5 パーティー申請してきたのは、チュートリアルさえ済ましていない小娘だった
「すみません。微笑み草採集、私も、ご一緒できませんか。」
クエストにクラン外から参加申請を飛ばしてきたのは、ちょっと気の弱そうな、十四、五歳のダークエルフだった。
パーティ編成のGUIに表示されているのは、ネェルという名前とクエスト主であるアウグストとの相対レベルの「低」だけで、ビルドアイコンは空欄のままになっている。
MFOでは、最初にファイターやメイジ、レンジャーと言った下位の基礎クラスを選択してゲームを始める。
キャラクターの外見や名前を決定した後、チュートリアルの流れの中で希望のクラスを選ぶ場面があって、そのときの背景は確かにギルドのカウンターだったな。
なんで冒険者になったかなんて詳しい背景の説明はなく、冒険者は年中募集していて、応募すると初期装備が支給される。
俺の場合、最初はウォーリアでゲームを開始して、ショートソードとバックラーか何かをもらった気がする。
ちなみに、ウォーリア職とファイター職は近しい系統で共通の進化先もあったりする。
ウォーリアがやや重装備でタンク色が強く、パーティー前衛特化の傾向があるのに対し、一方のファイターは近接アビリティ以外も成長の枝が多くて、魔法戦士やアサシンへの分化もあり、軽装で多才なソロプレイヤー向きの位置付けだ。
俺がウォーリア系のクラスでビルドしているのは、単純に騎士キャラが好きなのと、固い前衛には育成の無駄がない感じが性に合うからだ。
満遍なくステータスやスキル、装備を調えていけば、確実に強さの階段を上っていく。
そう、巨大なコンクリ構造物のように!
アウグストは、GUIのネェルの表示をちらりと見た後、声を掛ける。
「初めまして。君は……まだクラスを取っていないのかな?」
「クラス、ですか?」
脇でたまたまネェルの言葉を聞いていた別の冒険者が、野次を飛ばしてくる。
「おいおい、お前みたいな何も知らねぇガキが、そんな上位のパーティーに入り込もうってのか。やめとけやめとけ! 魔素を吸われてちっとも力にならねえし、厄介なクエストに連れていかれて、くたばっちまうのが関の山だぞ!」
ふーん、レベル差で経験値が減ってしまうのは、こっちではそんな風に見えるのか。
ガラは悪いが、言っていることはあながち間違いでもない。
MFOでは、パワーレベリングや寄生はやりにくいのだ。
アウグストにも野次が聞こえていたはずだが、気にせずネェルと話している。
「それじゃ、まだ始めたばかりってことかい。」
「ええと、冒険者ギルドには、さっき登録したばかりです。」
「ふーん。ちょうど今からチュートリアルってことかな。そりゃいいね。
いいかい、クラスを取らないとアビリティも選べないし、つまりまともにモンスターを攻撃することもできないんだよ。」
「モンスターを攻撃、ですか!? 私、魔物と戦うなんて、とてもできませんよ。だから、皆さんと一緒に連れて行っていただけたら、微笑み草を探して摘むことくらいはできるかな、って。」
「ふむふむ。よし、クエストには一緒に行こう。でも、その前に、クラスを取れないかギルドの人に聞いてみようじゃないか。」
アウグストは、ネェルを連れてギルドのカウンターに向かっていった。
脇で話を聞いていた俺は、ベネッタに小さな声で話しかける。
「アウグストの奴、どういうつもりだろ? 確かに可愛い女の子だけど、パーティー組むにはレベルが違いすぎるんじゃないか?」
「別に、可愛い子から声掛けられて喜んでるってだけじゃないよ? いや、それもあるかもしれないけど。」
「そうか?」
「あの子と一緒にチュートリアルっぽく一通りこなしてみれば、クラスとか成長の仕組みが分かるってことじゃない?」
「あ。」
俺達はそこらの冒険者よりもLVは高そうだが、こっちの世界の仕組みはさっぱり素人なんだった。
と、アウグストとネェルが連れ立って戻ってきた。
ネェルは、後衛っぽい灰色の杖を抱いている。支給品も、無事に受け取れたらしい。
だが、アウグストは、なんだか微妙な顔をしている。
ベネッタがニヤニヤしながら声を掛ける。
「お、後衛職にしたんだ。弟子にでもするつもり?」
アウグストは、ちょっと低い声で、皆に声を掛けた。
「いや、それが……、ネクロマンサーでして……。」
眉間にしわを寄せた俺とベネッタ、そしてキョトンとした顔のミケと首を傾げるガガーリンの四人が、微笑むネェルを囲むように立つのだった。