3 これは、MFOの世界、なのか
MFOでは、仲間内であっても、他のキャラの正確なステータスを参照することはできない。
相手とのLV差、主に何系の装備やスキルを持っているかを示すビルド、あとは負傷や石化などの現在の状態の三つが、アイコンで表示されるだけだ。
スマホの画面で、大勢のステータスを表示しようと思ったら、そういう仕様に落ち着いたってことだろう。
今のGUIも、サイズは大きくなっているが、情報量は増えていない。
LVは、俺を基準に、プラスマイナス二割が「同等」、半分未満だと「低」、その中間は「やや低」のアイコンで示される。逆の場合、二倍以上が「高」、二割以上高い相手が「やや高」のアイコンだ。
ビルドは、下位職なら10レベル、中位職なら20レベル分のポイントで取得できる。上位職のコストは個別設定となっていて、俺の取っているパラディンは35レベル分と比較的重い。
ビルドと合わせて推測すると、アウグストとベネッタはLV40から50、ミケは20ちょい、ガガーリンはもうちょっとで20って感じか。
みな、普通に進めていけば普通に手に入るという装備を着けている。
ちなみに、火力系ビルドでは、与ダメの目安はレベルの2乗。
しかし、条件の厳しい単発特化攻撃の属性直撃なら、3倍から5倍くらい乗せられるし、逆に、相性の悪い打撃は最悪5分の1くらいまで減衰することがあって、つまりレベルだけでは、どの程度の戦力になるかは分からない。
そして、戦闘の獲得経験値は、パーティーで最も高いレベルのキャラを基準に、敵のレベルが低いほど下がってしまう。
特別の理由がなければ、同等のアイコンの仲間とパーティーを組むのが普通で、MFOは、寄生プレイやパワーレベリングがしにくい仕様なのだ。
ま、獲得できる金や素材はLVに関係が無い。
俺が力を貸して、行き詰まっているクエストを片付けるのは、ありだろう。
「……もしログアウトできないなら、ここはひとつ、あちらで依頼を受けてみますか。」
アウグストが、提案をしている。
普段と違って、アウグストのテンションが高い。
普段……? 別人と考えた方がいいのか?
とにかく、A氏は、この状況をあっさりと受け入れたように見える。
確かに、次に寝て目が覚めたら夢だったなんてことも、なくはない、よな。
「よし。それじゃ、アウグスト、依頼をみつくろってまいれニャ。ワシらは、装備の確認じゃ。」
課長が、仕切っている。
課長が。
俺は、やはりこの小さな猫獣人と課長の顔が、結びつけられずにいる。
いや、忘れてはいけない!
いくら可愛かろうと、こいつの中の人は、あの課長なのだ!
自分に言い聞かせていると、ベネッタが向かいに座ったまま顔を近寄せてきた。
美形エルフか。
あちらの世界の夜のお店のお姉ちゃんなど、目じゃないな。
「レインはぁ、ああいうフワフワちっちゃいのと、こういうのと、どっちが好きなんだろ?」
なっ!
そんな話、向こうじゃ一言もしたことないだろぉ!
技術屋人生を選んだ理系男子を、舐めるなよ……
こちとら、十六の頃から、ほぼほぼ男だらけの世界で暮らしてきてんだ。
ふ、普通の女と、普通に喋るのだって、最近ようやく慣れてきたとこだっての。
「どうなのよぉー。」
さらに上目遣いで顔を寄せてくる。
くそっ、この女性、いい匂いするな……
「おのれ、騎士を愚弄するか!」
聖騎士風に、言ってみる。
「あっはっは、そういうキャラかー。」
ベネッタが、笑いながらのけぞっていく。
ふう。
パニック寸前の状況だが、この際キャラになりきっていくしかない……
ミケは、ニヤニヤしながらこちらを見ていた。
といっても、いつも笑ってるような顔なのだが。
「さて、依頼をこなす支度をしようかの。」
MFOは、スマホ向けにかなり簡略化されたMMORPGで、個々のクエストは、数分から、長くても30分程度に設定されていた。
遭遇戦闘をこなしながら探索し、クエストの種類によって、ボス戦または謎解きパズル、場合によってはパルクールっぽいアクションなどを突破すると、クリアという流れだ。
俺が加わったことで抜けられるようになるというなら、まずは討伐系の戦闘クエストだろうか。