、事情がなければ、別のクラスを取り直すことを勧めるつもりだったのかもしれんな。


MFOでは、ネクロマンサーは比較的初期に追加されたクラスの一つで、その後のアップデートでも仕様がほとんど変更されていない。


「長く変化せずに生き残っている」という意味では、シーラ(カンス)職の一つなのだが、ガラ(パゴス)職と呼ばれる特異化の果てに行き詰まったカテに入れられることもあったり、評価が定まらない。


どんなアンデッドを使役しているか、ネクロマンサーの強さはその一点に委ねられる。


その意味ではテイマーやサモン系の職も同じだが、MFOでは、テイムしたモンスターや召喚される精霊と、ネクロマンサーの扱うアンデッドでは、大きく異なる点がある。


モンスターも精霊も、基本的には弱いうちから使役し始めて、主人のキャラと長く一緒に過ごして成長していく。


一方、アンデッドは、条件によってはいきなり強い状態から使役できることもある代わりに、基本的に成長しない。

それどころか、使役しているうちに怨念が薄れて弱体化したり、下手をすると成仏して消えてしまうこともあるのだ。


これだけ聞くと使い捨て型の精霊召喚術に近いように聞こえるが、実際の使い勝手はまたかなり異なる。その理由は、特殊なものを除いて、いったん動き出したアンデッドは、補給無しに活動できるという点にある。


テイムしたモンスターには餌や休憩が必要だし、精霊には魔力や魔石を与えなきゃならない。だから、資源の節約のために、働いてほしい場面になってから活動させるのが普通だ。


アンデッドは、動き出したら勝手に活動する。

ただ、簡単な命令しか与えられないのと、弱い個体を大量に扱うことが多いので、戦力を整えるのに手間がかかる。

そこで、ボス戦までの道中でせっせと召喚し続けるような運用になるのだ。


俺は直接プレイしたことはないが、レイドイベントで同行したことはある。

笛吹女とかいう二つ名が付いたネクロマンサーで、本人の後ろに、画面に収まりきらない数の不死の軍勢を率いていた。


「霊圧が重い!」

「ラグ! ラグひどいよ、ラグ!!」

「死者の群れに押し潰されるとはこのことか」

「らめぇ、そんなに(画面に)入らないよう」


くだらない野次が飛び交っていたが、いざ戦闘が始まったら「壁」役をうまく果たしていたのを覚えている。

スケルトンの群れでレイドボスの移動方向を限定するなんて、考えたこともなかったな……


そんなわけで、ネクロマンサーは、必ずしも弱いわけではないが、別ゲーと称されることもあるような特殊なクラスのイメージだったのだ。




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