異世界勇者は風呂嫌い
エロは(今回もこの先も多分)ないです。
一応、現代日本と言える場所に住んでいた俺は、まさかファンタジー西洋風王城の廊下をデットヒートする日が来るなんて、微塵も思っていなかった。巡回の騎士が、走る俺を見て慌てて道を開ける。
きっとすぐ後から「音の勇者」が追いかけて来ているのだろう。だけど、足の速さには自信が…。
「捕まえた。せっかくの綺麗な髪なんだから、洗った方がいい」
…??? さっきまで走ってたよな? なんで地面に組み伏せられてるんだ?
「…はっ!音っ ありが、とう ござい ま す… ごほっ」
「文字」が死にそうになりながら、遅れて追い付いてくる。死ねばよかったのに。
「君一人だったら、彼を風呂に入れられないだろう?手伝うよ」
「あぁ、たす、かる」
ほのぼの会話? いいや、死刑宣告だな。
風呂は無防備になるから嫌いだ。体を洗ってる時に奇襲されたら、実力を出せずに殺されかねない。同じ理由で寝るのも嫌いだ。
だから今までは、服も武器もそのままに泉や川に飛び込んで、体と服を同時に洗っていた。
なので1年くらい?着替えていない。
連行された脱衣所で、威嚇して脱ぐことを拒否する。「文字」は怯むけど、「音」が容赦なく服を引っ張ってくる。
やめろ、血が滲み込んだり裂かれたりして、ボロいからすぐ破けそうになるんだよ!今も乾いた血がべったりだから特に!
武器はすでに奪われて手の届かない別室に持っていかれた。
「風呂に抵抗、と言うより、脱ぐことに抵抗があるのか。恥ずかしいとかでは…なさそうだね」
当たり前だろう。服はただの防具だ。それに風呂に抵抗はある。浸かると気が抜けて、奇襲に反応出来なくなったりする可能性が無きにしも非ずだろ。
川だ、汚いと言うなら川に連れていけ。今まで通り服ごと行水してくるから!
「ええと…サアラ、ここに奇襲をかけてくるような敵は居ないよ?」
猛獣の様に唸る俺に、穏やかな声が刺さる。能力使って落ち着かせるつもりだな、そうはいくか…
あ……、ああぁぁあぁ!!?
「あ…、ごめん。でも、着替えは他にあるから…」
服が…破れた………。俺の服が、繊維レベルで…。
今まで身を守ってくれた刀と衣服を奪われ、力でも勝てない。圧倒的強者な癖に申し訳なさそうな顔してるのが俺の癪にざりざり障るが…。
もう「音」に降伏するしかなくなっていた。
放心状態になった俺を見て、好機と思った「音」は、今度は丁寧に残りの服を剥いで、風呂場に俺を連れて行き、「文字」と二人して,されるがままの俺を子犬の様に洗いやがった。しかも、湯船に浸かったら10数えてから出るようにとか、鳥の玩具を湯船に浮かべたから見ろとか…。俺は子供か。殺すぞ。
最高に屈辱だった。
風呂から上がって脱衣所に戻ると服が置いてあったので確認もせずに着る。
幸い、俺の為に用意したものだったらしくサイズは大体合っていた。今からこれをずっと纏う。もう脱がない。
「今日はもう遅いから…。明日街に行って、ちゃんとした君の服を買おう」
き が え ろ と ?
今日最高の威圧で「文字」が地面に倒れ伏したが、「音」はへらっとしていた。
…誰かこいつを殺してくれ。俺じゃ勝てない。
「文字」=血と埃に塗れたサアラを洗いたい。「音」=駄々っ子サアラを力で抑え込めるのはこいつだけ。
と言う訳で、サアラを洗濯するのはこの二人になりました。
その間、他の勇者は泊まる部屋の確認と食事してます。